国家保安法による10年間の内密調査

国情院の全農前幹部
に対する「基本権侵食」

 紙切れ3枚がすべてだった。国の情報機関が個人の内密な私生活を10年近くうかがっていたが、何の説明もなかった。今年で75年になった国家保安法は「国家の存立・安全や自由民主的基本秩序を危うくするという情を知りながら」という曖昧な条文で一人の行為と脈絡を「国家の安全を危うくする」と推断して捜査できる権限を国家情報院に付与した。国家保安法による国家情報院の長期の内密調査には、これっぽちの説明もなかった。

 2月初め、前全国農民会総連盟(以下全農)役員は国情院から通知書を一通受け取った。通知書には「国家保安法違反容疑の内密調査の結果、容疑事実無く不立件決定する」(決定日2023・1・26)と書かれていた。添付された2枚の通知書には、2013~2014年の間、携帯電話の通話履歴、携帯電話の位置追跡資料、Eメールの接続記録、Eメールのリアルタイム接続先(IP)追跡資料、サイワールドのミニホームページ、カカオトークアカウントなどで通信事実を確認したり、 押収捜索をしたという事実が書かれていた。

 全北民衆行動によると、2月に入って上記の幹部を含む全農と全国女性農民会総連合の前・現職役員7人が「通信事実確認資料提供要請の執行事実」を国情院から通知された。これらの通知書の内容にも国家保安法違反容疑捜査の法律的な根拠などが書かれているだけで、具体的な事由と査察の範囲も明示されていなかった。全北民衆行動は23日、全北道民を査察し、内密調査した国情院を糾弾する声明を出し、国情院の査察と内密調査の問題点、関連内容を非公開としたことの問題点を確認するため、国家人権委員会に陳情を提起したと明らかにした。

人権侵害の可能性の高い内密
調査…「国情院の例外が問題」

 該当の全農前幹部に通知された不立件決定日は2023年1月26日で、国情院の内密調査期間は9年から10年と推定される。内密調査は捜査で立件される前の準備段階だ。準備段階とはいえ、個人の内密な私生活をうかがう行為なのだから基本権が制限される。実際に捜査機関の業務が犯罪容疑に関連した証拠を収集して保全することであるため、捜査活動と同じことだ。特に通常の捜査と異なり、内密調査の場合は密行性が強いため、これを口実にして被害者に対する人権侵害が発生する素地も高い。

 チァン・ヨギョン情報人権研究所常任理事は、国情院が長期間の内密調査を進めたことについて、2018年憲法裁判所の憲法不合致の決定を想起する必要があると強調した。憲法裁判所は、捜査機関が通信事実確認資料を取得した後に長期間通知しなかったことに対して「捜査の密行性確保は必要だが、適法手続原則を通じて捜査機関の権限乱用を防止し、情報主体の基本権を保護」しなければならないと指摘したことがある。以後、国会は通信秘密保護法を改正し、情報を入手した情報・捜査機関などが原則として1年が経過すれば、対象者らに通知するように通知制度を改正した。しかしチャン常任理事は「国家情報院には広範な例外が許されているという点が問題だ」と批判した。

「絵を全部描き残して探るというやり方」

 実際、これと同様の批判に直面した警察庁は2018年の安全保障捜査で内密調査が不必要に長くなり、関連者の人権を侵害するのを防ぐために「内密調査打ち切り制」を導入し、6カ月以上続けられた内密調査は原則として終結するようにと公開的に明らかにしてもいた。
 これまで国情院が国家保安法違反容疑で内密調査または捜査をする時、その範囲があまりに広すぎるという批判も引き続き提起されてきた。今回の事件についても根拠なく広範囲を内密調査したという批判が出ている。内密調査終結の通知を受けた前全農役員は現在、国家保安法違反容疑で今年1月20日、不拘束起訴されたハ・ヒョンホ全北民衆行動共同常任代表とともに仕事をしていた仲だ。

 メディアで知られているハ・ヒョンホ代表の国家保安法違反容疑は、2013年頃から2019年までのことだ。国情院が送った通知書によると、該当幹部に対する内密調査が始まった時期も2013年だ。時期的にハ・ヒョンホ代表と同じことで内密調査を受けた可能性が高いと見える。チョン・チュンシク全農全北道連盟事務処長は、該当の件がハ・ヒョンホ代表と関連した可能性が高いとし、「基本的に市民社会で仕事をすることになれば多くの人に会うことになる。ハ・ヒョンホ議長と実務を世話した人は1人2人もいない。その多くは人をみんな覗き込んだという話」だとし、今回の内密調査は「(国情院が)絵をすべて描き残して探るというやり方」で徹底的に国情院の視覚で実行された内密調査だと批判した。

 内密調査終結の通知を受けた前役員だけでなく、通知書を受けた残りの7人も、どのような根拠で国家保安法違反容疑を受けることになったのか、国情院は公開すらしなかった。チョン事務処長は、通知書を受けた前・現職役員らが国家保安法容疑や内密調査の具体的な範囲などを確認しようと通知書にあった国情院の連絡先に電話をかけたが、国情院側は説明を拒否したと話した。
チョン・ジョンピル記者

(「チャンムセサン」2月24日)

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