5.28石巻市民が東北電力を提訴

女川原発再稼働やめろ
住民の疑問に応えよ!

 【宮城】「実効性が欠けている避難計画のもとで女川原発を再稼働させてはならない!」と石巻市民17人が東北電力を相手取り、女川原発2号機の再稼働差止めを求めて5月28日、仙台地裁に提訴した。避難計画を争点にした訴訟は全国初である。原告団は、一昨年、宮城県知事、石巻市長を相手取りいわゆる「地元同意」について「女川原発再稼働同意差止め仮処分申立」を起こした債権者が中心。
 昨年の仙台高裁の同意差止め仮処分では、実効性が欠けている避難計画についての債権者側(石巻市民)の主張に対して、債務者側である宮城県と石巻市は、実効性は争点ではないと認否を拒否し、実効性について一切審議されない中で、裁判所もそれを認めて、棄却決定を下した。
 その内容は、「避難計画には課題が残っている」としつつ、「住民の生命、身体の被害の危険は、あくまでも東北電力が女川原発2号機の再稼働をすることを直接の原因として生ずる危険であって、宮城県や石巻市の行為を直接の原因として生ずる危険ではない」いわゆる「同意と再稼働は同一視できない」という判断であった。「地元同意は再稼働のスイッチになる」のは明らかなのにである。
 原告団は、「住民の生命等への被害の危険は、東北電力が再稼働することが原因」とするこの仙台高裁の決定を逆手にとり、今回の提訴となったと話している。更に、今年の3月18日に出された避難計画の不備ななかでの東海第2原発再稼働を認めない水戸地裁判決にも勇気をもらい後押しされての提訴となった。

避難計画の
実効性問う


 仙台高裁の棄却決定は「避難計画には課題が残っている」と指摘している。原告団は、それを受けて訴えのなかで、実効性が欠けている10項目の理由をあげている。
 第1の理由は、「交通渋滞で30㎞圏内を脱出できず、避難所にもたどり着けないこと」これは、福島第一原発事故でも明らかになったことであるし、原告団の現地調査や宮城県が実施した「阻害要因調査」でも明確化したことである。 第2の理由は、「複合災害の時、受け入れ先に拒否された場合の二次避難場所が指定されない計画になっていること」複合災害を全く想定していない計画になっているのである。
 第3の理由は、「バスの確保と手配ができないこと」宮城県とバス協会でバス確保の責任があいまいなままであること、渋滞との関係も含めて運転手の確保と運転時間も考慮されていないのだ。
 第4の理由は、「病院、高齢者施設、障がい者施設の入院患者・入居者の避難が困難であること」。
 第5に「市の行政機能の移転先(代替施設)が確保されていないこと」。
 第6に「オフサイトセンターが機能しないこと」。
 第7に「安定ヨウ素剤の緊急配布ができないこと」。
 第8に「女川地域原子力防災協議会が避難計画の実効性を調査・確認していないこと」。
 第9に「屋内退避で被ばくリスクを負うこと」。
 第10に「新型コロナウイルス感染防止対策がたてられていないこと」。
 これらの課題をしっかり口頭弁論のなかで審理させていくことを求めている。被告の東北電力は、避難計画の作成主体は、地元自治体であり、実効性を確保する責任も地元自治体であるとして審議から逃げる対応が想定されるが、原告団は、宮城県や石巻市にも訴訟に参加させて実効性審議を行うよう求めていくとしている。

「深層防護」の
全面化が前提


 先の水戸地裁判決は、下記の通り、避難計画の不備を理由に再稼働差止めを命じている。
 「周辺住民に対して大きなリスク源となる原発がリスクの顕在化を防いで安全性を確保するための方策として深層防護の考え方が適用され、IAEAは第1層から第5層までの防護レベルによる深層防護の考えを採用している。我が国でも、原発施設内の安全対策を規定した第1層から第4層(原子力規制法に基づく設置許可基準規則等)、避難計画等の第5層の安全対策(災害対策基本法、原子力災害対策特措法)によって原発の安全性を図るものとしている。
 我が国における原発の安全性は、深層防護第1層から第5層の防護レベルの確保を図るものとされていることから、第5層が欠落している場合は、安全であるといえず、周辺住民の生命、身体が害される具体的危険性があるというべきである」(一部抜粋)。
 再稼働は、第1層から第5層まで整備されて初めて認められるものであり、東北電力が「整備主体が地元自治体である」という理由で第5層を不要とする主張はできない。

「避難計画」に
しぼった裁判


 「これまでの原発訴訟は専門家同士の論争が濃く、争点が難解だった。今回は、住民の身近な避難計画に絞ったことで住民一人一人が問題を『自分ごと』として考えるきかっけになる効果も期待できる」と地元紙が訴訟を解説している。そのような裁判として周辺住民に避難計画が明らかに実効性に欠けていることを確認してもらい、再稼働を止める足掛かりにできればと思う。
 東北電力は、2022年度以降の再稼働を目指すとしている。原告団と弁護団は、避難計画の不備に関する全ての証拠を訴状とともに提出した。追加立証の予定はなく、再稼働前に一審判決を得ることは可能だとしている。
 地元紙の原発再稼働に関するアンケート調査で県民の6割が不安を持っていると回答している。東北電力と裁判所が、住民の疑問に応える丁寧な審議と判決を示さなければ不安の払拭にならないことは明らかである。 (m)

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