米中対立 新たな冷戦を前に(上)
危機は世界恐慌以来もっとも深い
トランプ、対立エスカレートへすべてを利用
アシュリー・スミス、ケビン・リン
「冷戦が開始された状態にある」
アメリカと中国は、パンデミックから貿易、投資、ハイテク、地政学、アジアの軍事覇権に至るまでのあらゆることをめぐって、急激に高まっている対立の中にいる。アジアソサエティ米中関係センター長のオービル・シェルは「われわれは本質的には冷戦が開始された状態にある」と述べた。「われわれは中国との間で、ますます敵対的な関係に陥りつつある」。
北京の中国グローバリゼーションセンターの王輝耀代表は「中米間の信頼度は一九七九年に国交樹立されて以降で最低レベルにある」と警鐘を鳴らしている。これは「グローバリゼーションの好況期が終わり、グローバルシステムが二つに分断されることを意味する。そうなれば世界の成長は大きく鈍化し、発展途上国はどちらかの陣営に味方しなければならなくなるだろう」と懸念している。
この新たな帝国主義的対立は、かつての冷戦終結後、ジョージ・ブッシュ・シニアが「新世界秩序」の台頭を宣言したときに、アメリカが防ごうとしていたものである。アメリカは、他に並ぶもののない覇権国家として、この新しい秩序を管理し、世界の国々に新自由主義を押し付け、企業のグローバリゼーションを監督し、自分たちが主にコントロールしている国際機関や経済機関で状況を支えようとしていた。今、そのプロジェクトはボロボロになっている。ワシントンは相対的な帝国主義的衰退に苦しみ、中国がアメリカのライバルとして台頭していて、グローバル資本主義は世界恐慌以来のもっとも深い危機に陥っている。
こうした新たな状況は、次期アメリカ大統領選挙の結果にかかわらず、両国の対立を深めることになるだろう。民主党候補のバイデンは、トランプ政権と同様に対中タカ派的な立場をとっている。冷戦終結後、初めて帝国主義間の対立が復活し、それぞれの側がナショナリズムをあおりたてている中で、左翼はワシントンと北京の双方に対して、下からの国際的連帯という立場を明確に打ち出さなければならないだろう。
対立の根源はより深いところに
ドナルド・トランプが対立を激化させたのは確かだが、その根源はどちらか片方のあれこれの政権の政策よりも深いところにある。その根源は、新自由主義ブーム、アメリカ帝国主義の戦略的失敗、大不況、経済・地政学的大国としての中国の台頭にある。
これらの変化は、ソ連崩壊と冷戦終結後にアメリカが確保した一極世界に終止符を打った。当時のアメリカは、ドルが世界通貨であり、経済規模は他のどの国よりもはるかに大きく、軍事費は二位以下の一〇カ国を合わせたものよりも大きく、他の追随を許さないほどの巨大な力を持っていたのである。ワシントンは、自由貿易グローバリゼーションという新自由主義的な世界秩序の中に世界のすべての国家を組み込むことで、その覇権を固定するという壮大な戦略を展開したのであった。
アメリカは、世界経済をこじ開けるために国際通貨基金と世界銀行を利用し、国際的な自由貿易システムを構築するために世界貿易機関を設立し、いわゆるならず者国家を取り締まり、新自由主義政策によって破壊された社会を「安定化」させるために、国連とNATOを通じてしばしば米軍を配備してきた。いたるところで、競争相手の台頭を阻止しようとしたのである。
世界システムにおける三つの展開が、ワシントンの並ぶもののない支配力をくつがえした。第一に、一九八〇年代初頭から二〇〇八年までの好景気は、グローバル資本主義を再構築した。それは資本蓄積の新たな中心地を生み出したが、その中でもっとも重要なのは中国である。中国は、世界経済における脇役から世界の工場へと変貌を遂げた。中国と他の国々の経済発展は、彼らが地政学的により積極的になることを可能にした。
第二に、アメリカは、イラクへの侵攻と占領によって、ウィリアム・オドム将軍が「歴史上最大の戦略的災害」と呼んだものをこうむった。これによって、中東とその戦略的エネルギー埋蔵をワシントンの支配下に置き、中東に石油や天然ガスを依存する中国のような潜在的なライバルを脅かそうとするアメリカの野心は台なしになったのである。
第三に、大不況はアメリカ経済に他国よりも大きな打撃を与えた。支配階級は、緊縮財政と景気刺激策を組み合わせることで、何とか崩壊の瀬戸際から引きずり戻したが、新たな好景気を誘発することはできなかった。実際、世界の経済システム、特にアメリカとEUは、停滞した拡大と深刻な不況が交互に繰り返されることを特徴とする世界的な不景気に陥っていた。
対照的に、中国は独自の巨大な景気刺激策によって、その大規模な拡大を維持することができた。実際、その好景気は、オーストラリアからブラジルまで多くの国の経済を支えた。そうした国々は、中国の製造業、新しい都市の建設、発展を支える近代的なインフラ構築の需要を満たすために、原材料を輸出したのだ。
これらすべてが、アメリカ帝国主義の相対的な衰退につながった。アメリカ帝国主義は、もはや一九九〇年代や二〇〇〇年代初頭のような単極的な世界秩序を支配するものではない。その代わりに、非対称的で多極的な世界秩序が出現した。アメリカは、最大の経済力と軍事力を持ち、最大の地政学的影響力を持つ覇権国家であり続けているが、現在では、中国やロシアという形で帝国主義的ライバルに直面している。ロシアはその軍事力のゆえに地政学的に桁外れの力を持っている。さらに、アメリカはイランのような多くの地域大国にも直面している。
中国の台頭―目的意識的舵取り
この新しい秩序の中で、北京はグローバルプレイヤーとしての地位を主張している。二〇一二年に就任した習近平国家主席は、国家経済を発展させ他国との紛争を避けるという前任者の慎重な大戦略を放棄し、代わりに大国としての中国の正当な地位を再確立するという「チャイニーズ・ドリーム」を追求することを明らかにしてきた。
これ以降、習近平は中国の経済力を地政学的影響力に変えることに注力してきた。彼は二〇一三年に、一兆ドルをかけた一帯一路構想のインフラ整備プロジェクトを開始した。北京は、ユーラシア全体とアフリカの一部に、陸と海の両方で輸送ルートを建設するために、その過剰な工業生産能力を輸出し、その過程の中で世界経済のハブとしての地位を確立した。
他の帝国主義大国と同様に、中国は、主にグローバル・サウス地域の国々に融資をおこなうことで、このような開発のすべてに資金を提供してきた。『ハーバード・ビジネス・レビュー』の記事にあるように、「中国国家とその子会社は、直接融資と貿易信用によって、世界の一五〇カ国以上に約一・五兆ドルを貸与している。これにより、中国は世界最大の公的債権者となった。これは、伝統的な公的貸し手である世界銀行、IMF、あるいはすべてのOECD債権国政府を合わせたものを超えている」。
習近平はまた、「中国二〇二五」と呼ばれる別の構想を通じて、資本主義バリューチェーンに対する経済的長征を主導していくことを決めていた。中国はアメリカとの対立を避けるために、この構想を公式には放棄したが、構想の当初の目標すべてを追求している。五月二〇日、『ブルームバーグ』は、中国が今後五年間で一・四兆ドルを投資して、ハイテク、特に5Gにおける国内王者に資金を提供し、これまでその領域を支配してきたアメリカ、欧州、日本のライバルに対抗すると報じた。これらすべての大国は、利益のためだけでなく、サイバー戦争における軍事的役割がますます重要になっているため、現在、ハイテク競争に巻き込まれている。
中国はその経済力にもとづいて、軍事力を近代化し、アジア太平洋地域での拡張主義的な目的を追求するために軍事力を利用してきた。習近平は海軍を増強し、艦船を配備し、南シナ海と東シナ海の島々に軍事拠点を設置して航路を支配し、海底石油と天然ガスの埋蔵量を主張し、漁業権を主張してきた。最後に、中国は、気候変動交渉から国連安全保障理事会での審議に至るまで、あらゆる分野で地政学的にずっと積極的になった。
アメリカ帝国主義の右往左往と座礁
中国の台頭とアメリカの相対的な衰退は、ワシントンの帝国主義的戦略を窮地に陥れた。ソ連とは対照的に、アメリカは現在、経済的に深く統合された地政学的なライバルに直面している。アメリカの多国籍企業は、中国を輸出加工基地として利用しており、巨大な中国市場を切望している。その上、アメリカ国家は北京に対して深い負債を抱えている。北京は莫大なアメリカ国債を保有している。この金融依存のために、ヒラリー・クリントンは「銀行家にどうやって厳しく対処するのか」と苦言を呈したのは有名な話だ。
習近平が帝国主義的積極性を発揮し始める前は、アメリカの対中政策は、封じ込めと関与の組み合わせであった。アメリカは、中国を組み入れて、国家資本主義的な経済組織を放棄し、自由市場資本主義を採用するよう圧力をかけようとしていたのである。同時に、北京がこれらの指示に完全に従おうとしないため、ワシントンは警戒し続けた。
その結果、アメリカは、「封じ込めと関与の折衷」政策のどちらの極を強調するかで、右往左往するようになった。その最後の提唱者として、オバマ大統領は、いわゆる「ピボット・ツー・アジア(アジアへの中心軸移動)」によって、アメリカを封じ込めの側に決定的に向けた。彼の狙いは、アメリカ帝国主義を中東の占領から引き離し、アジア太平洋地域での勢力拡大に向けて方向転換させることであった。
オバマは、中国を排除した環太平洋パートナーシップ協定の批准を通じて、アジアをワシントンの新自由主義的秩序に経済的に統合することを望んでいた。彼はまた、北京の軍拡を抑止するために、米海軍の六〇%をアジア太平洋地域に移動させることを目指した。最後に、彼は、アジアにおける数十年の覇権の上に築かれたワシントンの歴史的な同盟を強化・拡大し、ベトナムとのような新しい同盟を確立することを計画した。
オバマ大統領の戦略は失敗に終わった。アメリカは中東で足止めされたままであり、環太平洋パートナーシップ協定の批准投票がおこなわれることはなく、各国がこの地域に対するワシントンの関与を疑い、二つのライバルの間でバランスを取ることを選択したため、アメリカの同盟関係は軋轢を生じた。このようにして、アメリカ帝国主義の戦略は、中国の新たな積極性にどう対処すべきかについて、混乱の中で暗礁に乗り上げてしまったのである。
新しい戦略―「偏狭な覇権主義」
トランプ政権は、いかに不安定なものではあっても、中国とどう対峙するかというワシントンの帝国主義的難問を解決するために、「偏狭な覇権主義」という新しい戦略を実行しようとしている。これには四つの側面がある。第一に、トランプは、国境を取り締まり、抑圧された人々だけでなく、とりわけ移民やイスラム教徒だけでなく、アメリカの大学に通う中国人学生をも監視することで、国家安全保障を強化しようとしている。
第二に、彼は製造業を国内回帰させて、アメリカのサプライチェーンを中国から移動させると約束している。第三に、前任者が重視してきたいわゆる「対テロ戦争」から「大国間競争」、具体的には中国との闘いに移行している。彼はこの対立を念頭に置いて、新たな軍備増強のための防衛計画を再編成したのである。第四に、彼は「アメリカ第一主義」を掲げ、アメリカの同盟国および敵対国の双方との取引関係を確立したいと考えている。
この新しい帝国主義戦略は中国にも適用され、アメリカを北京との新冷戦に向かわせた。経済的には、トランプは貿易戦争を通じて中国を叩きのめそうとしてきた。トランプは、米中企業間の強制的な技術移転を阻止し、北京に国営資本主義産業の民営化を強制し、アメリカの多国籍企業に国内市場をさらに開放させ、ファーウェイのようなハイテク分野の覇者に対する中国の国家的支援を阻止したいと考えている。
しかし、最近までトランプの政策は、彼の前任者の政策と同様に、矛盾に満ちたものであった。トランプは、二つの経済を切り離して、中国からサプライチェーンを強制的に排除するという脅しと中国にアメリカの投資や販売に開放するよう求める声との間で揺れ動いてきた。とはいえ、トランプ政権は明らかに切り離しを志向している。
地政学的には、トランプは国家安全保障上の脅威として、アメリカの同盟国にファーウェイの5Gインフラを禁止するよう圧力をかけようとしている。そして、中国がその経済力を利用してユーラシアをその影響下に引きずり込むことを防ぐために、アメリカの同盟関係を国ごとに強化しようとしている。これらすべてを実行するために、アメリカは中国との戦争に備えて軍を増強し、アジア太平洋地域での海軍のパトロールを増やし、台湾を含む同盟国に武器をより多く売却している。
パンデミック責任のなすり合い
パンデミックと世界的な不況は、両国の対抗関係を劇的に激化させた。中国経済は昨年六・一%の成長率へと鈍化したが、今年は七%の縮小となった。二・三%の低成長率にあえいでいたアメリカ経済も二〇二〇年には六%縮小するなど、両国とも経済的な危機に直面している。この危機の中で、各国は地政学的・経済的・軍事的優位をめぐる、さらに鋭い対立が起きることに対して、国内での支持を固めようとナショナリズムをあおり立ててきた。
トランプ政権は、パンデミックへのアメリカの対応を失敗させることで、何万人もの回避可能な死を犠牲にしたが、この大惨事の責任を中国に転嫁しようとしている。トランプやその他の人々は、新型コロナウルスを繰り返し「中国ウイルス」または「武漢ウイルス」と呼び、武漢の研究所から流出したという陰謀論を言いふらしている。トランプ政権は、アメリカの各州が中国の主権免責を無効にし、賠償を求めて中国を訴えることさえ認めている。ミズーリ州は四月に北京を相手に訴訟を起こし、すでにその道を切り開いてきた。
共和党は中国叩きでトランプに追随している。共和党の指導者たちは、パンデミックを理由として中国を非難する論点を盛り込んだ五七ページの覚書を起草した。『ポリティコ』が報じているところでは、彼らは「中国を攻撃するための重要なパターンとして、中国が『真相を隠蔽した』ことによって感染拡大につながったとすること、民主党が『中国に対して弱腰である』と非難すること、共和党は『中国のせいで感染拡大が発生したことに対して中国への制裁を推進していく』ことの三点を強調した」のである。
オルタナ右翼(訳注一)のダークプリンスであり、トランプの元最高戦略責任者であるスティーブン・バノンは、次期大統領選挙では「トランプの選挙運動は中国、中国、中国についてのものになるだろう」と予測し、希望的観測に駆られて「彼が経済を再起動させたという事実があればいいのだが」と述べた。このように、トランプと極端なナショナリスト、右翼、反中国勢力は、自分たちの利益のために災害を利用し、新冷戦を強く求めようとしてきたのである。
民主党は、共和党の中国叩きに熱心に参加している。民主党全国委員会は独自の戦略文書を作成し、中国に対してお世辞を言っているとしてトランプを攻撃目標にしている。民主党の大統領候補ジョー・バイデンは、実際に右派の共和党を出し抜こうとしている。彼は広告を出し、アメリカの医療インフラの崩壊を批判する代わりに、中国への攻撃に焦点を当てて「トランプは中国との取引に応じた」と主張した。
このような中国叩きは、民主党上層部に限ったことではない。三人の自称進歩派は『フォリン・アフェアーズ』二月号の「左派は中国カードを使うべきだ」という挑発的タイトルの記事で、「北京との安定した管理された競争は、アメリカの国益を確保するために必要であり、進歩派にとって有益なものでありうる。左派は、投資、技術革新、社会的包摂、国家再生の野心的なプログラムを包含する進歩的な国内のアジェンダを前進させるために、外国との競争によって与えられた機会をつかむべきである」と主張している。
バーニー・サンダースはもちろん、そのような低水準にまで落ちぶれてはいない。しかし、実際のところ、彼は国内の急進的な改革を提唱しているが、国際紛争、特に中国との関係では、同じような急進的な立場を取っていない。サンダースは北京に対して保護主義的な立場をとり、アメリカの雇用喪失を非難し、北京や他の権威主義国家に対して「進歩派インターナショナル」の形成を支持してきた。このように、両資本主義政党は中国に対して極端なナショナリズム的立場を採用している。
切り離しをもてあそぶワシントン
トランプは、こうしたことすべてを、対立を熱狂的なまでにエスカレートさせるために振り向けた。そして、中国との関係を断ち切り、二つの経済を切り離すと脅すことまでしたのである。ブルジョア経済学者の中でも悪名高い「ドクタ・ドゥーム」として、ヌリエル・ルビーニは『ニューヨーク・マガジン』五月号のインタビューで次のように語っている。「われわれは全面的な貿易戦争、技術戦争、金融戦争、通貨戦争、技術・情報・データ・投資など全分野での戦争を抱えている―つまり、切り離しが起きている。われわれは、スプリンターネットを持つことになるだろう。それがどれだけ速くなるかという問題だけだ」。
トランプは、中国への関税を引き下げるために彼が結んだ「第一段階」の貿易取引を中止することを検討しているが、その理由は、中国がアメリカの農産物輸出を購入するという約束を守らなかったからというものである。彼は、国家安全保障を利用して、アメリカのハイテク企業に中国企業との関係を断ち切らせようとしている。例えば、台湾のTSMC(台湾セミコンダクタ・マニファクチャリング)のようなアメリカの技術を利用するハイテク企業が、自社の半導体をファーウェイに販売することを禁止する新規則を発表した。ファーウェイは、この規則が同社の存在そのものを危うくし、世界の5Gインフラの多くを危険にさらすと宣言し、これに歯止めをかけようとした。
しかし、トランプと共和党タカ派はそれを押し通すだろう。ネブラスカ州の上院議員ベン・サッセはトランプの命令を称賛し、「アメリカはファーウェイの首を絞める必要がある。現代の戦争は半導体で戦うものであり、われわれはファーウェイの技術者にわがアメリカの設計を使わせていたのだ。これは非常に単純なことだ。アメリカの技術に依存しているチップ企業は、中国共産党のベッドに飛び込むことはできない。この規則はもっと早く決めるべきだったのだ」と非難した。このキャンペーンの一環として、アメリカはブラックリストをさらに二四の企業や大学、九つの機関に拡大し、それらが新疆の人権侵害に加担していると非難している。
また、トランプはさまざまな国際金融取引を禁止することで、経済紛争に新たな戦線を開いた。政府労働者の退職金六〇〇〇億ドルを運用する連邦退職貯蓄投資理事会に、中国企業の株を購入するのをやめるよう強要したのだ。『ニューヨーク・タイムズ』は五月二〇日、この動きが「米中の金融市場や国境を越えた投資を混乱させる可能性がある」との憂慮を示した。
最後に、トランプはアメリカ企業に対し、中国からサプライチェーンを切り離すよう圧力を強めている。ロバート・ライトサイザー米通商代表は『ニューヨーク・タイムズ』に寄稿し、二つの経済の切り離しを呼びかけた。彼は、企業が生産を他国へと移転させることに憤慨し、自由貿易協定がアメリカの主権を侵食し、雇用を流出させていることを非難した。そして、生産を他国へと反射的に移転するのは終わっていること、繁栄への道は企業にとっても労働者にとっても同じで、それはアメリカに仕事を戻すことであると述べた。
企業が彼の指示に従うかどうかは別問題である。アメリカの多国籍企業は、生産も販売も中国と深く結びついている。アップルの製品のほとんどは中国で生産されており、フォードのようなアメリカ企業にとっても中国は最大の市場の一つであり続けている。それにもかかわらず、世界的な景気後退とトランプ大統領のナショナリズムが相まって、二つの経済の間により深く、くさびが打ち込まれている。
これらの圧力は影響を与えている。五月一一日、『フィナンシャル・タイムズ』は「中国の対米直接投資は昨年、二〇〇九年以来の最低水準にまで落ち込み(二〇一八年には四半期あたり二七億ドル、好況期だった二〇一六年および二〇一七年の四半期あたり八〇億ドルだったのだが)、二国間の関係が険悪化している」と報じた。また、「中国のベンチャーキャピタルの対米投資も崖から転落していて、二〇一八年の四七億ドルから昨年の二六億ドルへと低迷している」。しかし、二つの経済の持続的統合の兆候として、同紙は「アメリカの対中投資はかなりの回復力を示した」とし、「中国で事業を展開しているアメリカ企業の大多数は、生産とサプライチェーンを国外に移す計画はない」としていることを明らかにした。
それでも、その軌跡は非常に明白なので、新自由主義の前衛雑誌である『エコノミスト』に、国際貿易の縮小、グローバル・サプライチェーンの崩壊、保護主義の台頭、国際的な資本移動の制限を予測させるほどだった。彼らは五月一四日の記事を「グローバリゼーションのもっとも偉大だった時代に別れを告げ、その代わりに何が起こるのかを心配しよう」と締めくくった。
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