雇用のない国で暮らしています
社会的に必要な雇用を国家が責任を持て
コ・グニョン(ソウル)
職場が消えて、私の人生も消えた
まさに「就職の季節」9月。ところが就職どころか「雇用」自体が消えた。国内財閥で構成された代表的資本家団体の全国経済人連合会(全経連)傘下の「韓国経済研究院」が9月6日に発表した調査結果によると、今年下半期に上位500社の大企業でその7割は新規採用計画がないか決めていない状態だ。それから1週間後の9月13日、韓経研はまた別のアンケート調査報道資料を出したが、ここでは青年の7割が「望む職場に就職するのは難しい」と答えた。この調査に参加した青年たちが考える「良い職場」とは、「年俸3~4千万ウォン程度の職場」という。もちろん、前述したように、韓経研が資本家団体の全経連傘下研究所であることを勘案しなければならないが、全経連所属企業でさえ、安定した雇用を生み出す能力がないことを告白していることは明らかだ。
企業家らは「コロナ19の長期化と第4波の大流行」を雇用縮小の「理由」に挙げている。もちろんコロナ19の悪影響が大きいのは事実だが、それ以前から就職難はすでに慢性的であった。生産額10億ウォン当たりで創出される就業者数を示した就業誘発係数は、2000年の25・7人から2019年には10・1人で半分以上減少した。つまり、コロナ19パンデミック以前から民間資本は(「雇用は民間で創出する」というイデオローグたちの主張とは違って)、雇用拡大の能力を示せてこなかった。失業者と求職断念者などを合わせた実質失業者は着実に増加した。2010年に293万人だった実質失業者は、2019年には409万人で100万人以上増加した。さらに2020年には492万人に増え、前年比で80万人(10年前と比べて200万人)も急増した。
このような指標は、新規採用どころか既存の雇用さえ消えたことを意味している。ところが危機は誰にも平等に降りかかりはしなかった。危機を特に真正面から受けたのは青年や女性、非正規職労働者だ。たちどころに女性労働者が多いケア・家事・食品・小売業など対面サービス業が崩れた。韓国女性政策研究所によると、ケア・家事労働者や塾教師などの雇用はコロナ流行の半年だけで5万9千件減少し、賃金は10・4%下落した。しかも「女性であるために」首になることもあった。コロナ19以降、職場を失った女性労働者の35~47%が、職場の「雇用調整」は「女性・妊婦と育児休職者が優先対象に施行された」と答えた(韓国女性政策研究院、「コロナ19の 1年間に20代女性の4人に1人が退職経験」、2021年3月8日)。
雇用を失うことは生計手段の喪失であると同時に社会との断絶でもある。雇用の急減は生活の破壊を意味している。このような悲劇は今日どこにでも起こっている。最近ではそれに加えて深刻なうつ病や不安、自殺など精神的健康リスクが急増している。国民精神健康調査によると、うつ病から自殺を考えたことがある割合が2018年とくらべて2020年には3倍近くにまで増加した。主な原因として指摘されているのは「コロナ19による雇用急減と関係の断絶」だ。つまり、良質な雇用とは「生計」という次元を超えて人間らしい生活それ自体を保障するためのものだ。今韓国ではまさにその人間らしい生活が破壊されている。
「悪い雇用」を量産する政府
今はすっかり忘れ去られているが、発足初期のムン・ジェイン政府は「雇用政府」を自任していた。「公共部門の雇用80万件創出」と「非正規職ゼロ」が骨子だった。ろうそく抗争で表出した大衆的要求を無視できなかったからだ。しかし、しばらくして「雇用政府」の実体が明らかになった。ムン・ジェイン政府が作る雇用の大部分は低賃金・短期職、つまり「悪い雇用」であり、労働基本権の剥奪を強要しただけでなく、雇用政策ではないことを「雇用政策」に化けさせた。
まず、公共部門の悪い職場の量産から見てみよう。ムン・ジェイン政府は発足初期「公共部門の雇用81万件創出」、コロナ19以降「雇用154・3万個創出」、「90万雇用の創出」など雇用の急減が確認されるたびに「公共雇用」の供給を対策として提示した。 問題は政府が差し出した「公共職場」のほとんどが低賃金・短期雇用だという点だ。
例えば、昨年5月に発表した「公共雇用154・3万件」は、すでに供給が予定されている雇用94・5万件と新規供給雇用55万件に分けることができる。すでに予定されていた直接供給雇用の94・5万件は3~10カ月の契約職であり、最低賃金で週15~40時間働く。新規供給雇用55万件はさらに深刻で、勤務期間は6カ月ほどに限定される。このうち「脆弱階層公共雇用」30万件は週15~30時間労働で勤務期間が5カ月以内だ。「非対面・デジタル雇用」(10万件)も週15~40時間労働で最大5カ月の短期職だ。つまり、月30~180万ウォンで3~10カ月働いて終わるという低賃金・非正規職雇用を「創出」したわけだ。1月の就業者数がなんと100万人も減少した事実が明らかになると、政府は翌月にとりあえず「90万の直接雇用創出」を提示したが、政府自らも低賃金・短期雇用であることを認める他なかった。
一方、ムン・ジェイン政府は第4次産業革命と気候危機、雇用減少の「代案」として「韓国版ニューディール」を提示した。しかし、これはデータ・エネルギー資本をはじめとする新産業育成策にすぎない。つまり、資本のための産業政策に「雇用政策」という装いをほどこしたものに過ぎない。「韓国版ニューディール」の一軸を担当する、いわゆる「データニューディール」の骨子は、D・N・A(データ・ネットワーク・人工知能)資本を育成するために各種規制を緩和して、国費32兆ウォンを投入して「データダム」などを構築するというものだ。この過程で作られる雇用の大半はデータ入力など低賃金・短期雇用だ。もちろん、情報・通信・エネルギー領域でいくらでも公共の責任で良質の雇用を創出できるし、創出しなければならない。そのために、私たちは労働時間の短縮と生活賃金の保障、労働権の拡大などの条件のもとで良質の公共雇用を要求する。しかし、ムン・ジェイン政府の「韓国版ニューディール」は、低賃金・長時間・不安定労働体制の延長にすぎない。その上、莫大な公的資金をただただ資本の利益創出のために流し込む。
ムン・ジェイン政府が「共生型雇用」と称賛したことの中身もさして変わらない。その代表事例が「キャスパー」を発売した現代自動車光州型雇用工場、すなわち「光州グローバルモーターズ」だ。「共生型雇用条約」を見れば、資本の投資を見返りに地方政府は税の恩恵と土地などを提供する一方、交通・住宅・保育などインフラを支援する。ところが、ここで労働者はいわゆる「適正勤労条件」の下で同種業界比の半額賃金で超搾取されなければならず、「自由な転換配置」など生産性・労働柔軟化・労働強度上昇に従属させられるのはもちろんのこと、「ストライキ自制」や「特定時点まで賃金・団体交渉留保」など労働権自体の剥奪まで強要される。1月、産業銀行が危機に瀕した双龍車に対し、資本家と経営陣の経営失敗責任には、責任を持たずに政策金融支援条件として「無争議と団体協約期間の拡大」などを要求したことも「雇用」を労働権剥奪の武器とする政府と資本の意図を明らかにしている。
仕事のない「公正」、「今からいっしょに死ね」
低賃金・不安定雇用が拡散した結果、良質の雇用は「公正な試験」を経なければ得られない特権と認識されている。ムン・ジェイン政府発足以後、期間制教師正規職化反対を皮切りに仁川国際空港公社に続き、健康保険公団の顧客センター労働者正規職転換をめぐる葛藤で明らかになったように、いわゆる「公正性」論議の最大の柱は非正規職の正規職化問題だ。良質の雇用が全般的に減少する中で誰かの正規職への転換は「私が良い雇用を得る機会を奪う行為」になったわけだ。非正規職労働者の闘争に対する敵対の物質的土台はまさに雇用急減なのだ。
単に非正規職だけではない。女性や移住労働者をはじめとする少数者嫌悪にも雇用問題が関与している。例えば、4月の再補選以後、台頭した女性徴兵制の主張や軍加算点の要求の根底には、「女性が労働市場に参入するために努力している間、男性は軍服務で時間を浪費した」というものがある。しばらく前には、女性の巡査が勤務時間中に駐車練習を受けたという理由で再び「女巡査廃止論」がまな板の上に上がった。結局は、性別とは無関係に、信任の巡査全員が受ける一般的な訓練だということが明らかになったが、女巡査廃止論や女性の巡査選抜での「逆差別論議」も根が深い。「腕立て伏せ評価基準で女性と男性の間に差が激しすぎる」ということなどだ。もちろん、雇用問題が女性嫌悪の全部ではないが、主要な土台であることは明らかだ。
問題は大衆の前に別の代替案が提出されていないということだ。「良質の雇用は公正な試験を通じて選抜されなければならない」という主張はある程度現実を反映している。それも雇用の安定が保障されるのが公共部門の雇用で、その選抜基準は主に試験の点数だ。公共部門の採用受験者がひどく追い込まれ、筆記試験の難度があまりにも高すぎたり職務関連性から離れるという指摘も出ているが、これを大きく問題にすることは多くない。「国家が提供できる良質の雇用は非常に制限されている」という前提の下では、「公正な試験を通過した者にのみ雇用を提供しなければならない」ということ以外の主張が出てくることは困難だ。
整理するとこういうことだ。良質の雇用はますます減少していて、良質の雇用を分配する唯一の基準が「公正な試験」だと認識されている。したがって、良い雇用を得る方法と基準を超えて、公共の次元で良質の職場自体を画期的に増やす代案を提出しなければならない。誰もが良質の雇用を得られることを保証しなければならないという要求とともに、これを現実化する闘争と実践が続かなければならない。それは「社会的に必要な雇用を国家が責任をもって提供しろ」という闘争を意味する。このような良質の雇用を国家に責任を負わせるためには、民間部門が浸食したケア・家事など不可欠な労働を公共部門に転換することが必要であり、労働条件の後退のない労働時間の短縮を通じた雇用の分け合いも必要である。エネルギーをはじめとする産業転換過程で発生する可能性のある雇用不安についても、国有・公営化を通じて雇用を保障・拡大しなければならない。
必要であり可能な「国家責任の雇用」
大統領府に掛けられているという「雇用状況版」をのぞいて見ると、2021年の第2四半期からは雇用状況が改善されたように見える。しかしこれは先に述べた低賃金・短期雇用を量産した効果であり、実際の体感雇用はまったく良くならなかった。7月に31歳の青年がワンルームで履歴書150枚を残して世を去った。自由主義者たちは失業の責任を個人に負わせるが、言い換えれば「この時局」に雇用の劣化を知って救わないのは死を傍観するという意味だ。このような点で国家責任の雇用運動を繰り広げる条件はすでに成熟している。安定した雇用を要求する主体の声を集め、これをまさに「完全雇用」の実現に導く政治運動が必要な時だ。
(社会変革労働者党「変革と政治」第131号)
朝鮮半島通信
▲ソウル拘置所に収監中の朴槿恵・前大統領は11月22日、サムスンソウル病院に入院した。
▲全斗煥元大統領が11月23日、ソウル市の自宅で死去した。90歳だった。
▲韓国政府は11月24日、新型コロナウイルスの前日23日の感染者が過去最高の4116人であったと発表した。
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