世界の地政学的情勢の諸要素 ②

3.諸大国による帝国主義相互の対立

 国際政治情勢はワシントンと北京の対立に支配されている。既存大国(アメリカ)は新興大国(中国)の拡大に直面している。この状況の中でロシアがその影響力を拡大しようとしている。この対立の将来を予言するふりをすれば、それは冒険となるだろう。この対立の将来は、とりわけこれらの国々の国内情勢の推移に依存することになる。
 バイデンは、オバマがやりたかったができなかったこと、すなわちアメリカのプレゼンスを太平洋に再配置することに成功し、その一方で、中東の地域勢力(イスラエル、サウジアラビア、エジプトなど)に依存して、世界のこの地域におけるアメリカの利益を守ることに成功した。中国との関係では、アメリカは環太平洋経済連携協定(TPP)の再交渉を望んでいる。アメリカは、クワッド協定(アメリカ、インド、日本、オーストラリア)により作戦的な内容を加え、オーストラリア、イギリスとオーカス協定を締結することで、インド太平洋の作戦地域における同盟関係を正式なものにした。これは、(いまのところ)世界最大の軍隊、比類なき同盟ネットワーク、80カ国以上にわたる750の軍事基地を持つアメリカ帝国主義から見れば成功である。
 他方、中国は、艦隊が停泊できる港を世界中にたくさん持っているが、海外に実質的な軍事基地は1つしかない。ユーラシア大陸の外では、顧客となっている国はあっても強力な同盟国はない。しかし、以下の点について留意すべきである。

▼アフガニスタンの大失敗は、アメリカのアジア圏からの撤退を意味しないが、中央アジアにおける中国の影響力を強化している。
▼インドや日本といったアメリカの同盟国は、中国に対して守るべき独自の利益を有しており、それは必ずしもワシントンの優先順位と一致しない。
▼アメリカはユーラシア大陸において、大幅に拡大しつつある中国ほど存在感を示していない。EUは過去にWTOの秩序を強化する上で重要な役割を果たしたが、主要な紛争地域ではほとんど影響力をもっていない。特に中国とロシアが手を組んだ場合、アメリカに大陸での有効な同盟国を提供することもない。伝統的な帝国主義の発祥地である西ヨーロッパはユーラシア大陸の重心ではなくなっている。
▼世界的な軍事的優位性にもかかわらず、アメリカは、北京が近隣諸国を犠牲にして軍事化したシナ海において、強い立場にあるわけではない。この地域における中国の火力は、海岸からあまり離れていないという地理的な近接性と大陸の輸送システムによって10倍にもなっている。その輸送システムによって、中国は部隊を迅速に展開できるのである。台湾周辺での軍事衝突は中国に有利に転じるだろう。

 もちろん、ワシントンは、北京の供給ラインを軍事的に遮断し、国際的な銀行業務の利用能力を低下させるなどして他の場所で反撃するオプションを持っているだろう。しかし、これは経済システム崩壊のリスクをともなう世界的紛争に関与することを意味する。客観的に見て、中国もアメリカもそのような紛争には関心がない。戦争はありそうにないが、考えられないことではない。突発的な事故は常に起こりうるし、関係国の一つでの政治的・社会的危機もありうる。ジョー・バイデンの立場は非常に脆弱である。アメリカではトランプ主義が非常に強い状態が続いている。習近平の地位は強固なものではなく、おそらく見た目よりも脆弱である。
 ロシアは、ユーラシア大陸における地政学的位置、エネルギー資源、武器生産、軍事兵站のノウハウ、潜水艦隊(中国よりはるかに大きい)、中東(特にシリア)における確固たる足場、ハッカーネットワークから利益を引き出している。ロシアは、厳密には第三世界の大国ではないが、ベラルーシやカザフスタンにおけるデモの残忍な弾圧を支援し、ジョージアの分割を維持し、現在はウクライナにおける西側の進出をめぐって実力行使をおこなうことで、その地政学的空間における地位を強化している。また、経済的・政治的利益と引き換えに傭兵(民間軍事会社「ワグネル」)を輸出することで、アフリカなどではライバルと互角に渡り合うことさえできる。
 ロシアと中国は、特に中央アジアの旧ソビエト共和国において競争関係にあるが、大西洋同盟とNATOに対して団結している。現状では、台湾周辺や東欧国境での同時軍事衝突の脅威によって、北京とモスクワの同盟は強化される可能性がある。
 日本は朝鮮半島と台湾という2つの「ホットスポット」に直接的に関係している。日本政府は、この状況を利用して完全な再軍備政策を完成させ、日本国憲法の平和主義条項から自らを決定的に解放し、反戦世論の圧力を中和することを目指している。日本帝国主義の役割は北太平洋で増大している。
 ヨーロッパの帝国主義大国では、まずドイツとフランスがこの米中対立の中で周縁的な位置にある。より一般的に言えば、国際問題に対して弱い立場にある。EUはブレグジットと西欧におけるパンデミックの継続的な負担の両方によって弱体化し、経済回復におけるその地位を危うくしている。さらに、その一連の矛盾は、世界第3位の経済大国としての経済的影響力に見合った政治的役割を果たすための障害となっていることが明らかになっている。
 EUも国際的なバリューチェーンに大きく依存しており、さらにドイツはエネルギー供給をロシアに依存し(ガスパイプラインのノルドストリーム2の完成で強化される)、中国はその輸出において重要な地位を占めている。
 ヨーロッパ指導者、とりわけドイツ指導者の主な関心事は中東と東地中海地域にある。その中には、ウクライナ問題および弱体化したEU内におけるヴィシェグラード・グループ(ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキアの4カ国で構成される)との関係が含まれる。こうした諸国の政権は、権威主義政権をともなう民族主義の勃興という切り札を使っている。
 さらに、ヨーロッパの指導者たちは、ロシアに対して独自の政策を持とうとしている。彼らはそれを使ってウクライナ問題に対処しなければならない。
 アメリカはバイデン政権のもとでウクライナへの軍事援助をさらに増やし(アメリカの軍事援助ではイスラエル、エジプトに次いで第3位を占める)、ノルドストリーム2の稼働に標的を定めた制裁の拡大を拒否することによって、当面ドイツの要求する穏健政策を支持している。
 ウクライナ問題に加えて、トルコの政策問題がある。NATOの一員として最大限の影響力を発揮し、特にウクライナ政府の支援においてドイツの支持を求める一方で、トルコは東地中海で独自のゲームを展開している。ヨーロッパへの移民のアクセスに対して防犯用の鍵の役割を果たし、フランスの支援を受けるギリシャ・イスラエル・キプロスの東地中海プロジェクトに対抗して、リビアとの協定や海底ガス探査を通じて独自のエネルギー自立と地域的役割を発展させようとしているのである。
 また、とりわけフランスは、東欧、ウクライナ、ロシアに対して経済的な影響力が大幅に低下しており、その弱点を国連安保理の常任理事国という外交的な影響力で補おうとしている。しかし、マグレブ地域ではすでにその影響力を失い、フランス領西インド諸島の情勢やニューカレドニアにおける権力掌握によっても弱体化し、伝統的な勢力圏であるサハラ以南のアフリカでも弱体となっている。マリからの撤退は、重要な原料供給地における帝国主義権益を確保するための軍事力の無力さを浮き彫りにしている。さらに、ドイツは近年、この地域の軍事情勢に参画する努力を強めている。この地域は、今後数年間で重要な経済的利害関係が生じるにもかかわらず、もはやヨーロッパの経済利益にとって安全地帯ではなくなっているのだ。
 一般に、地域大国は、米国、中国、ロシア、日本の中継役としてだけでなく、独自のゲームをすることができる。北による南の支配という関係が消えたわけでないが、今日では北も南も現実は均質的ではない。

4.ユーラシアとインド太平洋地域

 米中対立はすべての大陸で繰り広げられるが、同じ形、同じ強さで繰り広げられるわけではない。大陸や海域によって、他の帝国主義や地域大国が多かれ少なかれ重要な役割を担っている。政治史と民衆運動の遺産は、新自由主義的秩序に対する抵抗をさまざまな形で形成している。
 しかし、ユーラシアとインド太平洋地域は、今や世界経済と地政学における結節点となっている。
 すべての主要大国が軍事的なレベルも含めて互いに向き合っているのは、まさにこのような状況においてなのである。朝鮮半島危機は、アメリカ、日本、ロシア、中国にきわめて直接的に関係している。シナ海は世界の主要な経済輸送路の一つであり、そこでは航行権が常に争点となっている。米軍基地の円弧は、外洋における中国海軍の展開を制御することを目的としている。南太平洋の島国は、アメリカ、オーストラリア、中国(およびニューカレドニアを植民地としているフランス)の間で、影響力をめぐる激しい争いの対象になっている。
 中東:中東情勢が比較的安定しているのは一時的なものに過ぎないかもしれない。少なくともイラン問題に関しては、すぐに「ホット」な危機へと移行する可能性がある。
 ラテンアメリカでは、アメリカはキューバ政府とベネズエラ政府に対する経済・財政的封鎖を維持している。アメリカは両国政府と伝統的なイデオロギー闘争を続けているのだ。アメリカは、問題を抱えるコロンビアに軍事基地を、南大西洋海域に第4艦隊を維持し、ボルソナロ率いるブラジル軍と合同軍事演習をおこない、中米本土では伝統的な経済・政治的プレゼンスを維持している。
 しかし全体としては、アメリカの巨大多国籍企業は、ヨーロッパ、中国、韓国、さらにはインドの銀行、製造業、通信会社と「裏庭」市場を共有している。バイデンはメキシコ政府との交渉を利用して、この小さなパートナーに中南米からの移住の波を遅らせさせようとしている。バイデンの指導のもとで、アメリカはボリビア、チリ、アルゼンチンとのより直接的な小競り合いから手を引いたが、ペルー、チリ、ブラジルの不安定な状況はさらなる介入を引き起こす可能性がある。 

5.国際主義の復活のために

    
 国際主義は、連帯の表現であり、社会主義のための闘いに対するわれわれの関与の本質的な基盤の一つである。それはまた、戦略的に必要なものでもある。われわれの敵は、グローバルに活動している。われわれが直面する課題は、国際的な規模でしか解決できない。
 したがって、国際主義の復活に貢献することは、わがインターナショナルの主要な責任の一つである。この目標を達成するために、その用意のあるすべての勢力と協力して、あらゆる場所で帝国主義に反対し、あらゆる場所で「真の民主主義」のために闘い、あらゆる場所で抑圧された人民を擁護することが必要である。

▼「陣営主義」は、この国際主義の発展にとって大きな障害となる。「陣営主義」は、人民の連帯というレベル以前に国家間関係のレベルに自らを置くことによって、それが多少なりとも反米である限りは、大国(この場合は中国とロシア)や抑圧体制(あるいは反革命運動)の犠牲者である民衆をいけにえにしてしまっている。
 「陣営主義」をとることで、冷戦時代、つまり1980年代の終わりまで、左翼潮流は社会主義革命から生まれた政権を擁護して、ソ連や中国の官僚機構の犯罪を忘れたり、正当化したりした。この20年間、帝国主義の介入に反対する必要な動員によって、一部の左翼潮流はサダム・フセイン政権やカダフィ政権の反動性について沈黙し、こうした政権に抵抗する民主的潮流との必要な連帯を無視し、独裁者を反帝国主義闘争の擁護者に仕立てあげた。今日、歴史は戯画化された形で繰り返されている。プーチン政権や習近平政権は、西側諸国において、アメリカと中国・ロシア間の紛争の帝国主義間的性格を消し去り、体制の抑圧的・独裁的性格を免責してくれる真の代弁者を見出している。こうした国では、他の国と同じように、まるで民主的権利を課す必要性が生じないかのようである。
▼新型コロナウイルスの大流行により、新自由主義的秩序と巨大製薬企業による支配の結果としてわれわれが払っている法外な代償が明るみに出された。この教訓は、すべての流行について有効であり、とりわけ新型コロナウイルスが一番の死因とはなってないところでは有効である。健康の権利のための闘いは、コロナウイルスワクチンの特許を解除し、グローバルサウスの国々がワクチンを製造し、効果的なワクチン接種キャンペーンを実施できるようにする要求をめぐって、真に国際的な次元に達している。支配階級による危機管理においてまん延している権威主義に対して、われわれは地域医療の定義および実施に住民を参加させる医療民主主義政策の原則を対置しなければならない。この危機に乗じて台頭する反啓蒙主義的潮流に対しては、われわれのオルタナティブな政策を対置するだけでなく、合理的な情報を確保することに貢献しなければならない。そこでは、分析は科学的(自己批判的)知見という性質にもとづいていなければならない。
▼世界的な反戦運動の再構築のために動員することが急務である。今日、大国間の戦争は起こりそうにないように思われるが、想像できないことではない。戦争の脅威はそれ自体受け入れがたいものであり、特に今日のように核の次元に踏み込んだ場合にはなおさらである。気候が危機的状況にあるときに、何十万人もの兵士とそれにともなうすべての兵站を配備することはまったく無責任である。軍備が地球温暖化予測で考慮されていない分野の一つであるという事実はまったくの偽善である! 平和を守るために外交に頼るということは未来を担保にすることであり、人民が結局は受動的な観客にしかなり得ないという考えを支持することになる。
 反戦感情は、とりわけアフガニスタン危機によって(アメリカを含む)さまざまな国で再燃しているが、国際的に調整された反戦行動の能力は必要とされるものをはるかに下回るままである。われわれは、1970年代の強力な反戦運動の最良の伝統を回復し、蘇らせる必要がある。アメリカとヨーロッパにおける1960年代と1970年代の強力な反戦運動、1980年代のパーシング爆撃機の配備に反対する動員は、軍事的エスカレーションを阻止する上で重要な役割を果たし、当時の大衆運動と青年運動を活性化させた。今日、社会的不公正、地球温暖化、ジェンダー差別、人種差別に対して、多くの国で活力ある活動家勢力が動員されている。また、競合する帝国主義の介入によって脅かされる人民の権利を最前線に置き、連帯を築く国際的な反戦運動を構築することが緊急の闘争的課題となっている。
▼移民と国境の問題はかつてない深刻なものとなった。ヨーロッパと北米では常に物理的な壁が築かれ、法的な壁(オーストラリアによる自国沿岸での移民の拘束、EUとトルコの協定・・)も作られている。
 ヨーロッパ要塞は、法外で不明瞭な権限を持つ機関であるフロンテックス(欧州対外国境管理協力庁)によって、その名にこれほどまでにふさわしいものになったことはない。
 壁の両側で、避難民の保護、移動の権利、亡命権の尊重のために連帯を主張しなければならないが、関係国政府は意図的に無視している(とりわけシリアやアフガニスタンの難民の運命をみれば)。
 強いられた人口移動は、われわれが経験している世界的危機の必然的な結果であり、それは支配的な秩序の責任(生態系の危機と広範囲にわたる不安を煽ること)である。移住の大部分は地域的(グローバルサウスの国々の間)、あるいは国内的(同じ国の中)なものである。これは、「中心部にある」国々における反移民の言説が意図的に覆い隠している現実である。
▼「壁」が築かれているのは、大陸の上だけではない。権力者の利益によって形成された海洋法は海や海洋を私物化し、軍事化する海洋境界線を作り出しているのである。地球のエコロジー的未来と地球温暖化の結果は、大部分が海洋で展開される。海洋は、海洋の沿岸に住む住民の利益と生物多様性の保護のために、再び国際協力のための共通の空間とならなければならない。
▼列強によって押しつけられた安全保障政策に対して、人民の連帯と権利の優先にもとづいて、その安全保障政策に反対しよう。この目的のために、われわれは、たとえば核の脅威に対して(南アジアで)パキスタン人とインド人の間でおこなわれているように、地域協力機構を東欧で展開することによって、すべての紛争地帯で人民運動間の同盟を強化し、人民の連帯を確認することに貢献しなければならない。
▼われわれは、こうした地域ネットワーク間の相互支援の伝統を強化し、特に重要な危機(ミャンマー)に直面した際には、それらを共通に動員すべきである。
▼また、多かれ少なかれ自然災害(台風、地震など)、健康危機(パンデミックなど)、独裁政権の犠牲となった人々への連帯運動などを強化することに貢献しよう。物質的援助と政治的支援を提供することによって、この3つを同時におこなうことさえ可能だ。

 原則的な立場を超えて、国際主義の復活は複数の動員や具体的な行動によってのみ達成される。国際主義は、実践的なキャンペーンに参加することによって、再び共通の利益となるだろう。     (おわり)

The KAKEHASHI

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