寄稿 2021年衆議院選挙総括私見

市民主導の国政選挙を闘って
森本 孝子

 東京・荒川区を中心に、長年にわたり市民運動の発展に尽力されてこられた森本孝子さんが、先の衆院選を闘いぬいた総括的な文章を寄せてくださった。最前線の現場の雰囲気が生き生きと綴られ、さまざまな課題も提起されている。(編集部)

はじめに

 安倍政権とそれを継いだ菅政権によって、この国の立憲主義も民主主義も、法治国家としてのありようも、無惨に破壊されてしまった9年間。今やこの国は泥船に乗っているようなものだが、このままでいいのか。政治を根本的に変えるのか。岐路に立った重要な衆議院選挙は、あっけない結果に終わってしまった。政権交代など、夢のまた夢のような結果だった。
選挙の総括については、政党はもちろん、知識人や文化人など含めていろいろ出されているが、小選挙区・東京14区で野党統一候補を応援して闘ってきたことを中心に、自分なりに振り返りたいと思う。

①衆議院選挙を迎えるにあたって


 私の居住する荒川区では、「憲法9条連絡会」を母体として、「安倍改憲NO! 全国市民アクション」につながる「荒川市民アクション」を立ち上げた。200人くらいの賛同人、10人の共同代表を置き、集会やデモを行いながら、東京都知事選、荒川区長選、東京都議会議員選と3つの大きな選挙を、この市民アクションと野党の連携で闘ってきた。
 都議選では、野党統一候補として共産党候補者を支援し活動したが、当選したのは予想に反して公明と都民ファーストの2人。当初先を行っていると言われていた自民党候補は、安倍晋三前総理や西村康稔経済再生担当大臣、そして地元の自民党松島みどり衆議院議員、さらに区長まで推薦・応援するなか苦戦を強いられ、公明党候補に敗れ落選した。
 私たちの野党統一候補も落選した。この後、すでに衆議院選挙は間近と言われていたのに、まったく動きが止まってしまった。
 国政選挙では、統一候補問題や選挙公約の共有など、越えなければならないハードルがあるということだったが、主に「政党の指示待ち」と言う側面が大きかったと思う。私は政党の指示待ちをする必要もない身で、とにかく都議選で活動した後に何もしないのはおかしいと考え、一緒に活動してきた人たちに声をかけ続けた。
 衆議院選では住居区を超えて選挙区が決められている。区割りで一緒になる墨田区で活動していたKさんと一緒に、政党指示待ちではなく、「市民が主導する活動を作ろう」と考えた。そして「週刊金曜日」に掲載された中島岳志さんの提案する「もう一隻の船を出そう」に共感し、「市民のための新しい船を! 東京14区」という名称の団体を立ち上げた。
 立候補者と協定を交わす政策を考え合い、またこの団体への賛同者を募るために要請文も考えチラシを作成。そうこうしているうちに、荒川区でもこの活動に賛同してくれる人たちが増えはじめた。準備会を経て「市民のための新しい船を! 荒川実行委員会」結成集会を開催し、ついに活動開始となった。

②14区で活動を展開する中で


 候補者の事務所も決まり、公示前の活動では駅頭街宣を数回行った。候補者を中心にしながらも20項目の立憲4野党の合意ができたことと合わせ、候補者と「新しい船」の政策協定も結び、ときには4党の旗を掲げて市民主体の街宣をした。ときには候補者中心の野党共闘街宣と、各地区独自の街宣もやりきった。終盤には荒川実行委員会として商店街を練り歩き、スーパーなど人の集まるところでの街宣も行った。
 とにかく保守的な地域で、候補者の顔や名前、政策を訴える機会を多く作ることが必要だった。その反応はなかなか良かったが、結果は、残念なものだった。
以下、具体的なデータを基に考える。

③投票率の問題


全国……55・93%(前回より少し上がったが、戦後3番目に低い)
東京……57・21%(前回から3・57%アップ)
最高は8区(61・03%)6区(60・36%)5区(60・03%)
22区(60・01%)最低は13区(50・88%)
墨田区(50・52%)荒川区(50・88%)台東区(52・77%)
★激戦だった8区が最高。新人吉田(立民)が石原破る。市民運動の盛り上がりと継続
★荒川区・墨田区の低投票率は今後の大きな問題
★著名人14人の「投票に行こう」キャンペーンの効果……18歳の投票率が大幅アップ

④当選議員数


自民261(マイナス15)公明32(プラス3)立民96(イナスマ13)共産10(−2)
維新41(+30)国民11(+3)れいわ3(+3)社民1(+−なし)
与党 293(選挙前305)
野党他172(選挙前156) ただし、維新を野党とみるかどうか
 ★14区では下の表を参照   

14区では

    人口        松島得票    木村得票   西村得票
墨田区 272,638人    55,291票   40,010票  25,271票
荒川区 217,336人    39,599票   30,609票  17,917票
台東区 212,624人14区 13,791票  10,3313票   6,329票 
          合計 108,681票   80,932票  49,517票    

   
 ★松島候補は街宣より、室内集会で支持者の引き締め図る戦術。西村候補の得票は予想以上。
 荒川では区議会議員の中で自民11、公明6の合計17人。立民1、共産6の7人の議員
 ★政党の略称として立民も国民も「民主党」としたことで、全国で「民主党」と書いて按分された票が全国で約400万票になるという問題がある。

⑤女性議員が減少


 前回より2人減。割合では9・7%。世界190か国比較では、女性議員が20%以上の国は171カ国。
 日本は論外。候補者の男女50%を目指す法律もできたのに現状は追いつかない。
 ジェンダー指数156か国中120位という低位にある問題がある。

⑥維新の躍進?


維新は前々回、50を超える議席を確保した。その後激減し今回復活か。大阪小選挙区では17区中公明が2。15区では全勝で自民は1勝もできず。立民の副代表・辻元さんも維新の新人に敗れた。維新は地方議員を大量に選出していて、その議員たちが選挙活動にフル動員された。
 地方議員は住民の要望を聞いてすぐに対応するなど、地道な活動で支持されてきた。本質的には維新は新自由主義の最たるもので、大阪でのコロナ死亡者は人口比で全国1。トリアージまで医師にさせるほど、医療崩壊が進んでしまったのは、「無駄を省く」のスローガンで病院や医師、保健所などを削減してきたことが要因。橋下元府知事もそのことは反省と言っている。今回東京で2人当選した一人の小野議員は都知事選で名を売り、今また、10月31日の当選者に対して1日しか議員実績がないにもかかわらず、100万円の文書通信交通滞在費が支給されたことを問題視している。こうした「議員特権」ともいうべきものを告発することで、支持を得ている。
 歳費は日割りで3万円なのに、100万円満額支給は改めるべき問題だろうが、野党が問題にしないことを指摘し、維新こそ野党第一党になるべきだと宣伝。右翼雑誌「Will」では、同党の共同代表である馬場議員が「立憲民主党は潰さなければならない」というタイトルの記事を書いているが、国会で公党を公然と非難する姿勢とともにどうなのか。また、「政治資金規正法」の個人への寄付はダメだが、政党や団体などにはOKという規則を利用して、維新の会に多額の金が集められているのはいかがなものだろうか。維新の背後にはアメリカのJAPAN ハンドラーの存在が噂されている。安倍元総理は改憲と言いながら少しも進めなかったが、維新は「来年の参議院の時に改憲の国民投票も同時にやる」といいと踏み込んでいる。
 アメリカの経常収支ランキング193カ国比較「2020年」によると、最悪の193位になっている。1位は中国、2位はドイツ、3位は日本。日本に対し「思いやり予算」増額も要求しているし、日本も防衛費増額を打ち出している。台湾有事を想定した日米軍事演習も行っている。「緊急事態条項」の挿入は改憲で自民の最も期待する項目だ。維新がこうした動きを加速させる役割を担わされているのではないだろうか。

⑦立憲野党と市民の共闘をどう評価するか


 メディアは盛んに立民と共産の議員数が減少したことをあげつらって、野党共闘は失敗であるかのような宣伝をしているが、そうだろうか。
 市民と野党の政策協定では20項目の合意がなされたが、選挙ではそれが十分に浸透できなかったのではないだろうか。麻生副総理がいみじくも「菅の顔では闘えない。岸田の方がいい」と言ったが、町にあふれる岸田総理のポスター「これからの日本をあなたとともに」はかなり好印象ではないだろうか。
 選挙分析の専門家によれば、無党派の人が何を基準に投票するかは「ポスターを見て」と言う人が多いそうだ。今回の選挙では総理が岸田に交代し、戦後最短という解散から選挙までの日程では、野党共闘が浸透あるいは統一候補が決まるまでの時間がなさすぎた。自民党の広報担当・平将明は、「野党共闘は怖かった」とテレビ番組で告白している。
 今回全国で統一候補調整ができたところは、小選挙区で勝利するケースが増えている。負けても僅差だ。東京の8区の闘い、神奈川3区での闘いは、自民党の大物議員を破る快挙だったが、これも統一候補ができたことが大きい。
 「立憲共産党」などと言う呼称をつけたり、共産党に対するフェイク情報を拡散したり、自民党が大きくかかわる「Dappi」なるツイッターアカウントによる誤情報の拡散。島根1区では細田博之自民党候補に対して、野党統一の「亀井亜希子」候補と読みが同じで表記が異なる「亀井彰子」という新人候補を立てた。「亀井彰子」は一度も街頭に出て宣伝もしないという有様。あらゆる手段で野党共闘を潰そうとしてきたのだ。
 小選挙区制は大いに問題だが、それが行われている以上、与党と野党の一騎打ち状況を作らなければ勝つことはできない。またメディアも含めて「政権交代選挙」と位置付けてきたが、私は、それはあまりにも無謀な目標ではなかったかと思う。私は自公議員の減少と野党議員の増加で、国会に緊張関係を作ることを目標にしていた。

⑧今後の課題と展望


 14区の選挙態勢については、市民と政党の両方が一堂に会して相談する選対会議が必要だったのではないかと思う。
 街頭宣伝などの日程や担当者について、もう少しきめ細かく事前に打ち出したかった。また、街宣では政党議員が司会をしたが、政党選挙ではないので、もっと市民の活用があると良かったなど、初めて市民と野党の共闘が行われたことで具体的な反省点も多い。
東京の中央から西部では、野党統一候補の当選がめざましかったが、14区も含めた東部では、都議選含めて、統一候補がすべて落選している。これは地域的課題として今後考えていかないといけない問題だ。また、東京小選挙区25区の立民候補に対して連合は5人の候補者を推薦や支援から外した。「共産党との共闘を進めた」ことが理由のようだ。
連合の新会長に就任した芳野友子は、「共産党との共闘はありえない」と断言しているが、連合以外の労働組合で選挙活動してくれるところも多い。14区の候補者には連合傘下ではない輸送労働組合が積極的に活動していて、10万枚の証書貼りを何と1日で成し遂げてくれたり、チラシのポスティングも4万枚行ってくれたりした。連合の態度は政党を支配下に置こうとする傲慢な態度であり許しがたい。
 保守的な色彩の強い東部地区で、どうしたら野党候補が勝てるのか。今の実態を考えると荒川区の場合、区議会議員が自民11、公明6に対して、立民1、共産6、無所属1という現状を変えることが必要だろう。再来年の地方議会選挙で野党系の議員を増やすことを、今から準備していかなくてはと思う。
 選挙は本当に大変な活動だ。具体的な事務作業などの仕事が山ほどある。公選はがきを書くこと、チラシやポスターに証紙を貼ること。街頭宣伝や宣伝カーでの情宣や練り歩き、電話かけ、チラシのポスティング。
大阪で維新が強いのは、地方議員を数多く作り、その議員が地域回りや様々な選挙活動を行っていることが大きいのだ。今の選挙制度には「公職選挙法」という与党有利としか思えないような選挙活動の縛りがある。立候補には小選挙区で300万円もかかるという、世界で珍しい制度である。小選挙区という一択では、投票しても票が生きていかない面もある。メディアもすっかり政権与党の御用機関に成り下がっている傾向があり、国民の政治に対する関心が低い問題もある。
 投票率が高い国は、幸福度も高いという傾向がある。表を参考にしてほしい。

幸福度1位フィンランド(投票率68.7%) 2位デンマーク(84.6%)
 3位スイス(45.1%) 4位アイスランド(81.2%)
 5位オランダ(81.9%) 6位ノルウェー(78.2%)
 7位スウェーデン(87.2%) 8位ルクセンブルグ(89.7%)
 9位ニュージーランド(82.2%) 10位オーストリア(91.9%)


 スイスの順位は意外だが、他の国は幸福度と投票率にかなりの相関性がある。国民にもっと政治への関心を持ってもらうにはどうしたらよいのだろうか。悩ましい。また、「選挙は権力によるガス抜き」だという人もいるだろう。しかし、その選挙で当選した議員によって国会で法案が決められ、私たちを苦しめる悪法が強行採決されてしまう。私はこのような大事な選挙の時には、活動家は持ち場の闘いを中断しても選挙運動に集中してほしいと思う。
 来年7月に行われる参議院選挙は3年ごとに半分の議員の交代である。国政に及ぼす影響は今回の衆議院選挙ほどではないにしても、それでも野党が議席を増やし、与党の勝手な行動を許さない「ねじれ」を作ることが大事だと思っている。
 一人でも多くの方が選挙活動に参加してくれることを切に願う。
(2021年12月8日記)

週刊かけはし

購読料
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009  新時代社