「被害者中心主義」を必要としない性平等な世界のために

キム・テヨン(社会変革労働者党代表)

否定と攻撃を受けている
被害者中心主義

 社会変革労働者党が結党してから5年にしかならないが、党内で決して少なくない性的暴力やセクハラ提訴事件などが発生している。最近でも党員がセクハラ2次加害で提訴され、対策委員会が構成された。変革党3号党規に制定された「性差別・性暴力根絶および予防に関する規定」に基づいて提訴事件を解決している。この党規は「被害者中心主義」と「2次加害禁止」の概念を適用している。

党規制定の過程で、この原則がまったく自然に受け入れられたのではなかった。民主主義と人権を守るための原則として認識してきた「無罪推定主義」に反するという問題提起があったし、真実究明のための民主的議論を阻害することができるという疑問が提起された。さらに党規を制定してから5年が経過した、最近の提訴事件でも被提訴人は「無罪推定の原則」を主張した。このように変革党が党規で被害者中心主義を原則として立て、ほとんどの党員が受け入れているが、まだ党内で問題提起が全くないわけではない。

 進歩運動陣営内でも被害者中心主義と2次加害に関する論議が提起されている。最近、「民衆共同行動」代表者会議で、この問題について議論が行われた。その経緯はこうだ。今年4月に民主労総中央執行委員会が性的暴行事件2次加害を理由に7月1日から「労働者連帯」との連帯を全面的に中断すると決定した。これにより、9月1日の民衆共同行動の執行委員会で、民主労総は、労働者連帯との連帯を全面的に中断することを要請した。民主労総のこの提案に変革党をはじめとするいくつかの団体が同意を表明した。すでに2017年に民主労総が女性事業に限定して、労働者連帯との連帯破棄を決定していたこともあり、差別禁止法制定連帯は、組織を再構成する方法で労働者連帯との連帯を破棄した。左派団体の連帯体も労働者連帯との連帯破棄を決定している。

 今回の民衆共同行動で連帯破棄を決定したということは、あれこれのすべての連帯体での連帯破棄を決定することと同じである。以後、民衆共同行動の共同代表団会議で労働者連帯の言い分を聴取した後、10月14日の全体代表者会議で議題として取り扱うことにした。去る9月22日の民衆共同行動代表者会議で、民主労総女性委員会がその趣旨を再度詳細に説明した。すると労働者連帯代表者が反論した。それは被害者中心主義を否定する趣旨の反論だった。

 韓国社会全体でも被害者中心主義に対する攻撃は、激しさを増している。パク・ウォンスン・ソウル市長がセクハラで告訴されて、自ら命を絶った事件が発生すると、被害者中心主義への攻撃が激しくなった。加えて、民主党とソウル市は「被害者」という用語を拒否して「被害訴え人」、「被害訴え職員」と呼ぶことで、被害者中心主義の基本的な趣旨さえ否定してしまった。SNSでは無罪推定主義を主張し、被害者中心主義を攻撃した。被害者中心主義に立脚して弔問を拒否した進歩政党の議員たちに激しい非難が加えられ、さらには数千人が離党する事態につながった。

 被害者中心主義は不可欠 な起点

 9月22日の民衆共同行動代表者会議で、民主労総女性局長は、労働者連帯の性暴力2次加害事件を説明しながら、このような話から始めた。「民主労総は前にもそうであり今でもそうであるように性暴力の被害組織でもあり加害組織でもある。絶えず性暴力の被害者と加害者が発生する。
しかし幸いなことは、被害者中心主義と2次加害禁止が組織全体の原則として定着したという点だ。この原則のおかげで被害者らが言うことができ、Metoo運動に進むことができた。被害者中心主義と2次加害禁止の原則は、性暴力事件に対して無罪判決を乱発する裁判所など既存のシステムを超える、真の進歩運動であった」。

 強盗を受けた被害者に「なぜ財布を持って通っていたのか」、「なぜもっと積極的に避けずにナイフで刺されたのか」というふうに責任を転ずることはない。しかし、ただひとつ性暴力事件については「装いがどうだったのか」「好きなことではないのか」、「なぜ暗い道を行ったのか」、「積極的に抵抗したのか」などとして性暴力の責任を被害者に向けるのがこの社会の現実である。ここで「貞操」観念、権力関係、組織保存論理など、あらゆるものが性暴行被害者を構造的に締め付ける。このような社会システムで性暴力被害者の生存と事件の合理的解決のために不可欠な原則的として提起されているのが被害者中心主義であり、2次加害禁止だ。

 ひとりの個人としてどうすることもできない社会構造的な問題を解決するために、このような類似の原則を適用する例は少なくない。不平等な階級構造で資本主義の「契約自由の原則」は、労働者の切迫した生存の問題を解決することができない。だから勝手に解雇(契約破棄)することができないという労働法の原則が通用されないのか? 被害者中心主義を否定して無罪推定の原則を云々することは解雇禁止について「契約自由の原則」を云々することよりも深刻な水準だと思われる。

 変革党も、進歩運動陣営も、韓国社会も、性暴力のない性平等な社会に進んでいることは明らかである。そして、その流れに逆らうことはできない。しかし、まだ水路を防ぐ障害物は多い。それは性暴力による被害者の苦痛、さらに人類の苦痛がより長くなるということを意味する。私たちは、万人が平等な世界のために闘争する。被害者中心主義のような原則を必要としない、まさに性平等な世界を一日も早く実現するために、今必要なのが、被害者中心主義だ。
(社会変革労働者党「変革と政治」114号より)

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