12.24維新の「躍進」を世界の流れから読み解く集会 大阪
欧州極右も維新も格差と分断による「絶望」を糧にして成長
右派ポピュリ
ズムの台頭
12月24日、「維新の『躍進』を世界の流れから読み解く 総選挙結果をどう考えるか」集会がエルおおさかで開かれ、105人が参加した。
この集会は、大椿ゆうこさん(元大阪9区野党統一候補・社民党副党首)と寺本勉さん(どないする大阪の未来ネット運営委員)の呼びかけで開かれたもの。総選挙結果、とりわけ維新の「躍進」を世界的な右派ポピュリズム台頭という文脈の中でとらえようとする視点での集会はおそらくはじめてであり、大きな注目を集めた。
集会は第一部から第三部までに分かれておこなわれ、それぞれで充実した報告と議論が展開された。集会の最初に、呼びかけ人を代表して、大椿さんが「総選挙の前から、世界的な流れの中で維新の問題を考える必要を感じていた」とこの集会開催に至った経過を述べた。
「貧乏人が税金
食いつぶす」
第一部では、冨田宏治さん(関西学院大学法学部教授)と菊池恵介さん(同志社大学グローバルスタディ研究科教授)による講演があり、冨田さんは「大阪における維新『躍進』─分断の固定化・組織化の観点から読み解く」、菊池さんは「欧州右派ポピュリズムの台頭」というテーマで問題提起をおこなった。
冨田さんは、「維新政治の本質は、タワーマンションのすぐ横に長屋が並存しているという、貧困と格差の拡大に直面する大阪の街を背景に、住民の間ですでに生じていた分断を、繰り返される選挙・住民投票を通じて組織化・固定化するところにある」「維新は、中堅サラリーマン層・自営者上層が持つ、負担するばかりで何の恩恵も受けないという『怒り』をポピュリスト的に煽ることで、『貧乏人が税金を食いつぶしている』という潜在的感情に形を与えた。しかし、大阪市内での維新の獲得票数の上限はほぼ65万票であり、これを上回れば維新に勝てる。そのためには得票率を上げる必要がある。それが、都構想をめぐる住民投票での2回の勝利から明らかになったことだ」と指摘した。
一方、菊池さんは、欧州右派ポピュリズム台頭の経過、その特徴と背景、極右政党の変貌について、データを示しながら説明した。(菊池さんの講演、質疑での発言は別掲参照)
スペイン・トル
コとの対比で
第二部では、スペインとトルコにおける状況についてそれぞれ報告があった。スペインについてのレポートでは、極右政党VOXについて「その源泉はフランコ独裁体制とその後の王政復活と民主化の不徹底にある。VOXの特徴は、フランコ時代からのナショナリズムの継承と地方分権の否定、移民への攻撃、伝統的な家庭のあり方の擁護とフェミニストへの攻撃にある」との指摘があった。
トルコについてのレポートでは、イスタンブール市長時代は比較的市民寄りの政策をとっていたエルドアンが、大統領就任後、とりわけクーデター未遂事件後にいかに独裁的・極右的な政治姿勢を強めていったかが報告された。
「絶望」を糧に
して伸長図る
第三部は、ここまでの問題提起、レポートを踏まえて、冨田さん、菊池さん、大椿さんをパネラーとして、パネルディスカッションがおこなわれた。まず大椿さんが実際に総選挙を戦ってみての感想として、「維新の物量と勢いはすごかった。大阪では、市民と野党の統一候補でストレートに入っていかない状況、維新政治の問題点を指摘しても、なかなか言葉が届かない状況があった。大勢いる維新の自治体議員が自分たちの支持者に語りかけ、支持を広げていた。また、若い候補者も多く、同世代での共感が広がったところもあった」と率直な印象を述べた。
その大椿さんからの質問、参加者からの質問に答えて、冨田さんと菊池さんが講演の内容を補足する形で議論が進められた。冨田さんも、菊池さんも共通して「本当に生活が苦しい人たちは、生活することに必死で、選挙に行ったり、政治のことを考えたりする余裕がない」と指摘し、司会からは「欧州極右も維新も、人々の『絶望』を糧にして伸びている点で同じではないか」とのまとめがあった。(O)
菊池恵介さんの講演
「パワーマン」が担う政権
ポピュリズム
台頭の過程
トランプの当選以降、ポピュリズムの台頭ということが語られるようになった。トランプだけでなく、ブラジルのボルソナロ、トルコのエルドアン、フィリピンのドゥテルテといった「パワーマン」と言われる人たちが政権につき、大きな影響力を及ぼしている。ヨーロッパでは、1990年代以降にこうした動きが西欧から強まり、東欧・北欧へと広がっていった。EU議会選挙での極右の躍進、イギリスのEU離脱国民投票、フランス・ドイツ・オランダなどでの極右の議席増など、こうした現象が一国単位ではなく、欧州全体で同時多発的に起きているのはどうしてか?
少し時間軸を広げてみると、こうした現象は最近起きたのではなく、1990年代以降間断なく続いてきたことがわかる。その背景には、グローバリゼーションとそれを背景にした格差の拡大がある。ヨーロッパでは、1986年の「EU議定書」によって関税障壁の撤廃と資本移動の自由が決められ、大企業はコスト削減のために製造拠点を税金や労働力の安い東欧などに移転していった。それに対して、政治は資本誘致のための減税競争に巻き込まれていき、所得税のフラット化、法人税の減税がおこなわれた。その結果、財政赤字が拡大し、国債発行による公的債務が増加したことなどを背景に、1990年代に中道左派政党が政権に返り咲いた。
中道左派変容
と極右の伸長
有権者は、新自由主義からの脱却、福祉国家の再建を期待したが、中道左派政権のもとで構造改革政策が続けられたことにより、中道左派政党の支持層がかつての「ブルーカラー層・労働組合」から「知識層・高学歴労働者(医師・弁護士・新聞記者・教員など)」へと変容していった。それとともに政治の争点も大きく変容していく。右派がキリスト教的伝統や家族規範を争点にするのに対して、中道左派政党が人種・ジェンダー・性的指向の多様性に力点を置くようになる。中心的主張が、富の再分配からアイデンティティ・ポリティクスへと軸がずれていった。経済政策では、グローバリゼーションの中では「他に選択肢はない」として、民営化、規制緩和、大企業への減税、緊縮などを継続したことで、投票率の低下が全般的に起きた。階層的にみると、フランスの場合、高学歴層は80%以上が投票しているが、ブルーカラー層は30%を切っている。構造改革の痛みを最も受けている底辺層や雇用不安を抱えている層ほど投票に行かなくなっている。議会制民主主義が危機に陥っている。
リーマンショックのあと、各国政府は公的資金の大量投入で銀行を救済し、国債を発行して景気浮揚策を実行し、公的債務が爆発的に増加した。その結果、多くの国で財政破綻が起きた。2011年以降は、財政再建が叫ばれるようになり、医療費・教育費・年金などがドラスティックに削減され、ツケを一般庶民に転化したことで、グローバル化への反乱(アメリカのオキュパイ運動、スペインの15М運動、フランスの「黄色いベスト運動」など)が起きた。
この時期に極右政党が伸びたのだが、その背景にはそれまでの姿勢から若干シフトしたことがある。かつての反ユダヤ主義から、政教分離・表現の自由・男女平等などヨーロッパのリベラルな文化の名においてはイスラム批判をするようになった。もう一つは、反グローバリズムを極右が言うようになった。新自由主義を標榜し、減税を訴えるなど「勝ち組」層の不満をくみ上げて勢力を伸ばしてきたのが伝統的な極右だったが、リーマンショック以降、福祉国家の解体に対して、従来は社民政党が言っていた社会保障や公共サービスの拡充を極右が言うというねじれた構造になっている。ここでの社民政党との違いは、福祉の受益者を国民に限定するという福祉排外主義を採っている点である。パンデミックでこうした動きは中断されているが、今後どうなるかはまだ見えてこない。極右は移民問題を大きな争点にしてくるだろうが、社民政党がそれにどう対応するのかが焦点になってくるのではないか。
欧州極右と維
新の共通点は
ヨーロッパ極右と維新の共通点は、第一には、ヨーロッパも日本も、新自由主義の破綻に直面していること。構造改革、福祉国家解体の結果、社会の分断が進んだ。アメリカでは貧困層にツケで住宅を買わせ、景気を支えることまでしてきた。しかし、債務による成長という新自由主義モデルは限界に達し、そうした政策を進めてきた政党への政治不信が投票率の低下を招き、極右勢力の力を実際以上に見せている。だから、状況を変えるには、大衆的な運動を下から作り、投票率を上げることが必要。
第二には、「スケープゴートの政治」と私が呼んでいる、社会的弱者を攻撃することで勝とうとする勢力が伸びてきていること。欧州では、移民やフェミニズムに対する攻撃によって、日本の維新は生活保護受給者などの社会的弱者、それを守る立場にある公務員へのバッシングによって、「勝ち組」の票を取ろうとしている。底辺層、貧困層の棄権という現象は世界的にあるが、トランプが勝ったときに語られた「ラストベルト(錆びた地帯)」の神話、つまり製造業の衰退で職を失った白人底辺層がトランプに投票したためにトランプが勝利したという神話は、出口調査の研究でそうではなかったことが立証されている。貧困層は投票に行っておらず、トランプに投票したのは富裕層の方が多かった。ある意味、構造改革の被害者をトランプ誕生の責任者にすりかえたのだ。(講演要旨・文責・筆者)
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