「ミャンマー民衆と連帯するために」①

「独自のパイプ」への監視果して?
メディアは「クーデターの1年」をどう報じたか

報道による「権力の監視」を注視する
 国境なき記者団は02年から毎年、「世界報道自由度ランキング」を発表する。日本は02年が26位、第一次安倍政権で51位となる。民主党政権時の10年には11位まで上昇したが、第二次安倍政権で急降下した。昨年4月に発表された最新の結果は、日本は67位で前年から1ランク落ちた。この発表の2カ月前、NHKは「ニュースウオッチ9」の有馬キャスターと、「クローズアップ現代+」の武田アナウンサーの〝降板〟を発表している。
 有馬は20年10月の臨時国会開幕日の放送で、生出演していた菅首相に日本学術会議をめぐる問題で質問を重ねた。やがて菅はムッとした表情となり、「説明できることと、説明できないことがある」と〝答弁拒否〟を衆目にさらした。武田は昨年1月の放送で、自民党の二階幹事長に新型コロナ対策で「政府の対策は十分なのか。さらに手を打つことがあるとすれば何が必要か」と質問した。二階は「いちいちそんなケチをつけるもんじゃないですよ」と武田をにらみつけた。
 
〝勧善懲悪〟を強調するワイドショー
 2月1日の「大下容子ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系列)は、「クーデターから1年/独自!ミャンマー軍政国境取材で見えた過酷」という特集を放送した。午後0時台で約35分ほどのこの特集は、まずクーデター発生からの1年をビデオでふり返り、2つの「深掘りポイント」と書かれたパネルで特集の概要が示された。1つめポイントは、「死者1500人以上/軍事政権による弾圧の実態とは?」、2つめは「国際社会からの制裁で困窮/一方で中国がミャンマーに接近か」だ。〝勧善懲悪の番組である〟と主張するかのようなポイントが書かれたパネルの左側にはアウンサンスーチーの写真が1枚、右側にはミンアウンフラインと習近平の写真2枚が上下に配置されている。パネルには次のような文言が並ぶ。「クーデター後、中国は様々な分野でミャンマーを支援」「中国海軍、去年12月24日/中古の潜水艦をミャンマーに無償譲渡(日経1月28日付)」、「新型コロナウイルスワクチン/計4000万回分ミャンマー国内の9割以上を提供(新華社1月13日付)」などだ。
 テレビ局によって編集された取材映像やパネルの説明などに、上智大学の根本敬教授がスタジオで解説を加え、火曜日のコメンテーターである作家の吉永みち子さんと元テレビ朝日政治部長の末延吉正さんのふたりが感想や意見、自説を述べる。このように番組は進行していった。

「国軍との独自のパイプ」をもつ日本
 「日本のクーデター後の対応は」のパネルでは「国軍とは独自のパイプがある」「継続中のODAは維持」を赤字に色分けして強調する。司会の大下さんが「日本には独自のパイプがあると聞くが、何か対応をしているんでしょうか」と根本さんに解説を求めた。根本さんは「独自のパイプというのは、具体的にいえば2人もしくは3人の特定の個人がミンアウンフライン総司令官と会える、または電話できる、そしていろいろな話しができるということに尽きる。そのときに、G7の一員である先進民主主義国家である日本のメッセージをきちんと伝えているかどうか。どうも伝えてはいないようだ。2人、3人は総司令官との個人的なパイプを維持することを目的化して、そもそも伝える気はないのではないか」と踏み込んだ。続けて「この特定の個人は日本政府に影響力を持っている方々でもあるので、日本政府が忖度してしまっている」、「太いパイプはあるけれども、太いパイプがあるために、独自の判断を日本政府も外務省もできないでいるという現実がある」とし、日本政府がすべての問題を先送りして十分な成果を出し切れていない原因を指弾した。
 これらへのコメントを求められた末延さんは、「日本のパイプを簡単に言ってしまうと、笹川平和財団と、日本ミャンマー協会の元内閣官房副長官の渡辺秀央ですね。この2人と今のビルマ大使。こういう個人的なパイプだけで軍と話しができるというだけで、人権の問題はこの1年間、日本は何もやっていない」とさらに踏み込んで実名、実団体名を示した。笹川平和財団とは、笹川陽平名誉会長のことを指したのだろう。
 ウィキペディアによれば、ミャンマー大使の丸山市郎は昨年2月20日、大使館前でデモ隊との直接対話に応じ、ビルマ語で「皆様の要請文は責任を持って日本政府に提出する」と約束し、軍政に対してアウンサンスーチーらすべての政治家の釈放と平和的かつ民主的な解決を求めていることを述べたという。だが、大使館が民主的な手続きを経ずに外務大臣に就任したワナ・マウン・ルインを「外相」と呼んだことから、反発をよんだ。

丸山市郎駐ミャンマー大使はどういう人物か
 今年1月9日、丸山はクーデター後はじめてメディアの取材に応じた。翌日の朝日新聞によれば、「現地で人道支援を続けてきた日本財団会長の笹川陽平氏も国軍とのパイプを持つ。9日には同財団が寄付した100万回分の新型コロナウイルスのワクチンが最大都市ヤンゴンに到着。その引き渡し式に丸山氏が出席し、今回の取材に応じた」ということだ。「2018年から大使を務める丸山氏はミャンマー語が堪能で、赴任は5回目。民主化指導者のスーチー氏や、国軍トップに直接会える関係を築いてきた」と紹介されている。
 このときのインタビューの一問一答を、朝日新聞デジタルが詳報していた。丸山は「私は日本の外交チャンネルに力があると思っていない。効果を出せていない。だが、欧米などと違うのは、われわれは国軍に接触できているということ。直接会って話している時、彼らにとって耳の痛いことも言っている。直接、リストを渡して拘束者の解放を求めている。欧米諸国は、国軍側と接触することが(国軍を)政府として承認することにつながるとして、やっていない。だが、関与することが政府の承認につながるかどうかなどという神学論争をわれわれはしない」と述べていた。
 丸山は20年7月、インタビューで次のように話している。「対話のチャンネルを持つためには制裁は行わない。制裁は外交にとって最後の手段。外交が崩壊したときに戦争がある」(youtubeヤンゴン日本人会チャンネル『丸山市郎大使とミャンマーの40年間』から)。

 SNSで数多く投稿された昨年2月20日のヤンゴン市内にある日本大使館前の映像では、丸山大使の後ろに「Thank You. Japan」「ありがとう、日本」と書かれたプラカードがみえる。ミャンマー民衆は、アウンサンスーチー国家顧問が実権をもった国民民主連盟(NLD)政権を支えてきた日本政府を信じていた。日本政府の窓口である丸山に加え、笹川陽平も、日本ミャンマー協会の渡辺秀央もNLDを支える人物として信用されていたのだろう。政治的・経済的に、あるいは「司法を使うぞ」とメディアに圧力をかける力がある。
 ワイド!スクランブルの生放送では、根本さんは実名を出せなかった。末延さんは、この放送以前の番組で、実名を述べた実績があったようであるが、放送局としてはハプニングだったろう。「権力の監視」を日々行ってはいるのだろうが、経営者にとって不都合な内容は報じられてはいないようだ。こうした状況のなかでも、「監視のかけら」のような情報がある。こうした情報を整理し、不定期の「ミャンマー民衆と連帯するために」として笹川や日本ミャンマー協会などによる国軍クーデター政権への加担について告発を続けてみる。(2月21日 KJ)

【補足】上智大の根本敬教授が「日本人でミャンマー軍と太いパイプを持つのは、日本ミャンマー協会の渡辺秀央会長、日本財団の笹川陽平会長(ミャンマー国民和解担当日本政府代表)、丸山市郎大使だ。丸山大使はミャンマー語が堪能で、軍との関係が深く、ノンキャリアから異例の大使就任となった」と語った記事「ミャンマークーデターから1年 根本敬教授に聞く」が、日テレNEWSサイトで閲覧できる。

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