公正な脱成長というエコ社会主義綱領(2)

決議

第4インターナショナル国際委員会

5.今日のための過渡的綱領

 客観的に必要なことと主観的に可能と思われることの間の巨大な距離を埋めるには、現状と権力獲得の間のギャップを埋める綱領が必要である。つまり、客観的な状況に対するグローバルな反資本主義的対応を概説する一連の提案と、搾取され抑圧されている人々の民主的自己組織化にもとづく行動形態の両方を備えた綱領である。その要求は資本主義の枠組みの中で実現可能であるが、その全体的な一貫性によって、システムの正常な機能とは相容れない綱領であり、その綱領は上から下まで社会を革命化するために政治権力を握ることが必要であるという結論を導く。この「過渡的綱領」というアプローチは、これまで以上に重要である。しかし、21世紀の課題に対応するためには、決定的な新しさが必要である。この綱領は、最終的なエネルギー消費、ひいては物質生産と輸送の世界的な減少を組織化しなければならない。このことは、地球のエネルギーバランスを調整し、気候を安定させるための必須条件である。
 この「脱成長」は、明らかに社会的なプロジェクトではなく、人類が一定期間従わなければならない客観的な物理的制約である。ある種の生産が、人類の非常に大きな部分の満たされないニーズを充足させるために成長しなければならないことは明らかであるが、それらは最終的なエネルギー消費の世界的な減少の範囲内でしか成長できないのである。この事実を回避することはできない。それは、現在、社会的・政治的状況全体を過剰に決定している気候危機・エコロジー危機の核心であるため、最初から綱領の中心に置かれなければならない。ローザ・ルクセンブルグは、「真実のみが革命的である」と言った。これは、嘘は反革命的であるというだけでなく、真実は大衆を革命に向かわせる力を持っていることを意味している。物質的脱成長の必要性は、この真実の重要な部分であるが、ほんの一部でしかない。完全な真実(全体的な真実)は、脱成長という物理的制約が必要であるのは、資本主義的な社会生産様式が人類にエコロジー的限界を超えさせ、生産力主義的幻想を根絶やしにしない限り人類を奈落の底に突き落とすからである。したがって、必要な脱成長は、エコロジー的かつ社会主義的、つまりエコ社会主義的でなければならない。それは、災害の真の加害者、すなわち災害によって豊かになり、強くなっている資本家に支払わせるための社会的闘争を強化しなければならない。富める者と貧しい者の間で、南北の間で、南北の社会内部においても、富と知識と力を共有するための闘いを促進しなければならない。「差異ある責任と能力」という原則を凍結することは、全く逆の方向に進もうとする資本家の意志を具体化することであることを示さなければならない。こうした吸血鬼を放っておけば、そして貧しい人々が資本家に脱成長の代償を払わせなければ、富裕層の利益のために貧困層の一部を排除するという社会的に残忍な形態で、人類の破局によってこれが押し付けられることを完全に明らかにしておかなければならない。物理学は交渉しない。この「解決策」の政治的表現がファシズムである。つまり、選択肢は明確であり、「エコ社会主義か、バーバリズムか」なのである。結論もまた明確である。われわれは、搾取と抑圧を廃止する公正な脱成長のためのエコ社会主義的な過渡的綱領を必要とするのである。

6.富裕層が気候を破壊している


 エコロジー危機と気候危機は、社会的陣営間の境界線を完全にあいまいにしていると主張するイデオローグたちに対して、われわれは、気候のための闘いはもっとも直接的な意味での階級闘争、富裕層と貧困層との間の闘いであると答える。1・5℃以下に抑えるということは、2030年に人類が1人当たり平均2・3トン/年のCO2を排出することを意味する。現在、世界人口のうちもっとも金持ちの1%に属する人々が排出するCO2量は、もっとも貧しい50%の人々が排出するCO2量の約2倍に相当する。「差異ある責任と能力」を尊重しつつ、1人当たり2・3トン/年を達成するためには、1%に属する人は排出量を30分の1にする必要があり、最貧困層の50%の人は3倍にすることができる。
 COP21(2015年、パリ)以降の各国政府の気候政策は、逆の方向に進んでいる。1%の世界排出量のシェアは、1990年の13%から2015年には15%に上昇し、2030年には16%に達する見込みである。それは1990年比で25%も増加し、世界平均よりも16倍も高い。一方、最貧困層50%のシェアは、8%から2030年には9%に上昇して、1人当たりの排出量は2・3トン/年を大きく下回ることになる。実際、クライメート・ジャスティスが示しているところでは、2030年までの削減目標は所得に反比例することになり、1%の人は20分の1、10%の人は8分の1、中所得の40%の人は6分の1にまで減らさなければならない。大衆の消費による二酸化炭素排出をターゲットにする資本主義的な気候変動政策は、ぜいたくな消費(スーパーヨット、プライベートジェット、複数の住居、SUV、宇宙旅行など)によるさらに大きな二酸化炭素排出を陰に隠している。航空機による旅行の50%は1%の富裕層がおこなっているが、航空業界を対象とした気候変動対策はわずか1%の削減である。また、1%の人々は金融の不透明さを利用して、資本主義的な投資の二酸化炭素排出量を隠している。このような状況の中、50%の人々(地球温暖化に対してわずかな責任しか負っていない!)が、「差異ある責任」の原則が尊重されるならば2030年に受け取るべき炭素予算の13分の1しか使用しないという大きな格差が存在する。この格差は、帝国主義がグローバルサウスの「損失と損害」に対する補償を拒否し、緑の気候基金に年間1000億ドルを支払うという約束を守らないという事実によって、さらに悪化している。しかし、南北の富裕層との格差は、程度の差こそあれ、すべての労働者階級に影響を及ぼしている。%は比較的似たような状況にある。2030年までに、主要排出国(アメリカ、EU、イギリス、中国)の80%において、最貧困層の50%の排出量は2・3トン/年をわずかに超えるか、わずかに下回るかにとどまる(インドでははるかに低くとどまる)だろう。世界レベルでは、先進国の低所得者層に対して、割合でいうと最大の排出量削減が課されることになる。このデータは、階級的路線によるエコ社会主義ブロックが多数派になる可能性を示している。確かに1・5℃以下にとどまるためには、40%のいわゆる「中間層」が、EUとイギリスでは半分以下、中国では3分の1、米国では4分の1にまで排出量を削減することが必要である。したがって、社会的多数派を獲得するためには、葛藤や、ときには痛みをともなう修正も必要である。しかし、この数字から導き出される戦略的結論は、南の発展を可能にするために、北の労働者に「不人気な」市場措置を課さなければならないということではない。経験上、そのような措置は効果的でない。そのような措置は、団結すべき人々を分裂させ、気候変動否定論者のデマゴーグの手中に委ねてしまうだけだからである。戦略的な結論は、北と南で金持ちに支払わせるために闘うことが必要だということであり、こうした闘いは、われわれが多数派エコ社会主義ブロックに向けてどうやって前進できるかを解明するための条件を作り出すということである。これは、フランスの黄色いベストの反乱で示されたことである。この反乱は、燃料税の拒否から始まり、ときには気候変動運動に参加するまでに左派に傾斜し(「世界の終わり、月の終わり、同じ戦い」)、さらには女性に対する暴力に反対するフェミニスト運動とさえ結びついている。

7.緊急のエコ社会主義的施策

 この戦略的結論を展開するには、反新自由主義的、反資本主義的な構造改革計画が必要である。エコロジー危機は、明らかに、健全な科学にもとづいた、特化したエコロジー綱領を必要とする。しかし、この綱領は、社会、自然、そして社会と自然の関係を修復するために金持ちと資本家に支払わせる一連の施策なしには、何も解決しないであろう。消費の分野では、富裕層の生活スタイルの炭素強度は、労働者階級の生活スタイルのそれよりもはるかに大きい。生産の分野では、公共部門の炭素効率は民間部門よりもはるかに高く、エコロジー的農業の炭素効率はアグリビジネスよりも限りなく高い。社会的再生産の領域では、自律性と敬意を促すことにより、支配と死の資本主義(家父長主義イデオロギー)に対抗して、生きている人々へのケアの文化が促進される。一般的に、富裕層による剰余価値の獲得を削減する要求は(自らの消費や投資のための資金を調達するためであろうと、世界や諸機関に対する彼らの支配力を高めるためであろうと、新たな金融市場を作り出すためであろうと)、社会的緊急事態に対応するだけでなく、エコロジー的緊急事態にも対応するものである。これらの施策は、少ないエネルギー消費と生態系への全体的な影響の軽減によって、すべての人々が良い生活を送ることができるという現実的な可能性の一部である。

 この施策は次の5つの項目に分けられる。

(1)金持ちとその企業の犠牲のもとでの緊急規制
 「われわれの行動を変えよう」といつも促している政府やメディアに対して、富裕層による消費をターゲットにする当面の要求を提起する。つまり、プライベートジェット、スーパーヨット、宇宙旅行、F1レースなどを禁止すること。SUVの生産をただちに停止すること。航空機による旅行を非難する(「フライトシェイム」)とともに、年間割り当てに従うこと。
 市場メカニズムの失敗に対して、モントリオール議定書の前例(グローバルサウス諸国の適応を助けるための支援資金をともなうフロン類の廃止)を利用して、資本家の犠牲のもとでの厳しい規制措置を要求する。つまり、メタンガス漏出を止めること(ガス配管網、油田、炭鉱からのメタンガス漏出を止めることは「単発的」ではあるが、技術的には難しくなく、0・5℃の温暖化抑制になる)。フッ素系ガスの排出を止めること(1990年から2019年にかけて、CO2の数百倍から数千倍の放射力を持ち、最長で数万年大気中に残留するこれらのガスの排出量が250%増加した)。森林破壊をゼロにすること。湿地の破壊を止めること。新たな化石燃料資源の探査・開発の禁止、石炭・ガス・石油発電所の段階的廃止(IEAとIPCCのタイミングに合わせて)。農業政策をただちにエコロジー的農業へと改革すること(ヴィア・カンペシーナの気候綱領によって)。交通手段の転換(公共交通機関の発達、自家用車の地位低下・・・)。

(2)税の正義、社会正義=気候正義
 1%のポケットにある1ドルは、50%のポケットにある1ドルの30倍、40%のポケットにある1ドルの15倍のCO2を発生させる。最高賃金の導入と最低賃金の引き上げ。社会的保護の拡大。基本的なニーズのレベルまでは(水、暖房、照明、都市移動などの)サービスの無料化。浪費的でぜいたくな消費に打撃を与えるために、それ以上の消費には大きな累進価格を設定する(たとえば、水に関するこのモデルの応用は「コモンズの悲劇」という自由主義的プロパガンダを打ち破るものだ。無料サービスは自制を促すが乱用しない!)。公共部門への再資金投入。緑の気候基金の年間1000億ドルを、(融資ではなく)補助金という形でただちに支払うこと(債務でグローバルサウスを締め付けてはならない!)。「損失と損害」に対する補償。南の国々の資源を切り離すこと。「カーボンオフセット」に反対すること、南の国々の負債を帳消しにすること。グリーン技術の特許を解除すること。・・・人々が再生可能エネルギーで彼らのニーズを満たすことができるようにすること。持続可能な農業と生産。太陽光資源を人々に奉仕するものとすること。大災害と戦うために必要な巨大な地球規模の資源を解放すること。銀行機密の廃止、財産の登録、タックスヘイブンの廃止、巨額収入への課税、金融取引への課税、ニューディール時代にアメリカで施行されたシステム(最高所得階層には95%の課税)にしたがう累進課税の再確立。

(3)生活のコントロールを取り戻すための民主主義、人間と地球を大切にするための民主主義
 エコフェミニズム。人間と生けるものへのケアを中心に置き、医療、教育、高齢者や依存的な人々へのケア、幼児へのケア、生態系の回復、生活に不可欠で低排出の活動など、今日には家父長的資本主義によって不可視化され切り捨てられた仕事を認識し評価すること。中絶と避妊の権利と無料アクセス、性差別的暴力と性的暴力に対する闘い。
 民主主義。環境に影響を与えるプロジェクト(資源略奪主義、補償・・・)に関する民衆との協議を義務づけること。仕事の組織、内容、目的に関する労働者の管理権と拒否権(組み込まれた陳腐化に反対、修理可能な製品、リサイクル可能な製品など)。先住民族と農村コミュニティによるその領土と資源の管理権、拒否権。

(4)より少ない生産、より少ない労働、より良い生活
 無駄な(広告、使い捨て機器)、あるいは有害な(軍需品、加速されている陳腐化)生産の抑圧。戦争と軍国主義に対する闘い。人民に敵対する化石燃料資本のクライアントであり、武装部隊でもある軍隊の廃絶。社会的に無駄な輸送を排除するために、生産の最大限の地域化。労働者の管理のもとで、社会的・環境的に有用な活動への、労働者の賃金損失なき集団的再変換を絶対的に保証すること。悲惨な人間関係に対する悲惨な補償としての大量消費主義的疎外を止めること。ジェンダーにとらわれない仕事の分担と社会化。快適な生活のための物質的条件がすべての人に保証されれば、時間、社会的関係、自然への没入が真の富となる。賃金の損失や労働密度の増加なしに、労働時間を集団的かつ根本的に削減するための生産力主義に反対する闘争を再開すること。新しい、真に人間的な文明に断固としてとりくむ政策だけが、持続不可能な個人の行動、とりわけ余暇と食の分野での行動を大規模に問い直す(とりわけ肉の消費の大幅な削減をともなう)ことにつながる社会的条件を作り出すことができるのである。

(5)生命を好まない男たちの武装解除
 地域でのオルタナティブな経験を増やすことによっては、われわれは資本主義から抜け出せないし、破局を止めることはできないだろう。資本が重要な部門を握っている限りは、気候や生物多様性を守ることは夢物語のままだろう。これらは、エネルギーと金融を筆頭に収用を通じて社会化されなければならない。「差異のある責任」を尊重しつつ、(ローカルからグローバルまで)あらゆるレベルで不可欠な民主的計画に挑戦するには、権力の獲得および民衆階級の動員にもとづき、コントロールされる新しいタイプの権力ネットワークの構築が必要である。それは、社会的存在の生産に対する民主的なコントロールを取り戻し、すべての人のために排出を公平に削減し、生態系を修復し、すべての人に快適でエネルギー効率の高い生活を保証するための、パリ・コミューンの経験に触発された権力のネットワークである。

8.エコ社会主義のヘゲモニーを構築する


 「公正な脱成長を通じたエコ社会主義過渡的綱領」は、純粋なプロパガンダではなく、行動のための指針である。行動には戦略的仮説が必要である。社会的存在の生産様式は、生産者の意識的な参加なしには変わらないというのは自明の理である。労働者の日々の生存が依存している生産力主義の愚行に対抗するために、どのように労働者を訓練すればよいのだろうか? これが決定的な問題である。その答えは、闘争および闘争の統一からしか生まれない。われわれはこれに組織的にとりくまなければならない。そのことは、さまざまな社会運動において、経験、知識、ノウハウを交換し、蓄積することができる、創意に富んだ戦闘的なチームを作ることを意味する。非常に防衛的な状況にもかかわらず、この戦略は、社会におけるヘゲモニーのための闘いと野心的に結合されなければならない。社会民主主義とスターリン主義の二重の歴史的失敗が、社会主義プロジェクトを深い危機に陥れたことは確かである。しかし、このプロジェクトを常に支えてきた倫理的メッセージは、これまで以上に強い共感を呼ぶことができる。というのは、エコロジー危機がわれわれの健康を損ない、われわれとその子どもたちの生存を脅かしているという単純な理由からである。資本主義は、世界、その美しさ、その豊かさを「利己的な計算の氷水の中に」溺れさせつつある。この不条理で恐ろしい現実に対する倦むことのない非難が、「成長を支持する」労働組合指導部の階級協調の間隙を切り開く強力な定言的命令へと大衆的規模で変わることがときとしてありうるのだ。あらかじめ「いつ」なのかを決めることはできない。われわれはそれに備えるしかない。成功の可能性は、今日のエコ社会主義闘争の最前線に実際にいる人々、すなわち若者、先住民、農民、女性の闘争の妥協なき急進性に依存するだろう。
(おわり)

THE YOUTH FRONT(青年戦線)

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