沖縄報告 沖縄防衛局が大浦湾のN2護岸工事着工(2021年9月6日発行)

政府は埋立工事を中止しろ

沖縄 K・S 8月29日

9月1日を忘れてはならない

 過去に目を閉ざす者は歴史から学ばない。今日は何があった日なのかということを常に振り返ることは、より良い未来の選択につながっていく。
 9月1日。1923年のこの日、マグニチュード7・9の巨大地震が東京・神奈川を中心とした関東地方を襲い、10万棟以上が倒壊、猛烈な火災と共に、10万人以上の死者・行方不明者を生み出した。その際、「朝鮮人が放火した」「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」「朝鮮人が爆弾を持って襲ってくる」などのデマが拡散し、軍・警・自警団によって朝鮮人・中国人・労組活動家が殺される事件が各地で起こった。
 関東一円でどういうことが起こったのか。加藤直樹『九月、東京の路上で―1923年関東大震災、ジェノサイドの残響』(ころから、2014年)に目を通していただきたい。本書では、浦安で「日本語がうまくしゃべれず殺された」沖縄県人がいたことが紹介されている。数千人に及ぶという朝鮮人・中国人・労組活動家の殺害で、自警団の何人かは逮捕・起訴され、有罪判決を受けたが、大半の殺人は不問に付されたままだ。年月が過ぎたからと言って水に流していい問題ではなく、きちんとした真相究明が必要だ。
 琉球新報2021年8月24日付の小さなコラムに、328年前、米国マサチューセッツ州の魔女裁判で無実の死刑判決を受けた22歳の女性の名誉回復のための法案を、州の中学生たちが作成し議会に提出し可決の見込みだという記事が載っていた。人の命と尊厳に関わる誤った裁判・行政は何年たっても、真相を究明し誤りを正すべきだという見本ではないか。
 ひるがえって日本はどうか。歴代の多くの首相や都知事は、日本による過去の植民地支配と暴力、排外主義と蔑視を率直に認めようとしない。そうすると、それが日本という国の公式の見解として定着していくことになる。問題の所在は国会と政府だ。自公政権にとどめを刺し、日本の国の在り方を根本的に変えなければならない。

日本政府によるなりふり構わぬ埋立工事
 
 沖縄防衛局は8月27日、大浦湾側のN(中仕切り)2護岸造成工事をはじめた。護岸の長さは250m。K8護岸やK9護岸同様に、土砂陸揚げに利用するものと言われている。N2護岸予定水域には大型サンゴの群体が生息しているが、沖縄防衛局は身内の有識者会議「環境監視等委員会」で「サンゴの移植をせず工事をはじめても問題ない」との見解を得たとして、工事開始を合理化した。菅政権は、広範囲の軟弱地盤の存在が埋立の不適を明らかにし、県の変更申請不許可が予想されるにも関わらず、国家権力の金と暴力を頼みに埋立工事を強行し続けている。
 サンゴ移植をめぐる7月6日の最高裁判決のあと、沖縄県の玉城知事は「じくじたる思いがある」としながらも、「司法の最終判断が示された以上、行政である県は、農水相の是正の指示に従い、サンゴ移植を許可する必要がある」として、7月28日、沖縄防衛局が申請していた約4万群体のサンゴ特別採捕を許可した。但し、①水温の高い時期、サンゴの繁殖期、台風時期を避ける、②移植後の1週間に1回の経過観察と県への報告、との条件を付していた。
 ところが、沖縄防衛局は翌29日、県の付した条件を無視してサンゴ移植を開始した。あつかましいと言うほかない。防衛局は辺野古のサンゴを守る気など全くないのだ。サンゴの研究家たちは、夏場はサンゴ移植に適さないと繰り返している。3年前の7月下旬から8月初めにかけて移植されたハマサンゴは大半が死滅した。新報、タイムスの2紙も「自然無視の拙速作業」「移植条件守られず」などと強く批判した。
 沖縄県は7月31日、あまりにも露骨な沖縄防衛局のサンゴ移植強行に対し、「移植条件が守られていない」として、許可を撤回した。すると、またもや、菅政権は同じ穴の2匹のムジナの芝居を始めたのである。8月2日、沖縄県のサンゴ移植許可の撤回に対して、防衛省は農水省に行政不服審査法に基づき審査請求と執行停止を申し入れ、農水相は8月5日、採捕許可撤回の効力を止める執行停止を認めた。沖縄の未来を左右する重大問題で、同じ政府の右手と左手の芝居のような欺瞞がまかり通っている。日本の政治の堕落としか言いようがない。
 ヘリ基地反対協の海上行動チームは、コロナ下の行動制限の中でも、週3日海に出て、監視と抗議の行動を続けている。辺野古、安和のゲート前でも監視と抗議の行動が根気強く継続している。

尖閣諸島を戦争の火種にしてはならない


 石垣市は8月23日、尖閣諸島に設置する行政標柱の完成を発表し、「八重山尖閣諸島魚釣島」「沖縄県石垣市字登野城尖閣二三九二番地」などと記されている標柱を公開した。今後、標柱設置のために、政府に尖閣諸島への上陸申請を行うという。
 他方、海上保安庁は来年度予算の概算請求で、尖閣諸島の警備強化のための大型巡視船4隻の新造、大型無人航空機導入、ヘリコプターの高性能新型への置き換え、などを盛り込んだ。海保は、東シナ海上での海上自衛隊との共同訓練や米国の沿岸警備隊との合同訓練を重ねている。
 石垣市による尖閣諸島への標柱設置の動きは、日米両国の軍事力による中国封じ込め政策のお先棒を担ぐものである。日清戦争を前後する時期と同じく、日本による一方的な尖閣領有の動きに沖縄から加担していくものに他ならない。沖縄が日本による対中国政策の手先になってはならない。
 尖閣諸島は日清戦争の後、日本が中国から奪ったものであり、日本の固有の領土ではないが、2012年の野田内閣の「尖閣国有化」宣言以来、国中が尖閣をめぐる反中国の排外主義に陥っている。日中国交回復に際して、田中角栄首相と周恩来首相が「中国侵略の賠償を放棄」するとともに「尖閣領有権問題の棚上げ」をした賢明さを想起すべきだ。
 戦争はデマから始まる。そして、一度始まってしまえば止められない。関東軍による1931年の柳条湖事件のでっちあげを契機にはじまった15年に及ぶ日中戦争を振り返れば明らかだ。戦後も、米国によるベトナム・トンキン湾事件、「フセインの核開発」を口実としたイラク戦争などもウソだった。しかも厄介なことに、排外主義のウソはその当時、国中を巻き込んでいくのである。トンキン湾事件を口実としたベトナム攻撃に対し、米国議会で反対は2人、イラク攻撃に反対したのは1人にすぎなかった。
 冷静になろう。尖閣の領有権は棚上げで良い。元々日本が中国から奪ったものなのだから。尖閣諸島を戦争の火種にしてはならない。

勝連半島のミサイル配備を中止せよ!


 「一つの中国」の建前による台湾統合の試みが中国の大国主義による誤りだということは明白である。また、香港に対する中国政府の強権支配が「国内問題」という口実で正当化されないことも明白である。しかしそれらは、中国に対抗する日米の軍事行動を正当化しない。
 日本政府は、石垣から奄美に至る琉球列島のミサイル基地化を加速化させている。防衛省は2023年をめどに、うるま市勝連半島の陸上自衛隊勝連分屯地に地対艦ミサイル(SSM)を配備する方針を固めた。沖縄防衛局はすでにうるま市に対し180人規模の配備計画を伝達した。陸上自衛隊の隊舎や火薬庫などの整備を進めている石垣でも、防衛省は来年度末、約570人に上る警備部隊と地対空・地対艦ミサイル部隊を配備する計画である。宮古の保良訓練場にもミサイル弾薬の搬入が進行中である。奄美大島・沖縄島・宮古島・石垣島を結ぶミサイル部隊の配備網が出来上がる。
 何のために? アメリカの中国封じ込め戦略のためだ。元自衛官で軍事評論家の小西誠さんは「配備するミサイルは射程200キロ程度であるので、約300キロの沖縄・宮古間を両岸からカバーできるようになる。沖縄はミサイル戦争の最前線に立たされる」と警告している。沖縄は「大東亜戦争」で本土防衛の防波堤とされたが、今また、アメリカの戦略の下で対中国の防波堤とされていく。
 琉球列島のどこにも軍事基地はいらない。米軍基地もいらないし、自衛隊基地もいらない。一切の軍事基地のない非武装の島々であることが、琉球諸島の安全と大国の軍事対立の危険の除去の道なのだ。

カヌーに対する海上保安官の暴力を許せない!
千葉和夫さんが国家賠償請求を提訴


 今年の4月15日、いつものように、辺野古埋立工事に抗議する海上行動にカヌー9艇がK8護岸に向かって漕ぎ出したとき、海保の硬質ゴムボート(GB)2艇が千葉和夫さんのカヌーにスピードを緩めることなくぶつかってきた。千葉さんの“危ない”という大声を無視して衝突してきた海保のGBによって胸を強打し船体の下に轢かれそうになった千葉さんは意識を失い、救急車で病院に運ばれた。胸部打撲・頭部座礁・頸椎損傷の重傷を負い、4カ月以上経った今も、首の痛み・頭痛などの後遺症に苦しんでいる。
 千葉さんは、体調が万全でない中、8月26日、事故後初めてカヌーに乗り辺野古の海に出た。この日は、沖縄選出国会議員の屋良朝博さん、赤嶺政賢さんなどが平和丸に乗船し、抗議船3隻とカヌー8艇が、K4護岸近くの海上からサンゴ移植工事の強行に抗議するアピールを行った。千葉さんは「久しぶりの海は新鮮で潮風が心地よい」と元気に述べている。
 ヘリ基地反対協・カヌーチームと千葉さんは、これまで海上保安庁との交渉を行ったが、海保が一切責任を認めないため、7月30日、国家賠償を求めて、那覇地裁に提訴した。第1回口頭弁論の期日は10月28日(木)午前11時30分の予定である。不屈号の船長の金井さんは「ベテランのカヌーメンバーである千葉さんは、これまで海保に3回も怪我をさせられてきた。意図的に狙っているとしか考えられない」と述べている。
 千葉さんの裁判を支援する会(共同代表 金井創/鈴木公子)がチラシを発行し、カンパを含めた裁判の支援を呼び掛けている。連絡先はEメール(chibasannosaiban@yahoo.co.jp)

2021.8.7 本部町健堅。彦山丸犠牲者を忘れないために造られた花壇。
2021.8.26 海上行動。国会議員の乗る船が2隻並んで、沖縄防衛局員、海上保安官、工事関係者、マリンセキリティなどに話しかけている。
2021.7.28 琉球セメント安和桟橋入口ゲート。
2021.3.8 海上行動。長島近くでカヌーを漕ぐ千葉和夫さん。

【訂正】かけはし8月2日号で、石原昌家さんを、琉大と記しましたが、沖国大の元教授でした。訂正し、お詫びします。

「県内市町村の中国での戦争体験記を読む(55)日本軍による戦争の赤裸々な描写」は紙面の都合で次号に掲載します。

週刊かけはし

購読料
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009  新時代社