医学部定員拡大だけでは不十分である

利益中心ではない
無償公共医療が必要だ!

キム・ヨハン

 1987年の大統領直選制改憲以来、歴代の資本家政権は、たとえ形骸化したものであっても、何らかの時代精神を標榜した。1992年の金泳三の「軍部独裁の清算」、1997年の金大中大統領の「民主主義と市場経済」、2002年の盧武鉉の「非正規雇用の保護」などである。2007年の李明博は「7―4―7経済成長」を掲げ、2012年の朴槿恵も「経済民主化」を掲げて票を獲得した。「ろうそく政府」を標榜した2017年の文在寅も同様である。
唯一例外的な政権がある。現在の尹錫悦政権である。尹錫悦が一体何をするつもりなのか、だれ一人として思い当たる人はいないであろう。ただ、反民主党感情で政権を握り、「共産主義全体主義」に対抗するイデオロギー闘争を強調しただけである。最上座に座って酒席を主宰したいから、国費で海外旅行に行きたいから大統領になったというのが真実かもしれない。
 政治哲学がないから、それが何であれ、適切に推進するべき政策もない。保険料率と所得代替率という重要な要素をすべて省いた案を「国民年金改革案」と誤魔化しながら恥を知らない。政治工学による支持率計算と外国首脳とセルフィーを撮るポピュリズム政治が尹錫悦政権のすべてである。
そんな尹錫悦政権でも仕方なく推進しなければならない政策がある。それは医学部の入学定員増員である。

圧倒的に不足している韓国の医師


 昨年10月、尹錫悦は「地域・必須医療を存続させ、超高齢社会に備えるために医療人材の拡充と人材育成は必要条件」と述べ、医学部の定員を増やすという立場を公式化した。医師の数が圧倒的に不足している現実が、もはや目を背けることができなくなっているからである。韓国保健社会研究院は2035年に不足する医師数を2万7232人と予測している。
 専門家の分析も同様である。ソウル大学の保健経済学のキム・ジンヒョン教授は、韓国の人口1000人当たりの活動医師数は2・3人(漢方医を除くと2・0人)で、OECD加盟国平均3・5人の65・7%(漢方医を除くと57・1%)水準であることを明らかにした。特に、韓国の軽傷医療費(国民が1年間に保健医療を利用するために支出した総額)は2022年209兆ウォンに達するなど、1人当たりの医療利用量がOECD平均の2倍レベルに達する。1人当たりの医療利用量と高齢社会への突入速度などを考慮すると、韓国の医師数不足は放置できるレベルではない。
 興味深いのは、尹錫悦政権が自身の主要な支持基盤でもある特権階級の医師集団の反発をどのように抑えるのかという点である。OECDの「2023年保健統計」によると、韓国の勤務医の年間賃金所得は19万2749ドル(約2億4600万ウォン、2020年)で、関連統計を提出したOECD加盟国28カ国の中で最も多い。また、開業医の所得は29万8800ドル(約3億8200万ウォン、2020年)で、やはりOECD最上位圏である。
 韓国で医師になるということは、このように富と社会的地位を生涯保証されることを意味する。それは非人間的な入試競争教育体制で、多くの親が小学生の子供を医学部入学クラスに送る現実が示している。医師集団は、自分たちが享受している特権を放棄する気はさらさらない。文在寅政権時代、研修医たちが週80時間の殺人的な労働に苦しめられながらも、医学部の設立による医師増員は「公平性を損なう」として無視された。
 大韓医師会は当面、医学部定員を3000人増やすべきだと主張したソウル大教授のキム・ユン氏(医療管理学)の懲戒を推進している。また同医師会は、活動医師数が10年前に比べて2万1611人増加し、増加率ではOECD平均の1・41倍という詭弁を並べて医学部定員増員を阻止しようとしている。労働者たちの生存権闘争には「違法」というレッテルを貼り、悪質な扇動を躊躇しなかった尹錫悦政権が、医師たちのダイヤの皿を守るためにどのような手段に出るかが見ものである。

医師数が増加すると問題が解決するのか?


 しかし、われわれ労働者が注目すべきことは、単に医学部定員の増加ではない。医師の数が大幅に増えても、今日の韓国社会が直面している医療格差、医療空白は決して解消されないからである。
 もう少し視野を広げてみよう。今日、数多くの労働者民衆が生活苦にあえいでいる理由は、この社会全体の生産力が不足しているからである。名だたる先進国である英国において25%の国民が食事を抜いたり、減らしたりする理由は、絶対的な食糧生産量が不足しているからではない。一方では財貨が無分別に浪費されるが、他方では必須財の不足現象が常態化している。それは資本主義が利潤の論理で動く体制であることが原因である。例えば、資本は目前に迫った気候災害すらお構いなしに、戦争兵器開発、無駄なマーケティング、金融投機などに天文学的な資源を投資する。その一方で、再生可能エネルギー生産や人類の基本生活を保障するための生活必需品生産には十分な資源が投入されない。
 同様に、単純に医師の数が増えたとしても、医療格差と医療空白が自然に解消されることを期待するのは難しい。現在、急務として指摘されている地方公共医療機関の医療空白問題を見てみよう。保健福祉部の資料によると、地方医療院35ヵ所は医師定員1330人より87人が不足しており、国立大学病院17カ所は定員8942人に対して1940人が不足している。地方医療院35カ所のうち23カ所において休診科目が発生しており、束草医療院の場合、18診療科目のうち神経外科・整形外科など6診療科が開店休業の状態である。
 医学部の定員を増やして新規の医師を大量に養成したとしても、そのうち人口二千万人を超える広域首都圏や大都市を離れ、少子化で消滅の危機にある地方で病院を開く医師が果たしてどれだけいるだろうか。診療科目別に適正な医師数を計画的に配置し、診療科目の特性に合わせて医療人員の適正な労働強度を保障するためには、単に養成する医師の数を増やすだけでは不十分である。

全面的な無共済医療体系に向けて

 医療空白を解消し、移民・定住者の差別なく、すべての国民が医療の恩恵を普遍的な基本権として享受するためには、医療領域における一切の営利追求行為を停止させなければならない。命を救うことに献身しようとする医師を大規模に養成し、それらを医療需要に合わせて地域・部門別に計画的に配置し、診療科目ごとに適正な労働強度を保障し、適切な経済的補償を提供するためには、医療部門を全面的に国有化しなければならない。これは資本主義の歴史を振り返っても特に急進的な要求でもない。20世紀初頭の強力な労働者闘争を基盤に形成された欧米の無償医療体系が端的な例である。
 無償公共医療制度のための財源は、製薬資本の新薬製造知的財産権の独占の撤廃など、これまで医療・製薬資本が享受してきた天文学的な利益の没収によって十分確保が可能である。金融資本が金儲けの手段として運営する医療実費保険を健康保険に統廃合して過剰診療を予防し、必要な人にオーダーメイドの医療サービスを提供するようにすることも不可欠である。また、公共医療システムで計画的に配置された医療人材は、事後治療よりも疾病予防に焦点を当てることで、医療能力の不必要な浪費も防げるであろう。
 結局、このすべての問題の核心は明らかである。それは、資本の利益を優先するのか、それともすべての国民が経済的な事情に関係なく望む治療を受ける権利を優先するのかということである。病気の人々の立場を考慮し、人々の心情に寄り添う心、これはすべての人が持つ自然の本性である。治療を受ける権利さえも金儲けの論理で裁定する資本主義、その野蛮さを今こそ根絶すべきである。
(「社会主義にむけた前進」より)

朝鮮半島通信

▲韓国の元慰安婦であったと主張する女性や遺族が日本政府に損害賠償を求めた裁判に関して、11月にソウル高裁が日本政府に賠償を命じた判決が12月9日、確定した。
▲12月3、4日の両日に開催された全国母親大会にて、金正恩総書記が演説を行った。
▲徴用工として動員されたと主張する韓国人の遺族らが日本企業に損害賠償を求めた訴訟2件の判決で、韓国最高裁は12月21日、日本企業側の上告を退けた。
▲金正恩総書記は12月18日、同日に行われた大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を視察した。
▲金正恩総書記は12月20日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射訓練を行なったミサイル総局の部隊の軍人らを招致した。
▲朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会が12月26日、開幕した。総会では、金正恩総書記が報告を行った。
▲尹錫悦大統領は12月28日、朴槿恵元大統領と昼食会を行った。
▲朝鮮労働党中央委員会第8期第9回総会拡大会議が2023年12月26〜30日に行われた。会議には金正恩総書記参席した。
▲韓国の野党「共に民主党」の李在明代表は1月2日、釜山で刃物を持った男に襲撃され、病院に搬送された。
▲朝鮮は1月5日、朝鮮半島西側の黄海に向けて約200発の砲撃を行った。

医学部の定員を増やすと明らかにせざるをえなかったユン大統領

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