「もうひとつの世界は可能だ」

「社会主義」掲げて出馬した大統領候補
[インタビュー]社会主義左派大統領候補イ・ベギュン

「不足」への気づきも重要成果

――選挙活動をしながらどんなものに最も困難を感じたか。

 不足していることを確認すること。本当に多くの部分を研ぎ澄ませなければならないと思った。事実、私たちの準備不足を予想して始めた選挙だった。同時に今回の大統領選挙で私たちの不足している点を知るだけでも大きな成果だと思った。社会主義的課題と政策で社会変化を説得するのは、多分初めての試みなのか。
 不足していることを感じたのは二つほどだ。まずは具体性の問題だ。各課題で資本主義の問題を指摘して、どのように進めるべきなのかを説明したが、公約と政策としてこれを具体化することの難しさを感じた。それよりも難しかったのは、人々の心を揺るがすことだった。変化させるためには感動とときめきで人の心に火をつけなければならないが、そのようなことも不足しているようだ。社会主義が私の人生の本当の代案だと体感するようにしたいのだが、ここまで行くのには時間がかかるでしょう。最初は社会主義をどのように表現すべきかよく分からなかったが、すでにそれなりの戦略ができた。まず、体制を変えようとする勢力と権力の意志だけがあるとするならば、実質的な変化が可能であるということを避けている。
 さらに、理念的な言語よりも、生活言語で接近している。一生のサイクルに合わせて、会う人々の状況に合わせて社会主義がもたらす生活の変化を説明している。米国と英国、最近のチリの事例を通じて資本主義に対する認識の変化も話している。

価値観の変化の可視化に挑む

――体制転換のための5大課題(*)を提示したが、どんな政策なのか。

*▲民衆のための経済革命 ▲気候定義のための生態革命 ▲働く皆のための労働革命 ▲人生を守る世話・医療・住居革命 ▲猶予できない平等のための民主革命

 昨年、社会主義左派勢力円卓会議で4回にわたって政策討論会を行った。党員・非党員関係なく各界各層の課題を集める席だった。基本的な骨組みはこの議論を経て出た。これと共に直接非正規職、青年、障害者、女性など多様な暮らしの主体に会い、これらの声を公約に込めようとした。さらに、社会主義社会を通じた価値観の変化を可視化して表わそうとした。不動産公約を例に挙げると、現在の大統領候補は不動産の所有のあり方をめぐって新規建設による住宅供給を話している。シム・サンジョン候補(正義党)も新規住宅建設に焦点を当てている。
 これは2つの点で問題がある。果たして環境的なのか、そしてそのように新しく作ることで庶民の住居安定に役立つようになるのか。ムン・ジェイン政府が4年間で公共住宅25万戸を供給したが、自家保有率はむしろ減った。問題は少数が多数の住宅を占有するという構造だ。これを壊さなければいくら多くの住宅を建てても庶民の恩恵になりにくい。
 私たちは「1世帯1住宅」などの方式には言及しなかった。住宅を所有物として認めたとたん、単なる数の争いになるからだ。それで住宅は公共財だという点をはっきりさせようとした。住宅供給の核心は、国家が住宅賃貸事業者などから住宅を没収し、これを公共的に活用することだ。ソウルの場合、住宅供給率が94%で、新規住宅建設が全くないわけではない。この場合、龍山(ヨンサン)整備場などの有休地に公共住宅団地として造成すればよい。

家事・ケアの社会化要求を柱に


――政策で最も力を入れる課題は何か。

 今も社会主義大統領選候補としてどのように考えるべきなのか悩んでいる。例えば、過激性と鮮明性を掲げるのか、そうではなくて社会主義の志向と精神を最大限に盛り込んで説得力があるように近づくのかといったことだ。いずれも長所と短所があるが、選挙運動の過程では後者に重きを置いた。それで「代表公約の一番をあげてほしい」という質問を受けるたびに、家事・ケアの社会化と統合家事・ケアセンターの話しをした。これは家事・ケア労働に対する社会的価値を付与しようという趣旨の公約だ。
 資本主義社会では、企業主にとってお金になる労働とそうでない労働を区分するけれど、もう社会の必要に応じて労働の価値を再確立しなければならないということだ。また、ほとんどの家事・ケア労働は、家族の問題として個人化されたりし、はっきりと性別分業体系を乗り越えてはいない。もう国家と社会共同体がこれに責任を負わなければならない。家事・ケア労働の受益者と供給者が統合された体系を通じて共に議論して相談していくということだ。
 これとともに、周辺化されたり利権化されている雇用を国家と公的機関が公共的な雇用として再編しなければならない。「国家責任雇用」公約の核心は、110万家事・ケア労働者を国家が直接雇用しようということだ。このような公約が社会主義の価値を最もよく表現したものだと考える。

「必要の充足」
を経済の目的に
――正義党、進歩党もケアを含む公共部門で社会的価値雇用を創出する公約を提示している。週4日制施行など同様の政策も多数ある。他の進歩政党との政策と公約の違いは何か?

 私たちが言う「国家責任の雇用」は、経済構造の変革を前提とする。現在の資本主義の中では、雇用拡大は不可能だ。それで財閥と基幹産業の国有化、医療及び家事・ケアなど公共部門での画期的な拡大、週4日30時間労働制を一緒に主張している。これを通して経済の目的自体を「利益の創出」ではなく「必要の充足」に変えようということだ。大衆の必要充足のための経済を作るということは、産業全般を労働者民衆の力で統制しようという主張だ。
 一方、正義党の「全国民雇用保障制」は、経済構造はそのままにして、民間・公共部門の失業者に臨時雇用を提供することに過ぎない。公共部門の画期的な拡大も、民間企業の国有化もないためだ。何も変わらない構造で作ることができるのは非正規職の雇用だけだ。おおげさな名前とは異なり、国家補助金を増やしたり臨時公共勤労を拡大しようと主張しているだけだ。進歩党の「雇用の国家責任制」の場合、ケアなど公共部門の拡大を主張する。しかし、雇用は基幹産業と財閥の国有化など経済の根幹自体を変えなければできない。その点で、より積極的に経済と産業構造の変革を語らないのが残念だ。

進歩政治の領域拡大をめざす


――進歩政党候補単一化議論が破たんした。進歩政党が力を集めることができなければ、巨大両党体制を終わらせることが難しいという憂慮もある。

 何度も言ったように、進歩陣営の危機は分裂のためであり、無条件に団結しなければならないということに同意することは困難だ。ただ、巨大両党構造を克服するために進歩陣営がひとつになって声を出すことも一つの方便かもしれないので、民衆選出議論をしてきた。現在、進歩政党の分化は機械的にまとめるといった問題ではない。重要なのは、分化した多様な声で自己完結的論理を持って大衆的に勝負していくことだ。社会主義政治は進歩政治の領域を拡大するというところに意味があると見ている。ただしその過程で社会変化のために多様なアイデアとスペクトルが発散されなければならないが、既存の保守政党と同一視されていけば進歩政治の変化発展をきちんと生かすことはできない。保守両党構造の他国でも様々な試みがある。米国は民主党内部に意見グループを構成したり、ギリシャやチリでは少数政党が選挙連合政党を構成している。そのような様々な試みは今後も続くだろうし、私たちもまた多く責任を負わなければならないようだ。現在、民主党や国民の力の政治的差異より、進歩政治内のスペクトルの方がより広い。さらに分化発展する一方、選挙連合などを通じて力を集めることができるようにすることがより先進的な方式だと見ている。

この間の社会運動の集約として


――少数政党にとって大統領選挙は不利な運動だ。有力候補にだけマスコミが集中して大衆にさらされにくく、存在を知らせることは容易ではない。今後どんな選挙運動を計画しているか。

 私たちは小さな勢力だが、世の中を変えることができるという誇りがある。「社会主義」といえば恐ろしい世の中を考えるが、社会主義こそ必要であるのと同時に可能な世の中であるということを知らせていきたい。大統領選挙前から社会主義の課題運動をしてきた。財閥と基幹産業の国有化、国家責任の雇用保障、あらゆる非正規職制度の撤廃、気候ゼネストで資本が作った気候危機終息、統合家事・ケアセンターの構築、財閥の投機不動産と賃貸事業者の住宅没収などの住宅社会化などを要求した。私たちの選挙運動はまさにこのような運動の拡大だ。自らの運動で世の中を変えようと、街頭や職場で訴えるだろう。私たちの主張をSNSを通して容易に解き放つこともできるだろう。多くの関心をお願いします。
(本インタビューは長文のため一部を省略した。かけはし編集部)
ワーカーズ編集局
チャムセサン
1月30日

イ・ベギュン社会主義大統領候補[出典:ユン・ジヨン記者]

朝鮮半島通信

▲朝鮮の咸鏡南道咸州郡の連浦温室農場において着工式が2月18日に行われ、金正恩総書記が演説を行った。
▲日本による統治期に徴用工として動員されたと主張する韓国人や遺族の三菱重工業と熊谷組に対する2件の訴訟の判決で韓国のソウル中央地裁は2月23日、原告の請求を棄却した。

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