追悼 栗原 学 同志
君は永続革命と呼ばれるだろう
1990年代の初め、当時民青同盟の活動家だった栗原学同志は、「ベルリンの壁崩壊」に象徴される歴史の激変の中で、私たちの隊伍に加わった。彼はオルタ・グローバリゼーション運動や、沖縄・辺野古、琉球列島の軍事基地化反対行動を担った。その栗原同志が闘病生活の末亡くなった。享年50歳。稲垣豊さんの追悼文を掲載する。
2021年5月3日、憲法記念日の朝、アメリカ軍基地の建設がすすむ名護市で栗原学さんの訃報を、お連れ合いさんからの電話で知りました。少し前から容体が深刻になっていると聞いていたのですが、なんとか持ち直してほしいと願っていたので、残念でなりません。その二日前の5月1日のメーデーの日には、一緒に名護を訪れていた古くからの仲間と撮った写真を栗原さんにお連れ合いさん経由で送りました。それが栗原さんと最期のやりとりになりました。
思い起こせば、栗原さんとは、一緒に活動を始めた90年代末に米軍基地建設の受け入れに揺れる名護市辺野古を訪れ、辺野古沖にある無人島でいっしょにキャンプをしたことがありました。当然まだ埋め立てもない頃で、サンゴやウミガメ、きらめく星空など、とても栗原さんや僕にはそぐわないような沖縄の自然を満喫しました。真夜中、無人島の対岸にある米軍基地キャンプ・シュワブにむけて、届きもしないロケット花火を何発も打ち上げて気勢を上げていた姿をいまでも思い出します。
栗原さんの終の棲家となったご自宅のすぐそばにある大学に入学した私は、すでに労働者だった栗原さんらと一緒に「全ての被抑圧者はマイノリティと団結せよ」という理念のもと、マイノリティ研究会という、いま聞くとかなり気恥ずかしい名称のサークルを立ち上げ、沖縄の基地問題や女性に対する暴力、セクシャルマイノリティの問題に関する学習会などを企画したりデモに参加したり、ああでもないこうでもないと終わらない議論をつづけたことを思い出します。お互いに強情だったので、きっと周囲を困らせたこともあっただろうなぁと反省しています。
その後、沖縄サミット、9・11テロ、札幌サミット、リーマンショックや横浜APECなど、グローバルな課題にも栗原さんと協力しながら関わってきましたが、ここ10年ほどは一緒に活動をする機会はぐっと減っていました。栗原さんが南西諸島の軍事化に反対する取り組みをはじめたときも、なかなか参加できずに、たまに仕事帰りや休みの日に国会前などに顔を出す程度でした。栗原さんがTwitterで活躍していることを知ったのも、しばらくたってからのことでした。
その南西諸島をめぐっては、領土主義と排外主義の煽動によるさらなる軍事化がすすんでいること、そしてヤマトの人間がそのことに無関心であることに、栗原さんはいつも厳しい意見を吐いていました。まさに「吐いていた」と形容するのがふさわしいくらいの感じだったことを思い出します。そのほかの問題でも、時には厳しすぎて周囲との軋轢が生じることもあったようです。栗原さんらしいと思いました。
命日となった5月3日は憲法記念日ですが、栗原さんは日本国憲法前文にみられる国際主義を高く評価しながら、第1条から第8条までの天皇条項、そして憲法に貫かれる国民主義に対して激しい憤りをもって語っていました。
この数年は、そのような憤りや、未来の世代に対する希望、そして愛をシャンソンに乗せて表現していたようです。フランスやギリシャなどのレジスタンスを歌った闘争歌のことは栗原さんから聞いていましたが、本格的にシャンソンへの道を目指そうとしていた矢先、病魔が栗原さんを連れ去りました。
まだまだ議論しなければならないことが山積みでした。病状が安定したら議論を再開しようと約束していたのですが、それもかなわなくなりました。僕らにできることは、栗原さんが最期まで心配していた、残された未来の世代に対して、すこしでも希望ある社会システムを提示することだと思います。SNSをはじめとする電子空間での活動展開を強く訴えてきた栗原さんの思いに応えていければと思います。
最期まで栗原さんの看病を続けられたお連れ合いさんはじめ、ご家族のみなさまにお礼申し上げます。お連れ合いさんからは、いろいろあったけど、最期は安らかな関係で栗原さんを見送ることができたと聞き、少しホッとしました。本当にありがとうございました。
最後に、栗原さんが愛したフランスのプロテストシンガー、ジョルジュ・ムスタキの「名前も告げずに」からの一節を紹介して終わります。この歌はストライキに立ち上がった女性労働者を歌ったものと言われています。訳は栗原学さんです。
私は名もなき彼女について語ろう
忠実に仕えるものを持たない愛されるべき彼女を
生命力そのもの のような彼女が起ち上がる
太陽の下で歌う日々に向けて
私は名もなき彼女について語ろう
愛について、愛する人の苦痛について、彼女は忠実なのだ
そして、もし君が紹介されることを望むなら
君は「永続革命」と呼ばれるだろう
学さん、お疲れさまでした。
2021年5月10日
稲垣 豊
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