大阪 カジノ・IR計画を中止せよ
2.10市民団体が7万1000人の署名提出
繰り返し明らかになった
民意を無視し続ける維新
大阪市定例議会の初日である2月10日、大阪府・市が、大阪市の夢洲に計画している特定複合観光施設(カジノ・IR)の建設計画の中止・撤回を求める要請書7万1000人の署名が大阪市長に提出された。
大阪都構想の
ねらいは何か
大阪維新の会は、市民にとってはその意味が明確でない大阪都構想をかかげ、2015年に大阪市を特別区に再編することの是非を問う住民投票を強行し否決された。
実は都構想とは大阪市を廃止しいくつかの特別区に再編し、財政を大阪府に一元化するものであるが、市民の少なくない人たちは、都構想が実現しても大阪市はそのまま残ると思っていたし、大阪維新もそのようにウソを言っていた。それでも住民投票は否決された。勝つまでジャンケンの大阪維新は2020年再び都構想実現のための住民投票を強行した。
2度目は、投票用紙に『大阪市を廃止し……』と明記された。住民投票の結果、都構想は多くの人の予想を超えて再び否決された。ところが大阪維新は急きょ、広域行政一元化条例案を大阪市・大阪府議会に提出し成立させた。
大阪維新にとって政策の柱である都構想が否決されたのだから、本来ならここで命脈が絶たれるのだが、大阪維新は住民の民意を踏みにじり、彼らが多数を握る議会で都構想の核心部分を実現するための手段を手に入れた。
「万博用地」
夢洲の現実
ところが、関西万博の会場に予定されている夢洲(そして、万博が終わればその敷地はそのまま、カジノ・IRの敷地に)には、困難な問題があることが、計画が進行するに従って明るみに出てきた。
大阪湾につくられた人工島である夢洲は、4つの区画に分けられ、第1区画は一般廃棄物・産業廃棄物で埋め立てられた。第2、3区画は陸上発生残土・浚渫土砂が捨てられ、第4区画は先行開発区域として陸上発生残土等で埋め立てられた。第2、3区域には、1987年~2006年まで汚染残土が法律上の規制のないまま何でも埋め立てられた。しかも軟弱地盤のため、高層建築を建てるなら30メートル~深いところは80メートルの杭打ちが必要であることがわかった。
はじめからわかっていたことなのに今になって問題化されている。巨大地震による液状化と津波の被害は想像を絶するものになると予想されるが、整備計画ではほとんど触れられていなかった。
夢洲に渡る橋は1本しかない。これでは客をさばけない。そこで、カジノ・IR計画のために、夢洲の区域整備以外に地下鉄の延伸工事が進んでいる。関西万博2025は半年で終わるから、万博の跡地をカジノ・IRで活用することにして、地下鉄を延伸している。ただ工事費は、当初予算内に収まるとは思えない。
夢洲は一般廃棄物や産業廃棄物の最終処分場になってきたから、万博・カジノ・IRのために使えば、最終処分場を別に確保する必要がある。これもリスクの一つである。
巨額の税金投
入案を提出
松井大阪市長(日本維新の会共同代表)は、区域の整備には税金は使わず、夢洲を使用する団体(万博協会・カジノ・IR事業者)が負担すべきであると明言してきたが、昨年12月その方針を変更した。建設予定地で土壌対策工事が必要になり、790億円かかるという。この試算は、昨年6月の時点では、670億円となっていたから、120億円上振れしたことになる。
カジノ・IR予定地は、20年に行われた土壌調査で、この区域は大地震の際、用地が液状化する危険が判明。また土壌汚染や地中障害物も見つかり、さらに、予定地周辺では基準値を超えるヒ素やフッ素が検出された。そこで大阪市は昨年12月21日、790億円の負担を正式決定した。
その内訳は、土壌汚染対策費360億円、液状化対策410億円、地中残留物20億円だ。これを全額大阪市が負担し、22年2月の定例議会に予算案を提出することになった。さらに、カジノ・IR予定地の南側に位置する万博用地(100万平方メートル)の土壌対策費788億円、両方合わせると1578億円に膨らむ可能性がある。788億円は、万博会場には高層の建築物が建設されることは考えにくいからとして、液状化対策費の単価を半分に減らして見込まれた額だ。
これらの対策費は埋め立て地の費用や収益でやりくりする港営事業会計から出すといわれているが、一般会計から港営事業会計への資金支援も検討されているという。
事業主体は、МGМリゾーツ・インターナショナルとオリックス2社を中核に在阪企業20社が加わり、大阪IR株式会社を設立する。カジノ・IR予定地は夢洲北半分の29万平方メートルで、МGМリゾーツ・インターナショナルとオリックス連合のカジノ・IR事業者と定期借地契約をむすび、年間25億円の賃料で貸し付けることになっている。
甘いリスク評
価は大問題だ
ほとんどすべての大型事業で見られるように、万博・カジノ・IRの場合も例外でなく、見通しは開始時から何度も修正され、事業費が上がっている。すでにカジノ・IR用地整備費は1240億円に790億円が追加された。わずか半年の2025万博に4000億円の巨費が投じられる。800億円の万博運営費は入場料で賄うとされているが、入場者についての甘い見通しが根拠になっている。1970年の大阪万博の夢を見ていたら、大変なことになるだろう。
IR施設(国際会議場・エンターテインメント施設・宿泊や飲食施設など)そのものは特に問題はなくても、刑法で違法とされているカジノが集客と収益性を担保するものになっていることは問題だ。収支計画を見ると年間売り上げは5200億円とされ、その8割4200億円がカジノによる収益だ。カジノ業者の儲けは年間4200億円と見込まれ、テラ銭は7%だから、負け組の払った金は約6兆円、この6兆円からテラ銭を差し引いた5兆5800億円を勝った者たちで分けるという仕組みだ。テラ銭が多いほど、負けたお金も大きいということ。カジノ業者は絶対儲かるようにできている。
年間6兆円の売り上げ(負け組が払ったお金)を確保するには、年間1400万人の来客(うち1060万人は日本人)がカジノに行かなければいけないと言われる。JRの年間売り上げは3兆円だから、気の遠くなるような目標だ。このような見通しのもと、カジノ・IR事業から年間で納付金が740億円、入場料が320億円、計年間1060億円が収められ、それを大阪府と大阪市が折半することになっているという。
この夢のような「打ち出の小槌」事業は、期間が35年で30年延長できるとなっている。しかし、計画書には契約解除の記載がない。大阪府・市がカジノを辞めるとなったとき、ISD条項による業者への損失補償の問題がありうるが、現在は考慮されていない。しかもカジノ・IR業者は、事業不振等でいつでも撤退できるのである。現在は仮定の話だが、大阪府・市の首長のいずれかが維新でなくなった場合、その時は3度目の都構想住民投票が必要だと大阪維新が言っていることも、カジノ・IRに関連しているはずだ。
社会的コスト
は計算外に!
負けた者は、それだけ所得が減る。所得が減れば消費が減る。消費が減れば商品の売り上げが減り、働いている人の所得が減る、という連鎖が延々と続く。しかし、行政の方では、カジノ・ IRの経済効果をプラスの面だけで判断している。必要なのは社会的なコストも含めてトータルな分析である。しかしその観点はない。
ギャンブルは弊害が多く、そのコストを考慮すれば経済効果は絵空事である可能性が高い。計画書を見ると、懸念事項対策のひとつとして、ギャンブル依存症対策が載っているが、世界の先進事例に加え、大阪独自の対策をミックスした総合的かつシームレスな取り組みを構築し、依存症対策のトップランナーをめざす/МGМの知見、ノウハウを活かし、責任あるゲーミングの取り組みを着実に実施するとなっている。懸念のかけらも感じられず、全く意味もわからない。
多くの市民が
反対意思表示
大阪市の定例議会が開かれるこの日2月10日の12時から、「ストップカジノ大阪」、「どないする大阪の未来ネット」、「大阪市民交流会」などさまざまな団体のカジノ・IRに反対する市民が集まり集会を開いて、多くの人からの発言があった。
前述した中で触れた問題のほか、例えば暴力団が絡むマネーロンダリング問題がある。これについて、当局は暴力団員の顔認証リストで、入場時にチェックするという。それでチェックできるような人物は限られているし、そもそもそんなリストがあるのか。
どうして土壌汚染処理問題が浮上したかというと、第1区域は廃棄物埋め立て地で、他の用途を想定していなかったから、ここを万博会場に利用するといっても何もルールはなく、第三者が指摘しない限り正式な契約もなしに使用される可能性が高い。職員も議員もそのことに触れたがらない。また第2~3区域は工業用区域としてつくられたため、土壌対策は緩やかなまま30年近くも続いてきた。そのような区域にカジノ・IRをつくるとなると、商業用区域として扱わなければいけなくなって、土壌問題が浮上したという。
だから、これらの区域には何が埋まっているか予想もつかない。しかも、この人工島は大阪湾の軟弱地盤につくられているから、深さ30メートル、深い場合は80メートルぐらいまで杭を打ち込まなければいけない。大変な工事が必要だ。工事費も予想を超えてかさむだろう。このような意見を聞くと、大阪維新が広域行政一元化条例を急いだわけがわかる。
このように多額のお金が使われ、今後も増えると予想されるが、大阪市の水道インフラの老朽化は危機的だ。コロナの感染による死者は全国一、10万人に当たりの感染者数もダントツだ。医療崩壊が2度にわたって起きている。
当然、こちらの方に万博・カジノ・IRに使う資金を使うのが合理的な判断だと思えるが、今のところ市民の感覚は大阪維新に寛大であるように見える。大阪が潤うならいいじゃないかと思っている支持者もいるだろう。街頭でカジノ反対のチラシを撒いていたとき、若い兄ちゃんに質問された、パチンコについてはどう思うのかと。日頃そのような反論を大阪維新が準備しているのだろうと思った。
真実を市民に
知らせよう!
「大阪の成長を止めるな(成長していないのに)!大阪の改革を全国へ」は、日本維新の会の選挙用キャッチフレーズだが、知らない人が聞くと本当だと感じてしまう。大阪維新は知られたくないことを隠すのが巧みだ。多くの市民は、カジノ・IR問題で何が起きているのかをほとんど知らない。
集会では、横浜市民が住民投票でカジノ反対の市長候補を押し上げて当選させたことに倣って、諦めずに計画の撤回まで闘おうとの雰囲気に満ちていた。集会は1時間で終了し、参加者の幾人かは請願書の提出と、大阪市議会の傍聴に向かった。
自民党市議団から「賛否を問う住民投票」条例案が提出されている。これは諮問型の住民投票で、市民の賛否を確認するのが狙いだ。市議会で否決された場合には、止める手段としては府議会が残るのみ。
府・市は、カジノ・IR区域整備計画については、議会の議決を得た上で、22年4月までに政府に申請する方針だ。まさにこれから1カ月半ほどが正念場になる。
追記 10日の議会で住民投票条例案は否決。同時に、議席を9議席削減案(88→79)が可決された。
(T・T)
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