第4インター国際委員会決議(上)

歴史的分岐点への主体的挑戦

 以下は、今年2月末に開催された第4インターナショナル国際委員会で採択された国際情勢決議。現在の歴史的局面を人類史的分岐点ととらえ、エコ社会主義的危機突破に導く闘争の具体化が中心的問題意識。(「かけはし」編集部)

I はじめに

 この1年、経済情勢、社会情勢、一般的政治情勢は、新型コロナウイルスのパンデミックによって過剰に規定されてきた。世界的に広がったこの病気はすでに9200万人に感染し、2020年には180万人が死亡した。病気発生から2021年3月までの死者は270万人以上にのぼる。年間死亡率は、過去15年間にHIV(2004年170万人)やB型・C型肝炎(2015年130万人)、結核(2019年140万人)などの過去の感染症が引き起こした死亡率を上回る結果となっている。
 新型コロナウイルスは、世界中で医療に対して急速に影響をもたらし、世界経済のエンジンに打撃を与え、その背後にある生産チェーンの結びつきをすべて遮断することによって麻痺させる効果をもたらした。パンデミックは資本主義システムのさまざまな側面における危機を悪化させ、長期的な現象が重層的に重なり合う時代を開いた。それらの現象はこれまで相対的に独立的に発展していたが、爆発的な方法で一つに収斂しているのである。その中には、エコロジー危機、債務システム危機、大部分の統治機構における正統性の危機(地球の「北」と「南」の双方、かつ国際的レベルと国内的レベルの両方でみられる)、アメリカ帝国主義と中国の間の覇権をめぐる地政学的闘争が含まれる。これらは、東欧ブロックの終焉、ソ連の崩壊、ソ連・東欧と中国における資本主義の復活という1990年代から引き継がれてきた世界秩序を変えながら、姿を現し、相互に作用しているプロセスである。これは間違いなく、歴史の道程における分岐の瞬間であり、すべての政治主体にとって大きな課題である。

Ⅱ 環境問題への大きな挑戦

 過去数十年にわたる国際会議や合意にもかかわらず、地球上で生きていける条件が荒廃していくプロセス(生物多様性の加速度的な減少、森林破壊、大気・水・土地汚染、魚の乱獲、遺伝子組み換え作物の単一栽培など)は、加速度的なペースで進行し続けている。その変化は壊滅的なだけでなく不可逆的でもあるが、それを避けるために残された時間はほとんどない。
 生産・消費パターンの劇的な変化は達成されておらず、地球上の共通財へのアクセスにおける深刻な格差は激しさを増してきた。短期的な利益最大化のための資本主義的競争が生命の利益よりも優先され続けている。
 2020年の排出量は2019年に比べて減少したとはいえ、炭素吸収源(陸地と海)が吸収できる量をはるかに上回っている。排出量の約45%が最終的に大気中にとどまると推定されている。パリ協定による限度(1・5℃の気温上昇)はいまだに切迫したものであり、世界経済および人間社会と地球との間の代謝に大きな変化がなければ、2030年代初頭に到達する可能性がある。

Ⅲ 過渡期の資本主義:プラットフォーム資本主義と監視資本主義

 上述したものに加えて、現代のテクノロジー革新があり、それは生産チェーンの構造や労働関係にさらに深刻な変化を課している。それらはますますデジタル化され、不安定になっている。それは(パンデミックによって加速された)過渡期と呼ぶことができる構図である。その過渡期は、すでにプラットフォーム資本主義ないしは監視資本主義[訳注]と名付けられている。

[訳注:「プラットフォーム資本主義」は、ニック・スルニチェクが定義した言葉で、流行するプラットフォーム型のサービスに対して、プラットフォームを独占している者が労働者を搾取しているとした。一方、「監視資本主義」は、ショシャナ・ズボフが使い始めた言葉で、デジタル企業が人々の行動履歴や嗜好などの情報を収集して、そこから莫大な利益を上げていることを指す]。

 基本的に、こうした変化は世界の主要な企業や政治権力によって指示され、方向づけられ、コントロールされていて、人民による民主的なコントロールが及ばず、本質的に大衆的議論の外側にある。
 今日の人類にとって最大の脅威となっている技術分野は三つある。(1)軍事技術―使用の可能性を高める新世代の戦術核兵器や、いつ誰を殺すかを自律的に決定する能力を備えた無人機などの問題である。(2)遺伝子工学―生命の操作と専有、種子の私有化を通じた、農民の生活と人間の食料に対する世界的な文化戦争の一部である。これは、地球上の食料生産の支配と商業化を目的とした戦争である。(3)監視資本主義の技術。それと比べるとオーウェルの『1984年』に描かれたディストピアは子どもの遊びのように思える。これらの監視システムの利用は、パンデミックとともに加速している。
 デジタル監視は、携帯電話のデータ・地理的位置情報・行動追跡、体温スキャナーと連動した顔認証、ドローンを使った近隣の監視、民間監視会社の急増を利用するもので、2001年9月11日以降すでにどこでも見られるものとなっている。ウイルスの追跡は、民主主義の権利を疑問視する監視システムを一般化・矮小化する口実として利用されている。

Ⅳ 覇権の移行とアメリカ・中国間の紛争

 われわれは、ますます軍国主義化する世界の中にいる。アメリカは、とりわけ経済分野において世界の完全な覇権をめぐる競争の激化に直面して、中国を自らの覇権を脅かす台頭しつつある超大国として認識しているため、中国とロシアに対してますます攻撃的な姿勢をとっている。
 関係がますます緊張するとともに、激しい技術競争、攻撃的な貿易戦争、および国防総省の軍事ドクトリンやブッシュ政権・オバマ政権の対テロ戦争と軍事予算の優先順位の両方を大きく再配置することを特徴とするこの方向にステップが切られてきた。このような地政学的な再配置は、平和的におこなわれるとは到底思えない。核紛争の脅威が地平線上に再浮上している。
 同時に、中国の習近平とロシアのプーチンは自らの権力をより厳しく打ち固めている。それは、国内の反対を根絶やしにすること、一定の地域(クリミア、香港、新疆ウイグル)での支配権を強固にすること、自らの軍事的影響の下にある地域(プーチンにとってのシリア、習近平にとっての中国周辺海域・アフリカの角)を拡大することを企てているからである。
 中国の国際的に強い立場は、2020年以降、パンデミックによって補強された。生産システムの大部分を再起動し、輸出実績を大幅に向上させたのは、中国だからである。したがって中国は、商品の輸出だけでなく、物資的支援や医療支援、最近ではワクチンの供給などを通じて、とりわけアジア・ラテンアメリカ・アフリカにおける影響力を飛躍的に高めようとしている。アジアでは、中国がアジア14カ国との間でRCEP(包括的地域経済連携)を立ち上げ、中国海軍を整備することで、トランプの「インド太平洋戦略」と中国の軍事行動のバランスを取ろうとしている。
 EUの脆弱さと矛盾は、新型コロナウイルスによって冷酷に明らかにされた。新型コロナウイルスはEUに深刻な影響を与えた(50万人目の死者が2月初めに記録された)。その危機の規模は、とりわけ南欧各国において、EU条約における禁止事項の多く(ヨーロッパ中央銀行の政策や連帯した形態の尊重)が破られるほどだった。その一方で、「地域社会」における(財政的・医療的・・)力量や各国政府・EUの力量をめぐる加盟国間の対立をもたらしている。それゆえ、新型コロナウイルスの最初の年は、EUがパンデミックから国民を守る共通の政策を実施するために、経済的・財政的資源を使うことができないことを暴露した。パンデミック緊急購入プログラムの下でのヨーロッパ中央銀行の18億5000万ユーロの債務買い戻しと、一時的な復興策である「次世代EU」の下でのEUの7500億ユーロ(および年間140億ユーロのEU予算増額)は、輸出回復が弱く、労働者階級の貧困化によって消費が大きく制約される中で、銀行や大企業の支援にのみ使われることになるだろう。さらに、EUの援助や次世代EUからの融資は、欧州の新自由主義的な要件に沿った国家計画が条件となる。EUの正当性をめぐる危機において、より進んだ段階が開かれつつある。というのは、パンデミックは「誰が危機の代価を支払うのか?」という問題を突きつけているからであり、同じ疫病で打撃を受けたヨーロッパや世界のそれ以外の地域の民衆が平等な連帯にもとづいて団結することが緊急に必要である中で、現在のEU条約の非効率さと不公正さが浮き彫りになっているからである。

V 世界的プロジェクトをめぐる資本主義間の対立


 新自由主義プロジェクトは、全世界的なユートピアであり、ファンタジーだった。しかし、それによる社会的破壊を隠すために、国家主義や官僚主義に挑戦するという神話の上に未来を構築するという約束をともなうものでもあった。金融ブルジョアジーやシリコンバレーなどの資本主義部門は、「生産する」「消費する」「金持ちになる」という自由主義的現代性の三部作の伝道者だったし、現在もそうである。
 この新自由主義的ユートピアは、1990年代以降に急進的かつグローバルに展開され、競争・民営化・企業の論理を社会のあらゆる領域に拡大していった世界的な商品化の反社会的・反民主的な変容を覆い隠した。新自由主義のユートピアは、グローバル化した資本主義の枠組みの中で新しいテクノロジーを使用すると、既存の労働世界の多くが破壊され、何十億人もの犠牲者を生み出す傾向があるという事実を隠そうとした。何十年もの間、社会秩序の中でこうした否定的側面が最小限に抑えられてきたという事実は、まさにこの世界的規模でのプロジェクトが持つ覇権的能力の表れである。
 そうした新自由主義的攻撃によって、さまざまなまったく異なる政治的イニシアチブが生み出されてきた。レーガンやサッチャーだけでなく、クリントン、フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ、トニー・ブレア、そしてブッシュやルーラ、そして今日ではスペインのペドロ・サンチェス、ドイツのアンゲラ・メルケル、アメリカのジョー・バイデン、そして中国の習近平さえも。それは、新自由主義が(19世紀の反民主主義的な自由主義よりもさらに強い力で)従来の左翼を解体することができたという世界的な地平を持っているからに他ならない。社会民主主義は、第一次世界大戦の初めに国際主義を裏切ったあと、資本主義と帝国主義の支配の道具となった。その後、官僚主義とスターリン主義の独裁政権は、資本主義の復権とともに、残忍な形での抑圧と搾取を永続させた。より最近では、21世紀初頭におけるラテンアメリカの「進歩的」政権は、最初の数年間は貧困を減らす「援助」政策を実践していたにもかかわらず、競争力を維持するために、輸出、天然資源の搾取、低賃金政策を原動力とした開発モデルを深化させることによって、資本主義の枠組みの中にとどまった。
 いくつかのグローバル主義セクターは、自滅しないように、効果的なエコロジー的移行(われわれが知っているように、それには巨額の資本が必要で、巨大な対立をうみだすことになる)の重荷を背負うつもりもないまま、40年間にわたって持続可能な開発やグリーン資本主義という言説を(不均等ではあるが)もてあそんできた。左翼的オルタナティブは弱体であり、それが有効かつ強力になるためには、今日ではフェミニスト・反レイシスト・エコ社会主義者である必要がある。
 そのことを考慮すると、グローバル主義への批判は、保守的なナショナリスト(または伝統主義者)による外国人排斥、人種差別主義、白人至上主義、ネオファシスト、ポストファシスト的な政治プロジェクトによって部分的に利用されてきた。彼らは、社会的劣化に対する民衆の不満や反乱をスケープゴートに変えようとしている。その一方で、「グローバル主義者」は「現代主義者」であると主張し、フェミニスト、LGBTQ、反レイシストの潮流からの支持を得ようとしている。
 それにもかかわらず、左翼の著名人や政治勢力が、資本主義の多元的危機に対する急進的な解決策を提示し、社会正義や共有財推進という観点から具体的な解決策を提案すると、すぐに労働者階級と被抑圧部門の中で非常に広範な反響を呼んでいることが見てとれる。2019年と2020年初頭のアメリカにおけるバーニー・サンダースとその「仲間」たち、2017―2018年の英国におけるジェレミー・コービンと労働党マニフェスト、2010年から2015年初頭にかけてのギリシャにおけるシリザ、2014年のスペインにおける結成直後のポデモス…。問題は、それらが一貫性を持っていなかったこと、およびそれらがシステムに適応するように変化したことの両方、あるいはそのどちらか一方から生じている。
 「グローバル主義者」によるオルタナティブは、その過激な社会的攻撃と結びついた反民主主義的性格をますます明らかにしている。同時に、極右によるオルタナティブの唯一の「普遍主義」的側面は、その外国人嫌悪、とりわけイスラム嫌悪という地軸である。21世紀のヘイト政策は、もはや脅かされているコミュニティの何らかの形を守るという形態をとるだけでなく、社会的ダーウィニズムと結びついた恐怖の表現であり、あらゆる普遍主義的なプロジェクトに対する反乱を形成する力を求める意思でもあるのだ。今日の保守的ナショナリズムは、その多種多様な形態において、グローバリゼーションに対する反乱であり、現代性に対する反乱である。
 グローバル主義潮流は、身につけている反環境的で女性嫌悪の性格をますます強めているが、社会的・環境的保護を破壊する中心的な役割を果たしているにもかかわらず、自らを野蛮に対抗する文明の闘争の代表者のように見せかけるためにそのことを利用している。したがって、パンデミックとそれが織り成す危機との闘いの中で、こうしたさまざまな形態のバーバリズムに対して、ケア・権利・生命というオルタナティブを提供することは、(真の)反システム・反資本主義のオルタナティブにかかっている。  (つづく)

The KAKEHASHI

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