2021最低賃金審議
全国一律1500円/時 一刻も早く
低賃金依存の経済構造転換を
(「宮城全労協ニュース」より)
コロナ禍が日本に広がる貧困と格差をより一層明確にする中で、最低賃金の問題がさらに重要さを増している。中央最賃審議開始と平行して宮城全労協は6月15日、宮城労働局長に対して2021年最賃審議について要請文を送付した。以下にこの送付に関わる宮城全労協ニュース記事を掲載する。(「かけはし」編集部)
政府は6月18日、ことしの「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2021)を閣議決定しました。最賃改定額について「より早期に全国加重平均1000円とすることを目指し、本年の引上げに取り組む」と記述されています(*参考1)。
これは菅首相が昨年秋以降、経済財政諮問会議などで発言してきたことの繰り返しです。「より早期」の時期を明示しておらず、新型コロナウイルス感染拡大による影響が地方の最賃審議に与える影響についても踏み込んではいません。「中小企業政策」をめぐる成長戦略会議での論戦についても触れられていません。
方針は「我が国では労働分配率は長年にわたり低下傾向」「更に感染症の影響で賃金格差が広がる」ことを指摘し、「格差是正には最低賃金の引上げが不可欠」だと述べています。
しかし、一方、「感染症の影響を受けて厳しい業況の企業に配慮」「雇用維持との両立を図りながら賃上げしやすい環境を整備するため、生産性向上等に取り組む中小企業への支援強化」「下請取引の適正化」「金融支援等」に一層取り組みつつ、「感染症下でも最低賃金を引き上げてきた諸外国の取組も参考」「感染症拡大前に我が国で引き上げてきた実績を踏まえ」「地域間格差にも配慮しながら」と、様々な条件や論点が並べられています。
また、全国一律最賃制への要求が広がっているにもかかわらず、中央最賃審議会で議論が始まっている「目安制度の在り方」についての言及もありません(*参考2)。
これらの問題点について中央審議会の動向に注目し、地方審議への取り組みを進めることが必要です。
中央最賃審議会では次回22日、地域別最賃改正の諮問が行われます。「最低賃金大幅引き上げキャンペーン」はホームページで政府、最賃審議会の動きと各地の取り組みを紹介しています。その3月アピールを参考資料として掲載します(*資料)。
宮城労働局長への要請/2021年6月15日/宮城全労協
「最低賃金改定(2021年)の審議にあたっての要請」
新型コロナウイルス感染症は国内で四つの大きな波が経過し、行方が見通せない状況が続いています。労働者への深刻な影響が長期化しており、労働行政の重要性は各分野で高まっています。
2021春闘にあたって全国一般全国協議会・宮城合同労働組合及び宮城全労協は4月5日、四項目(新型コロナウイルス感染症、最低賃金、均等待遇、無期転換)の申し入れを行い、同23日には議論の場が設定されました。申し入れと議論を踏まえ、2021最賃審議にあたって以下を要請します。
昨年、いわゆる「エッセンシャルワーカー」たちが「コロナ禍」の本質を鋭く問いかけていました。「三密回避」や「リモートワーク」といった感染対策が困難な労働者たちが社会の様々な場で人々の生活を支えており、しかも多くが低賃金で不安定な雇用条件のもとに置かれているという現実です。また各地で外国人労働者たち、技能実習生たちの苦境が伝えられていました。そのような労働者の生活を支えるために、また感謝と連帯を示すためにも最低賃金の大幅な引き上げが求められていました。
しかし、政府は事実上の「最賃凍結」「据え置き」方針を打ち出し、中央審議会では「目安」額を示すことができず、地方審議に委ねられることになりました。宮城県をはじめ40の県で引き上げが決定されましたが、それは最賃引き上げが地域経済社会の維持・発展に必要という視点が広く受け入れられてきたことを示しています。しかし、その額は1円から3円(時間)であり、改定額は全国加重平均で1円増の902円にとどまりました。大都市圏と地方との最賃格差も広がりました。地域の低賃金労働者たちからは大きな落胆が報告されています。政府の姿勢は厳しく批判されねばなりません。
現在、中央最賃審議会では「目安制度」の5年ごとの見直しに向けた議論が始まっています。大都市圏と地方との格差是正が懸案となってきたにもかかわらず、現行制度のもとで最賃改定額の差は拡大の一途をたどり、地方からの人口流出など社会的な問題が深刻化しています。「ランク」の見直し議論に終始せず、全国一律最賃制に踏み切るべきです。
菅新首相は就任以来、最低賃金額を引き上げる考えを明らかにし、「年率3%程度」に言及しました。直近の第8回経済財政諮問会議では「新型コロナによって広がった格差を是正するためにも、より早期に全国加重平均1000円とすることを目指し、本年の引上げに取り組む」と述べました。経団連の中西会長(当時)は春闘にあたって、「首相から賃上げのモメンタム(勢い)を維持してほしいと言われる(12月経済財政諮問会議)前から、危機感を持っている」と発言しています。政府、大企業は今年こそ、最賃大幅引き上げへの責任を果たさねばなりません。
一方、首相の肝いりとされる「成長戦略会議」では中小企業政策をめぐって対立があると報じられています。最低賃金の動向が中小企業の「淘汰」「再編」の材料に使われるのではないか。そのような疑念に政府は答える必要があります。さらに最賃引き上げにあたって、これまでの政策を検証し、中小・零細企業に対する効力ある支援策が実行されねばなりません。すでに「社会保険料の事業主負担部分の免除・軽減」など具体的な提言が行われています(日弁連会長声明「低賃金労働者の生活を支え、コロナ禍の地域経済を活性化させるために最低賃金額の引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明」2021年5月14日)
コロナ禍では昨春以降、労働法制の枠外に置かれる「個人事業者」たちが「自粛」や「休業」に直撃され、「フリーランス」の不安定で無権利な実態がクローズアップされてきました。いま雇用破壊が広がるなかで、スマホ・アプリを通して契約する「ギグワーカー」が急速に増加しています。〈ネットで仕事を請け負う「ギグ・エコノミー」の働き手〉に対する企業の責任が問われており、今年2月、英国のウーバー運転手に関して「最低賃金を保障、労働者扱いに」と大きく報じられました。菅政府は「人への投資の強化」として「フリーランスが安心して働ける環境をつくるための法整備を検討」するとしています(成長戦略会議、6月2日)。しかし、政府・経団連が進める「働き方の多様化」は不安定・低賃金労働を促進するものであり、議論の見直しが必要です。
以下、2021最賃改定審議への要請とします。
①「コロナ禍」は不安定・低賃金労働者をますます苦しめており、最低賃金の大幅な引き上げが求められている。「時給1千円」(全国加重平均)を実現し、早期に1500円をめざすこと。
②「目安制度」の見直しにとどまらず、全国一律最賃制を導入すること。
③現行では最低賃金の対象外とされている「ギグワーカー」「フリーランス」に適用を拡大すること。
④政府、行政、大企業は中小企業、地元企業、関連・下請け企業に対して「実効性のある最賃引き上げ支援」を行うこと。(以上)
資料/「全国キャンペーンの呼びかけ」2021.3.3/抜粋
最低賃金大幅引き上げキャンペーン委員会
「コロナ禍だからこそ、最低賃金大幅引き上げを!
時給1500円、全国一律最賃制をめざそう!」
新型コロナウイルス感染症の蔓延がおさまりません。解雇・雇止めが9万人を超えました。休業者も420万人といわれています。特に、パート・アルバイトで働く女性、非正規労働者は、休業手当も受け取れず、受けとったとしても元々の賃金が低いため、苦しい生活を続けている人たちがたくさんいます。
日本の最低賃金は低すぎます。昨年の地域最低賃金の改定は、コロナ禍を理由に時給で0円から3円に止まりました。全国平均は時給902円、最高は1013円、最低は792円です。時給792円で年間1800時間を働いても、年収は142万円ほどにしかなりません。この低水準がダブルワークや残業など長時間労働の原因になっています。このような水準では「人間らしい暮らし」ができるはずもありません。
コロナ禍だからこそ最低賃金の大幅引き上げが必要です。イギリスやアメリカでは、コロナ対策の一環として、最低賃金の引き上げが行われています。
コロナによって貧富の格差が拡大しています。最低賃金の地域間格差も問題です。東京と秋田、沖縄などとの時給格差は221円です。年間40万円もの格差となります。いま、東京一極集中が見直され、地域の活性化が叫ばれています。最低賃金を全国一律制にして地域に良質な雇用を作り出す必要があります。日本は全国一律制をとっていない世界でも稀な国です。
「コロナ禍だから会社も大変だ。賃金も上げられない」という声があります。日本の労働者の賃金は先進諸国の中で唯一低下を続けています。それでもこの間、最低賃金の引き上げは低賃金で働く労働者の賃金を押し上げてきました。最低賃金引き上げの影響率は、2008年には2.7%でしたが2019年には 16・3%に上昇しています。また、最低賃金の大幅な引き上げのためには、中小零細企業への有効な支援策も必要になっています。
今こそ、人間らしい「8時間働けば生活できる最低賃金」を求めていこうではありませんか。私たちの声が届く最低賃金の決め方を実現しようではありませんか。最低賃金の引き上げは労働組合やナショナルセンターの違いを超えたすべての働く人の要求です。多くの人の共感・賛同を力にして「コロナ禍だからこそ、最低賃金の大幅引き上げを!全国一律時給1500円をめざして」をスローガンに全国各地で行動を展開することを訴えます。
最低賃金の大幅引き上げを本気で勝ち取りましょう!
2021年3月3日
連絡先:下町ユニオン/生協労連/全国一般全国協議会/郵政産業労働者ユニオン
(*参考1)
「骨太の方針」では、「内外の変化を捉え、構造改革を戦略的に進め、ポストコロナの持続的な成長基盤を作る」ことが強調され、その成長を生み出す「4つの原動力の推進」があげられています。「グリーン・デジタル・地方・子ども」の4つの柱として事前に報道されてきたものです。
・グリーン社会の実現
・官民挙げたデジタル化の加速
・日本全体を元気にする活力ある地方創り
・少子化の克服、子供を産み育てやすい社会の実現
〈最低賃金〉は三番目の「地方創り(~新たな地方創生の展開と分散型国づくり)」に記載された以下の項目の一つ「賃上げを通じた経済の底上げ」の中で取り上げられています。
〇地方への新たな人の流れの促進
〇活力ある中堅・中小企業・小規模事業者の創出
〇賃上げを通じた経済の底上げ
〇観光・インバウンドの再生
〇輸出を始めとした農林水産業の成長産業化
〇スポーツ・文化芸術の振興
〇スマートシティを軸にした多核連携の加速
〇分散型国づくりと個性を活かした地域づくり
(*参考2)厚労省ホームページから抜粋引用
◆第59回中央最低賃金審議会(5・26、オンライン会議)の開催について
目安制度の在り方については、平成7年4月28日の目安制度のあり方に関する全員協議会報告において、今後概ね5年ごとに見直しを行い、その見直しの際にランク区分について見直しを行うことが適当であるとされているところであり、平成29年3月の前回報告でもその旨とりまとめられたところです。
これを踏まえて、目安制度の在り方に関する検討を進めていくため、目安制度の在り方に関する全員協議会の設置等について議論する予定です。
なお、本協議会は、毎年度の地域別最低賃金額の目安について議論する目安に関する小委員会とは異なるものです。
◆目安制度の在り方に関する検討の進め方について(案)
(前文略)これを踏まえて、できる限り目安制度の改善を図るという観点から、以下のように目安制度の在り方に関する検討を進めていくこととする。
1 検討すべきものとして考えられる事項
(1) ランク区分について
(2) その他労使の意見に基づくもの等
2 検討体制及び期間
(1) 検討体制
目安制度の在り方に関する全員協議会(仮称)で検討する。
(2) 検討期間
令和3年度中にとりまとめを目指して検討を進める。
■以上/宮城全労協ニュース第359号(電子版)/2021年6月20日
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