反資本主義のヨーロッパに向けた国際主義的過渡的綱領のために(上)

政府・IMF・金融資本による賃金・年金の切り下げを許すな

オズレム・オナラン

 今日ヨーロッパではギリシャ、アイルランドに象徴されるように経済的危機が全面化している。だが反資本主義左翼は攻勢に転じていない。危機に対する見解は一致しているが、キャンペーンや戦術の一致まで高めていくための討論が求められている。この文章はユーロゾーン離脱の推進を主張するラパビツァスへの反論である。(「かけはし」編集部)

 危機はヨーロッパ内部の歴史的な多様性をむき出しにし、一つのヨーロッパ規模の危機へと、また世界的危機の新たな段階へと達した。ヨーロッパに今ある諸方策には、三つの原理的な欠陥がある。第一にそれらは、問題は財政規律の欠如にあると決めつけ、国家財政赤字の監視強化という古い信仰を繰り返す。それは赤字の背後にある原因を疑問に付さない。あるいは、生産性の多様性に関するすべての構造的諸問題、またドイツの「近隣窮乏化政策」に起因する経常収支の不均衡を無視する。第二にそれらは、ヨーロッパはいわゆる国家債務の危機を抱え込んでいるとの主張に基づいている。しかしその主張は、金融危機をもし理由とするものでなかったとするならば、公的債務が今のような速度で増大することなどあり得なかったという事実を無視するものだ。何といってもその金融危機こそが、前例のないほどの銀行救済向け国家資金投入によって食い止められたのだ。しかしその諸対策はひるがえって、税収における損失を伴いつつ国家財政赤字を増大させ、危機に起因する社会的支出を増大させた。第三にそれらの政策は、現在の危機の底に横たわっている要因を否認する。その要因こそが所得と冨の配分における不平等を拡大したのであり、それこそが新自由主義の本質的特徴だ。

左翼内部での
見解は一致


 危機に対決する戦略については、反資本主義勢力内部のいわば見解の一致が、ヨーロッパを通じ四つの柱をめぐって明らかになりつつある。すなわち、
ⅰ)緊縮政策とあらゆる支出削減に対する抵抗
ⅱ)根源的に進歩的/再配分的租税システムと資本統制
ⅲ)銀行に対する国有化/社会化と民主的統制
ⅳ)その後に債務支払い停止が続く民主的統制下の債務監査がそれだ。
 それらの要求は幅広い左翼的反対勢力内部にも、支持率にしたがえば下降線にあるとはいえ、反響を見出している。わたしはそれを、反資本主義左翼内部で何らかの戦術に関する討論を始めるに当たって決定的だと感じている。その手段は、ヨーロッパ規模における共同のキャンペーンを築き上げるための極めて積極的かつ重要な出発点として、これら四本の柱を強調することだ。

核心は通貨では
なく変革の政策


 ヨーロッパの周辺的諸国における論争の的であるユーロ問題は、上述の共有点を背景に置いて関連づけられるべきである。反資本主義左翼内部では今二つの立場がある。一つは、ラパビツァス(二〇一〇年)あるいはデ・サントス(二〇一一年)によって示唆されているユーロゾーンからの離脱を推進する立場であり、他方は、ユソン(二〇一一年)、サマリー(二〇一一年)あるいは私(オナラン、二〇一〇年a、二〇一〇年b)の立場であり、代わりとなる諸政策、つまり通貨を論争の核心と見るのではなく、むしろ反資本主義的移行に向け橋を架けることを可能とすると思われる諸政策を求める連携を、ヨーロッパ規模で建設することを主として目標とする立場だ。この後者の立場の出発点は、代わりとなるヨーロッパとユーロが機能している経済政策枠組み内での変革を要求することだ。コスタス・ラパビツァスは近頃の論文でこの後者の取り組み方を批判し(二〇一一年)、その支持者を「不承不承のヨーロッパ主義者」、つまり、「階級利害」を意識してはいるが「民族主義と孤立主義に恐れを抱いている」人びと、と呼んだ。「(左翼の)集団心情に長い間まとわりついてきた公認イデオロギーであるヨーロッパ主義」というラパビツァスの表現は、先の後者の取り組み方がもつ国際主義的かつ反資本主義的特性を深刻に誤り伝えるものだ。先の取り組み方は、現在の構造と一体となった資本主義のヨーロッパの抽象的な防衛とはほとんど関係がなく、幅広い反対勢力の諸運動の切迫した現在の要求を出発点に、国際主義的、環境社会主義的な民衆のヨーロッパにいたる一つの橋を築くことに関わっている。「大陸の左翼の多くは依然としてヨーロッパ主義に囚われ、社会主義というよりもヨーロッパ的な性格をもった戦略を開発することに関心をもっている」というコスタスの断定は、「熱烈なヨーロッパ主義者」と彼の用語におけるその他の者の間を区別しようという彼の意図にもかかわらず、その強調点のほとんどをヨーロッパ左翼党に置いているように見え、ヨーロッパ反資本主義――ヨーロッパ戦線の妥当性を見逃している。実際この戦線は、ヨーロッパの中でおよそ四〇の組織を結集し、「利潤よりも人びとの必要に優先性を与えること、また市場に民主的統制を課すこと、この両者を基盤に経済を危機から引き上げることのできる」綱領に目標を定め、「反資本主義的回答」を支持する立場を定めている(注一)。
 ユーロ問題に立ち戻るならば、戦術的には、ユーロをめぐる論争よりも債務監査/支払い凍結という課題が、動員のためのはるかに重要な出発点であるべきだと私は見る。ヨーロッパにおいて、また個々の国民国家において、何らかの進歩的な経済政策を始めるに当たって最も重大な今日の障害は、公的債務に対する投機であり、また金融資本を満足させるための政府の関与だ。国家財政は、周辺諸国と中枢諸国の双方において、債務監査の過程に続いて債務支払い停止を経由して拘束を解かれなければならない。

公的債務を監査
することが必要


 債務者が主導する債務支払い停止は、ヨーロッパのエリートによる現在の債権者主導の債務再編計画とは原理的に異なっている。実際後者はさらに厳しい緊縮政策と一体となっている。債務支払い停止は、ギリシャやアイルランドのような支払い能力の問題であるだけではなく、公的債務の原因に関係する問題でもある。こうして問題は、「われわれは払うことが可能なのか」だけではなく、「その負債をわれわれは払うべきなのか」でもあるのだ。イギリスでGDPの三三・四%にも達する危機の故に新たに生み出された債務は、勤労民衆の税金がこの債務支払いのためになぜ使われなければならないのか、という疑問を提出している。成長に対する環境的制約を前提としたとき、支払いを停止する必要に対する認識は重要にもなっている。実際この環境制約は、債務を起点に成長を図るという伝統的なケインズ主義の諸政策に対して、一つの制約を提起しているのだ。ギリシャにおいては、すでに世界中の活動家、学者、議員たちが、公的債務を監査するための呼びかけを支持している。そしてコスタスは、その重要な呼びかけ人の一人となった(注二)。同様のキャンペーンはアイルランドでまさに今動き出そうとしている。そして両者の先行例は、ポルトガルとスペインにとって、また望むらくはイギリスのような中枢諸国にとっても、明らかに重要な意味をもつ。周辺同様中枢においても、危機に対する親労働者的回答は、債務監査を必要とする。そしてヨーロッパレベルでの共同し協調のとれた闘争は、ヨーロッパの諸国にまたがる支配的エリートに対する一つの強力な攻撃を作り出す可能性をもっている。
 攻撃は国際的だ。多国籍の銀行と企業の手先たちは、政府債券買い入れのボイコットを脅しとして使うことによって、EU機関と同様に各国政府の政策を決定しつつある。こうして反対勢力もまた国際的に組織される必要がある。諸運動のヨーロッパネットワーク――反資本主義諸組織だけではなく幅広い戦線も――は、さまざまな国における緊縮政策への民衆的反対勢力を結集する上で、一つのてこへと転じられる可能性も考えられる。国際主義的回答は、国民的オルタナティブと対比可能な、中枢と周辺におけるより強力な戦線を生み出すかもしれない。
 中枢並びに周辺におけるヨーロッパ規模の広がりをもつ動員についての妥当性は、勤労民衆がもつ共通利害から派生する。わたしは、「急進左翼のオルタナティブはユーロゾーン一帯では異なると思われる」とするコスタスには同意しない。EUを貫徹する一連の緊縮政策は、低賃金に基礎を置く慢性的な低内需モデルの中に諸国を押しやりつつある。ドイツでは過去、低い内需は輸出向けの高い需要で埋め合わされた。しかし、周辺の赤字がなければドイツの輸出市場も停滞することとなる以上、賃金抑制と緊縮政策に基づくドイツモデルへと、ユーロゾーン全域を転換させることなど不可能なのだ。

不平等な富の
配分をなくせ


 特にヨーロッパの周辺にとっては、内需の収縮は引き延ばされた景気後退を意味し、それは、公的債務だけでなく私的債務をも含む支払い不能へと、債務問題を変えるかもしれない。同じく今ある賃金抑制政策は全勤労民衆を痛めつけている。ギリシャに関するドイツの民衆的不満は、賃金、社会福祉、また年金の権利でドイツ労働者がこうむった後退が問題の一部を作り出した、という事実を見逃している。危機の主要な原因としての不平等な配分という観点と並んでこの事実を暴露することは、環境社会主義的ヨーロッパのオルタナティブにいたる橋と進歩的な連携を築くことに向けた重要な一歩だ。ドイツ内の力関係の均衡における親労働者的な移行は、周辺内でもまた、戦術対応の余地を生み出す可能性がある――政治的だけではなく経済的にも、周辺での賃金抑制政策への圧力を和らげると共に需要総額を増大させることによって――。同様に債務処理のためのヨーロッパ緊縮政策は、そのほとんどが中枢諸国に基盤を置くヨーロッパの諸銀行のためのものであり、それらを財政援助で救出するために組み上げられた一連なりだ。しかしこれらの諸政策は、景気後退を経由する支払い不能の崖っぷちへと、周辺諸国を連れ出すのだ。こうしてギリシャとアイルランドにおける緊縮政策は、ドイツ、フランス、あるいはイギリスの納税者にとっては、いくつかの結末を含むものとなる。つまりこれらの納税者は、彼らの銀行を財政援助で救出するよう再度圧力をかけられるだろう。

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