原発と戦争─ロシアは速やかにウクライナでの軍事作戦を中止するべき

NPО法人原子力資料情報室

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 2月24日、ロシアのプーチン大統領はウクライナに対して事実上の宣戦を布告し、攻撃を開始した。おそらく1991年のスロベニア独立戦争以来となる、民生用原発が稼働する中での戦争が始まった。私たちは、この戦争を強く憂慮し、速やかな停戦とロシア軍の撤退、そして紛争地域に近い稼働中原発の即時停止を強く求める。

 ウクライナは電力供給の半分以上を原子力に依存し、電力供給を維持するために戦争中でも原発を稼働させている。原子力発電公社エネルゴアトムによれば、開戦前の23日時点で15基中リウネ原発1号機とフメルニツキ―原発2号機を除く13基の原発が稼働中だ。

 ウクライナ政府の発表によれば、24日、戦闘の末、ロシア軍がチェルノブイリ原発を占拠したという。いまだ、大量の放射性物質を抱えているチェルノブイリ原発での戦闘も問題だが、より深刻なのは、稼働中の原発だ。戦争によって原発が事故に至る可能性は否定できない。たとえば、格納容器にミサイルが衝突すれば、大惨事に至る。冷却水の取水のための装置が打撃を受ければ、原子炉の冷却に支障がでる。送電網が破壊されれば、外部電源喪失に至る。運転員の避難や殺傷などが起きれば、原発の制御もままならなくなる。

 攻撃や事故により原発が制御不能になれば、チェルノブイリ原発事故や福島第一原発事故の被害を大きく上回る事態に至ることも否定できない。ウクライナだけではない。ロシアの主要耕作地域、ヨーロッパ全土にも大きな被害が発生する。ウクライナの特に紛争地域に近い原発の運転は可能な限り速やかに停止すべきだ。早く止めれば止めるほど、事故を回避できる可能性は高くなる。

 一方、原発を停止すれば、戦火の最中に市民生活のインフラ機能が停止し、多大な人命損失の可能性が生じる。そのため、欧州各国は資源価格高騰、電力需給がひっ迫する中ではあるが、ウクライナへの電力輸出を行い、ウクライナを支えるべきだ。日本も相応の貢献が求められる。

 プーチン大統領は他国が介入した場合、核兵器使用を示唆している。しかしこれは断じて許されない。核兵器の使用が許されるどんな大義名分も存在しない。それ以前に、原発のある国への侵略が自国への安全保障の重大なリスクにもつながりかねない現実を直視すべきだ。ロシア軍が早急に軍事行動を中止し、撤退することを強く要求する。
   2020年2月25日

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