「候補単一化」破たんした進歩政党、路線によってそれぞれで選挙戦

「福祉国家」から「社会主義」まで

 シム・サンジョン正義党大統領選候補が去る1月17日、5日ぶりに公の場に姿を表わした。彼女が突然日程を全面的にキャンセルしていた理由は「選挙状況の深刻性」のためだった。立候補を表明した与野2大政党体制とアン・チョルスの躍進の中で、シム・サンジョンはホ・ギョンヨンより低い支持率でこれまでになく存在感のない大統領選挙を行っているからだ。
 シム・サンジョン候補の日程キャンセル宣言後、正義党選挙対策委員会の主要スタッフは総辞退を決議した。その後、公の場でシム・サンジョン候補は「私の職責を最後まで果たす」とし「今回の大統領選挙で、私と正義党は国民の再信任を求める」と明らかにした。
 シム・サンジョン正義党候補は2017年の19代大統領選挙に出馬して6・17%(201万7458票)を得票した。これは進歩政党として歴史上最も高い得票率だった。しかし、その後、民主党と連携する歩みを続け、既得権保守与党である民主党との差別性を明らかにできなかったという指摘を受けた。最近の世論調査によると、シム候補の支持率は2%台にまで急落した。それでも正義党は進歩政党の中で大衆的な認知度が最も高い政党だ。
 その他の進歩政党は大衆媒体を通じても支持率さえ確認することができない。連日メディアに垂れ流される2大政党候補のネガティブ攻防の中で、進歩政党は自身の政策を知らせる機会すら得られない。民主労総と進歩政党が集まっての候補単一化議論も続いたが、違いの差を縮めることができず最終的に決裂した。ここまでの進歩政党大統領選挙議論と政策を検証してみた。

立候補表明した2大政党体制と進歩政党の存在感

 20代大統領選挙への出馬を宣言した進歩政党は、全部で三つだ。正義党からシム・サンジョン候補が、進歩党からキム・ジェヨン候補が、労働党と社会変革労働者党(変革党)からイ・ベギュン候補がそれぞれ出馬した。労働党と変革党は1月15日~16日に、各党の臨時党大会、臨時党員総会を通じて単一の社会主義大衆政党建設を決定した。進歩陣営で3人の候補が大統領選挙に立ったが、メディア露出の頻度は非常に低い。ほとんどのメディア報道が巨大2党候補に集まっているので、大衆に自身の存在と政策を知らせる機会さえ与えられない。有権者の知る権利も制限されている。
 韓国言論振興財団ニュースビッグデータの分析システム「ビッグカインズ」を見ると、大統領選挙報道の「偏り現象」は克明である。昨年の10月11日から今年の1月10日まで、3カ月間のビッグカインズがデータ化した総合日刊紙、経済誌、地域日刊紙、放送会社など54媒体の報道のうち、政治・社会分野で特定の大統領選候補が言及された記事を検索し、見た。
 その結果、イ・ジェミョン共に民主党候補は4万8626件、ユン・ソクヨル国民の力候補は4万6694件の記事が検索された。アン・チョルス国民の党候補は8530件であり、シム・サンジョン正義党候補は5986件だった。キム・ジェヨン進歩党候補は216件、イ・ベギュン社会主義候補は3件にとどまった。
 大統領選挙の局面で進歩政党の取るに足らない存在感を克服しようとする試みもあった。昨年9月、ハン・サンギュン前民主労総委員長は労働者・民衆選出を通じた進歩政党候補単一化を提案した。彼は「諸進歩政党の個別的な躍進の試みは労働者民衆にとって力にならないことを前大統領選で確認した」とし「民衆選出を通じた労働者・民衆の単一候補として労働者・民衆の政治勢力化の新たな出発を宣言しなければならない」とその趣旨を明らかにした。
 ハン前委員長をはじめとする民主労総の前・現職幹部など150人が民衆選出提案者として名を連ねた。その後、提案者は民主労総組合員の約10%にあたる10万人を目標に組合員署名運動を始め、6千人余りの署名を組織した。
 民主労総と5つの進歩政党(労働党、緑の党、変革党、正義党、進歩党)も昨年9月、大統領選挙共同対応機構を発足し、低い水準の実践的連帯から高水準の候補単一化までオープンにして、議論することにした。その後、候補単一化議論が本格化したのは12月からだ。12月12日、民主労総と5つの進歩政党、そして候補選出に出馬を宣言したハン・サンギュン前委員長は、この会議で候補単一化議論に乗り出すことになった。これと共に12月末までに単一化方式に合意することで意見を集めた。

単一化が迫られる中で破たん、責任を避けるために「議論非公開」

 民主労総をはじめとする6つの団体が一堂に会したが、序盤から簡単な雰囲気ではなかった。候補単一化議論が本格化される前、キム・ジェヨン候補はマスコミを通じてシム・サンジョン候補に何度も単一化を提案した。キム候補は12月3日のKBSラジオ「チュ・ジンウラジオ」でシム・サンジョン候補に向けて「既得権2党体制を越えるにはまず私と会わなければならない」と話した。
 その4日後にも記者会見を開き、「もう候補単一化を議論しなければならない時点」とし「特にシム・サンジョン候補と早い時期に会うことを希望する」と明らかにした。
 正義党は不快な様子を示した。同日、ヨ・ヨングク正義党代表はSNSで「キム候補がマスコミのインタビューと記者会見を通じて『もう候補単一化を議論しなければならない時点』だとして、正義党に候補単一化を強く迫るような態度を取っている」とし「非常に遺憾」だと表明した。
 これと同時に労働党、変革党など左派政党からは正義党の「第3地帯(極)」の歩みを批判する声が続いた。当時、シム・サンジョン候補は、国民の党アン・チョルス候補、新しい波のキム・ドンヨン候補との合流を推進し、「第3地帯(極)共助」に乗り出した状況だった。労働党、変革党などで構成された「社会主義左派共闘本部」は論評を発表し、「なぜ韓国政治を台無しにした別の保守勢力との連帯で第3地帯(極)を論じるのか」とし「もう本当にうかがうけれども連帯を止めよう」と批判した。選出方式をめぐる違いも相当だった。民主労総組合員などを含む選挙人団構成から世論調査まで各団体の立場が交錯した。
 このような状況で民主労総をはじめとする各産別連盟などは相次いで声明を発表し、単一化の実現に向けて乗り出した。進歩政党などが候補単一化議論に参加することを決めた2日後、ヤン・ギョンス民主労総委員長は記者懇談会を開き、「すべての進歩陣営が団結のために大統領選挙共同機構に快く参加した」とし「単一候補が決定されれば民主労総は当選のため、全組織的力を総動員して全面的な支援をするだろう」と明らかにした。
 同日、公共運輸労組も立場を発表し、「長い間続いてきた進歩政治の分裂を克服して団結を成し遂げることができる『第一歩』を踏んだ決定で大いに歓迎する」と明らかにした。
 4日後には民主労総中央執行委員会が決議文を通じて「労働者民衆の切迫した要求に応える最も強力な答えは進歩陣営の団結と大統領選候補単一化」だと強調した。翌日には全教組中央執行委員会が決議文を発表し、「今は『進歩政治は分裂で滅びる』という俗説を実践で打ち破らなければならない」と明らかにした。1月4日には、金属労組中央執行委員会が進歩陣営大統領選候補単一化を促す声明を発表した。
 しかし、いざ単一化の議論のテーブルでは、選出方式をめぐって、世論調査反映の有無及び比率に関する先鋭な意見が飛び交っていた。17日、開かれた2回目の会議で正義党は100%の世論調査方式を提示した。民主労総組合員総投票が時間的、物理的に難しいのではないかという理由からだ。
 それに対して、民主労総と緑の党、進歩党、ハン・サンギュン選対本部は民主労総組合員投票を前提に世論調査との割合を調整できるという意見を出した。労働党と変革党は世論調査方式自体が「労働者政治勢力化」や「民衆選出」の趣旨に合わないと反論した。結局、単一化議論は当初目標時限である12月を越えて一度破たんすることとなった。
 その後1月6日、ヨ・ヨングク正義党代表が各々の代表団体者会議の招集を提案し、候補単一化の再議論に火をつけた。しかし、その後開かれた二度の会議でも意見を縮めることができず、議論は最終的に決裂した。問題は、単一化が迫られる中で、各団体が交渉決裂の責任を抱えないために、すべての議論内容を非公開に付したという点だ。民主労総は単一化議論の破たんと関連して各団体の立場を解釈して、会議の結果を発表するとしたが、現在まで内容は公開されていない。

大統領選挙出馬宣言した3進歩政党の政策は?

 進歩政党候補単一化議論が盛んだった当時、議論に参加した政党関係者は、単一化議論が困難に直面した理由として「路線の違い」を挙げた。また、他には、過去の統合進歩党選挙不正などの事件で政治勢力間に不信がたまったためだと指摘した。進歩陣営の危機が単に「分裂」のためだというちまたの認識について勝手が悪いとする声もあった。現在進歩政党は路線によって分離・存立しているが、そのことをまるで進歩政治の失敗のように診断するというものだ。
 結果的に候補単一化議論が破たんしたことで、各進歩政党は各自の方式で大統領選挙をやり切ることになった。それでは、現在路線によって分離・存立している各政党の政策公約はどう違うのか。
 まず、各党は非正規職と賃金格差解消、雇用政策など労働公約で大きな違いがはっきりと表れている。正義党の非正規職政策は主に「差別解消」に焦点が当てられている。非正規職に契約終了手当や補償手当を支給し、企業の非正規職使用誘引を下げるというものだ。「最小労働時間保障制」を導入し、16時間以上の労働時間を保障するという計画も明らかにした。
 これと共に「職務級型賃金体系」の導入も掲げた。上方平準化された職務別賃金体系を導入し、同一労働同一賃金を段階的に実現するというものだ。
 事実、職務給制は労働界内部でも異見が先鋭な事案だ。職務によって賃金と昇進体系、雇用構造を別にすることで、ややもすれば差別が固定化される可能性があるからだ。先にムン・ジェイン政府も公共部門の正規職転換過程で職務給制を推進したことがあり、イーマートをはじめとする民間企業でも「正規職転換」を名分に職務給制を導入して議論を起こしたことがある。
 一方、進歩党とイ・ベギュン共闘本部(労働党、変革党)は「派遣法と期間制法廃止」を掲げている。進歩党は非正規職使用事由制限と民間部門まで正規職転換拡大のための「非正規職正規職転換特別法」制定、非正規職使用の大企業に法人税負担強化などの方案を出した。社会主義共闘本部は、非正規職制度をはじめとする一体の多段階下請け制度の撤廃を主張している。
 これと共に直接契約関係以外に実質的な影響力を行使する人々にまで「使用者」の概念を広げなければならないという立場だ。
 最低賃金公約と関連してイ・ベギュン共闘本部は、現在の「最低賃金制度」を「生活賃金制度」に改正するという計画を明らかにした。現行の最低賃金が「最小賃金」に合わせられているだけに、人間らしい生活を保障するためには生活賃金制度に置き換えなければならないということだ。
 一方、正義党は「最低賃金引き上げ」と「最高賃金法制定」を掲げた。最高賃金法は高賃金を受ける民間企業役員に高率の所得税率を適用し、国会議員の賃金は最低賃金の5倍、公共機関の役員は7倍を超えないようにする法である。進歩党の場合、最低賃金(時給)1万5000ウォン、最低月給300万ウォンの公約を提示した。
 雇用公約でも各政党の違いがはっきりと出ている。正義党は、ケア、生態、文化、安全などの分野で社会的価値雇用を創出して「全国民の雇用保障制」を実施すると明らかにした。これは政府が失業者を雇用して社会に復帰させるプログラムで、事実上一時的な雇用に近い。進歩党の場合、110万人のケア労働者を国家が直接雇用する公約を出した。また、国家と自治体が公共社会サービス部門の雇用を創出して提供する「国家雇用保障法」を提示した。イ・ベギュン共闘本部はここから進めて、国家レベルの完全雇用を主張している。家事・ケア社会サービス、医療・気候雇用を公的体系として転換し、基幹産業を国有化して雇用を拡大するなど産業構造自体を変えなければならないというものだ。これを通じて全体雇用の50%となる良質(正規職、中位所得基準)の国家責任雇用1000万件を確保し、賃金不平等を解消し、民間労働市場で供給される雇用を順守させるという計画だ。

「福祉国家」から「社会主義」まで

 各政党の路線の違いは、綱領で明確に現れる。正義党の綱領は「正義による福祉国家」を標榜している。市場経済と私的所有を認め、社会的経済の役割を強調する。進歩党は綱領で「民生中心の自主自立経済体制」を掲げている。「財閥の独占経済解体」に言及しているが、財閥所有の支配構造には触れない。進歩党の前身である統合進歩党は、2012年18代大統領選挙当時、「財閥改革」を通じた株主資本主義の実現を主張していた。一方、単一の社会主義大衆政党の建設を推進している労働党と変革党は、綱領で「社会主義政党」を明示している。これと共に「生産手段の社会化」と労働者・民衆の民主的統制の実現を目標としている。今回の大統領選挙でも「社会主義大統領候補」を前面に掲げた。
 経済体制をめぐる進歩政党間の路線の違いは財閥、不動産、気候などの公約でも明らかになる。財閥及び独占企業問題と関連して正義党が出した公約は「プラットフォーム経済の民主化」だ。「デジタルプラットフォーム企業独占防止法」で市場の乱れや不正などを規制するという内容だ。シム候補は1月19日SKのチェ・テウォン会長と会って「私は早くから企業を闘争の対象としてだけ見てきた人間ではない」とし「憲法規範の土台の上なら誰よりも企業のために協力する意志がある」と明らかにもした。気候公約でも正義党は市場の内的規制である炭素税導入を提示した。住居及び不動産対策では「1世帯3住宅以上の所有禁止」と公共住宅の割合を20%まで拡大する方案を発表した。 
 進歩党も財閥企業問題と関連して「労働者利益平等権」の復活と労働者経営参加権の明示を主張している。不動産住居公約では正義党と同じで「1世帯3住宅以上所有禁止」と土地賃貸付方式の「20坪1億(ウォン)建設原価アパート」の年10万個供給、税制強化などを提示した。
 一方、イ・ベギュン共闘本部は財閥、基幹産業、プラットフォーム独占企業を国有化して労働者の民主的統制を実現する強力な国家主導の政策を提示している。気候公約でも炭素排出削減義務の全面拡大と炭素排出権取引制の廃止など企業の炭素排出削減を強制する強度の高い規制を掲げる。不動産住居政策においては「2住宅以上の所有禁止」と民間賃貸住宅の社会化による賃貸住宅1000万個確保など積極的な土地国有化を掲げている。
ユン・ジヨン、ウン・ヘジン記者チャムセサン(真実の世の中)1月28日

左からシム・サンジョン正義党候補、キム・ジェヨン進歩党候補、イ・ベギュン社会主義左派共闘本部候補

朝鮮半島通信

▲1月31日の朝鮮中央通信の報道によると、国防科学院と第2経済委員会をはじめとする当該機関の計画により1月30日、地対地中長距離弾道ミサイル『火星12』が行われた。
▲金正恩総書記は2月1日、李雪主夫人とともに平壌の万寿台芸術劇場で祝賀公演を観覧した。
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