投稿「かけはし」編集部への手紙

医療、福祉、介護、教育、保育など公共サービスを公有・公営化に
資本主義の枠を超える「過渡的要求」を

S・T

 「かけはし」編集毎日ご苦労様です。
 2022年の新年アピールは、大衆運動の復権を通して新たな「左派」結集に挑戦しようと題されて掲載されています。昨年の総選挙の「敗北」を踏まえてのタイトルになっており適切なものだと思います。
 そのうえで若干気づいたことを述べてみたいと思います。

 昨年の総選挙の結果について「かけはし」11月8日号では「別個に進んで共に撃て」というタイトルで高松署名の文章を掲載していました。
 この文章は私の理解によると野党共闘は基本的に正しい選挙戦術だが、安倍・菅から変わった岸田政権とは違った明確な政策を提起できなかった。それも保守政党である立憲がということだけではなく、野党共闘の6項目の政策合意の中身にまで触れて述べられているのではないかと感じました。
 そして「本来私たちは上記のような主張をもって選挙を戦うのでなければならないはずだ」として「命とくらしを守るという漠然とした主張を超えて」と「格差社会の克服に関連して」と項目を挙げているのは野党共闘の合意の政策だけでなく私たちの主張の限界を反省しているのだなと受け止めました(この文章で「私たちは」とは野党共闘総体を指すのか、野党共闘の「保守政党」ではない「革新」勢力を指すのか、それとも「かけはし」編集部を指すのかはっきりしないのですが、それはそれぞれの文脈に沿って編集部と理解しました)。
 最後に突然トロツキーの人民戦線戦術についての考察などが出てきて、人民戦線戦術にもなぞられ得る野党共闘の問題点の克服が、「別個に撃て」と総括されているのだなと納得しました。

今度の新年号で感じたこと

 新自由主義化における新コロナ禍の実態、日本資本主義の低迷、資本主義による危機の打開は不可能なことをわかりやすく書かれていることはよかったと思います。そのうえで昨年総選挙の総括の生かされ方はもう少し踏み込んでもらった方がいいのではないかと思いました。
 昨年の「かけはし」10月18日号の総選挙方針の文章(高松署名)では市民連合と4野党で合意した政策提言に沿って「私たちの」(この私は「かけはし」編集部)政策が主張されています。今度の新年号のアピールはこれとだいたい同じなのですが、せっかく総選挙の総括を「別個に進んで共に撃て」としたのですからもう少し踏み込んだスローガンにしてもいいのではないかと感じました。
 そのうち3点についてだけ感想を述べさせてください。

1点目

 ②の「公的医療・公衆衛生、感染症対策の強化と充実をめざそう」の項について。
 「感染症対策をすべて国の費用で公有・公営で行え」のスローガンを掲げてほしい。

 10月号も、新年アピールでも「感染症対策にとって、公的な医療・公衆衛生を充実させることは重要である」と述べられています。ですから都立病院の独立行政法人への移行反対や様々な要求が提示されています。さらにこれを一歩進めて感染症対策のすべて、検査・治療・ワクチン開発など一連をすべて新たに公有、公営でやろうというスローガンが必要なのではないでしょうか。
 実際に公営病院はほとんどすでに民営化されており、残っている公営病院の民営化反対だけでは不十分です。大阪は極端だけれど、どこでも保健所の充実が必要です。コロナ検査の公営・無料が必要です。感染症全体が採算性の民間医療機関では対応できなく政府のやれることは基本的には要請と補助金の提供しかありません。公的医療体制が必要なのです。ですからこれをはっきりさせるスローガンとして
 新コロナ罹患者を治療する国立病院を直ちに造れ!
 新コロナ感染対策を国がすべてを賄え! はどうですか。

 ダム反対の座り込み現場で私と同い年の方と知り合いました。彼は若いころに結核にかかり隣の県にある国立結核療養センターで療養して元気になったそうです。そこで歳をとってもダム反対の座り込みに参加する原点が作られたと言ってました。
 私は「となりのトトロ」が好きですがメイのお母さんは病院に入院していて狭山の里山を歩いて七国山病院にお見舞いに行く姉妹が印象的です。狭山の近くに清瀬市がありますが、そこは東京府立の結核療養所が初めて作られ、多い時には清瀬村の療養所には5千人もの結核患者がいたそうです。それまで結核療養所はあったのですが金持ちしか入れない。公立の療養所を作るための費用を作るために「観覧税=入場税」という税金が作られたそうです。
 これらの公立の療養所は今ほとんど廃止されるか民営化された病院になっています。
 日本において結核は戦後1950年ごろまで毎年10万人以上がなくなる最大の感染症でした。しかもほとんど若年の世代です。全部と言わなくても基本的には公営で結核感染症に立ち向かうほかなかったのです。それは戦前は富国強兵のためだったという要因があったのですが、民間経営では対処できなかった現実はしっかりと認識しなければならないでしょう(なぜか感染症対策に日本を上げて行われた結核対策のことが出てこない。ストレプトマイシンの開発によって結核は終わり感染症対策の参考にもならないということなのだろうか)。
 コロナの蔓延が始まった去年はじめから公立・公営の感染症対策を進めていたら、コロナ患者が病院に入れず自宅で死んでいくということもなかったでしょう。今は病院建設も短期間のうちに可能ですし、また膨大な国家予算のコロナ対策費ですから設備費、人件費その他の費用は容易に賄えるはずです。

 キューバの「ヘンリー・リーブ国際医療団」の話を聞きました。キューバはコロナ救援医療団をアフリカ、南アメリカなど開発途上国ばかりではなくヨーロッパにまで派遣しているそうです。あの貧しいキューバがそんなことをできるのはすべてが公有・公営・無償の医療体制であるからだというわけです。そういえばマイケル・ムーアの「シッコ」という映画はそのことを描いていたはずです。

2点目

 ③の「富裕層と大企業からの収奪で貧困と格差社会を是正しよう」の項について。
「派遣法の撤廃!」
「不正規雇用の撤廃!」のスローガンを掲げる。

 格差是正のためには労働者の賃金と税制度が中心的な問題となり、生存権・人権が十分に保障されなければならないのですが、それに加えて80年代から進められた労働法制の改悪を廃止することを掲げなくてはならないのではないかと思います。とにかく労働者の働く権利を売買して利益を上げる派遣法の制定は労働基本権を犯す根源でした。
 労働法制のことについては「11月の衆議院選挙で社民党大椿候補の政策づくりの中で検討されたこと」についての文章を読みました。そこには「非正規労働を減らすために、臨時的な業務以外は原則有期雇用を禁止する」という政策が提案されています。
 これは社民党公認候補の選挙政策についてですが、労働法制に踏み込んで政策が提示されています。「かけはし」紙の選挙政策としては、格差諸悪の労働法制そのものの撤廃を掲げなくてはと思います。

3点目


 3番目のことは何かといえば、新年号アピールではそれにあたる項目はないのですがあえて言えば③に入るのでしょうか(衆議院選に向けた方針は、野党共闘の政策協定の項目に沿って私たちの政策を主張するという形は読者にわかりやすくするために必要だったのですが、今はその必要はなくなっていると思います。これから提起することは本質的に野党政策協定には入らないことなのですから)。
 それは資本主義システムのチェンジに関連する政策スローガンです。新自由主義経済から「新しい資本主義」への転換ではなく、資本主義自身のシステムの克服の政策なのです。
 前項の医療だけではなく、必要な産業について共有・公有化、公営化を今こそ「過渡的スローガン」としていまこそ掲げなければならないのではありませんか。

 これまで民営化されたものは国鉄、郵便、電気通信、金融、医療、自治体行政など多岐にわたるが、これを私たちは容認できるのだろうか。少なくても基本的には医療、福祉、介護、教育、保育など国民に対するサービスに関して公有・公営化の政策を掲げるべきではないでしょうか。それにとどまることなく重要インフラ、産業についても公有・公営化への喚起を促すスローガンへと発展させていかなければならないと思います。
 このことについてこれまでいくつか見聞きし、考えたことを述べてみたいと思います。

 1、後進産業資本主義の日本経済は80年代初めまでは高度経済成長に引き続いて続伸しましたが、欧米では旧来型産業資本主義は深刻な低迷期を迎えそれを打ち破るものとして新自由主義経済政策が70年代に台頭しました。遅れた新自由主義への転換だった日本でも基本的に郵政を最後として民営化は達成されていました。
 私たちの世代では物心ついたころ、運輸・通信・教育・医療などの基軸は公営でした。今の40歳世代にとっては社会を意識した時にはほとんどの産業は利潤を追求しなければならない採算制のもとにあったのです。またソ連邦の崩壊によって例外を除いて世界は「資本主義だけが残って」いたのです。
 なぜそんな分かり切ったことを取り上げるのかと思われるかもしれません。若い世代が「左翼」を「保守」と感じ一番「革新」と感じられるのは「維新」と答えた意識調査の話を聞いたからです。市民連合が苦心して作った共通政策に若者は改革的魅力を感じないのかもしれません。全共闘世代は50年以上も前に「平和と民主主義」を守ろう! のスローガンを拒否して、偽りの民主主義と平和の現況を打破しよう! としたことを思い出してください。あれからもっともっと形骸化した「民主主義と平和」が現代です。
 私たち60、70歳世代はソ連邦の「社会主義」の破綻を目の当たりにしてきました。中国の「社会主義」に対してもそうです。彼らの「社会主義」と私たちの社会主義とは違うと言っても、簡単には同意してもらえません。そのような年月の中で私たちは社会主義の提起に臆病になってしまっているのではないでしょうか。そのことが新年アピールに感じられるのは私だけではないはずです。
 ソ連「社会主義」が破綻したからと言って、国有化、計画化が悪いわけではありません。公有のすべてが国有というのはおかしいが公有の中に国有の形態が含まれることを否定すべきではありません。ソ連の計画化経済が破綻したからと言って、大小さまざまな計画が公有・公営経済の発展のために必要です。
 いわゆる「サンダース、コービン現象」は若い世代が社会主義に対して破綻した過去のものとしてではなく資本主義克服の新しい改革のスローガンとしてとらえているということを指すのでしょうが、日本でそういう現象が見られないと嘆く前に、誰もそのことを日本では提起していないからではないかと気づかねばならないのかもしれません。

 2、私が2020年参議院選についてグループ討論のために、れいわ新選組に関して書いた文章の抜粋です。
 れいわの政策で注目するところは政府の財政出動により直ちに実行することをうたっているものに加えて、「公共、福祉事業にかんする政策である。公的住宅の拡充、公務員を増やすなどこの間の民営化が推し進められた公共、福祉事業の公営化が部分的に主張されていることである。まだイギリス労働党(コービン党首の当時)のように鉄道、電力、通信などには触れられていないが、直接福祉部門として保育、介護、障害者介助など公務員化でやるとされているがこれは直接福祉部門で公営化が出されていることであり、民営化された福祉事業を公営化していく政策に繋がっていくだろう。その先に公益部門の再国有化がある。
 野党共闘において、それは基本的に資本主義経済を前提とした民主主義的な政策要求という枠組みを持っている。しかし日本において反資本主義綱領のもとにおける労働者大衆的な政治的結集が必要である。
 68年闘争の終焉を経て、さらにソ連邦の崩壊を経て日本では左翼が社会主義を口にすることははばかれてきた。我々として基本的には生産手段の共有化が必要だとしながら社会化についてスローガン化してこなかった。それは戦術急進主義、内ゲバ、女性差別問題の蹉跌を背負った中高年左翼の限界を示してきた。
 今こそ左派は反緊縮政策を掲げて反資本主義、生産手段・制度の共有化、社会主義を目指し労働者大衆の要求に応えなければならない。れいわ新選組の闘いぶりがこれまでの左派勢力圏を大きく打ち破って若者を引き付けるところまで行ったことは大きい。これを学ばなければそれこそ日本左派の終焉だろう」。

 3、れいわ新選組の21年衆議院選挙マニフェスト「れいわニューディール」より。
 「非正規公務員の正規化(現在約70万人)派遣法の見直し。鉄道、病院、郵政、保育所等の公的インフラの民営化の流れを変え、再公有化の検討」。
 地域に根ざした金融インフラのネットワークを提供する郵政事業を再公営化、にまで踏み込んでいます。
 共産党の政策はあらゆる分野について述べられていますが、公有化など資本主義のシステムにかかわる部分については巧みに回避し、資本主義の民主的規制、国家の補助にとどめているのと対照的な感じがします。

 4、第4インターナショナル執行ビューローのこの間の声明を見てみよう。
 新型コロナがはやり始めたころ、「かけはし」20年3月30日号。「この分野(新コロナに関する一連の事業)で仕事しているすべての民間企業は公的・社会的コントロールのもとで国営化されなければならない」ヨーロッパにおいては民営化にさらされているとはいえ米・日とは対称的に病院は公営が主流であるようですから、民間企業の国有化が政策に上がっているようです。
 新コロナ関連医療分野だけでなく、20年4月の第4インターナショナルの声明では銀行の接収、銀行システムを公益管理のもとに置くことを含めて全般的に共有・公有化の要求を提起して資本主義システムの克服の道筋に労働者大衆を導こうとしています。
 さらに新コロナ感染が世界的に拡大した2020年6月8日付(「かけはし」6月29日号、7月6日号に掲載)の執行ビューロー声明では「資本主義的常態をくい止め、社会―エコロジー的転換の道へ」として体系的に過渡的要求の大綱が発表されました。
 「もう一つの世界は可能だ!」から「もう一つの世界は必要であり、緊急である!」へ。医療・福祉の公有・公営化だけでなく、気候危機に対処するグリーン・ニューディール政策の前進のためにか、エネルギー、交通、情報などについても提起していく必要性が強調されています。

 第4インターナショナルでは18年2月に開催した17回世界大会において、これまでの社会フォーラム運動に依拠した運動の停滞現象と環境危機の待ったなしの状況中で新たな挑戦を自らに課しています。
 「我々は国際的革命運動および権利と社会的公正を防衛することに基礎を置いた反資本主義運動の建設における新たな挑戦を宣言しなければならない。革命派や反動的政策と闘う社会運動潮流に、システムを拒絶することに進歩的・革命的ベクトルを与えることのできる政治的展望を提案するという責任を負わせている」(大会決議より)。
 そして過渡的スローガンとして資本主義からの脱却のための共有・公営化を積極的に提案してきています。
 この間の第4インターナショナルのスローガンと比べて新たに日本支部として承認された日本協議会の新聞であるはずの「かけはし」のスローガンを極めて「自制的」に感じるのは私だけではないでしょう。

 5、新年アピールは新たな「左派」の結集に挑戦しよう。と銘打っています。それは野党共闘とともに進んで別個に撃つ「左派」の結集ということを意味していると思います。ということは野党共闘の政策協定の枠に規制されるのではなく大胆に資本主義の枠を超えそれを克服する文字どおり「過渡的要求」を掲げていかなければならないのではないでしょうか。
 医療をはじめ公有化、公営化を打ち出しても圧倒的な既成事実の存在の中で政策の実現性ということではかなり現実との乖離を感じざるを得ません。しかしそれにたじろいでいては「左派」の結集はいつになっても進まないでしょう。「左派」の結集は現システムを克服する「過渡的スローガン」の下に結集することなくしてはあり得ないからです。

 昔のように違いを明らかにするばかりという「論争」では駄目なのですが総じて大衆運動の中での論議の不在は最近特に気になります。共産党もかつての新左翼もほとんど違いがないような発言ばかり、政策においても現システムから踏み出せないという状況です。
 その中で斎藤幸平氏の問題提起は波紋を呼び起こしているのですが、どうやら「左派」、これまでのマルクス主義潮流からの反応は甚だ鈍いと感じています。  せっかくミッシェル・レビの「エコロジー社会主義」が斎藤幸平氏の「脱成長・コミニュズム」の提起とかみ合っているのだから、私たちも議論に参加していきたいものです。グリーン資本主義では何も解決できない、システムを変えなければならないということは立場として正しいのですがそれだけでは済まされません。グリーン・ニューディールの拒否ではなく地球危機を回避しなければならないという真剣な運動のために私たちの政策スローガンを社会主義に向けた過渡的スローガンとして発展させたいものです。
 過渡的スローガンを掲げれば何とかなるなどとは微塵にも思っておりません。しかし私たちはそこから始めなければならないのです。

 編集部の大いなる飛躍を期待します。

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