8.6戦争あかん! ロックアクション講演会
「デジタル庁構想」とは何か
住民運動でどうはね返すか
【大阪】戦争あかん!ロックアクションが8月6日、エルおおさか南ホールで講演会を開き、60人の市民が参加した。山下けいきロックアクション共同代表が主催者あいさつをし、「デジタル庁ができることで、地方自治体は情報システムを国に合わせなければいけなくなる。いろいろな選択肢があることが民主主義だ。時代の流れだといって諦めるのはよくない」と述べた。
黒田充さん(自治体情報政策研究所代表)が、「『デジタル構想』とは何か―デジタル改革関連法で、私たちの暮らしはどうなる―」と題して講演をした(要旨別掲)。
質疑応答のいくつかを紹介する。
【菅内閣に圧力がどこから?】中国を見ている財界には焦りがあるのだろう。たまたま菅がスローガンをあげたので、それに便乗した。
【市民運動の役割とは?】自分の所属自治体がどのレベルなのか調べること。いずれ行われる国からの勧告に抗するためには、市民運動の力が決定的だ。
【教育分野では何が問題に?】プロファイリングにとって教育分野は、個人の成績などとても重要だが、私はまだ研究できていない。
【マイナカードが普及しない理由は?】今のところそれほど役に立たないからだ。健康保険証にとってかわったら、あっという間に広がる。
【政府が進めようとしていることは、地方自治法に違反していないか】異議申し立てても仕方がないというムードに任せない運動が必要だ。住民運動で、どんな運動があり得るのか考えよう。 (T・T)
黒田充さんの講演から
「監視社会」の中で基本的人権守りぬく
政府財界の
もくろみは
入手した個人情報をAIで分析し、パターン(Aの属性を持つ者はBをする確率が高い)をみつけ出す。次に、個人情報をかき集め、AIでプロファイリングを行い、見つけたパターンに基づき選別する(Aの属性を持つ者を探し出す)。選別で得た層(Aの属性を持つ者)にターゲットを絞り働きかけ(宣伝・誘導・制限・排除…)をする。これで効率的に利益が得られリスクが回避できる。自公政権とそのスポンサーである経済界は、このような仕掛けで儲かることを理解した。
誰の個人情報か確実に特定でき、かつ、内容が正確な個人情報を最も多く持っているのはそれは市町村である。何としても市町村から個人情報を吐き出させ、利用したい。そのような目的でデジタル改革関連法がつくられ成立した。
プロファイリ
ングについて
プロファイリングとは、対象者に関するさまざまな個人情報をあつめて、その人物像をコンピューター上に仮想的につくり出すこと。そうすることで、対象者の将来予測やリスク評価が可能となり、特定の基準に従って評価・選別・分類・等級化を行い、誘導・制限・排除・優遇が可能になる。
プロファイリングは、今、最も重要な言葉の一つである。より正確なプロファイリングには、より多くの個人情報が必要である。さまざまなサービスを通して情報が収集されている。クレジットカードによる購買情報、ICカードやETCカードによる移動情報、ATMを通した出金情報、監視カメラによる行動情報、インターネットによるメール情報、健康保険による診療情報、住民登録簿や戸籍情報などだ。プロファイリングは本人が知ることなく合法的に利用され始めている。プロファイリングを効率的に行うには、個人情報が誰のものかを示すIDが必要である。
プロファイリングは人間を介することなく、一般にAIが行うが、それが持つ限界性によって、「決めつけ」による選別や排除が行われ、人権侵害が引き起こされる可能性がある。
この「決めつけ」による間違った人物像が昨年度企業の就職内定時に使われ、大きな問題を引き起こした(リクナビ)。保育所の入所判定にAIが使われる場合、学習データに誤りがあれば、AIも偏ったり誤ったりする。そのとき、なぜそう判断したのかが、ブラックボックス化して誰にもわからなくなる可能性もある。
権利擁護の
あり方・EU
政府・財界はデジタル化された監視の先進国である中国に対する憧れがある。中国では、キャッシュレス決済サービス「アリペイ」を展開するアリババグループによる「信用スコア」がよく普及している。このスコアはアリペイの使用状況や返済履歴のほか、学歴や職歴、資産、交友関係、買い物などの日常行動や犯罪歴などをすべて点数化している。高得点者は借家・ホテル・レンタカー等の保証金が不要、融資を受けるのが容易になる。点数が低いと、就職や婚活などで差別的な扱いを受ける。しかし、スコアの算出の仕組みは非公開のブラックボックスである。
中国では、顔認識技術も日常に浸透していて、市民の間では欧米の市民的自由より功利主義が重視され、安心・安全・便利として監視は受け入れられており、国民の多くは疑問を持たない。新疆ウイグルやチベット、香港の問題があるが、隠蔽により問題にはなっていない。
一方、EUでは2016年、「一般データ保護規則」が制定され、加盟国全てに適用されることになった。プロファイリングされない権利が明記され、本人の同意が必要となった。ドイツでは、マイナンバーのような共通背番号制度だけでなく、国勢調査さえ憲法違反とされる。欧米では、公的機関による監視カメラや顔認識技術の利用への異議申し立てや利用規制が進んでいる。
日本はどこに
進むのか?
片山さつきが2019年安倍政権で地方創生担当大臣だったとき、中国政府と地方創生に関する協力強化の覚書を交わしている。先行する中国と連携することで実現に弾みをつける狙いがある、とNHKニュースは報じた。個人情報保護の議論も、情報漏洩や不正アクセスというセキュリティの話にとどまっている。個人情報保護法の改正にも、プロファイリングされない権利はうたわれておらず、デジタル化社会形成基本法にも「個人情報保護」の文言すらなく、情報活用一辺倒になっている。大阪メトロは顔認証を用いた次世代改札機の実証実験を実施(2019年12月)し、24年までに133の全駅に設置の予定だという。
マイナンバー
制度について
マイナンバー制度はできたが、マイナンバーカードは普及していない。日本のこの制度は失敗したという見方があるが、この見方は正しくない。2013年の番号法に基づいて、2015年に住民登録のあるすべての者(国民と在留外国人)にマイナンバーが付番されている。2016年以降、行政機関(市役所、税務署、年金機構、健保組合、ハローワーク)が順次利用を開始し、マイナンバーカードを希望者に交付している。
マイナンバー制度は、国税庁の長年の悲願であった納税背番号制度を上乗せすることで、社会保障、税務番号制度として2016年に実現した。紐つけられているのは、年金、健康保険、所得税、雇用保険、ワクチン接種の情報と、市町村の住民票と紐つけられているすべての個人情報(住民票、固定資産税、軽自動車税、福祉給付、生活保護、教育関係)だ。戸籍情報を紐つけるための住基法、番号法、戸籍法改正はすでに終わっている。ただし、紐つけられるのはマイナンバーがついている人だけ。付番前の死者にまで遡ることは出来ない。相続手続きには不十分。だから、戸籍情報をやりとりするためのネットワークを新たに構築する必要があると考えられている。これからの焦点は医療分野の識別子とマイナンバーとの関係がどうなるかということだ。
マイナンバーカードの交付枚数は、現在4344万枚だ。このカードによって提供されているサービスの多くは、カードのICチップに記載される公的個人認証の電子証明書だ。電子証明書には発行番号が付番されている。発行番号は、カードの保有者と1対1の関係にある。マイナンバーカードを保険証化した後、従来の保険証を廃止したら、マイナンバーカードは一気に拡大するだろう。マイナンバー制度は失敗したというのは間違いだ。住民一人一人に背番号が付されているというところが基本だからだ。
デジタル改革
関連法は?
ITにもデジタルにも何の知見も関心も持たなかった菅氏が、2020年9月の首相就任に当たって突然デジタル化を目玉政策としてぶち上げた。2001年に設置されたIT総合戦略本部。同本部の会合は安倍政権下の2020年7月以降は開かれていないが、同本部はデジタル庁に取って換えられる。
同法案は、デジタル化社会形成基本法・デジタル庁設置法・関係法律の整備に関する法律・公的給付等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律・預貯金者の意志に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理法・地方公共団体情報システムの標準化に関する法律という6つの法律を束ねた関連法案で、5月12日に成立した。その直後の6月15日、デジタル改革関連法を具体化する重点計画が閣議決定された。
安倍政権下で、デジタル庁のような組織の必要性が論議された形跡はない。その必要性が出てくるのは、平井氏が中心になってまとめた「デジタル・ニッポン―コロナ時代のデジタル田園都市国家構想―」(20年6月)だ。デジタル庁にはデジタル大臣とデジタル監を置き、総理大臣を議長とするデジタル社会推進会議を置く。ところが、この法律が成立する前の昨年9月30日に、準備室がつくられ、室長に平井デジタル改革相が就任し、民間から人材募集を開始した。
関係法律の整備では、個人情報保護法の改正が含まれ、社会保障と税の分野の32の国家資格をマイナンバーと紐つけする。ただし、そのためには本人からマイナンバーを届けてもらう必要がある。
自治体は、国が整備するガバメントクラウドに載せられた標準システムを利用することになる。これへの移行は、2025年に完了の予定だ。そして、これらの技術的な実験場になるのがスーパーシティだ。スーパーシティについては、「国家戦略特別区域法が20年5月に成立している。内閣府はこの特区の指定を受けたい自治体を公募し、今年4月16日に締め切ったが、応募したのは31自治体。国はそのうち5カ所を指定するようだ。この特区では、個人情報の収集にマイナンバーが活用される可能性がある。内閣府は、事例の一つとして中国杭州市がアリババ系列会社と連携し、交通違反や渋滞対策にカメラ映像のAI分析を活用していることを紹介している。
これからやっ
てくる社会
やってくるのは,戦前の特高警察やナチスが支配したような社会ではく、分相応に暮らせば、安全・安心・快適・清潔・便利を感じられる明るい「幸せな監視社会」なのである。マイナンバーを含む住民登録や戸籍、所得、国保などの情報を、マイナンバー制度のシステムに提供することになる市区町村の役割は極めて大きい。その市区町村は、政府が進めるデジタル化を押しとどめるという点でも極めて大きい役割を持っている。「情報が漏れたら怖い」のレベルにとどまっていてはいけない。まずデジタル化に関心を持ち、政府の施策や大企業の思惑を正しく知り、何が問題なのかを理解することから始めよう。自治体や地域レベルでのデジタル化の実態を具体的につかむことが必要だ。
デジタル化は人類社会の発展方向から考えれば避けて通れない課題である。基本的人権を「監視」からどう守るのか、「監視」をどうコントロールするか、グローバル企業の横暴から市民や社会をどう守るか。情報通信技術を民主主義の発展・国民生活の向上・社会保障の拡充・基本的人権の擁護にどう活かすか。市民運動の力が決定的に重要である。
週刊かけはし
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