2.9東電刑事裁判控訴審第2回公判
「現場を見ずに何を判断するのか」
現場検証と証人尋問が不採用
加害者の責任は明らかだ
「現場を見ずに何を判断するのか」現場検証と証人尋問が不採用。こうタイトルがつけられた傍聴記が福島原発刑事訴訟支援団のホームページに掲載された。同支援団の佐藤真弥さんの筆による。端的な報告だ。ぜひ全文を読んでほしい。Https://shien-dan.org/
本紙では佐藤さんの傍聴記を参考にして報告する。
東京高裁前に
は200人
2月9日、東京高裁で東京電力旧経営陣3人(勝俣元会長、武黒元副社長、武藤栄元副社長)の刑事責任を問う刑事裁判の控訴審第2回公判が開かれた。午前10時20分からの傍聴券配布の列に並んだ。11月2日の第1回公判などで行われてきたヒューマン・ディスタンス・チェーンはコロナ感染拡大のため中止されたが、傍聴記に「約200人の傍聴希望者に対して、コロナ対策として席を減らした37席のみ傍聴が許された」とあるように、多数の支援者らが駆け付けた。
抽選発表までの約1時間、被害者代理人の2人の弁護士や福島現地、福島から避難した被害者らによるアピールが、中小労組政策ネットワークの宣伝カーのスピーカーから高裁に向かってぶつけられた。支援団は「東京高裁に現場検証を求めます」などと書かれたパネルを準備し、アピール行動参加者に配布、ともにアピール行動に参加した。
抽選が終わると、16時からの報告集会への参加は傍聴者に限り、オンラインで開催するとの説明がなされ、いったん散会した。
公判傍聴記
を読んで
公判の進行はどのようなものだったのか。「第二回公判のハイライトは、指定弁護士が求めていた証人尋問と現場検証を裁判所が認めるかどうかだった。指定弁護士が請求した証拠調べのうち、採用するものから述べていった」と佐藤さんは報告する。証拠の連続番号が途中から途切れており、「いやな予感を抱えながらも裁判長の早口」に耳を凝らしたという。採用されたのは、地震本部の全国地震動予測地図、IAEAの国際安全指針、千葉訴訟の東京高裁判決書などだ。
「必要性がないため不採用」とされたのはまず、濱田信生さんと渡辺敦夫さんの検察官調書と両人の証人請求だ。続いて第10刑事部の細田啓介裁判長は「(福島第一原発現地の)検証を不採用とします」と発した。原審でも証言台に立った島崎邦彦さんの意見書と証人請求の不採用が告げられると、「決定に異議があります」と指定弁護士の神山啓史は立ち上がり、「不採用にすることは刑事訴訟法や憲法31条に反すること、とりわけ現地を訪れ検証をせずに判断を下すことはこの裁判に『大きな禍根を残す』ことになる」と決定を取り消し、採用するように求めた。
裁判長に意見を求められた元経営者らは、「必要性がないことはこれまでも述べている。原審でも膨大な時間を費やしたし、判決に誤りはない…」(武藤元副社長の弁護人の宮村啓太弁護士)などと棄却を求めた。左右の両陪審とも、異議を認めなかった。
続いて、佐藤さんは次のように報告する。「指定弁護士から補充の弁論と被害者2名の心情について意見陳述をするための公判期日を設けて欲しいと要求があり、弁護側も同じ期日で弁論をするということや、その期日で結審となることが決まった」。次回期日は、欠席弁護人の都合が不明なため、早くて4月21日、遅くて5月31日か6月6日の候補日の中から後日決定される。控訴審は、この補充の弁論などが認められなければ、先述の証言などが不採用となっていたので、この日に結審となる可能性もあったという。
勝訴の希望
を捨てずに
裁判報告(前記の支援団HPで視聴できる)では、質疑の中でいくつかの視点が示された。
証人として不採用となった濱田さんは気象庁の元地震火山部長、渡辺さんは東芝の原発設計技術者で、両人とも7月13日に東京地裁で判決公判が予定されている東電株主代表訴訟で証人として採用されているという。
質疑では、判決までの期間の見通しと、現地調査を行った株主訴訟の判決が影響するのかという質問があった。被害者代理人の甫守(ほもり)一樹弁護士は、経験的に結審から半年程度で判決日が設定されるが、採用された証拠の分量次第なので3か月程度とはやまる可能性があると断ったうえで、少なからず影響があるだろうと述べ、「裁判官が注目するようにメディアが詳しく報じることが重要」だと強調した。
同訴訟は、廃炉作業や避難者への賠償などで会社が多額の損害をこうむったとして、旧経営陣5人に対し、合計22兆円を会社に賠償するよう求めたもので、刑事裁判の原審と控訴審で拒否された証人採用と裁判官による現地調査が行われている。
質問ではまた、千葉訴訟などすでに高裁判決がでた民事裁判4つのうち、3つの判決で国と東電の責任を認めているが、千葉訴訟判決が証拠採用された影響についての質問があった。同じく被害者代理人の大河陽子弁護士が、千葉訴訟では「刑事事件と同じ証拠も使われており、その判決を読むと長期評価の信頼性や、原発事故被害の深刻さが理解できるはずだ」と希望は残っていると答えた。
岸田文雄は首相指名から13日後の10月17日、福島第一原発の視察、浪江町の東日本大震災慰霊碑で献花及び黙礼、道の駅なみえなどの視察を行っている。「福島の復興なしに……」という枕詞を地で行くように、内政の最優先課題と位置づけて歴代首相は就任早々に福島の現地に向かう。自民党総裁は、国政選挙となれば第一声を福島県内で発するのがルーチン(慣例)となったかのようだ。なぜ、東電刑事裁判の裁判官は現地調査は行わないのか。
「組織罰」が
あれば適応
「組織罰」を「企業罰」に変えて読み進んだ方が、本紙の読者に受け入れやすいかもしれないが、運動団体名だし、地元紙でも書かれている言葉でもあるので、そのま記す。
控訴審第1回公判の翌日の「福島民報」紙の論壇は「原発事故の民事裁判の判決は、いずれも東電の責任を認めている。刑事裁判は民事裁判に比べ、より厳格な立証が求められるとされる。過去の判例を見ても、企業活動に関わる事故で社員個人の刑事責任を立証するのは容易ではない」と、裁判所が刑事裁判に深入りしない理由が書かれている。民報は続けて「制度的に個人の責任追及が難しいのであれば、事故を起こした企業に罰金などを科す『組織罰』の導入を検討すべきだろう」と提案する。
JR福知山線脱線事故や笹子トンネル天井板崩落事故の遺族や弁護士、支援者らで組織する「組織罰を実現する会」によれば、組織を罰する法律はアメリカ・イギリス・フランス・ドイツなどにはすでに存在するという。同会は、地裁判決後の19年9月21日、「組織罰があれば,東京電力株式会社という組織の責任は明確になった」「早期の組織罰実現を、国民全体の合意として進める必要」を訴えた「無罪判決に対するコメント」を発しており、両罰規定の特別法として「個人にしか問えない業務上過失致死罪を法人にも問えるようにする法律」の制定をめざして活動している。
国内法でも、金融商品取引法や独占禁止法なども両罰規定があり、神戸製鋼所の品質検査データの改ざん事件は不正競争防止法の規定で起訴されている。日経新聞は両罰規定を「法人に所属する役員や従業員らが、法人の業務に関連して違法な行為をした場合、個人だけでなく、法人も併せて罰せられる規定。法人が違法行為を防ぐために必要な注意を果たしたと立証できなければ、罪に問われる」と説明している。
「組織罰を実現する会」の19年のコメントは、福島原発刑事裁判関係者への呼びかけでもあったのだろう。公判報告に合わせて感じてきた意見を書いた。
(KJ)
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