家事労働者法の意味と限界
国会は通過したが…
ユン・ジヨン(ソウル)
5月21日、「家事労働者法案」(「家事労働者の雇用改善等に関する法律案」)が国会を通過した。2011年ILO(国際労働機関)で「家事労働者のための良質雇用契約」が
採択されてから、10年目にして立法化したものである。これまで家事労働者法の制定に力を注いだ韓国YWCA、韓国女性労働者会等と連帯組織である韓国労総は歓迎の論評を出した。コメントには、このように書かれている。「私たちは、今日可決された法律が中高齢者の安定雇用だけでなく、非典型労働の保護に大きな役割をするものと確信している」。
明らかに家事労働者法の制定が持つ意味はある。これまで家事労働者は、労働法から排除されてきた。勤労基準法をはじめとする労働法令は「家事私用人」や「世帯内の雇用活動」をはっきりと適用除外してきた。その結果、家事労働者は、労働者として認められず「非公式」の領域に置かれてきた。しかし、家事労働を仕事にする人が増え、家事労働者数は25万人を超え(2017年基準)、市場規模も1兆ウォンに達するとの見通しが出た。このような状況で、労働基準法が制定されてから68年目にして「家事労働者も労働者」であることを確認したのだから、歓迎の論評を出すことを理解できないものではない。それにもかかわらず、今回通過した法案の限界は明らかである。
家事労働者法は「雇用労働部認証を受けた家事サービス提供機関」所属の家事労働者に限って労働法を適用することができるようにした。つまり、全体の家事労働者の中の一部に限定されたものである。家事労働者に対する適用除外規定としての勤労基準法第11条(「この法律は、…家事私用人については、適用されない」)はそのまま残して、特別法でその一部にだけ法を適用するようにしたために起きたことだ。これによって、「家事労働者も労働者」ということは、原則ではなく、例外とされてしまった。迂回的な労働関係法令の適用は、雇用労働部認証提供機関に属していない家事労働者をさらに死角地帯に追い込むだろう。
事実を厳密に考えるならば、しっかりと家事労働者法に基づいていなくても、家事サービス提供機関に雇用された労働者は、労働基準法上の労働者に違わない。職業紹介所を介して各家庭と直接連結された家事労働者は、現行法上、「家事の私用人」に分類されるが、家事サービスの提供を業とする会社に属している各家庭に派遣される家事労働者は、そうではないからである。つまり、これらの人々は現在も「提供機関が雇用した労働者」として労働基準法を全面的に適用しなければならない。ところが、家事労働者法は、すでに労働基準法の適用を受けるに値する家事労働者として、その一部だけを「労働者」として認めたわけだから、その実益は少ししかない。
さらに家事労働者法は、提供機関に雇用された労働者に対しても労働基準法の「特例条項」を付けた。代表的には休憩時間がそうである。年次休暇、有給休暇、労働時間に対しても異なって適用することができるようにした。ただし、「最低労働時間」を定めたのは、肯定的に受けとめられる。サービス対象家庭に入居して仕事をするのではない以上、家事労働者は通常、呼び出し型の時間制労働として働く。利用者が希望する時間に合わせて不規則に労働するものである。この家事労働者法は家事労働者に週15時間以上の労働時間を保障するようにした。週15時間は、社会保険および有給休暇、年次休暇、退職給与を認められるための最低労働時間である。しかし、これと同時に「家事労働者の同意があろうが経営上の理由がある場合」には、例外を認め、最低労働時間の保障がどのくらいの実益があるのかは疑問だ。
何よりも家事労働者法は、職業紹介所やプラットフォームを介して仕事を求める家事労働者に対しては何の規定ももうけなかった。ひたすら「自発的に認定を受けた提供機関」に対してだけ労働関係を認めるということだが、実際にそのように認証を受ける機関がどれほどになるのか疑問だ。結果として、雇用労働部の認証提供機関を通さない家事労働者たちはなお死角地帯に置かれるが、このような労働者が多数を占めることになるだろう。「労働法の適用を受ける少数の家事労働者」と「なお法の外に置かれる家事労働者」として市場の食い物にされるだろう。
それでもなぜ韓国YWCA、韓国女性労働者会、家事労働者協会などは、法制定を推進して歓迎の論評を出したのだろうか。推測するならばその最大の理由は、租税減免と社会保険料支援のためだと思われる。これらの組織は、直接的または間接的に家事労働者を供給する事業を行っている。当初、これらの組織が推進した法案には、「公益的提供機関」に関する別途規定が含まれていたが、法案審査の過程で、この内容は、すべて削られた。ただし家事サービス提供機関と利用者に対する租税減免、家事サービス提供機関と労働者に対する社会保険料の支援はそのまま明示された。
私たちは、これまで強制力のない美辞麗句が、現実には無用の長物であることをあまりにも多く見てきた。例えば、療養サービスを策定するとして老人長期療養保険法が作られてから、療養保護士の労働条件は、むしろ、より劣悪になった。今回の家事労働者法が、その二の舞になるのではないか? 「策定」と「労働権の保障」は意味が違う。策定をしても、労働権の保障が自然についてくるわけではない。これまでの家事労働者の闘争が、今回の立法化につながったのなら、今どのような形で雇用されていていようが関係なく、すべての家事労働者の完全な労働権を勝ち取らなければならない課題が私たちの前にある。(「変革政治」128号より)
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