大垣警察市民監視違憲訴訟

賠償勝ち取るものの
裁判所の警察擁護は不変
警察権力の運動破壊を許すな

 2月21日、岐阜地方裁判所民事第2部(鳥居俊一裁判長)は、大垣警察市民監視違憲訴訟(公安政治警察によるプライバシー侵害事件)の原告4人の損害賠償請求を認め、岐阜県に220万円の支払いを命じた。だが、国と県に対する個人情報抹消請求は、「保有している原告らの情報が特定されていない」として不当却下した。県は、3月9日、控訴した。

どのような
事件なのか
 大垣警察市民監視事件とは、2005年頃から中部電力の子会社であるシーテック社が岐阜県大垣市に風力発電施設計画を進めていたが、風力発電による低周波被害などの不安を感じて地元市民が勉強会を開始し、それを大垣警察署警備課の公安が監視し、反対運動つぶしのためにシーテック社に情報提供と弾圧のための誘導を強行していた事件だ。
 事件発覚は、朝日新聞(名古屋本社版/2014年7月24日)がシーテック社の内部文書を入手し、「岐阜県警が個人情報漏洩 風力発電反対派らの学歴・病歴」という見出しでスクープ報道。入手した文書の議事録は、風力発電反対運動つぶしのために公安がシーテック社を指導しているやりとりが明記されていた。また、反対派住民の脱原発運動、平和運動活動歴、学歴、病歴などの個人情報などを提供していた。
 住民は、名古屋地裁に「議事録」の証拠保全を申し立て(16年2月4日)、「議事録」を入手し全容が明らかになった。公安は、大垣警察署にシーテック社を呼びつけ、「勉強会の主催者であるA氏やB氏が風力発電にかかわらず、自然に手を入れる行為自体に反対する人物であることをご存じか」、「今後、過激なメンバーが岐阜に応援に入ることが考えられる。身に危険を感じた場合は、すぐに110番してください」などと危機を煽り、事件化にむけて着手していた。
 住民は、地方公務員法違反の刑事告発を行ったが、岐阜県警は「通常の警察業務の一環だ」(14年11月)と居直った。また、参議院内閣委員会(2015年)で警察庁警備局長は、「公共の安全と秩序の維持の観点から関心を有し、必要に応じて関係事業者と意見交換を行っております。そういうことが通常行っている警察の業務の一環だということでございます」と答弁し、公安の違法行為を合法だと断定した。
 このような警察権力の手前勝手な暴挙に対して住民は、岐阜県を被告として国家賠償請求訴訟を名古屋地裁に提訴した(16年12月)。住民は、①公権力の行使の違法性 ②プライバシー侵害 ③個人に関する情報なしに収集・管理・提供されない自由の侵害(憲法13条) ④表現行為人格権の侵害(憲法21条1項、13条) ⑤表現の自由の侵害(憲法21条)を争点にして裁判闘争を開始した。
 また、原告4人の「個人情報を抹消せよ」という個人情報抹消請求を追加提訴(18年1月)した。

住民運動敵視は
正常な警察行為
 判決は、公安の情報収集に対して、「国家賠償法違法となるか否かは、収集、保有された情報の私事性及び秘匿性、個人の属性、被害利益の性質、本件情報収集等の目的、必要性及び態様等の事情を総合考慮して判断するべき」として警察法に基づいて公安の情報収集行為を合法とした。日本帝国主義国家防衛の観点から裁判所は、その任務を不当にも貫徹した。ダメ押しで「本件情報提供及び本件情報収集等に係る具体的事情に照らしても、思想良心の自由や表現の自由が侵害されたとはいえないし、表現行為人格権についてはその内容自体が不明確であるから、原告らの上記主張を採用することはできない」とまで述べ、擁護するのだ。公安は、尾行・監視(定点も含めて)、電話盗聴、盗撮、人権侵害の聞き込みなどの捜査を長期にわたって遂行していくのが常態化している。このような長期広範囲にわたる捜査と称する運動つぶしこそが、人権侵害であり、運動離脱・破壊に向けた脅迫・強要だ。
 あげくのはてに「原告らの活動が市民運動に発展した場合、抽象的には公共の安全と秩序の維持を害するような事態に発展する危険性はないとはいえない」、だから「万が一の事態に備えて日頃から原告らに関する情報収集等をする必要性があったことは否定できない」などと判決文に書き、公安を防衛する裁判所を許してはならない。

個人情報提供
のみ賠償認定
 裁判所は、公安の情報収集を擁護したが、「原告らの損害」について、「大垣警察からプライバシーに係る情報が積極的意図的に対立の相手方であるシーテック社に提供されたことにより、精神的な損害を被ったものと認められる。原告らは、その各本人尋問において自らの情報が大垣警察からシーテック社に提供されたことを知り、口々に嫌悪感を抱いたとか、憤りを感じたなどと述べており、これは原告らが精神的な損害を被ったことの現れであると解することができる」と認め、住民の被害の訴えに対してバランスをとったと言える。
 県は、一貫して事実認否を拒み、担当した公安警察たちの裁判出廷を拒否、反論のための具体的な立証・反証もやらず、住民の被害を真っ向から否定することもできず、「情報収集活動は適法」を繰り返しただけだ。県の居直り、不誠実な対応によって裁判所もやむをえず、「思想信条に関連する情報は、個人に思想良心の自由が保障されていること(憲法19条)を考慮すれば、プライバシーに関する情報の中でも要保護性が高いものと解するのが相当である」と述べざるをえなかった。
 さらに、「大垣警察は、上記のような要保護性の高い原告らの情報を、自ら第三者であるシーテック社に対して情報交換の機会を設けることを提案するなどし、必要性がないのに積極的かつ意図的に、かつ複数回にわたり継続的にシーテック社に提供したものであり、かかる情報提供の具体的態様は悪質といわざるを得ない」と断罪した。
 結論として、「原告らの情報の性質及び本件情報提供における態様の悪質さ等に鑑みれば、その慰謝料額としては、原告各人につき50万円が相当である」とした。

治安弾圧へ
反撃拡大を
 大垣警察市民監視違憲訴訟は、公安の情報収集活動を合法とし、住民のプライバシー侵害に対しては違法と判断した。つまり、裁判所は、住民の人権を憲法の立場から防衛し、国家権力の秩序維持の先兵である公安を防衛しぬいたのである。秘密保護法、共謀罪が制定され、公安はそれらを法的根拠にして人権侵害を繰り返している。警察庁・公安政治警察は、岐阜裁判所の判決に対して苦々しく思っているに違いない。だが、大きな「打撃」ではなく、総括したうえで巧妙に肥大化させていくための戦略・戦術を考察しているはずだ。例えば、朝日新聞にリークした者の特定も含めて、その回路の解明から事前阻止のための重層的弾圧体制をいかに構築していくかである。
 10・24免状等不実記載弾圧国家賠償請求裁判(06年)は、横浜地裁が神奈川県警によるAさん(JRCL)の不当逮捕の違法性を認め(08年12月 16日)、東京高裁も支持した(09年9月9日)。この国賠裁判は、Aさんが免状等不実記載罪(運転免許証に記載されている住所〈実家〉と現住所が違っていた)で神奈川県警察公安三課に逮捕(06年10月24日、)され、10日間の勾留と人権侵害の取り調べを行ったことに対して、Aさんらが国家権力の犯罪を許さず、責任追及していくために横浜地方裁判所民事部に起こした(06年12月25日)。
 この裁判でも神奈川県は、警察捜索と逮捕の正当性を繰り返し、「Aは暴力革命をめざす過激派団体の構成員」であり、その危険性に対して対応したのだという稚拙な立証しかしなかった。裁判所も県の不十分な立証、一方的なレッテルに対して呆れる始末だった。
 しかし、10・24免状等不実記載弾圧国家賠償請求裁判は勝利したが、免状等不実記載弾圧の強行にとってなんら歯止めにならず、公安警察は繰り返し新左翼団体・労働組合に対して予断と偏見に基づく、人権侵害捜査を繰り返し、不当逮捕を強行している。しかも被害者に対する緻密な事前捜査、逮捕による各種影響力の範囲なども含めてインプットしながら、運動や労働運動を破壊するために打撃を有効に与えることができるターゲットを設定し、弾圧を行っている。すでに秘密保護法、共謀罪を先取りした暴挙が行われている。闘う側の反撃戦は、一つ一つの勝利を共有化し、敵の脆弱性を摘発し、こじ開け、拡大させていくことである。共に闘わん!
(遠山裕樹)

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