ある革命詩人の世界
ウォン・ウィジョ(労働者歴史ハンネ研究員)
金洙暎(キム・スヨン、1921~68)
1957年、詩人協会賞を受賞。その後、パク・チョンヒ軍事独裁政権に抵抗。1968年、歩行中に車にはねられ死亡。1981年からキム・スヨン文学賞が設立され、2013年、ソウル市内にキム・スヨン文学博物館が設立された。
「これからやってくる経済危機を最も自信をもって阻むことができると豪言長談し息巻く政治家たちが国会の中であれやこれやと騒ぎたてているが、外の現実は、悲惨な例が慶北教組や京紡ストライキ問題のようなものだけでも 当局の態度は相変らず赤に対する態度と少しも違いはない。 (中略) 国務総理を新派が握ったの、旧派が握ったの私たちの関心はそんなことにあるのではない。 むしろ私たちの全神経は、真の民主運動を誰がどのような口実でどの程度まで再び弾圧し始めるのかということに注がれている」。(キム・スヨン「治癒する勢いもなく」から、1960・8・22)
キム・スヨン詩人は1921年鍾路(ソウル)で生まれた。 日帝強占期の下で幼年時代を過ごし、青年期には徴集を避けて満州に移住し、演劇に没頭して光復とともに帰国した。
彼は韓国戦争の時期に北朝鮮の義勇軍として徴集されて脱走を敢行したりもするなど波乱万丈の青年期を送った。 英語と執筆に堪能だった彼は主に翻通訳や養鶏をして生計を続けて少しずつ助走活動を並行させたという。 何よりも彼は20世紀の激動を体験し、詩人としての自己アイデンティティを形成した。
特に4・19革命(60年)を前後した時期に本格的な世界を広げ始めたが、彼の詩には伝統や慣習、そして権威主義を配撃するモダニズムの思想が深く敷かれており、何よりも韓国の悲劇的な現代史が促す革命的な意志の軌跡が 表現されている。 キム・スヨンはこの社会により根本的な変化が必要だと感じたようだ。
私たちの敵はりりしくはない
彼らは少しもどう猛な悪人ではない
彼らは善良になることもある
彼らは民主主義者を装い
自分らは良民だとも言い
自分らは善良だとも言い
自分らは会社員だとも言い
電車に乗って車に乗り
料理屋に入り
お酒を飲んで笑って雑談して
彼らは言ってしまえば私たちのそばにいる
私たちの戦線は目に見えない
それが私たちの戦いをこんなにまでも難しいものにする
しかし、私たちはいつも戦っている
朝も昼も夜もご飯を食べる時も
街中を歩く時も、談話をする時も
商売をする時も土木工事をする時も
旅行する時も泣く時も笑う時も
私たちの戦いは休まない
(キム・スヨンは「…影がない」から、1960・4・3)
多くの革命家は、彼らが過度に理想的だったという理由で非難されたり不穏になった。 しかし、キム・スヨンの敵はありふれた政府や為政者のようなものではなかった。
キム・スヨンは体制に包囲された日常と沈黙で同調する「私」と「人々」を見た。
攻勢よりも暴悪な日常を感じた。
われわれは社会主義や共産主義に硬度されるという言葉は聞いたが、資本主義に取り付かれたという言葉は聞いていなかった。
支配的な思想や理念が占める権力の位相とは、それほど悠久だ。 それゆえに、キム・スヨンの詩の世界で話者はいつも戦っている。 彼が処した情勢と環境が、そしてこの共同体の秩序が革命を促しているようだ。
なぜ私は小さなことにまで憤慨するのか
その王宮の代わりに王宮の淫蕩の代わりに
五十ウォンほどのカルビが油の塊だけが出たと憤慨して
だからこんなに恥ずかしく反抗する
床屋に
地主にはできず、床屋に
区役所職員にはできず、町会職員にもできず
夜番の人に20ウォンのために10ウォンのために1ウォンのために
こっけいではないか1ウォンのために
砂よ私はどれだけ小さいのか
風ぼこりよ教えてくれ私はどれぐらい小さいのか
本当にどれくらい小さいのか…
(キム・スヨン「ある日故宮を出て」から、1965・12)
例えば、人民の絶望はそうなのだ。 人生が容易に良くなる感覚が見えないということ。
しかし、絶望に対処する詩人の姿勢は違うところにある。 羞恥心を繰り返し考えることだ。
怒りと悲しみは簡単で、省察は難しい。
他人を責めるのは簡単で、自分の責任と連帯を反省するのは難しい。
キム・スヨンは革命と抵抗の詩人として知られたが、実際に彼の作品のほとんどを貫く情緒は「羞恥心」だ。 彼が感じる羞恥心は、一次的には小市民的で卑怯な自己存在を客観化する過程だが、さらに乗り出して社会や体制の本質を目撃しては、それに加担し自らを痛烈に叱る絶叫に近い。 彼の世界では、ほとんどの犯人は自分自身だ。
革命はダメで私は部屋だけ変えてしまった
私は今錆び付いたペンと骨と狂気
失望の軽さを財産にするしかない
この軽さひょっとして歴史なのかもしれない
この軽さを私は私の財産とした
(キム・スヨン「その部屋で考えて」から、1960・10)
革命は絶望の対案だ。 革命的な想像力は、無道で世知辛い社会現実を根拠としている。 だから「世の中を変えよう」という救護は、多分人類の歴史の最も古い救護であるのかもしれない。 革命は人類が発明した最もロマンチックなアイデアでもある。
人間と自然を抑圧するすべての差別と不条理を解決したいという熱望がその言葉には含まれている。
しかし革命の目標は巨悪を処断することではなく、人間と社会の支配的な倫理を見直して再検討し再構成することである。
キム・スヨンと言えば、ありのまま絶望するのだ。
私たちは何に絶望するのだろうか?
風景が風景を反省しないように
カビがカビを反省しないように
夏が夏を反省しないように
スピードがスピードを反省しないように
つたなさと恥が彼ら自身を反省しないように
風は別の所から来て
救いは予期しない瞬間に来る
絶望は最後まで彼自身を反省させない
(キム・スヨン「絶望」1965・8・28)

キム・スヨン詩人
【訂正とおわび】「かけはし」9月18日号、8面「韓国はいま」で、
寄稿 イ・ファンミ(労働者歴史ハンナ企画局長)、(労働者歴史『ハンナ』の紹介)、労働者歴史『ハンナ』と「ハンナ」としましたが「ハンネ」の間違いでした。訂正しおわびします。
(「かけはし」編集部)
朝鮮半島通信
▲朝鮮民主主義人民共和国建国75周年にあたり慶祝中央報告大会が9月8日、平壌で行われた。また同日夜、民兵組織による閲兵式が行われた。大会と閲兵式に、金正恩総書記が出席した。
▲金正恩総書記が9月13日、ボストチヌイ宇宙基地でプーチン大統領と会談した。
▲尹錫悦大統領は9月15日、朝鮮戦争中の仁川上陸作戦の記念行事に参加した。
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