女性は戦った、そして戦い続ける

かけはし 第2650号 2021年1月25日

性暴力と嫌悪、搾取と統制

チ・ス(社会運動委員会の女性事業チーム)

N番部屋事件、
女性に加えられた極端な暴力

 昨年末からの言論報道を覆ったN番部屋の事件は、女性に対する暴力がどのようにまん延して、そしてどれだけ取るに足らないこととして扱われてきたのかということを如実に示した。これまでデジタル性犯罪者に対する軽微な処罰は加害者に免罪符を与え、日常の性犯罪に共謀したこれら性搾取を「遊び」として続けた。児童性犯罪動画「ダークウェブ」運営者のソン・ジョンウはわずか1年6カ月の服役後に出所し、米国での犯罪人送還すら司法部のつまらないプライドのために挫折した。

 怒った女性たちは、国家の責任を求めた。国民請願が500万人集まり、糾弾行動が続いた。この流れは、「N番部屋防止法」を引き出して、違法および非同意の撮影物の製作・流布への処罰を上げ、所持・購入・保存だけでなく、「視聴」した者にまで処罰の範囲を広げた。撮影物を利用した脅迫・強要罪と性犯罪予備陰謀罪も新設された。裁判所はチョ・ジュビンに懲役40年を宣告し、共犯者も懲役7年~15年の刑を受けた。

しかし、もう同じことを繰り返す別のチョ・ジュビンはどこにでも存在する。強力な処罰は始まりにすぎない。性別二分法に基づいた特定の性の役割を強要し、女性に対する暴力を量産する性差別的な社会構造が変わらない限り、第2、第3のチョ・ジュビンは再び現われるだろう。

トランスジェンダーの女性たちの勇気に
この社会は、嫌悪で答えた

 ピョン・ヒス下士と淑明女子大の合格生トランスジェンダーAさんのように、2020年はトランスジェンダーの女性が自らの存在を認めさせようとする戦いを始めた年だった。ピョン・ヒス軍曹は性別訂正後働いていた軍に戻ろうとし、Aさんは、女性として生きていこうと女子大進学を夢見て最後に堂々と合格した。

 しかし、この社会は、これらの勇気に嫌悪で応えた。ピョン・ヒス下士は強制転役処理され、Aさんは、最終的に淑女大入学を断念した。「生まれた性別に合わせて生きていくのが道理」だと言う嫌悪勢力のたわごと、そしてトランスジェンダーの女性とは「女性としてのパイを分けることはできない」という、一部の女性勢力(TERF:トランスジェンダー排除的フェミニズム)の加勢は家父長制に基づく性別二分法の枠組みを破ろうとした人びとをより傷つけた。

 トランスジェンダーの性別訂正を法的に認定した、2006年から14年が経つが、その人びとの権利は依然として停止状態だ。しかし、そうした人びとの勇気は継続されるだろうし、あきらめずに人生を生きることだ。そして、私たちは、家父長的社会に亀裂をもたらすこれらの戦いと共にしていく。

オ・ゴドン、朴元淳(パク・ウォンスン)につながる
権力型性暴力の連続

 謝罪すらなかったパク・ウォンスン前ソウル市長の死は、性暴力の被害者にまた別の加害をもたらした。この社会は、加害者には温情と信頼を送りながら、被害者には「政治的な意図」を何重にも背負わせて「被害者らしさ」を強要した。被害者への無差別的な攻撃が「パク・ウォンスンへの哀悼」という名で続いた。アン・ヒジョン性暴力事件のように、パク・ウォンスン性暴力事件の被害者も同じように非難された。民主党はパク・ウォンスンとオ・ゴドンなど相次ぐ権力型性暴行事件をすかしなだめることに汲々としている。

 「進歩」を自任していた民主化運動出身の政治家たちも権威と歪曲された性の認識から、自由ではないということが再び確認されている。今権力の頂点に立つ彼らに自らの性抑圧的態度に対する反省は見当たらない。性差別に無関心で性の役割を当然視していた過程が積もって女性に対する暴力として現れたものであることを覚えておこう。女性に対する暴力を認知して省察することは、女性抑圧的社会構造を認識することから出発する。

コロナが触発した危機、
ケア労働が必要労働であることを覚醒させる

 2020年を通してコロナが全世界を襲い、看護師・看病人・療養保護士など女性労働者は、感染の危険の中でも第一線でコロナとの死闘を繰り広げ、ケア労働者は、緊急ケアを続けた。コロナは、この社会の中で不可欠な労働がどれだけ無価値に扱われたのかをさらけ出し、社会のケアシステムが止まればどのようなことが起きるのかということを明らかにした。

 連日ケア労働者に対する賛辞があふれたが、ケア労働者は依然として不安定な雇用形態と低賃金に耐えなければならなかった。感染の危険は、最も低いところの女性労働者に向かった。女性労働者の闘争がなければ、ケア労働者に犠牲を強要するシステムは変わらないだろう。ケア労働者が直面する不平等を解決するには、直接雇用・生活賃金・労働環境の改善はもちろんのこと、さらにケア・家事など再生産労働の責任を個人から社会に転換することが必要である。コロナ以降、いまとは根本的に異なる社会をどのように作るのかということは、私たちにかかっている。

ムン・ジェイン政府の堕胎罪存置案、
死にかけていた堕胎罪を復活させる

 2020年年終盤に流れていった昨年10月7日は、憲法裁判所が「堕胎罪憲法不合致」の決定を下すなかで、新たに立法案を用意するのに設定された期限を3カ月余り後に控えた時点であった。しかし、この日の政府は、堕胎罪関連の刑法・母子保健法改正案を立法予告しながら「堕胎罪維持」の立場を出した。政府案は、堕胎許可の要件を新設して「許可と処罰基準を細分化」することで、女性への処罰と堕胎の理由の制限、堕胎許可の制限、相談義務化、熟慮期間の導入、医師の診療拒否権、第三者の同意義務化など、これまで懸念されてきた、すべての問題を網羅するものだった。

堕胎罪廃止を期待していた多くの女性たちは、政府案に背信感と怒りをぶちまけた。再び処罰の時代に戻すことはできないと、「堕胎罪全面廃止」以外に、他の選択肢はないと叫んでいる。もはや国家が女性の出産能力を経済・人口政策の付属物として扱わないように、資本の利益システムを支えるために女性の体を利用しないように、女性の再生産過程が処罰ではなく、権利として保障される社会を作るために共に戦っていこう。

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