「公正」という名前の魔女狩り

社会主義が解決に乗り出さなければならない
コ・グンヒョン(ソウル)

誰のどのような「公正」なのか

 4月の補欠選挙で、20・30代の圧倒的多数が民主党を審判しながら「公正性」が、再び話題になった。「青年世代は、プロセスに敏感だ」「不公正をなくさなければならない」という主張があちこちから出てきた。そして、その「不公正」には決まって「非正規職の正規職転換」や「フェミニズム」が指摘された。

 ここでとても気がかりなことは、「なぜことさら今」「公正性」が話題になるのかということである。もう少し具体的に言えば、「公正性」という単語が誰の口からどのような脈絡として使われているのか注意して見てみようということだ。例えば、2016年の国政独占と朴槿恵(パク・クネ)退陣運動が行われた当時、人々が「不公正だ」と怒ったことの一つは、チョン・ユラの不正入学だった。「公正性」という単語は、このように、支配階級の特権を批判する単語としても使うことができる言葉だった。ところが2017年以降、この言葉の矛先は、支配階級にではなく、非正規職、女性、マイノリティに向けられ始めた。

 例えば、2017年には任用告示の準備生たちが期間制教師正規職転換に反対する一方で、少なくない正規職教師らがこの転換に同調した。仁川国際空港公社の正規職労働者たちは、非正規職の正規職転換に抗議した。警察試験の準備生たちは、巡査採用をめぐって、女性と男性志願者の腕立て伏せ評価基準が異なることに反対した。大学では、「地域均衡選抜」や「社会的配慮対象者」選考で入学した学生を「地均虫」、「随時虫」だと蔑視した。医学生たちは、公共医大の設立(ムン・ジェイン政府が発表した対策は、公共医療とは、むしろ反対側にあったが)に反対し、集団行動に出た。すべてが「公正」という名で、非正規職、女性、マイノリティを攻撃した事例だ。はっきりとした一つの例外が執権勢力のあり様を象徴するようなチョ・グク事態なのだが、この問題は、後で言及することとする。

 ここで「公正」の発信主体が誰なのかよく見てみよう。期間制教師問題の場合、教育大・師範大生、公共医大論難では医学生だったし、「地均虫」や「随時虫」のような卑下する表現が出ていたのは、主にソウルにある一流大学だ。そして公共部門の非正規職の正規職化に反対する既存の正規職まで。結局、ソウルの一流大学と医大生・教育大生をはじめ、大学入試と労働市場への参入過程で成功するか、相対的に優位にある者たちの声が大きく広がる。「20代は公正性に敏感だ」と言うが、果たしてこのような主張は、自分の社会・経済的条件のために競争では最初から不利だったり、初めから競争することも困難だった大多数の青年たちの声まで代弁することができるというのか。

 そういうことで、この論文では、まず「公正性」がなぜ競争の勝利者、あるいはその可能性が高い者たちの武器になったのか見てみようと思う。第2に、競争で優位を占める者たち以外の多くの青年の声はなぜ聞こえてこないか注目してみたい。そのためにはこうした人々の物質的土台を調べてみなければならないが、その中でも良質の雇用の減少を主な原因として提起しようと思う。それだけでなく、イデオロギーは階級闘争の反映だということ、良質の雇用が減る過程で、労働運動、特に社会主義政治勢力が誰にどのように代案を提示してきたのか一緒に注意深く見てみる必要がある。

針穴の就職市場、
「お前なんかそもそもおそれ多い」

 全経連(全国経済人連合会)傘下の韓国経済研究院が発表したところによると、今年の大企業の63・6%は、上半期の新規採用計画がないか、まだ決めていない。一流大学を出ても、安定的な雇用を求めるのはますます難しくなっている。コロナ19以前でも、状況は容易ではなかった。政府の教育部は、毎年「高等教育機関卒業者の就職統計」、すなわち年度別の大卒者と就業者の統計を発表する。この資料を見ると、2007年の大卒者56万人のうち、未就業者は13万人だった。ところが、10年後の2017年には未就業者が20万人を突破する。ちなみに2020年にはこの数値が22・7万人に達したが、この数は2008年の経済危機直後(23・7万人)とあまり差がない。大学卒業後、就職までに費やされる時間がより長くなったことを考慮すると、この数年間、青年たちが体感する失業率は、2008年の危機やIMF経済危機の時(1997~98)に匹敵する。

 就職ポータルが毎年下半期に発表する採用動向によると、2018年の大企業、上場企業155社の新規採用規模は4・8万人であった。2019年には4・5万人に減少し、2020年にはなんと30%も減少し3・1万人にまで落ち込んだ。中堅企業はさらに深刻で、2017年5・1万人水準だった採用規模は翌年の2018年には1・8万人に急落した。良質の雇用が減少し続けたために、競争はさらに激しくなるしかない。

 人生観から見ても、これらの世代は幼年期にIMF危機を経験し、青少年期に、2008年の金融危機を目撃しており、労働市場への参入期で、現在の雇用惨事を経験することになった。「良い仕事」を得るために一流大学入試はもちろんのこと、それのために有利な自律型私立高校・特別目的高校の入試を経験して成長した。今の青年が生まれた瞬間から、20年以上の教育を受けてきたのは「努力すれば生き残ることができる」という「至上命題」だった。しかし、当面する現実は「努力しても生き残るのは難しい」ということだ。結局、選択肢は二つだ。猛烈な「努力」をするのか、それとも生き残るための他の方法を探すのか。

 残念ながら「他の方法」は、これまで、これらの人たちの前に示されることはなかった。だから「良い仕事は勝利した者だけに与えられる保障」というのが「生存原則」として根をおろした。もちろん、これへの怒りもある。すべての努力と苦難を経ても、結局勝利するのは少数にすぎないからだ。しかし、資本主義の危機の前で社会主義的な代案が提示されなければ、生存がかかった競争として始まる怒りはしばしばより、劣悪な条件にさらされている人々のところに向けられる。「入社試験も受けていない非正規職が正規職雇用をただ乗りしようとしている」、「男性の就活学生・労働者が逆差別を受けている」、「能力もない地方大学出身者のブラインド採用は逆差別である」、「実力のない学生を一流大学に選抜する地域バランス選考は不公正だ」など。このような脈絡から「公正」という単語が飛び出ている。

 こうした中で執権勢力は「特権のない世界」を約束しながらも、いざ自分らの子供の入試や不動産の問題でそのあり様を露わにした。ただでさえ良質の雇用が減り、住宅価格が上がったりして、政府に対する不信が積もった状態で、チョ・グク元長官が引き金になりLH(不動産不正)事態は決定打になった。

息を殺す
地方・非正規職青年たち


 このように一部の「公正性」の主張がスポットライトを受ける一方で、ソウルの外あるいは大学の外にいる青年たちにはこれといった関心が寄せられなかった。競争で優位を占める人々の声が相対的に注目を受けている間に、多分外にいる青年たちは萎縮してしまったのかもしれない。おおよその月給が300万ウォン以上の安定した雇用はいくらもないが、それさえこれら青年たちの手には届かない。結局、中小企業や非正規職に押しやられる場合が多いが、「良い大学を出ていないのだから、悪い雇用は当然だ」という主張は、これら青年たちをさらに押さえつける。韓国雇用情報院が発表した「大卒者の職業移動経路調査」によると、2017年4年制大卒者(教育大を除く)の最初の給料は213・6万ウォンで、2・3年制大学の卒業生は、194万ウォンで、最初から約20万ウォンの差があった。大企業と中小企業に分けてみると、この差は、はるかに顕著である。大統領執務室にある「雇用状況板」を見ると、大企業の正規職と大企業の非正規職の賃金格差は64・5%であり、中小企業の正規職は大企業正規職の57・0%にとどまっている。中小企業の非正規職の賃金は、大企業正規職の42・7%で、半分にも及ばない。
 このような状況で、不満と怒りが蓄積されてきたが、これまでこれら青年たちを組織して代弁する勢力は現れなかった。その結果、これらの青年たちは、その中の一部が、首都圏の大学に編入を試みたり、不安定労働に耐えている。これは明らかに運動社会の失策である。学生運動が衰退し、労働運動が青年の非正規職労働者の代表組織として位置づけできないまま、これら青年たちの声を代弁し、解決を要求する水路が消えたのである。
 例えば、一流大学出身でも、正規職就業に成功した人たちの中の一部は、「自分がその席に上がるまでの努力がどの位かかった」かなどの叙事を打ち明けて「公正性」談話を正当化する。ところが、非正規職は果たして自分の叙事がないのか。同じ仕事をしても給料は少なく、いつ首を切られるか分からない超過労働と人格冒とくを甘受するのかと、差別は空気のように存在しているなど、説明しても終わりがない。
 以上の内容を整理すると、次のようになる。まず、いわゆるソウル一流大学卒業者たちさえも労働市場での競争が以前よりもはるかに激しくなった。第2に、これらの人たちに特別の選択肢が与えられなくなる中で「猛烈な努力」の言説が強く意識されることで、非正規職とマイノリティーへの攻撃が激しくなった。第3に、競争に押しやられたり、それに飛び込む意欲も出すことが難しかった数多くの青年、端的にソウルの外―中小企業―非正規職(あるいは失業)青年の声を組織し代弁する勢力が不在だった。この3つのことが、私たちに提起する課題は、結局一つだ。社会主義勢力が明確な代案を提示しながら、青年を組織しなければならないということだ。

代案は、社会主義、国家責任雇用・住居を要求しよう

 「公正性」談論の基礎は、前述した物質的な土台のことで、私たちは正にその物質的土台に対する解決策を提示しなければならない。良質の雇用が「終わりのない競争に勝利した少数に与えられる特権」として問題が起こったならば、その代案は、良質の雇用を基本権として誰にでも保障されるというものでなければならない。変革党は正にその脈絡で「国家責任の雇用」を要求として提起している。住居の問題も同様に特権化されているが、私たちは「国家責任の住居」を通してすべてに人間らしい住居を保障するように提起する。
 このような要求を最も必要とする人々と一緒になって実物的運動を作り出すためにも、社会主義勢力が青年と出会い、これらの人たちを組織することが不可欠である。中小規模の事業所あるいは非正規職として働く青年たちの叙事を引き出して、「非正規職撤廃」と「国家が基本権に責任を負う良質の雇用」を主張することができるように組織しなければならない。青年たちと一緒に財閥の天文学的利益を、そしてこの社会が貯め込んでいる巨大な不労所得を返還させることで、すべての青年に良質の雇用と住居を保障することができると主張しなければならない。
 変革党は今年の下半期「国家責任の雇用」を要求する大行進を予定している。ここにより多くの青年就活生と非正規職労働者が共にすれば、私たちは、「こうした青年たちのみの公正」という長く耐え忍ぶ沼地から抜け出すことができるだろう。良質の雇用が特権ではなく、基本権である世界を共に作り出そう。
(社会変革労働者党「変革政治126号」より)

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