拡大される週4日制は何を語っているのか(10月11日発行)

ペク・ジョンソン(政策委員長)

 英国の哲学者バートランド・ラッセル(1872~1970年)は、1935年、「怠惰への讃歌」で「1日4時間働くのが最も適している」と書いた。哲学者の一辺の主張にすぎないと感じるのであれば、経済学者の主張もある。ジョン・メイナード・ケインズ(1883~1946 )は、1930年に書いた「孫たちの経済的可能性」という文で「100年後には生活の質が4~8倍高くなり、労働時間は週15時間で十分だろう」とした(ここで「4~8倍」という予測は、1930年以来、100年間の年平均2%前後の経済成長という仮定に基づいている)。
 もちろん、それから、90年が過ぎた今日でも、私たちは、生存のためにラッセルとケインズが主張して予測していたよりもはるかに多くの時間を働いている。生産力の発展の成果が「より人間的な労働」にではなく「より多くの資本の利潤」のために使われているからだ。
 大衆が生存の危機に遭遇した状況では労働時間を減らせという要求はより強くなる。それが仕事を分け合って失業を減らす最も効果的な方法だからだ。歴史上最も急速に標準労働時間が減った時期も第1次世界大戦(1914~18 )と1930年代の大恐慌前後の危機状況で、この時、ヨーロッパや米国で週40時間―週5日労働制が実施された。このように先進資本主義国を中心に見ると、週40時間労働制は、この100年間施行されてきたわけだ。
 コロナ19が触発した危機を背景に、世界のあちこちで労働時間を減らせという要求が再び高まっている。特に、最近の労働時間短縮の要求は、より良い生活と総雇用の保障だけでなく、気候危機への対応、またケアの拡大と家事労働の社会化の面でも提示されている。

国境と産業を超え拡大する週4日労働制の要求


 コロナ19の流行以後、雇用保障のための労働時間の短縮要求は、国境を超えて高まっている。2020年11月、ドイツの左翼党、スペインのマスパイス党、イギリスの緑の党そして、英国最大の労組連合の指導者たちは、英国・ドイツ・スペインの首相に週4日労働制の施行を要求して、次のような書状を送った。「歴史的に労働時間の短縮は、危機と経済沈滞期に失業者と過労労働者の間で仕事をより公平に分かち合う方法でした。…文明の発展とより良い社会のために、ためらうことなく今こそ賃金削減のない労働時間の短縮に進む時です」。
 やがて2020年12月に、スコットランド執権の国民党は、年例会議でスコットランド自治政府に週4日労働制施行の可能性を含めた労働実態の見直しを要求する決議案を1136対70という圧倒的多数の合意として議決し、2021年4月ニコラ・スタージョン自治政府首班は週4日労働制の試験運用のための財政投入を約束した。2020年5月にはニュージーランドの執権労働党所属のジョシンダ・アーダン首相が「仕事と生活の均衡」と「観光産業の復興」のために週4日制が必要だと発言した。非公式の場での発言だったが、反響は大きかった。このような流れは、コロナ19流行前にも存在していた。例えば2019年9月、英国の労働党は「10年以内に賃金カットのない週32時間労働制施行」の公約を発表していた。これはその年の12月の総選挙で「基幹産業の国有化」と共に労働党の主要公約になった。
 このように、世界的に拡散する要求は、実際の労働時間短縮につながっている。スペインは2021年に週4日制の試験事業に着手し、それに応じて労働時間を週32時間に減らした企業に対して、政府が予算的に補助する予定である。
 「カローシ」、つまり「過労死」という言葉を最初に作り出した過労国家日本でも週4日労働制が推進されている。2021年4月、日本の自民党は週4日労働制の推進を明らかにし、経団連(日本経済団体連合会)は、コロナ拡散防止などを理由に希望者に在宅勤務と週4日制を推奨するガイドラインを発表した。今年6月に日本政府が発表した年次経済政策指針には週4日労働制施行勧告が盛り込まれた。
 産業と個別企業レベルでも週4日制の試験的な実施などが拡大している。2020年8月、ドイツ金属労組は、産業の転換に対応するために、週4日制を要求し、2021年に締結した団体協約では、雇用主と地域作業場評議会の交渉に従って賃金の引き上げと週4日勤務を選択することができるようにした。
 2018年ニュージーランドの投資信託会社パーペチュアルガーディアン、2019年マイクロソフト日本支社、2020年消費財の巨大企業ユニリーバのニュージーランド支社などがすでに週4日制の試験実施に乗り出し、米国クラウドファンディング会社「キックスターター」は、2023年から週4日制を導入することにした。このような事例で明らかになったように週4日労働制は、様々な業種で増えている。2020年6月の米国人事管理協会の発表によると、2019年基準で米国企業の23%が完全な週4日制を実施している。今年2月の米国求職サイト「ジープリクルーター」によると、週4日勤務を掲げる採用記事数の比率は、過去3年間で3倍に増えた。

労働時間の短縮、気候危機対応のために


 2021年5月、英国の環境団体「プラットフォームロンドン」と週4日制の労働時間短縮を要求するキャンペーン集団「週4日運動」が発表した報告書「時計を止めろ」によると、英国が2025年までに週4日労働制に転換した場合、炭素排出量が127万トン減少し、全体の20%以上が減少すると予想され、これは乗用車全体の排出量に匹敵するという。
 つまり、労働時間が減ると職場でのエネルギー使用量が減り、家と職場を移動する過程で排出される炭素が減り、休息・運動・地域社会活動・家族との時間など「低炭素活動」が増え、全般的に炭素排出を減らすのに役立つというのだ。
 ソウルの平日の通勤時間が平均1時間31分であることを考えれば、、週4日制が炭素排出を減らすという点は非常に身近でありわかりやすい。また、休息が「より多くの消費」ではなく「低炭素活動」を増やすということは、単に希望的な推定ではなく、経験的な証拠に基づいている。2000年以降、週35時間労働制を実施した、フランスの場合は、より多くの余暇を得た人々は、消費活動よりも家族・知人との時間により多くの価値を見い出している。
 すでに週4日制を試してきた個別企業の事例でも、気候危機に対応するために労働時間の短縮が必要だということを明らかにしている。マイクロソフトは、週4日制の試験実施期間中に、日本支社の電気料金が23%減り、印刷量は60%減少したと発表した。

労働の階層化と性別分業システムを変える過程

 英国のシンクタンク「新経済財団」は、2010年から週労働時間を21時間に減らさなければならないと主張してきた。よりによってなぜ21時間なのだろうか? 週21時間は、英国の総有給労働時間を労働可能人口で割った数字だ。ここで興味深いのは、総有給労働を経済活動人口(就業者+失業者)ではなく、全体の労働可能人口(経済活動人口+非経済活動人口)で割った点である。
 つまり、雇用された労働者と職場が必要な失業者だけでなく、ケア・育児・家事などすべての無給労働人口も包めて、労働時間短縮の目標を設定し、それで出てきた結果が週21時間労働制ということだ。労働時間を減らして有給労働者の無給労働への参加を増やし、また一方では、無給労働者の有給労働への参加を増やすことで、有給―無給労働の公平な分担を促進しようというのである。これは労働時間短縮の闘争が賃金労働―非賃金労働としてある位階的評価と性別分業システムを崩していく一過程であることを示唆している。

生活のために利益を減らそう

 韓国では2004年に段階的な週5日制を導入してから17年になるが、いまだ週40時間労働どころか52時間制すら定着していない。ムン・ジェイン政府の下で「労働時間特例業種」(週52時間を超える労働を法的に認可された業種)が26種から5種に減っただけで、政府与党は資本家の要求を受け入れて弾力勤労制単位期間を6カ月まで拡大する一方で「特別延長勤労」の許可事由を増やし、労働時間の短縮を無力化した。2017年5件に過ぎなかった特別延長勤労認可の数は2018年に204件、2019年に908件、2020年にはなんと4156件に急増した。
 状況がこうであるにもかかわらず、政府が6月28日に発表した「下半期経済政策の方向」は「週52時間制の現場定着」案として「改編された弾力勤労働制単位期間の拡大(3→6カ月)、研究開発の選択勤労制決済期間の拡大(1→3カ月)など補完制度の拡散」を提出している。3回にわたる段階的導入(週52時間制)でも足りず、労働時間の柔軟化を通じた実労働時間の拡大を政府がけしかけている。
 韓国の労働者民衆運動は、労働時間の短縮の世界的な流れに完全に逆行する政府と資本に立ち向かって闘わなければならない。ここで明らかにしてきたように週4日制拡大の流れは職の分かち合い、より良い生活の質、気候危機への対応、社会的ケアの拡大と家事労働の社会化などの要求と結びついている。今こそ、利益のための経済を大衆の必要を満たすための経済に転換するための労働運動―気候運動―女性運動の連帯が求められている。(社会変革労働者党「変革と政治」第129号)

朝鮮半島通信

▲三菱重工業に対して元女子勤労挺身隊員らへの賠償を命じた韓国大法院の判決をめぐって大田地裁は9月27日、差し押さえられていた同社の商標権と特許権の売却命令を出した。
▲最高人民会議第14期第5回会議が9月28、29日の両日、平壌で開かれた。2日目の29日、金正恩総書記が施政演説を行った。

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