石垣島に自衛隊ミサイル基地を造るな

沖縄報告 2月27日

尖閣諸島を中国との紛争の道具にしてはならない!

沖縄 K・S

            
 2月中旬、八重山諸島の小浜島・石垣島の戦跡と基地の現場をめぐるフィールドワークを行った。八重山諸島は、地上戦の舞台とはならなかったが、島民多数が軍人・軍属として動員され死傷したほか、各地に駐屯した日本の陸海軍の下で、飛行場建設・陣地構築・物資調達に使役された。また、朝鮮半島から強制動員された水勤隊101中隊の一個小隊(山口隊)を構成する200人以上の朝鮮人軍属のほか、飛行場建設を請け負った原田組の下で約600人の朝鮮人労務者がいた。八重山諸島での戦争で、飢餓とマラリアにより数千人が死亡した。
 戦争の傷跡が残る八重山にまた新たな戦争の火種がもたらされている。自衛隊ミサイル基地建設の強行と中国との対立を深める尖閣諸島領有キャンペーンである。石垣港には尖閣をカバーする海保の巡視船が10隻以上常駐し、まるで「戦時体制」のような異様な姿を見せている。
 
尖閣諸島情報発信センターの展示

 石垣港離島ターミナル2階の「尖閣諸島情報発信センター」は、石垣市がふるさと創生資金1600万円余を使って昨年12月に設けたもので、日本の尖閣領有の主張を地元石垣市として前面にたって宣伝するものとなっている。
 展示パネルは、①尖閣諸島を構成する島々(魚釣島、久場島、大正島、北小島、南小島、沖の北岩、沖の南岩、飛瀬)の紹介、②尖閣諸島の日本への領土編入の経過とその後の事業の推移、中国・台湾の主張に対する批判、③尖閣諸島の植物・生物などの説明、④「日本の領土」とのタイトルの下で、尖閣諸島、北方領土、竹島を取り上げ、それぞれの現状と経緯を展示している。
 昨年石垣市が製作した行政標柱も並べられている。また、尖閣諸島の島々の姿を立体的に見る事のできる3D模型で、植生図や地形の現状・カツオドリやアホウドリの写真が確認できる。さらに、大型テレビ画面での映像キャンペーン。映像は、「石垣市の宝 尖閣諸島」(17分)、「古賀辰四郎による尖閣諸島の開拓」(3分5秒)、「米国が尖閣諸島を琉球列島の範囲に含めていた証拠」(3分53秒)、「尖閣諸島について」(1分28秒)などがたえず上映され続ける。
 パネル・標柱・3D・映像を含めて、展示は尖閣諸島の歴史、地理、自然を分かりやすく説明している。事前の知識なくこの展示を見れば、尖閣諸島が沖縄県石垣市に属する日本の領土であることに疑いを抱かないであろうと思われる。
 
日本政府の領有権主張の前面に立つ石垣市

 石垣市議会は一昨年、尖閣諸島の地番名を、「石垣市登野城」から「石垣市登野城尖閣」に変更した。昨年は「八重山尖閣諸島魚釣島」などの行政標柱を製作し、尖閣への上陸を日本政府に申請したが、上陸許可は下りていない。今年1月には、中山市長らが周辺海域を航行した調査船に同乗したことをマスコミに公開した。石垣市は今、「尖閣諸島は日本固有の領土」と主張する日本政府の忠実なプロパガンダの役割を担っており、中国との領土紛争の最前線に立っているのである。
 石垣市民は中国との領土紛争を決して望んでいない。日本が尖閣を領有決定した1895年前後から、アホウドリやアジサシの捕獲、カツオ漁などを通じて、石垣と尖閣との結びつきが続いてきたため、八重山諸島の人々の中には、連綿とした感覚の中に尖閣が存在すると言えるかも知れない。しかしそれは、「固有の領土」を振りまわして中国との領土紛争も辞さない、というものでは全くない。
 地図を見ればわかるように、石垣、与那国などの八重山諸島は、沖縄島よりはるかに台湾に近い。台湾からの移住民から水牛やパイナップル栽培がもたらされ、逆に八重山の漁民が台湾に行き尖閣周辺での漁業に従事したという歴史もある。尖閣諸島周辺は、石垣島からも台湾北部からも距離にして約170キロ、かなり遠く日常的な生活圏ではないが、数日かけて行う漁業の場として共同利用されてきた。かつて、尖閣周辺には事実上、国境や領海という概念はなかったのである。

尖閣諸島の二島(久場島、大正島)は米軍基地

 野田民主党政権の「尖閣国有化」が領土紛争を激化させるきっかけとなった。政府が民間人から購入したのは、魚釣島、北小島、南小島の三島である。尖閣諸島はそのほかに、沖の北岩、沖の南岩、飛瀬という岩礁の島が三つ、魚釣島から北東に約27キロ離れた久場島、同じく約110キロ東方にある大正島がある。久場島を除いてすべて国有地だが、民有地の久場島は今も民有地のままだ。尖閣国有化から久場島は除外された。ところで、久場島と大正島は、黄尾嶼(こうびしょ)、赤尾嶼(せきびしょ)という以前からの中国名で米軍の射爆撃場として提供されている。多くの国民は尖閣諸島が米軍基地になっていること、しかも中国名の島の名で米軍に提供されていることを知らないに違いない。二島の射爆撃場は、1979年以降、40年間以上使用された形跡はないが、ずっと米軍基地として提供され続けている。使わないのであれば返還すべきものだが、米軍は返還しようとせず、日本政府も返還を求めない。「日米同盟」の結束が示されているわけだ。日米両政府は、この二つの島を米軍基地として維持することで、中国に対する牽制になるとでも考えているのだろうか。

領有権問題のポイントは1895年の日本の領有宣言の評価

 「尖閣諸島は日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らかであり、現にわが国はこれを有効に支配しています。したがって、尖閣諸島をめぐって解決しなければならない領有権の問題はそもそも存在しません」(尖閣諸島情報発信センターの展示文)と、石垣市と日本政府は主張する。しかし、領有権問題は相手国がある話であり、相手国が納得しない限り解決しない。現に中国と台湾が領有権を主張して行動し紛争になっているにもかかわらず、「領有権問題は存在しない」と無視することは賢明な態度ではない。中国と台湾にまともに向き合う以外ないのである。
 尖閣の領有権問題の最大のポイントは、1895年の明治政府による尖閣領有決定をどう考えるかという所にある。ミクロで見ると、国際法上の「無主地先占」の法理によるものとの考えが成り立つように見えるが、もう少しスパンを拡げると、日清戦争で日本が勝利し清国が敗北する力関係の中で日本が奪ったという見方が成り立つだろう。さらにマクロでみると、明治政府成立以後、琉球併合、台湾併合、朝鮮併合等と続く日本のアジアに対する侵略と暴力の一コマとみることができる。
 日本による尖閣諸島の領有は日本のアジア侵略の一部である、と私は思う。天皇制日本のアジア侵略が血なまぐさい暴力にいろどられていたように、日本の尖閣領有と開発は自然と生物に対する無慈悲な暴力を伴なった。多くの冊封使の記録が記しているように、釣魚島のアホウドリは、福州からの冊封船や進貢船が付近を通過するとき、危険な船旅の一行を出迎えるかのように、船の周りを飛び回った航海の安全を象徴する鳥である。人間に対する警戒心を全く持たないため、入植者たちによりたやすく捕らえられたこの白い鳥を、日本人は「アホウドリ」と名付け捕獲しつくした。その数約100万羽。その結果、絶滅したと思われたが、最近また尖閣諸島の一部でその姿が確認されている。この鳥の英名は「アルバトロス」。ゴルフで、バーディー、イーグルの上をいく、あのアルバトロスである。誰が「アホウドリ」などと言う下品で傲慢な名を付けたのか。学会は深く恥じて、改名を検討すべきである。

田中首相と周恩来首相が手を結んだ日中国交回復の原点

 尖閣諸島は、中国との冊封関係にあった琉球王国と中国福州をむすぶ海路の標識として、琉球の人々にとっては古来よりなじみの深いものであった。釣魚島(釣魚台)、黄尾嶼、赤尾嶼という中国名が付けられていたことは、福州―那覇間の海路が中国明・清政府の政治的影響力の範囲内にあったことを端的に示すものだ。とはいえ、これらの無人島が中国の領土であったと断定するには早計である。歴史的事実の拡大解釈は慎まなければならない。
 日中両国政府は、互いに有利な古地図や文献を持ち出して「固有の領土」と主張し合っている。「固有の領土」などというものはない。紛争地であるからこそ自国の領土であること認めさせようと「固有の領土」と主張するに過ぎない。
 尖閣をはじめ、竹島、歯舞・色丹・国後・択捉という国境紛争の島々は、日本の明治以後の暴力による膨張と敗戦による縮小の結果、もたらされたものだ。即ち、領土問題は敗戦処理の範疇の問題なのである。逆に言えば、日本はいまだ成功裡に敗戦処理をすることができない不安定な国家であるといえる。
 50年前、田中首相と大平外相が中国を訪問し日中共同声明を発表して中国と国交を結んだ時、政府だけでなくマスコミもこぞって歓迎の社説を発表した。東西対立の谷間にあった日本の社会全体に解放感があふれた。ところが現在どうだろうか。政治家だけでなくマスコミもそろって、「中国船の領海侵犯」などと嫌中キャンペーンを繰り広げ、社会の雰囲気は暗い。隣国と果てしなく紛争を続けていてはそうなるほかない。尖閣領有問題を事実上棚上げし、田中首相と周恩来首相が手を結んだ日中国交回復の原点に帰ろう。

戦争を告発する小浜島・石垣島の戦跡

 1944年にはじまった沖縄戦で、小浜島・石垣島を含む八重山諸島は米軍の上陸に備えて陸海軍を配置した日本軍によって各地に陣地が築かれた。戦後77年経過した今も、海軍の特攻艇「震洋」の秘匿壕跡がそのまま残っている。小浜島には、海岸際の東(アルムティ)御嶽のある砂岩の小高い丘に、縦3m、横4m程の人口壕が四か所確認できた。石垣島の宮良川河口付近にも、同じ「震洋」の秘匿壕を2基確認した。特攻艇「震洋」は米軍との戦争で何の役にも立たなかった。小浜島に動員された朝鮮人約50人と島の住民に苦しみを与えただけだった。
 島の集落は、小学校が軍兵舎にされ、主だった民家が通信所など軍施設や朝鮮人部隊の宿舎にあてられ、軍慰安所も二か所にあったという。住民は陣地構築などの軍労務のほか、牛馬豚山羊鶏や米など食料、材木の供出を強制された。当時の島の人口は約1200人、戦争で190人亡くなったが、うちマラリアによる死者は136人を数えた。
 小浜島だけではない。八重山の戦争による犠牲者の最大のものはマラリア戦没者であり、八重山全体での死者は合わせて、3825人にのぼる。これは単なる病気ではない。日本軍は、波照間島の1600人以上の全島民を西表(いりおもて)のマラリア繁殖地に強制移住させ、飼育されていた牛750頭、馬130頭、豚400頭、山羊550頭、鶏5000羽を奪った。飢えとマラリアで500人以上を死に追いやったのをはじめ、竹富町の各島、石垣島の各地の住民を軍による強制疎開によって死に至らしめた。戦争マラリアは日本軍による戦争犯罪なのである。石垣市のバンナ公園の一角につくられた八重山戦争マラリア犠牲者慰霊の碑は日本軍の戦争犯罪を告発している。
 石垣市立登野城小学校の敷地の一角に、戦前日本政府が全国の小学校に設立した奉安殿の実物が保存・展示されている。天皇・皇后の写真と教育勅語を納め、登下校の生徒に最敬礼を強要した奉安殿は、教育現場において天皇制日本国家の侵略と暴力に子供たちを動員していく装置であった。戦後の世代わりと共に各地の奉安殿はほとんど撤去・解体され跡形もなくなった中で、石垣の奉安殿は、天皇制を告発する数少ない歴史遺産である。
 
石垣島のミサイル基地建設現場

 石垣島には沖縄でもっとも高い標高526mの於茂登(おもと)岳がある。緑豊かな山々のお陰で水が豊富で空気が澄み、農業が栄えた。山の水は川を流れ、ラムサール条約に登録された名蔵アンパルに至る。米軍基地建設のための土地強制収用により故郷を追われた沖縄島の農民が移り住んだのも於茂登岳のふもとの集落であった。
 この一帯に現在、自衛隊ミサイル基地建設が進められている。基地建設用地は、ゴルフ場跡地と石垣市有地に民有地。石垣市は市有地を防衛局に売却した。中山市長は、尖閣問題での反中国キャンペーンとともに自衛隊基地建設の推進で、日本政府と直結した排外主義の役割を積極的に果たしている。クレーンやユンボを大量に投入した工事現場の出入口から、フレコンバッグを積んだトラック、コンクリートミキサー車、砂を積んだダンプなどがひっきりなしに行き来する。
 アメリカの対中国軍事戦略に追随して、日本政府は、鹿児島から台湾に至る琉球列島の島々に、ミサイル部隊の配備をすすめている。那覇基地の航空自衛隊の戦闘機、海上自衛隊の対潜哨戒機の増強とともに、陸上自衛隊の地対空・地対艦ミサイル部隊は奄美・沖縄・宮古・石垣を結び中国大陸を外側から覆うように配備する計画だ。石垣のミサイル部隊の開設は2022年度、沖縄島の勝連分屯地の陸自ミサイル部隊とミサイル連隊司令部の開設は2023年度が予定されている。
 石垣の自然と環境を守るため、「基地いらないチーム石垣」のメンバーは週2~3回、監視行動を続けながら、諸団体と協力して、抗議行動、石垣市に対する要請行動などを行い、日曜日午後4時からは、おばあたちの会と共に、工事現場近くの開南交差点で街頭アピールに立っている。「石垣島平得(ひらえ)大俣(おおまた)陸自ミサイル基地建設工事現地よりのレポート」はブログ『琉球弧の軍事基地化に反対するネットワーク』に日々の動きが詳しく掲載されている。
 「日米同盟」のもと米軍に従属する限り、たえざる軍事的緊張の演出、軍備増強、高額米製兵器の購入、軍事費の拡大、近隣諸国との対立進行のスパイラルから抜け出ることはできない。その一方で、年金、教育、育児、医療などすべての福祉の面で貧困がすすみ、国の没落が進行する。安保条約・地位協定を破棄し、日米同盟に終止符を打つことが、日本がまともな国になり、平和と安定を取り戻し、近隣諸国との友好を築く唯一の道筋である。

2022.2.19 自衛隊基地に反対するおばあたちの会で
2022.2.20 石垣市登野城小学校に現存する奉安殿
2022.2.19 石垣島の自衛隊ミサイル基地建設現場
2022.2.18 小浜島。 徴用された朝鮮人が宿泊していたという民家のひとつ

2022.2.18 八重山戦争マラリア犠牲者慰霊の碑。
2022.2.17 石垣港の建物の2階につくられた尖閣諸島情報発信センター

【訂正】かけはし2月28日号、1面ウクライナ論文の本文上から5段目左から14行目「国際銀行間通信協会(SWIFI)」を(SWIFT)に、同2面の袴田巌さん無罪集会の日付「1・31」を「1・30」に、同2面JAL争議解決集会記事、弁護士発言の2段目右から7行目「JHC」を「JHU」に訂正します。

週刊かけはし

購読料
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009  新時代社