釜山西面市場で生まれた小さな労組が言う希望について

寄稿 私たちが闘争してはじめて、市場を作り変えます

シヤ(記録労働者)

 西面市場で集会や文化祭が開かれる日、キム・テギョン支会長は数日前から緊張して神経がピリピリしてまともでいることができなかった。人前で発言したり身振り手振りするような緊張ではない。保守的な釜山市内の真ん中にある西面市場でどんな事故が起きるのか予想することは難かしかった。会長団というのならまだしも労組ならばアカ集団の烙印を押されて罵倒する人々の行動が度を超えた。乱暴な運転をするけたたましいバイクがそうで、わざわざ集会場所に車を止める市民がそうだった。集会するのにだしぬけに水をばらまく商人がいて、酒に酔った通行人は言いがかりをつけて集会を主催する西面市場繁栄会支会をこまらせた。そういえばキム・テギョン支会長は文化祭が開かれる日には周りを見て回る習慣がついて、神経のすべてが不時に起こるどんな事故にも備えなければならないという強迫で頭を痛めていた。

 だが、キム・テギョン支会長は、彼らが誰なのかうすうす推測することができた。本物の西面市場で商売する商人たちは、闘争している二人に悪口を言って言いがかりをつける人はいなかった。むしろ話をしないだけで「がんばれ」と親指をふり出してくれた。

 「市場には変な人が多かったです。やくざ者のような人、酒に酔ってむちゃくちゃに殴って悪態を突きそしてほどなく警察が来てやめさせて連行する、そんなことをたくさん経験しているじゃないですか、彼らも身元照会をうけるんですよ。身分が明らかになればいいことがないのでだんだん減っていったんですよ。このごろ闇の勢力の多くがなくなったんです」(ホ・ジニ)。

 西面市場にも変化が生じた。陰鬱な闇の勢力がどんどん消えた。誰かが労働組合を妨害するために送った人もいる。会長団は直接出なかった。直接出れば職場内でわずらわしくなることを何度も訴えられて経験していたからだ。

 「闘争文化祭をするのに商人たちが出てきて手で背中をたたくんです。私が社会を驚かせてしまったようです。喉も痛めてこわばっているのに背中がとても痛くてイライラしました」。
 暴力は常習的だった。弱い環にまず手を出しながら暴力の強さはますます激しくなり、雪のかたまりのように増した。ホ・ジニさんが再びストライキを始め、市場で昼食宣伝戦を準備している時だった。繁栄会の不正と労組弾圧が騒々しくなるや、会長職を辞任し、副会長に職務代行を任せた前会長が言いがかりをつけにきた。前会長は常日頃から職員たちに言葉ではなく悪態をつく人物だ。ホ・ジニさんは口癖が偏屈な前会長をそのまま大目に見てやることができなかったが、腹立たしさをこらえながら参考動画を撮っていた。あっという間に前会長が手のひらで彼女の顔を殴った。

 「顔面に食らったときはとても痛かったです。前会長がまさに目の前で悪態をつきながら証拠はどこかとむしろ腹を立てている(映像を)撮ったのに。とても痛かったので、瞬間的に携帯電話を置きました。痛いのに携帯電話もなくなるのかと思うと胸が痛みました」。

 ホ・ジニさんは解雇されてから精神治療を受けてきた。職場内での嫌がらせと集団的ないじめ、監禁と暴力によって、閉所恐怖症を引き起こした。労働組合をする前から持続的な暴力にさらされていた。真昼間に釜山一番の繁華街で社長に合い労働者になった。すぐ隣で警察が見守ったが、現場で現行犯逮捕するのはドラマでも見られる場面だった。むしろ犯行を犯した前会長を逃避させているようだった。このごろは心理相談を受けて心を落ち着かせて癒している。ある日は中が涼しくなるようにほぐし、またある日は重たい荷物をもう一つ乗せてくると彼女は自分の心がジェットコースターに乗っていると話す。顔を合わせて心の平静を見つけるのは難しいが、自分の戦いを手放さないように必死で耐える。

 「他の同志たちは私が暴力を受けても、目つきは生きています。人と話してみると血が沸騰します。しかし、このごろ、もっと落ち着かせようと努力しています。理性的に考えるようにです。私たちにとって何がより有利なのか、また正しい方向で闘争できるように考え、同志たちとたくさん話し合っています」。

 繁栄会の職員らが労働組合を作り、ストライキをして解雇され、市場の真中で闘争していると、キム・テギョン支会長に対する様々な悪口が流された。「総務がやくざ者らしい」、「仕事もしないで民主労総を引っ張ってきた」という噂と流言飛語が横行した。それで、キム・テギョンさんとホ・ジニさんが繁栄会会長団の不正を具体的に知らせて、職員も人間らしい扱いを受けなければならないことを市場でくまなく話しているうちに商人たちにも若干の変化が生じた。商人たちは職員らが不利益を受けるのかと心配してくれた。西面市場で商売するときは繁栄会の顔色をうかがわなければならなかったが、西面市場を離れながら職員らに連絡した。

 「電気税告知書を10年分保管しているが、必要ならいつでも送ってくれるという方がいました」(キム・テギョン)。

 誠意で繁栄会の職員らを助けたかった。商人たちは言わないが、いつも気をきかせて応援してくれた。彼らは主に賃貸商人らだった。

 「私たちがここであきらめてしまえば、結局繰り返されることになるでしょう。それで、第3の被害者がずっと出てきて、それが60年になるんです。私たちが戦いながら、私たちだけが変わるのではなく、人々が連帯しながら変わりました。だから、これは私たちだけの戦いではないんですよ」。

 キム・テギョンさんは自分が明らかにした真実を回避したくなかった。市場には商人だけでなく働く労働者が多い。市場ごとに管理事務所があり、管理室には清掃する労働者がいて、庁舎警備労働者がいる。事務所の職員もいる。食堂で働く労働者、商店街の店員らもいる。労働者たちは労働組合がする話に関心をよせた。自分たちの事情を労働組合に聞かせたりもした。

 「ある食堂はCCTVを20台も設置したんです。私たちが集会をするなかで職員たちを監視しようとCCTVを20台もつけたのかと話したところ、必要な台だけ残して、あとは外したんですよ。商人や職員たちがそんな話をたくさんしてくれるんですよ」。

 労働者は食堂で20年以上勤務したが、コロナ19感染症が流行すると商売にならないからと「明日から出ないでください」と通知を受けた。20年の歳月の苦労は暖かい言葉ひとつ聞くこともなく、その日の朝に仕事を失った。その労働者は家に帰る前に西面市場繁栄会支会に立ち寄って自分の事情を話してくれた。

 「労働組合をしながら多くのことを知らされたようです。どこでも職員は何事もなく帰るわけではありません。人々が見ているのです。噂が広がっているんです。私たちが戦っていることを知っています。他の所を見ると、市場はすべてつながっています」。

 私たちは一つのように何かを見つけてつながったようだった。市場は市場とつながり、闘争する労働者は闘争する事業場などとつながっている。そして、解雇者は解雇者とつながり、痛みにより大きく共感し、その心情を誰よりもよく理解した。

 「私たちは笑っていますが、今崖っぷちにいます。回復は容易ではないでしょう。しかし、私たちがあきらめないのは一つだけです。これまで闘争してきたのが正当だからです。あきらめるなら最初から闘争をしないでしょう」。

 キム・テギョンさんが解雇されてから2年を超えた。ホ・ジニさんが賃金を受けられないままストライキをしてから1年になる。法律費用はますます増えて、生活費にあてるカードの借金も増えた。家計の借金がたまり、信用は危うい。西面市場60年の伝統は、古くて老朽化した建物が象徴する保守の聖地というように労働組合を認めないと固執している。しかし、希望を失わない。二人の歩みはカメよりゆっくりと遅く見えるが、次々と積み重ねてきた労働組合の小さな活動が毎日毎日市場に浸透して少しでも変化を引き出しているとホ・ジニさんは信じている。

 「もしかしたらまた私のように社長に殴られたり、現場でパン一つ食べて困難な中で働くある事業場にいる労働者たちが私たちを見て少しでも勇気を出してくれればいいんです。支会長と一緒に積み重ねていくでしょう」。

#記録労働者シヤ…

 第30回チョン・テイル文学賞を受賞した。共書には〈野花、工団に咲く〉、〈会社が消えた〉、〈息をする〉がある。
(「チャムセサン」8月17日)

釜山一般労働組合西面市場繁栄会支会 ホ・ジニさん(左)とキム・テギョン支会長

【おしらせ】月刊誌「ワーカーズ」、インターネット新聞︿民衆言論チャムセサン〉休刊にあたって

チャムセサン編集局
2023年8月25 日

 2005年5月創刊以来18年間読者と一緒にやってきた〈民衆言論チャムセサン〉が2023年9月から無期限休刊に入ります。2016年3月創刊後7年余り発行された月刊誌「ワーカーズ」も2023年7月号(No.104)を最後に発行が中断されます。
 これまで〈民衆言論チャムセサン〉、《ワーカーズ》メンバーは媒体運営及び維持のために多方面の議論を続けてきたが、編集局人材不足及び消耗、財政悪化などの問題をすぐに克服できないと判断してこのように決定しました。
 「民衆言論チャムセサン」と「ワーカーズ」が長い間資本と権力から独立した民衆言論として存在することができたのは、読者の後援と支持のおかげです。読者からいただいた惜しみない関心と愛情にもかかわらず、無期限休刊を決めることになり、心が重たいです。
 〈民衆言論チャムセサン〉は以後、新しい運営方向と展望を模索する予定です。新しい姿で読者の皆さんを探してみようと努力します。これまで本当にありがとうございました。

朝鮮半島通信

▲金正恩総書記は8月27日、海軍節にあたって海軍司令部を訪れて演説した。
▲金正恩総書記は8月29日、人民軍総参謀部の訓練指揮所において全軍指揮訓練を視察した。
▲朝鮮は8月30日、同国西岸付近から、2発の弾道ミサイルを、北東方向に向けて発射した。

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