安保によって守られた天皇制

日米安保条約の本質とは?
「世界」10月号豊下楢彦論文から

 日米安保の推進者として大きな役割を果たした人物こそ昭和天皇裕仁であったことを資料の分析を通して明らかにした学者は豊下楢彦であった。「世界」10月号の豊下論文は、天皇裕仁こそ自己保身のために日米安保に頼っていた事実を改めて論じている。(編集部)

戦後天皇制と
米軍の役割
 月刊『世界』の2021年10月号は、連合国の日本占領の終焉と日米安保条約の成立(第1次 1952年)にあたって、昭和天皇が重大な役割を果たしたという事実を再度明らかにする豊下楢彦元関西学院大学教授の論文「日米安保70年の本質」を掲載している。
 豊下氏は『安保条約の成立』(岩波新書)など一連の著作の中で、昭和天皇が1952年の日米安保条約(第一次)の成立に、直接関与した事実を明らかにしていた。それはまさに昭和天皇裕仁が、内閣を超えて自らの意思を直接米大統領に向けて働きかけていた、ということである。
 『世界』10月号の豊下論文から引用する。
 「よく知られているように昭和天皇は、一九四七年九月、米軍が事実上無期限に沖縄に駐留することを求めた『沖縄メッセージ』を米国側に送っていた。それは、『象徴天皇』を規定した新憲法が施行されてからわずか四カ月後のことである。昭和天皇にあっては、米ソ冷戦が深刻化する中で、ソ連と国内の共産勢力が手を結ぶ『間接侵略』によって天皇制の打倒がはかられるのではないか、という危機感に苛(さいな)まれていた。とすれば、憲法九条が非武装を規定している以上、天皇制の防衛は米軍に依拠する以外にはないという、きわめてリアルな情勢認識にたっていたと考えられる」。

天皇の危機感
と朝鮮戦争
 一九五〇年六月二五日に朝鮮戦争が勃発した。「北朝鮮の侵攻は昭和天皇にとっては天皇制打倒に向けた国際的な陰謀と見なされた」。
 「これを受けて昭和天皇は二六日、帰国直前のダレス(米国務長官)に『口頭メッセージ』を伝えた。そこで天皇は日米間で最終的な取り決めがなされる前に『日本の国民を真に代表』する日本人による諮問会議の設置を提案し、ダレスも『今回の旅行における最も重要な成果』と高く評した。つまり昭和天皇もダレスも、政権を率いる吉田首相を日本国民の“真の代表者”とは見做していなかった、ということであろう。ちなみにこの『口頭メッセージ』については、二〇一四年に公表された『昭和天皇実録』においても確認された」。
 朝鮮半島の戦争に対して当時の吉田首相が、日本が直接関与することについて消極的な姿勢を取っていたのに対し、昭和天皇は非常な危機感を持っていた。
 「吉田には、『大陸の政治動乱がわが島国を直接に脅かさなかったことは歴史の事実』との認識があった。したがって日本の基地提供は『主権』を維持するための日米交渉におけるカードとも位置づけられた。他方、昭和天皇にとって朝鮮戦争は天皇制の存続に直結する脅威であり、『基地の自発的なオファ』という無条件的な基地提供によって米軍が日本の防衛にあたることは絶対的な要請であった」。

天皇制護持の
ため日米安保
 「『文書メッセージ』以降、カーンとバケナムを媒介に宮中と米国側との間で『非公式チャネル』が固められていった。その成果は、日米間の一次交渉の終了を待って二月一〇日に初めて実現したダレスと昭和天皇との会見であった。ここでダレスが安保条約案について、米軍の駐留は日本側の『要請』に基づいて米国が施す『恩恵』であるとの『根本方針』を表明したのに対し、昭和天皇は『全面的な同意』を表明した」。
 「国会はもちろんのこと政権内部でもまったく議論されていない条約案について、そもそも昭和天皇はいかなる資格と責任をもって『全面的な同意』を与えたのであろうか。いずれにせよ、この交渉を終えて間もなく『全権固辞』に固執する吉田首相の立ち位置と昭和天皇のそれとは、まさに対極にあった。政権をになう吉田にとっては、現実として米軍駐留を求めざるを得ないとしても、安保条約案の内実は『主権侵害』に直接かかわる問題であった。他方、昭和天皇にとっては『無条件的な基地提供』は天皇制を防衛する生命線であった」。
 「それでは改めて、なぜ外務省は吉田の『全権固辞』と昭和天皇への内奏に関わるすべての資料を隠蔽したのであろうか。それは、これらの重要資料が『全土基地化・自由使用』という安保条約の本質問題を抉り出すであろうことを外務省が認識していたからであり、この本質は一九六〇年の安保改定を経ても今日まで貫徹している、というのが筆者の見立てである」。
 天皇制は安保によって守られ、安保を正統化する。こうした支配のあり方に立ち向かう問題意識を研ぎ澄まし、ふくらませよう。(純)

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