7.30ふるさとをかえせ 福島原発訴訟判決

国と東電に賠償命令
さらに注目と支援を
福島地裁郡山支部

 【福島】午後3時には判決が下されたが、「勝訴」「国と東電を断罪」「被曝慰謝料を認める」「原状回復へ前進」と書かれた旗出しには間があった。原告団及び弁護団の中で判決をどう評価し表現するのかに時間が必要だったのだろう。
 7月30日、福島地裁郡山支部は、福島原発事故で今なお帰還困難区域となっている浪江町津島地区の住民640人による国と東電に地域の空間放射線量を事故前の水準に戻す原状回復や慰謝料の支払いなどを求めた集団訴訟に判決を下した。国と東電の責任を認め、総額10億4千万円(621人に150万円、13人に120万円、居住実態のない6人は却下)を支払うように命じたが、しかし訴えの本旨である原状回復請求は退けた。

予見できた津波、対策怠った東電と国に責任


 判決は、2002年の国の地震研究推進本部が示した地震予測長期評価により「原発敷地高を越える津波を予見できた」「06年には福島第一原発の津波に対する脆弱性を認識できた」ので国が東電に対策を命じていれば津波の影響は軽減され事故は回避できたのに東電に規制権限を行使しなかったのは「著しく合理性を欠き違法」と判断、国と東電に同等の責任を認めた。東電元幹部3人の刑事訴訟の争点でもある「地震予測長期評価」への信頼性を認め、国と東電が津波対策を怠ったための事故であると認定する判決が、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟の仙台高裁での控訴審 (2020年9月)をはじめ民事訴訟で重ねられてきたが、本裁判でも同様の判決となった。

原状回復は却下―国・東電は放射性物質を支配管理していない


 原告団の訴えの主軸は「ふるさとを返せ!放射能汚染の除去による原状回復」であり、津島地区の「空間放射線量を事故前の水準まで低下させる義務が国と東電にはあることの確認」と故郷をとり戻すために「一般人の被ばく線量限度とされる0・23μシーベルト/hまで下げること」を求めるものであった。
 しかし、判決は、「個人の土地所有権と人格権が及ぶ範囲の放射性物質の除去を求める権利は認めうるが、入り会い的な権利、不法行為に基づく権利に基づく請求権は、放射性物質の除去等を求める請求権が発生することを認めうる権利であるとは言えない」として却下した。「個々人の権利から、それぞれの所有地や居住地の範囲にとどまらず津島地域全域からの除去を求めることはできない」「所有地や居住地の範囲についても、国や東電が放射性物質を現在も支配管理しているとは認められないから、請求を認める要件を満たしていない」「国と東電がなすべき作為(除染方法)義務が特定されているとはいえず不適法」というのだ。
 後段の論理は、二本松市のゴルフ場が放射能汚染されたので東京電力に除染を求めたことに対し2016年に東京地裁が却下したいわゆる「無主物」判決―原発事故を起こして大気中と海水中に放出された放射性物質は、所有者が存在しない「無主物」という定義―を踏襲したものだ。

 足がかりも与えられている

 この点について、裁判報告集会と記者会見で山田弁護士は次のように述べた。「判決は、放出された放射性物質は国と東電の支配管理下ではなくなっている。自然由来と事故由来の放射能を区別して除去するよう請求権を認めることができないという判断です。大量のごみが不法投棄されている場所に新たなごみを捨てた人がいても、地権者はその人に原状回復しろと言っても、その人が捨てたごみがどれなのか特定できないと回収できない、支配権が及ばないという趣旨だが、どう見ても理不尽な論理です」
 「しかし少なくとも原告が所有している、人格権がおよぶ範囲については請求権が発生し得るのであれば、放射性物質の特定というところをクリアすれば原状回復も認められるという足がかりを与えてくれたと考えています」と旗出しでの「原状回復へ前進」という表現の理由を示した。国や東電の手前勝手な開き直りには怒りを禁じえないが、足がかりとなる判決内容を活用し前進すべきとの態度である。
 原告団長の今野秀則さんは、「当初から掲げてきた原状回復請求が認められなかったのは正直残念です。この10年間、避難地で生活を送らざるを得なかった。それは仮の生活で自分の居場所ではないと思いながらの日々だった。本来の場所で私たちは生活したいのです」と気持ちを吐露、さらに「自然とともに生きてきた生活が根こそぎ奪われた。悔しいが次につなげていく」等、原告の皆さんの多くが複雑な心境と決意を語られた。
 記者会見を終え片付けの途中、今野さんが「原告団、弁護団、支援の皆さん、団結してガンバロー!」と声をあげ、そこにいた原告や弁護士の皆さんがさみだれ的に呼応して拳を振り上げたのが印象的だった。予知できた津波対策を怠ったと断罪された国や東電は控訴するだろう。闘いの舞台は、仙台高裁へと移る。津島裁判は、政府や福島県当局が喧伝する「復興」が全くの虚構であり、廃村・棄民政策が続行されていることを明らかにしてきた。7月までに集まった裁判署名は9万弱であり、控訴審に向けて支援戦線を広げていくことが必要だ。全国の皆さんに改めて、注目と支援運動への結集を呼びかける。          (N)

「ふるさとを返せ!津島住民訴訟」とは


 浪江町は、東京電力福島第一原発にほんの数キロの沿岸部から山間部にある津島地区まで東西30キロに及ぶ。津島地区は、日本テレビ系列のテレビ番組でアイドルグループ「TOKIO」が農作業を体験した「DASH村」があったところ、1956年までは津島村だった。
 この阿武隈山系のほぼ中心部に原発から出た大量の放射性物質が雪とともに降り積もった。当時、町役場にも住民にも放射線の影響が強くなっていることは知らされてはおらず、浪江町中心部の人々は、原発爆発から逃れようと中通りに向かう国道114号線を通り津島地区に避難、人口1500人ほどの山あいの集落に、一時8000人の町民が滞在した。津島住民はその人々の世話活動に懸命に取り組んだ。しかし避難民も住民も共に被曝を余儀なくされた。
約100平方キロメートルの地域の大半が、高濃度の放射能汚染のため帰還困難区域とされ、除染されたのは特定復興再生拠点のみでわずか1・6%以外はいまだに除染されずいつ帰れるか目途も立たないまま現在に至っている。住民たちは2015年、「自然溢れる環境の中、受け継がれてきた歴史や伝統、文化を大切に地域に根付いた生活に楽しみを見いだし、生きがいを感じて暮らしてきたのです。原発事故はこれらの一切を、根こそぎ奪い去りました。この不条理な事態に、私たちは身が震える憤りとふるさとへの痛切な想いを胸に、異郷で避難生活を送らざるを得ない状況にあります。私たちはふるさと津島を自らの手に取り戻すため、原告団(住民の半数、約700名)を結成して2015年9月に提訴し、国・東電の事故責任を問い、原発事故以前と同様に平穏な日常生活が送れるよう放射能汚染からの環境の回復(ふるさとを返せ)と、損害賠償を求めて闘っています。
 廃村・棄民を強いられるような事態を決して許すべきではありません。健康被害を防ぎ、これからの社会を担う若い世代を守り、地域社会を次世代に継承するためにも、同様の事故を再び引き起こし、同じ苦しみを繰り返す様なことがあってはなりません」と、住民は裁判闘争に立ち上がった。裁判は33回の公判を重ね、1月7日に結審、7月に一審判決を迎えた。今、津島では家屋解体が進む一方、国も県も帰還の見通しを示していない。
 地図から消されてはならないと必死のたたかいを進めてきた原告団と歩みを共にすべく2020年2月に「津島原発訴訟を支える会」が発足した。

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