全国一律最賃の回避は許されない(9月13日号)
「宮城最賃」に異議申し出、審議会、目安額踏襲を決定
宮城全労協ニュース/第361号/2021年8月26日
宮城最賃審議会は、中央最低賃金審議会の賃金引上げ額答申を受けて、時間額853円の答申を行った。これに対する宮城全労協の異議申し出を掲載する。(本紙編集部)
中央最低賃金審議会は「一律28円(時間額)」を引き上げ額とする目安を答申、各県での審議が続いてきた。その結果、7県(いずれも「D」ランク)で目安に対して1円から4円の増額となったほかは、宮城をはじめ目安と同額の引き上げ改定となった。
宮城最賃審議会は宮城労働局長からの諮問(6月29日)を受け、2021年の改正決定について専門部会での審議に入り、8月5日、「時間額853円」とする答申を行った。宮城全労協は宮城労働局への要請に続いて、宮城最賃審議会の答申に対する異議申出を行った(下掲資料)。
8月23日、宮城全労協を含む異議申出の検討が行われた結果、審議会は「答申どおり決定が適当」と結論づけた。
厚労省によれば全国加重平均で930円。すべての都道府県で、ようやく800円を上回った。地域間格差は昨年同様、221円。高知と沖縄が最も低くて820円、最高は東京の1041円(すべて時間額)。
政府は「昭和53年に目安制度が始まって以降最高」の目安額だと宣伝している。しかし、地域社会や低所得労働者から称賛の声が広がっているだろうか。そのような状況にはない。そもそも十分な引き上げではないし、新型コロナウイルス感染拡大のなかで希望を見出しうる額ではない。
菅政権の姿勢への疑念もつきまとっている。菅首相は確かに就任直後から最賃引き上げに触れ、経済財政諮問会議などでの議論を通して、その下地をつくってきた。今回の「一律28円」も首相の「執念」「政権維持へのこだわり」などと報じられた。しかし、昨年の安倍政権の事実上の据え置き方針を考慮すれば、今年の引き上げはコロナ禍の2年分の累積額というべきである。いわば安倍首相の抑制方針が、菅首相による「過去最大」を演出した。
しかも、最賃へのこだわりは中小企業政策、地域産業・雇用政策と一貫性があるのか、首相は説明していない。「中小企業の再編淘汰」に最賃が利用されているのではないか。菅政権発足以降、そのような批判が表明されてきたが、成長戦略会議での対立はどのように整理されているのか、明らかではない。日本学術会議の任命拒否でも、新型コロナ対策と東京五輪でも、説明しないことが政権運営の肝であるといわんばかりの態度である。最低賃金でもそうだ。
中小企業・小規模事業者への最賃引き上げ支援を点検し、菅政権の最賃と労働政策、「地方」政策に注目していこう。
■「引き上げ目安」よりも増額した県(いずれも「D」ランク)と答申された改定額
*カッコ内は2020年の最賃額
青森 822円(793円)
秋田 822円(792円)
山形 822円(793円)
鳥取 821円(792円)
島根 824円(792円)
佐賀 821円(792円)
大分 822円(792円)
増額は秋田と大分が2円、島根が4円、青森など4県が1円。
資料/宮城労働局長への異議申出/宮城全労協(2021年8月17日)
2021「宮城最低賃金の改正決定」(答申)への異義申出書
「1千5百円」へのステップとして「1千円」を!
中小企業への最賃引き上げ支援は政府の責任!
宮城地方最低賃金審議会の意見に関する公示(2021年8月5日)につき、宮城全労協は改正決定内容への異議を申し出ます。
宮城地方審議会は2021年の最賃改正について「1時間853円」とする答申を行いました。現行825円から28円の引き上げであり、中央審議会が示した「目安」と同額です。
私たちは先に提出した宮城労働局長への要請文(2021年6月15日)において、「1千円の実現、1千5百円の早期達成」を求めました。答申額はこれに大きく及ばず、賛同することはできません。
以下、異議の理由と見解を記します。
1.「健康で文化的な最低限度の生活」のために
2.「一律上げ」でも解消されない地域間格差/全国一律制度が必要
3.「中小企業への支援」は政府の責務/「中小企業淘汰」論は最賃引き上げの政治利用
4.広がる不安定・低賃金の「働き方」/最賃適用の対象を広げるべき
1.「健康で文化的な最低限度の生活」のために
私たちが求めた「1時間1千円」はあくまで「1千5百円」へのステップです。早期に「1千5百円」を実現することが日本の低所得労働者の切実な求めです。
「1千5百円」の要求が社会的に注目を集めたのは2015年、安倍政権下で行われた若者労働者や学生たちのデモンストレーションでした。「時給1千円では、月に154時間働いても、月額15万4千円」であり、「8時間働いても普通に暮らせないし、まして将来の生活を展望することはできない」。格差と貧困に抗議する若者たちの訴えは、「1千円」にすら遠く及ばない日本の最賃議論の抜本的な見直しをうながし、政治にも影響を与え、「早期に平均1千円」が政権目標とされるにいたりました。
今年、中央最賃審議会の引き上げ目安は「一律1時間28円」であり、全国加重平均で現行の902円から930円への引き上げとなります。
しかし、これでは最賃法がいう「健康で文化的な最低限の生活」は不可能です。
しかも、昨年、政府の引き上げ抑制方針が影響して事実上「凍結」となっており、「28円」は2年分の上げ幅だと言わねばなりません。「(現行の方式で)過去最大」だという菅首相の自画自賛が「政権浮揚のための政治主導」だと批判されたのも当然です。
2.「一律上げ」でも解消されない地域間格差/全国一律制度が必要
今年の中央審議ではランク別ではない「全国一律の目安」が注目されました。最賃の地域間格差への配慮、その解消の狙いがあったとされます。しかし、その意図にもかかわらず、この方式では現在の地域間格差(最大で221円)は固定化されることになります。
地域審議では7県が中央審議会の目安に対して1円から4円の増額を答申したと報じられています。「中審の答申では地域間格差が残る」(鹿児島審議会会長/南日本新聞)、「若者が県外流出しており、近くの広島や岡山との賃金格差を縮めたい意識も反映した」(島根の審議/河北新報)など、低くランク付けされてきた7県では一律目安からの増額が焦点であったことが読みとれます。
都市部と地方での生活費には従来思われてきたほどの差はないと、この間の調査や研究が明らかにしてきました。さらに、そもそも賃金の地域間格差の存在を前提としてはならないという認識が広がってきました。
大幅な引き上げと同時に、全国一律最賃制度の導入は喫緊の課題となっています。
3.「中小企業への支援」は政府の責務/「中小企業淘汰」論は最賃引き上げの政治利用
宮城審議会の答申では「中小企業・小規模事業者」への支援について、政府への要望とすることが述べられ、取引条件の改善や雇用調整助成金など具体策にも言及しています。
宮城全労協も上記要請で「実効性ある最賃引き上げ支援」を求めており、この内容に賛同します。
一方、私たちは上記要請において、次のように指摘しました。「首相の肝いりとされる『成長戦略会議』では中小企業政策をめぐって対立があると報じられています。最低賃金の動向が中小企業の『淘汰』『再編』の材料に使われるのではないか。そのような疑念に政府は答える必要があります。」
問題は菅首相が最賃引き上げを「主導」するポーズをとりつつ、一方でこれら「淘汰」論者を活用していることにあります。最賃引き上げを地域の中小企業政策の「道具」にしてはならないという批判が出されています。首相周辺の一部論者による「淘汰論」は最賃審議に資することにはなりません。
中小企業、小規模経営は地域経済、社会、文化にとって必要不可欠のものです。地域の歴史的な財産であり、単に生産性第一主義の評価によって存立が左右されるようなものではありません。
4.広がる不安定・低賃金の「働き方」/最賃適用の対象を広げることが必要
宮城全労協は一年前の「異議申出」において次のように指摘しました。
「(コロナ禍において)最低賃金が果たすべき役割が問われています。『エッセンシャルワーカーに報いる最賃大幅引上げを』という声は『コロナの時代』を象徴する要求です」。
「高まる感染リスクの不安をかかえてライフラインを維持するために働いている労働者の多くは、劣悪な労働条件、低賃金と不安定雇用のなかにいます。そのような労働者が正当な対価を受け、報われることが必要です。そこに背を向ける政治は厳しく批判されねばなりません」。
「2020最賃審議は「ウイズコロナ」「ポストコロナ」の新しい社会の入り口を示したと歴史に刻まれるでしょうか。地方の最低賃金審議での英断が強く期待されます」(2020年8月16日/宮城全労協)。
「エッセンシャルワーカーと最賃」の問題は、コロナ禍が突きつけた重要なテーマとして取り上げられるようになりましたが、その対応は残念ながら不十分だといわざるをえません。
この1年、コロナ格差が広がり、苦境に追いやられる労働者たちの悲鳴が地域の労働組合にも多く寄せられています。緊急避難と生活の変容は不安定・低賃金の「働き方」を広げ、マスコミも様々に問題を取り上げてきました。その象徴が「フリーランス」や「ギグワーカー」です。
このような「働き方」が急増する現実は最低賃金の対象拡大を懸案として示しており、すでに英国の例が紹介されています。しかし、今年の最賃審議は状況に間にあってはいません。
コロナ禍は最低賃金の役割と可能性を問うています。最賃審議会の問題意識と継続した取り組みが必要とされています。
(以上/2021年8月17日/宮城全労協)
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