1.17契約労働者が闘いを開始
非正規置き去りに社会的反撃を
差別許すな同一労働・同一賃金だ
非正規差別NO パート法を守れ
ひとりの契約労働者が、正規と非正規の差別に異議を突きつけ、パートタイム・有期雇用労働法(以下パート法)が規定する差別禁止の適用と「同一労働同一賃金」の実現を求めて立ち上がった。NTTの関連工事での車両誘導等を主業務とする(株)キステム(本社、東京都台東区)東北支店水沢営業所(岩手県)で事務職の契約社員として10年間働いてきたTさんだ。
Tさんは後述のように早くから会社に差別是正を求めてきたがらちが明かず、昨年宮城合同労組に加入、労働組合の闘いとして差別解消を求めると共に、労働契約法20条違反、パート法8条、9条違反として未払い賃金等の支払いを求め盛岡地裁に提訴した(1月12日)。パート法は、正規雇用労働者と同じ業務に就いているパート・有期雇用労働者に対し、その雇用形態を理由とする基本給・賞与その他の差別的取り扱いを禁止し(同法8条、9条)、2020年4月(中小は同21年4月)から適用されている。
差別おかしい 独力で行動へ
キステム東北支店管内5営業所には各々ひとりの事務職が配置されているが、契約社員はTさんだけで他の全員は正規雇用社員だ。訴状によれば、この5人の業務はほとんど同じだ。勤務形態にも変わりはない。そしてTさんが10年間勤務してきたという事実は、当該営業所の事務職(実はもうひとつの事業所の事務業務も兼務)として十分な実績を残している、ということを示して余りある。ところが処遇に極端な違いがあるのだ。
訴状によれば、Tさんの現行基本給と正規雇用事務職社員の平均賃金との間には5万円強の開きがある。その上正社員と定年後再雇用されている1年契約の嘱託社員には支給されている賞与(直近実績は年間5・5ヵ月)が、Tさんにはまったく払われないのだ。この結果、残業を除外したTさんの基本賃金は、計算上年収ベースで正規雇用社員の6割弱にしかならない。まさに不公正、差別と言うしかない。Tさんの年収が日本の平均賃金の半分以下であり、国際基準の貧困ラインに届いていないことも加えたい。
このような差別的処遇にTさんが納得できないことは当然だ。Tさんは、労契法20条裁判の報道などからその不公正さに疑問を深め、自ら厚労省の「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」を読み問題を確認した上で、会社に待遇差の説明と是正を求める行動を開始した。訴状によればその行動は2019年10月の文書での申し入れから始まっている。
以後文書での申し入れ、それに対する会社の回答、が数度、ウェブ面談による説明会も1回行われている。しかしそこでの会社の姿勢は極めて不誠実なものだった。結論的には、「契約社員就業規則に『賞与、退職金は支給しない』とある」、「雇用契約書で双方が基本給額を合意」、だから現行処遇に問題はない、の繰り返しだ。
就業規則が会社が一方的に決定できる規則である以上、それを合理性の根拠とすることなどそもそも論外だ。雇用契約も著しく不均衡な力関係の下に結ばれるのだから、公正さの担保にはとうていなり得ない。それゆえそうした起こりがちな不公正さを是正するために、不公正な私的契約を無効とするために、労働法がある。まさにパート法の差別禁止規定こそそのようなものとしてあるのだ。
キステムは、Tさんの処遇差がパート法の差別禁止に当たらないと主張したいならば、少なくとも、Tさんと他の正社員事務職の業務実態を具体的に比較対照し、処遇の差とそれがどう合理的に関係しているかを、誰もが納得できる形で示さなければならないのだ。そのような説明を一切行わず、事実上差別的処遇を強要するに等しいキステムの対応自体が明らかな非正規差別であり、またパート法(14条)違反にも当たる。
ついでながらTさんは、先の経過の中で、差別的処遇の改善を期待し、キステム内で組織されている情報労連傘下の労組に加入、同労組を通じた問題解決も追求した。ところが同労組は、Tさんの訴えを会社に仲介するだけで主体的に行動することはなかったという。
幅広い連帯求め社会的な反撃へ
まさに困難が幾重にも立ちはだかったが、Tさんはあきらめなかった。こうして昨年宮城合同労組に出合い、同労組、同労組が加盟する全国一般全国協と全労協と共に新しい闘いの局面が始まった。昨年11月の宮城合同労組との団交でもゼロ回答を続けた会社に対し、非正規差別に反撃する社会的闘争で対抗するという踏み込みであり、郵政ユニオン、東京東部労組メトロコマース支部、大阪医科薬科大学の非正規差別是正要求の闘いを引き継ぐ闘いの開始だ。盛岡地裁への提訴、そして1月17日に上京して厚労省で行われた記者会見(たとえば毎日新聞1月18日東京版が報道)もその一環だった。
理不尽な差別に引き下がらず、その解消を求め社内で可能な限りの手順を踏んでひとりでも敢然と行動を続けたTさんの気概と行動力は、敬服に値すると同時に、そのような行動への思いを共にする非正規の仲間が多くいることをも示唆している。Tさん自身、先に挙げた労契法20条をめぐる闘いから行動開始の勇気を得たと語っている。Tさんの思いを幅広い連帯で支え闘いを見える形にし、非正規の仲間とつながる道をさらに広げ、パート法が趣旨とする「同一労働同一賃金」を絵に描いた餅にしないことを社会の声にする闘い、を実現しなければならない。
したがってまたこの闘いを、「誰をも取り残さない」「すべての労働者に同一労働同一賃金を」と掲げた22けんり春闘こそが春闘の真ん中で押し出し引き受けることが重要になる。
仲間の熱気集め本社に申し入れ
その意気込みが籠もった第1弾の行動が1月17日に実現した。前述した記者会見に先立って行われた、キステム本社前での差別解消を求める申し入れ行動だ。行動開始は午前11時半。JR御徒町駅に近い同本社前の歩道には、上京したTさんと宮城全労協の仲間を中心に、全労協の各組合や22けんり春闘の仲間、また非正規差別と闘う女性たちがかけつけた。そして記者会見を控え時間が限られる中、短時間だが集中した集会を行い、非正規労働者を差別するな、非正規労働者にもボーナスを、パート法裁判に勝利するぞ、などのシュプレヒコールを一帯に響かせた。
集会では最初に、事前に本社に申し入れを行ってきた申し入れ団を代表し宮城合同労組の星野憲太郎委員長が発言に立ち、この企業が圧倒的な非正規雇用で構成されている実態を明かし、差別で成り立っている企業だと指摘、前述した経過を説明した上で、この企業の非正規雇用従業員、全国の非正規の仲間の未来を賭けた闘いとして全体で支えてほしいと訴えた。また同じ申し入れ団の平賀雄次郎全国一般全国協委員長、東京全労協大森議長も各々、格差が大きな問題になっている中で非正規差別に立ち向かう課題には重い意味がある、決意をもって闘いを進めようと力を込めた。
さらに全国一般なんぶの渡辺書記長と東京東部労組の菅野委員長が各々、ひとりの問題ではない、差別を打ち砕くためにともに闘う、と駆けつけた仲間を代表する連帯のアピール。
上京した仲間からは宮城合同労組クロネコヤマト支部の畠山健治さん。実は畠山さん自身が非正規差別解消を求め労契法20条裁判を闘い、最高裁で却下された経験者。畠山さんはこの経験を紹介し、自分はこの訴訟の途中で正規職になったが正規職になっても仕事にまったく変化はなかったと明かし、業務の違いを言いつのる企業の主張を真摯に検証しようとしない裁判官を厳しく批判、今度こそ非正規差別にメスを入れさせようと呼び掛けた。
そして当事者のTさんが決意表明に立った。Tさんは、同じ仕事で処遇差別があることはどうしても納得できない、コロナで非正規女性の自死が増加というニュースに接することがいたたまれない、なぜ人として生活できる賃金が保証できないのかと訴え、今こそパート法の意義を実体化するために支援をお願いすると結んだ。結集した仲間たちはこの訴えに、連帯の決意を込めた力強い拍手とかけ声で応えた。
集会は最後に、大内宮城全労協議長の音頭で団結ガンバロウを三唱、春闘の真ん中で非正規差別に立ち向かい同一労働同一賃金の実現を追求する具体的闘いとして、Tさんの闘いを連帯して押し上げる決意を確認した。
まさにこの闘いを共に引き受けることを通し、分配や賃上げを抽象的に語るが、あるいは大企業正社員にしか意味のない企業減税をテコとした賃上げ論は語るが、非正規労働者の差別的低処遇や最賃引き上げには黙してふれない、岸田政権のイカサマを突き破る春闘を実現しよう。 (神谷)
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