堕胎罪の完全廃止を要求する
ムン・ジェイン政府の「堕胎罪招喚術」
チ・ス(社会運動委員会女性事業チーム)
10月7日、ムン・ジェイン政府は堕胎罪関連刑法・母子保健法の改正案を立法化することを明らかにした。政府立法案の骨子は、「刑法上堕胎罪を維持するが、許容と罰の基準を細分化する」というものである。これは2019年4月11日、憲法裁判所が「刑法上堕胎罪は女性の自己決定権を深刻に制約している」としていたにもかかわらず、憲法不合致判定を下した精神にも違反し、憲法裁判所の決定後、堕胎罪廃止を期待してきた数多くの女性に失望と裏切りを抱かせるものだ。それだけでなく、今回の立法案は、これまで懸念されていた問題(妊娠週数に応じた差別と理由の制限、相談と熟慮期間の義務付け、医師の診療拒否、未成年者の保護者同意の問題)まですべて網羅しており、問題がさらに深刻だ。以下、政府が立法化を明らかにした刑法・母子保健法改正案の問題点を一つ一つ見てみようと思う。
1.刑法第270条の2項(堕胎の許容要件)新設
:「刑法上堕胎罪」は、最終的に残ることになる
立法化で明らかにされた刑法改正案の核心は、第270条の2項(堕胎の許容要件)を新設し、「既存の母子保健法に規定されていた堕胎許可の要件を拡大して、刑法に規定する」というものである。これは刑法上堕胎罪を維持することにより、「許容範囲」外の妊娠停止の女性に対する処罰を継続していくものであり、また、「許可要件」を通じて、国家が女性の妊娠と出産を管理するという宣言である。
今まで国は、女性が安全に妊娠して出産することができる社会・経済的システムを用意する義務と責任は果たさないまま、逆にすべての責任を女性に転嫁してきた。今回の立法案も刑法上の堕胎処罰条項を維持しながら、「女性自身に妊娠の維持や中断するかどうかを判断することができる主体であることを認めろ」という、女性の要求を拒否した。これは、これまで堕胎罪廃止を念願してきた女性たちの声を完全に無視する処置である。
2.妊娠週数に応じた差別と理由の制限
:女性はなおも「国家の許可と処罰」の構図に動けなくなること
政府の刑法改正案を見ると、前述した「第270条の2項(堕胎の許容要件)」で△妊娠14週以内では「処罰しない」としながらも、△妊娠24週以内では、次の各号のいずれか(強姦などによる妊娠や社会的・経済的事由等)に該当する場合にのみ、処罰しない」と規定し、妊娠週数に応じた異なる許容範囲を明示している。
これは、処罰を前提に「許容週数」と「許容事由」を分けて、24週以降の後期堕胎については理由を問わず、処罰するというものである。しかし、妊娠週数の区分は明確な科学的根拠もないだけでなく、女性が自分の妊娠の事実を認知する時期もそれぞれ異なる。特に後期妊娠停止の場合、夫の暴力や女性と胎児の健康上の問題が原因の多数を占めるなど、妊娠停止を選ぶしかない切迫した状況である時が多く、これは、女性の生活から時期別に多様に現われる。
しかし、国は、このような、女性の多様な条件と生活への理解を拒否するようだ。国は、「安全な妊娠停止のためにどのような時期に、何を保証するのか」ということを中心に考慮するのではなく、「いつから、どのように処罰するのか」ということを中心に思考しており、女性の妊娠と出産をなおも国家統制の下に置きたいのだ。
3.相談と熟慮期間の義務化
:心理的負担を強制して
妊娠停止時点ばかり遅延させること
政府の刑法改正案は、妊娠24週以内の社会的・経済的理由による堕胎の場合、「母子保健法に定められた相談を受けて、その時から24時間が経過しなければならない」と規定して妊娠停止に対する「カウンセリングと熟慮期間」を義務付けている。
しかし、子供を産んで育てることができない個人的な理由を説明し、実証するという行為は、願わない出産を強要して、個人情報の自己決定権を侵害する行為であり、①医療機関を訪問して、妊娠の事実を確認し②相談機関を探して相談の事実まで証明された後、③24時間以上の熟慮期間を経て④再び医療機関を探して妊娠停止施術をしなければならないという一連の過程は、女性の痛みをさらに悪化させる以外にない。
「相談」のプロセスが女性の決定を変えるために全く影響を与えないことがすでに確認されている状況で、単に行政手続を履行するために、女性が耐えなければならない相談と熟慮のプロセスは、心理的な負担と精神的苦痛のみ育てるだけでなく、ややもすると妊娠停止施術の適期を逃し、女性の健康権が脅かされる状況をもたらす。むしろ相談と熟慮期間を廃止していくというのが、世界的なすう勢いであり、国連の女性差別撤廃委員会と自由権委員会、世界産婦人科学会などでも重ねて廃止を勧告している。妊娠停止と関連した相談は、「義務」ではなく、あくまでも「本人の必要」に基づいて選択的に進行しなければならないし、情報を伝達して、医療を受ける権利を確保する目的以上のものであってはならない。
4.医師の診療拒否権の許容
:女性の医療アクセス権を大きく後退させること
刑法だけが問題ではない。今回明らかにされた母子保健法の改正案は、妊娠停止の施術に対する「医師の診療拒否権」を明示しており、さらに一層問題だ。妊娠停止は「医療者の信念と良心」の問題ではなく、妊娠維持や出産と同様に明白な医療行為である。この問題を「医師の信念と良心」というフレームにアクセスすることは、結局妊娠停止を医療行為として認めないということだ。のみならず、妊娠停止施術を「普遍的医療行為」ではなく「拒否可能な非道徳的医療行為」として規定することで、妊娠停止の女性に対する社会的烙印を強めようとするものだ。
また、医師の診療拒否権が認められたら、女性は施術を受けることができる医療機関を探してさまよわなければならない負担を背負うことになるが、これは当然の医療アクセス権を大きく後退させることにしかならない。さらに、医師が診療を拒否した場合、他の医療機関を案内するのではなく、再び相談機関で連携してくれるが、産婦人科の地域別の格差も非常に大きな状態で、女性は相談機関と医療機関を探して転々としなければならず苦しい状況に置かれることになるだろう。妊娠停止の施術が必要な女性の健康権と医療アクセス権を大きく後退させる医師の診療拒否権は決して認めてはならない。
5.未成年者の保護者同意問題
:十分な情報に基づいた
「本人の同意」で進めなければならない
一方、今回の母子保健法の改正案は、16歳以上の未成年者に対して「避けられない場合、妊娠の維持・終結に関する相談事実確認書を提出」するように規定しつつ、16歳未満には「法定代理人の不在または法定代理人による暴行・脅迫などの虐待で法定代理人の同意を得ることができない場合は、これを証明する公的資料と妊娠・出産総合相談機関の妊娠維持・終結に関する相談事実確認書を提出しなければならない」という義務を記した。
しかし、医療行為への同意能力は年齢に応じて制限されるものではなく、「本人の同意」をベースとして進められなければならない。例えば、法定代理人の暴行・脅迫を証明することは、当事者には決して容易なことではない。特に妊娠していることへの認知が遅い場合には、「公的資料と総合相談機関の相談事実確認書」を受ける複雑なプロセスになり妊娠停止の適期を逃すリスクも大きい。この過程で、ややもすると改正案が制限している’24週」を超えることになれば、結局再び処罰の対象とされてしまう。
妊娠停止について未成年者の医療アクセス権と健康権を保障するためには、「第3者の同意の可否」よりも、当事者が理解することができるコミュニケーションの方式を備えた十分な情報を提供することで、当事者の判断を助けることができる「本人の」同意手続きを保障しなければならない。
資本主義国家は
女性の体への統制をやめるつもりはない
これまで資本主義社会では、女性の体に対する統制は、資本主義体制を維持するための強力な手段であった。国家は女性の出産能力を経済政策の付属物として扱ってきた。家族政策と出産政策を通じて生産性のある労働力の需給を維持し、「出産することができる体」という理由で、女性労働の価値を過小評価することで、低賃金構造を維持することができた。国は堕胎罪を通して、資本の利潤論理と結合して、女性の体を手段化して、女性の権利を抑圧してきた。今回の立法案を通してムン・ジェイン政府も女性の体に対する統制方式を止めないことを明らかにした。
政府の立法案を必ず食い止めて
堕胎罪を全面廃止させよう!
女性の体と出産への国家統制に立ち向かう戦いの最前線に堕胎罪廃止闘争がある。堕胎罪の全面廃止闘争は、女性の体に対するすべての差別と暴力をなくす運動と結びついており、平等な女性労働権を実現するための動きとも結びついている。政府の立法案を撤回させて、堕胎罪の規定を刑法から完全に削除することは、女性の再生産権保証のために必要不可欠な前提条件である。
憲法裁判所の憲法不合致決定に基づいて、年末の12月31日で、既存刑法の堕胎罪処罰条項は効力を失うことになる。まさに今が全面的闘争に乗り出さねばならない時だ。刑法上の堕胎罪を全面廃止して、女性の健康権と再生産権を保証する方向で再び立法案が用意されることができるように共に闘かおう。
(社会変革労働者党機関紙116号より)
朝鮮半島通信
▲韓国政府は新型コロナウイルス感染の再拡大を受け、11月24日からソウル首都圏の防疫措置を強化した。午後9時以降の飲食店の営業を制限し、カフェでは店内飲食が終日禁止された。
▲韓国の秋美愛法相は11月24日の記者会見で、複数の不正の疑いで尹錫悦検事総長の職務執行停止を命令したと発表した。
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