終わっていない私たちの闘い
かけはし 第2662号 2021年4月19日
堕胎罪廃止で再生産権争奪まで
ナレ(社会変革労働者党 女性事業チーム)
堕胎罪は廃止されたが
2020年12月31日、一年が暮れ、新しい始まりを迎える日「堕胎罪」は廃止された。1953年刑法制定以来70年ぶりに初めて堕胎が、非犯罪化されたのである。そして3カ月が過ぎた。憲法裁判所の憲法不合致決定に基づいて△刑法第269条第1項「自己堕胎罪」(婦女が薬物その他の方法で堕胎したときは、1年以下の懲役又は200万ウォン以下の罰金」)△第270条第1項「業務上同意堕胎罪」(医師、漢方医、助産師、薬剤商または薬剤師が婦女の嘱託又は承諾を受けて堕胎させたときは、2年以下の懲役」)の中で「医師」に関する部分の効力が喪失された(つまり、医師の堕胎手術を処罰してはならないということだ)。
2012年に憲法裁判所は、「胎児の生命権が母体の選択権よりも重要である」という論理に基づいて堕胎罪が合憲だと宣言したことがある。あたかも生命権と選択権が対立するに値するものとして、あるいは両方のいずれかを選ばなければならない誤った構図を解体するのに長い時間がかかった。その時間と過程に多くの主体の経験と声、闘いがあったので可能だった。その結果として、2019年に至って、憲法裁判所も「堕胎罪憲法不合致」判定を下すことになったのである。
この判決通りならば、本来2020年がすぎ去るまで、女性が安全に、社会経済的なことでも、妊娠中止を選択できるように代案立法案を用意しなければならなかった。しかし、現実にはそのようになっていなかった。むしろムン・ジェイン政府は昨年10月に刑法上の「堕胎の罪」をそのまま維持し第14週・24週という妊娠週数に応じた制限を設定しながら、妊娠中止を部分的に許容するレベルの立法案を提出してもいた。結局、法律的空白状態が発生して、事実上、女性の再生産権が完全に保証されない権利侵害の時間が再び始まった。
堕胎罪廃止、
終わりではなく、出発点
そうであるからこそ堕胎罪廃止は、私たちにとって「終わり」ではない。私たちは、再びスタートラインに立った。堕胎罪は効力を喪失したが、安全な妊娠中止をはじめ、健康権と安心できる生活を送っていくにあたって必要な措置がまだ用意されていないからである。
まず経済的な障壁が大きい。ほとんどの妊娠中止は健康保険が適用されないので、まだ大きな費用負担に耐えなければならない。これは不安定労働層に集約されている女性労働者や青少年、障がい者など、いわゆる社会的弱者の妊娠停止へのアクセスをさらに制限する要因である。すでにオーストラリア、デンマークなど21カ国では、公共医療システムのサポートで妊娠中止が無償で可能である。ベルギーなど13カ国は、健康保険や公共病院で妊娠中止コストの一部をサポートしている。*政府が乗り出してより安全に妊娠中止行為が行われることができるような役割をしているのだ。
ところが、大韓産婦人科医師会は1月、妊娠の中断を健康保険給付の適用対象に含まれている法案に反対するという立場を明らかにした。「美容整形手術も保険給付を適用していない」、「保険給付を適用する場合、妊娠中止の原因提供者である男性に損害賠償を請求することができる」などの理由だ。これは妊娠中止をめぐる問題と、その中で、女性が経験する状況への無理解を表わすもので、健康権と再生産権を全面否定する発言だった。健康保険の狭小な解析、妊娠中止を正当な医療行為として認めないとする態度が明らかになった。女性の健康権を守るために、社会経済的負担を減らさなければならないという事実の重要性はこれまでずっと提起されてきたばかりか、堕胎罪廃止が完全な意味を持つためには、健康保険の適用は必ず備えるべき条件の一つである。
もう一つ必要なことは「流産誘導剤」の導入である。妊娠初期に効果的に妊娠中止が可能なように流産誘導剤を使用すれば、より安全性を高めることができ、手術的な方法で経験する可能性のある問題などをある程度抑えることができる。導入時期も早められるだろうが、同時に流産誘導剤服用前に必要な相談や医療支援ガイドラインも用意されなければならない。そのため、国会、保健福祉部、食薬処と同時に関連政府主務所が積極的に取り組まなければならないが、いまだ動きを見せていない状態だ。
再生産権争奪のためのシーズン2
堕胎罪廃止が終わってはいない。まだ女性労働者の労働権と再生産権を分離させた領域として思考する傾向がある。これまで以上に現場の変化が必要だ。医療現場に限ったものではない。教育現場、労働現場でも妊娠中止が可能とされる状況をどのように実質的に保証するのかなど議論が開始されなければならない。労働時間と休憩時間、労働強度、雇用安定、安全衛生の問題など、さまざまな議題の中で再生産権問題を連結させる試みが重要である。女性労働者の安全な妊娠中止権を実質的に確保するために必ず必要な病気休暇保障はもちろんのこと、妊娠中止当事者への烙印と嫌悪、差別問題も解消されなければならない。法の条項が変わったとしても、現場に変化がすぐに起こるわけではない。その準備をしなくてはならない。それは私たちが堕胎罪廃止をピリオドとして、「開始点」として考えなければならないとする理由だ。
*「2021年には、妊娠中の停止処罰が消えた新しい世界を」、「ハンギョレ」 2020年12月31日記事から。
The KAKEHASHI
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