「正義の転換」への道(9月20日発行)

労働者、救済と保護の対象ではなく転換の主体として

 この記事は、社会変革労働者党の「正義の転換」チームが今回の政治キャンプで発表した内容をまとめたものである。

 話に入る前に質問を一つしてみたい。「気候の危機」という言葉を聞くと何が思い浮かぶか? 溶けていく氷の上に危なっかしく立っているホッキョクグマ? 樹木もない荒廃した大地? 明らかに、このような光景も、気候危機の一場面ではある。
 しかし、これだけでは不十分だ。気象の非常に急な変動で発生する猛暑と極寒は最も脆弱な層の命を真っ先に奪っている。生物多様性が破壊されるのはもちろんのこと、これによって引き起こされる世界的な食糧危機が触発された。韓国でも2008年から2017年までの気象災害による経済的損失が10兆7000億ウォンに達したことが確認されたのに続いて、気候危機は、もはや遠い国のホッキョクグマだけの話ではないことが明らかになった。環境破壊に起因する人獣共通感染症(人と動物が一緒に感染する疾病)の拡散でコロナ19パンデミックが発生したように、気候危機は、私たちが今直面している生命と生活の危機であり、早急に解決しなければならない問題だろう。
 それでは、「環境破壊」だけが問題なのだろうか? そうではない。過去に馬車から自動車に変化してきたほどの質的変化が生まれるには不確実性があるが、とりあえず世間で「第4次産業革命」と呼ばれる自動化システムによる産業再編は、これまでの資本主義産業の特徴であった「煙突産業」から「脱炭素」への変更を要求しながら、大規模な構造調整が予告されている。つまり、それは労働の不安定化と柔軟化の中で、階層化・序列化・分業化が結合されて、労働者の階級的団結を脅かす状況が生じるということである。その情勢は労働者階級の対応が「労働の生態(エコ)的転換」を要求することで乗り出さなければならないことを示唆している。労働者階級が生産の主体であるのと同時に、新たな次の世界を建設する能動的で先導的な主体として位置するために、「正義の転換」を武器としなければならないのである。

「正義の転換」の軌跡


 この当たりで「正義の転換」についてのすじ道を探って見る必要があるのだろう。「正義の転換」が最近になってから急に出てきた要求ではないからである。1970年代に米国の石油・化学・原子力労組(OCAW)のトニー・マーゾッチ(Tony Mazzocchi)が「正義の転換」を提案したのが、この要求の始まりとして知られている。マーゾッチが提案した「正義の転換」の骨子は、持続可能な経済システムの下で石油・化学・原子力の労働者が新しい仕事を持つことができるように保障・教育・再訓練の機会を付与する「労働者のためのスーパーファンド(Superfund for Workers)」であった。
 以降、カナダのエネルギー化学労組(現在は、カナダ通信・エネルギー・製紙労組)が似たような提案を出して、1999年にはカナダの労働組合連盟(CLC)が「正義の転換」政策を要求する流れとして作られた。ここで提起されている「正義の転換」は、公正、再雇用または代替雇用、補償、持続可能な生産、プログラムなど5つの軸で構成されたが、その内容は、それぞれ次のようなものだ。:△既存産業に依存していた労働者とコミュニティを正当(公正)に処遇すること△労働期間を失うことなく、雇用を持続させることができること△雇用継続が不可能な場合、正当な補償を提供すること△転換の重要な要素は、さらに、持続可能な生産とこれを支持するサービス部門での異動ワークについて△環境の変化に対処する適切なプログラムを準備すること。
 要するに「正義の転換」は、持続可能なグリーン経済への転換過程で発生する仕事の減少に対する不安を払拭し、労働者と地域コミュニティーの利益を保障することを目的としている。このような過程を経て、国際労働機関(ILO)と国際労働組合連合(ITUC)も「正義の転換」を労働組合が気候危機に対応する原則として立てて、2000年代以後には、国際機関と政界、気候運動陣営の全体で使用される用語になった。

どんな「転換」?

 先に指摘したように「正義の転換」というスローガンは、あちこちで出されている。現在の21代国会には「正義の転換」として概念が定義される2つの法案(気候危機対応のための脱炭素移行基本法(案)、気候危機対応基本法(案))が提出されている。この2つの法案は「正義の転換」を△脱炭素社会に移行する過程で、直接または間接的な被害を被ることのある地域や産業の労働者を保護し、脆弱階層の被害を最小化する政策(気候危機対応のための脱炭素移行基本法)、あるいは△化石燃料に基づく雇用消滅による労働者と脆弱階層を最小化し、権益を保護する政策(気候危機対応基本法)として定義されている。ここでの「正義の転換」は、労働者をはじめとする「脆弱階層」の被害を「保護し、支援する」対策に過ぎないわけだ。
 「正義の転換」へのアクセスが理念的基盤と政策の内容、追求する方向と方法によって異なるということを思い出してみよう。今日、気候危機を取り上げていない勢力はない。「国民の力」の代表イ・ジュンソクは公用車として電気自動車を注文し、民主党代表のソン・ヨンギルは、6月16日の、国会交渉団体の演説で、2030年までの温室効果ガス削減目標を40%に高めると発表した。資本家たちも、気候危機を口にすることは同じだ。現代自動車副社長とポスコ会長、SKの発展代表理事が、政府の「カーボンニュートラル委員会」に名前をつらねた。
 しかし、ここには大きな落とし穴がある。これらの者たちが言う「緑」は、私たちが考えている「緑」と異なるという点である。「緑が同色」ではない時代が到来したわけだ。「正義の転換」において、特に重要なエネルギー部門においてはなおさらである。ムン・ジェイン政府の「カーボンニュートラル委員会」は、「2050カーボンニュートラルのシナリオ」を発表したが、実際に脱炭素や「正義の転換」の意志があるのか疑問視するしかない。ムン・ジェイン政府は老朽発電所10基を閉鎖しながらも、それと同時に7基の新規火力発電所の建設を決定したが、このうち6基がSK・サムスン・ポスコ・トゥサンなど財閥大企業の所有だった。これらの「転換」は、市場主義的なエネルギー変換である。
 このような状況は、運動の理念と政策、主体、経路と方法の違いを反映しているのと同時に、まさに今、「脱炭素」をめぐる階級闘争の具体的な内容を表現することができる時であることを示している。これと共に重要なことは、これらの目的を達成するためには、資本主義的生産体制から自由にならなければならないという点だ。利潤追求を目的とする資本主義体制は、それ自体で過剰生産を内在化するメカニズムだからである。生産と消費であり余る物品だけでなく、エネルギーもこれに含まれるしかない。資本主義体制は、自然と人間を収奪し、過剰生産・過剰消費を作り出し、過剰蓄積を不可避とするシステムであり、生産・流通・消費などすべての領域と部門で「過剰」というゴミを積み上げて、気候危機という結果をもたらした。これこそが今日すでに限界に行きついた資本主義体制に変わる社会生態(エコ)的変革が必要な理由だ。

正義の転換の政治を作るために

 「正義の転換」は、必然的に、気候危機をもたらした資本主義体制に対して変革を要求するしかないという点で、現体制の主要な矛盾である労働問題と労働―資本関係の問題に対する非妥協的なアプローチが必要である。このアプローチは、4つのカテゴリーから成り立っている。
 まずは、労働時間の問題だ。労働時間の短縮は、生産と消費の両側面から炭素排出にかかわる重要な要素を統制することができるメカニズムとして提示されている。これは、気候の危機だけでなく、いわゆる「第4次産業革命」と人口減少にもつながる。ここで要求される労働時間の短縮は、失業の減少と雇用創出はもちろんのこと、労働者階級の攻勢的な気候危機解決の代案として位置している。
 2つ目は、雇用と職場の問題だ。産業全般が再構成され、構造調整が行われる過程で、労働者の抵抗はより考えられたものになる。ここで、雇用は職場の絶対量はもちろんのこと、消える職場と新たに生まれる職場をめぐる配分の問題だ。「正義の転換」にふさわしく、低賃金・不安定労働ではない、良質の職場を労働者の抵抗を土台として作り出さなければならない。
 これと連動される3番目のアプローチは、「国家責任による雇用」を作らせなければならないということだ。「正義の転換」が低賃金・不安定労働体制を前提にしたまま支払い能力がある一部の大企業や公共部門の労働者にだけ適用させるわけにはいかない。このようになれば、結局新しい形の資本の集中が現れることになるのだが、これは逆に考えてみれば、国家が責任を持って、雇用・職場・所得を適切に保障しなければならないことを意味する。
 最後は、企業と資本への対抗主体である労働がどのように権利を拡張していくのかの問題だ。先に取り上げたすべての問題は、「妥協」や「善意」のような言葉で解決することができないからである。気候危機と低賃金・不安定労働体制を作り上げてきた企業と資本の責任を問う闘いがあってはじめて解決できる問題だ。

気候正義同盟、
気候正義のための
社会ゼネストを提案する


 今日の韓国でも環境・気候問題が深刻化しているので大衆的な共感が大きくなっているし、自らを変化の主体として、ここフォーラムでも広がっている。私たちが望む未来が社会的利益のために技術的進歩を活用しながら、平等に共存するのであれば、危機をもたらした資本中心の技術進歩は、避けなければならない。気候危機の解決は、資本主義的アプローチでは、実現することができないし、共同体自らが自身の運命を決定するというものでなければならない。
 そのためには、より急進的で強力な「気候正義の同盟」を形成することで、資本主義を超えた「正義の転換」を作り出す主体を集めることが不可欠である。労働組合と社会運動、環境運動、青少年、学生、女性など広範な社会的同盟を作り出さなければならない。それを媒介する核心が労働者階級である。
 このような認識は、ますます世界的に広がっている。地球と労働者の生存のための闘争、大衆的な意志と要求を表す「行動」が必要であり、可能な時だ。韓国でもいくらでもさらに急進的な運動を展開することができる。2022年の大統領選挙を控えた今、気候危機の対応になまぬるい政治権力に対抗し、気候ゼネストを全社会的に準備していくことで、気候正義の運動の足がかりを作っていかなければならない。

朝鮮半島通信

▲韓国の聯合ニュースは9月7日、韓国軍が潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験に成功したと報道した。
▲元徴用工の遺族4人が日本製鉄に損害賠償を求めた訴訟でソウル中央地裁は9月8日、原告の訴えを棄却した。
▲朝鮮民主主義人民共和国創建73周年に際して9月9日0時、民間および安全武力閲兵式が金日成広場で行われた。閲兵式には金正恩総書記が参加した。

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