アイヌとしての主体性生きる「先住権」の具体的実践とは
2.19北方先住民族の自治・自決権問う
2月19日午後、東京の神保町区民館ひまわり館で「アイヌ文化から北方諸島の問題を考える集会」が同実行委員会の主催で開催された。「北方諸島」の問題を何よりも「アイヌ」など北方先住民族の自治・自決権の問題として捉えるために積み重ねられてきた集会だ。「コロナ・オミクロン禍」の中で、集会の開催には困難もあったが約30人が参加した。少数ではあるがオンライン参加の人もいた。
最初に主催者を代表して本多正也さんがあいさつ。「のべ27年間にわたり、『北方領土の日』への批判的視点をもって活動してきた。『4島返還』 から『2島返還』への転換でうまくいくのかと思っていたが簡単ではない。ロシア・ウクライナ紛争を見てもそれは明らかだ。国境線を引くことで問題を解決できない」と語った。
この日のメインの講演者は秋辺日出男さん。1960年阿寒湖温泉に生れ、阿寒アイヌ工芸協同組合専務理事で民芸品店を経営し、2008年の「先住民族サミット」で共同代表をつとめ、東京五輪札幌会場ではアイヌ舞踊の総監督となった。以下、秋辺さんの講演要旨を紹介する。
(K)
秋辺日出男さんの講演から
『アイヌ文化』と語る場合、それぞれの人たちの『心』・『アート表現』として語られることもあるが、今、われわれに問われているのは『総体としての文化』ではないか。いまアイヌの人びとには『土地の権利』も『資源への権利』もない。『資源』も含めて『100%返せ』という権利がアイヌにはある。しかし『本土』からの人もすでに3代、4代の生活を北海道で過ごしており、そうしたことを実際には主張できない」。
「国家を持たない先住民の権利を奪うのが当たりまえということになっており、『そもそも論』として理想に近い『先住権』を法律には書いてくれない。『現実論』と『そもそも論』は共に必要なのだが、『そもそも』論にとっても『現実』を認めた上での主張が必要となる」。
「アイヌのもともとの目的は平和にある。『殺し合い』で土地が戻ってくるのではない。返ってきたらどうするか、という現実論が必要になる。いま住んでいるロシア人を追い出せとは言えない。いま住んでいる人の『いのちの権利』を抜きにした簡単な話ではない。冬は住めないけれど、夏だけ住みたい、という意見もあるようだ。混血も進行しており和人とアイヌのハーフもいるが、和人社会はアイヌの血を引いた人を和人と認めない、という。4分の1でも『アイヌ』だという。アイヌ的生き方を現状では選ぶ道はない」。
「この大地は人間が作ったものではない。どっちのものか、というのはおかしい話だ。所有物ではない『土地』の利用は、『チャランケ』(話し合い)で決めるしかない。阿寒湖での漁業権はアイヌにはないのだが、漁民との間で同じテーブルについて論議することが必要だ。そのようにすることで先住民の間だけではなくお互いに生きていく、という双方に利益となるようにする道を選べる」。「アイヌにとっても、環境にとっても良くなった、という選択だ。アイヌにとっても、全人類にとってもいいことだ、という状況を作らなければならない。自然環境を取り戻さないとアイヌの権利は戻ってこない、ということだ」。
「『里山の思想』という考え方がある。森、川、山を生産の場として管理し、必要なものだけ採取する、ということだ。サケと海洋の環境という問題を考えないとサケはかえってこない。『アイヌわり』という習慣・考え方がある。たがいに尊重し合うということだ。それはアイヌとしての主体性を持って話し合い共感する仲間をつくり出すということだ」。
「他の文化と浸透し合わない文化はないし、変化しない文化はない。差別したものと差別の被害者との関係にも冷静さが必要であり、『罪状認否』を含めて、冷静さが闘うものには必要だ」。
「アイヌとしての主体性をもって、共感する仲間たちを作り出すことが必要であり、『情のない正論』『情のない批判』をやるべきではない」。(発言要旨、文責編集部)
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