3.20「はむねっと」が設立1周年集会「声を上げよう非正規の女性」

問題だらけの「会計年度任用制度」を批判する

 3月20日、東京・中央区の日本図書館協会・研修室で「はむねっと発足1周年 ハイブリッド集会」が開かれた。「あきらめずに声をあげよう! 公務非正規から問う。このままでよいはずがない私たちの社会」と掲げ、会場参加とオンラインの両方の形式で進行した。
 「はむねっと」とは、「公務非正規女性全国ネットワーク」の略称。ちょうど1年前のこの日に、緊急集会「官製ワーキングプアの女性たち コロナ後のリアル」を準備した人らが中心となり、同ネットを立ち上げた。集会を前後して、全国の労働現場から深刻な状況と悲痛な当事者の声が集まり、「手をつなぎ、声をあげていこう」と熱いメッセージが寄せられた。
 非正規雇用者の多くが女性であり、2020年度から始まった「会計年度任用制度」(以下文中『会年』―筆者)が、文字通り「単年度雇用」を法制化した、より劣悪な労働条件に労働者を追いやり、かつ、現場では声をあげにくい状況に追い込まれていることが見えてきた。
 集会は午後1時ちょうどに始まった。大きな画面が左右に並ぶ一室に、会場参加の15人ほどが席についた。司会を同ネット代表の渡辺百合子さんが務めた。本集会が各社の取材対象であることが告げられ、プライバシーへの配慮がなされた。

会場と全国を結んで討論


 集会第1部は1年間の活動報告。まずメッセージが紹介された。
 障害児施設で事務労働を担う女性は会年職員でパートタイム扱い。事業を任されているが夜勤があり、超過勤務手当も出ない「ブラック職場」だと訴えた。年度任期のため辞めたくても辞められないという。「はむねっと」はこうした窮状を改善するため、問題解決に向けた調査・提言・各種のロビー活動を、当事者や賛同者と共に精力的に行っている。その内容や資料がHPで公開されている。

優秀になられると困る?


 第1部は、「現場の声」と題して全国とつながった。
 オンラインで参加した図書館司書のAさんは、「人口約7000人の町で図書館司書をしている。臨時職員から会年職員になった。休日が多いと減収になる。遺跡の発掘のため学芸員の採用が多いが、図書館司書資格を職員に求めるのは遠い昔の話。館長も会年職員」。「研修は自費だ。これは非正規職員が正規職員より優秀になられると困るからではないか。正規職員は終身雇用の『おじさん社会』になっている」と語った。
 昨年採用されたばかりの会年職員で、社会教育指導員のBさんが発言した。指導員とは社会教育主事の補佐をする立場だ。「専門職としての主事は減り続けている。しかも部署が首長部局に移管することで、主事、司書、学芸員などの専門職の存在は風前の灯だ」。
 自治体の判断で社会教育施設が教委から首長部局に移管されれば、観光振興や街づくりなど経済優先の施策が行われ、住民の教育機会が保障されてきた多様な社会教育事業が衰退する。Bさんは「何よりも首長の政治性からの独立・中立性が危うくなる。専門職が一般職と同一視され、事務量ばかりが増大する」と訴えた。

非正規が正規職の評価も


 都内の女性関連施設に勤めるCさんは、センター長という立場の課長職。行政管理職として最前線で8年間働いた。非正規でありながら正規職員の勤務評定もした。
 「仕事は充実していた。正規職の80%程の仕事をしたが給料は60%程。嘱託の身分で雇い止めに遭った。存在を認められていないようだった」。Cさんは確かな口調で自身の体験を話した。理路整然とした無駄のない論理展開から、職業人としてのプライドや執務能力の高さが伝わってくる。
 「会年任用制度はこれまでより格差を温存し、フルタイムに認められる昇給や昇格がない。多くの女性に不必要な弱みを作る。『会計年度』という単年度を表す言葉もいらない」。Cさんは終始冷静に問題の核心を突いた。
 ハローワーク(HW)職員のDさんは、主に非正規職の採用制度について語った。
 1年毎の更新で最長3年まで。HWの職員のほとんどが非正規で、全国で1170人も減らされている。公募があれば限られた採用枠をめぐって、内部で職員同士が争うことになる。正規にも非正規にもデメリットしかない。恐ろしいことだ。この国が瓦解する。無期雇用転換制度を導入すれば誰も嫌な思いをしなくなる。はむねっとの理念と活動に賛同して連帯していきたい。一人一人が安心して働ける社会をめざし今後も闘っていく。Dさんは決意を述べた。

意見すれば冷遇する慣習

 ハローワーク相談員のEさんは、職場でハラスメントを受け体調を崩した体験を語った。非正規労働形態とハラスメントは切っても切れない関係にある。自分から辞めるように仕向けられるのも非正規という立場で、窓口での相談にも多い。
 リーマンショックの後、ハローワークでは非正規相談員の予算が大量に削られ、雇い止めが横行した。コロナショックで大量に非正規の募集と採用が行われたが、コロナが収束した後にはどうなるのか。景気動向の影響を多大に受ける「使い捨て労働者」の不安は尽きない。
 この国は官民を問わず、職場でモノ言う労働者は冷遇され、閑職に追い込まれ、
「自己都合」退職に誘導される。リベラルな考え方をしたり、労働運動や市民運動に係わる活動家ならなおさらである。そうした前例を多く見て来たし、Eさん自身もそうだった。自分が座る座席が外から見えにくい位置に動かされ、担当を取りあげられた。先輩の労組組合員が実行した。陰湿なイジメを受け、仲が良かった同僚すら離れていった。まるで透明人間のように扱われた。受験中の子供を抱えつつ休職・復職をして体調を壊した。

女性支援法は運動の成果


 特別区の婦人相談員として働くFさんが発言した。
 採用9年目で更新は残り1回で終了する。Fさんは「職場では自分たちが会年職員であることが知らされていない。これが一番の問題だ」と指摘した。議員立法として通常国会への提出が予定されている「困難女性支援法案(仮称)」は、「私たちの努力が実を結んだもの」と評価。「困難を抱えた女性にやっと光が当たる」と期待を込めた。
 「全国婦人相談員連絡協議会」(全婦相)は約1500人の会員を抱える。都の相談員は7、8割が正規職員で3割が会年職員。更新の上限が4回。20年働いた人も1年目の新人も給与は同じだが、知識と経験が大きく違う。Wワークや転職が多い会年職員にも、フルタイム勤務を要求している。総務省のマニュアルでは相談員を「常時勤務を要する職」と認めているではないかと、Fさんは問いかけた。そして「女性の一生は90年にもなる。だから誰もが困難な状況に置かれる可能性がある」。「うまくいっているモデルを共有化すること。長寿への不安がある状態で、人々の支援ができるのか。公務労働は住民なしではありえない労働運動だ。会年相談員は『はむねっと』を中心につながっていきましょう」と力を込めた。

公務員化で悪くなる待遇

 鹿児島で「学校事務員補」として働くGさんが中継映像で参加した。
 鹿児島市は、小中学校に在籍する「事務員補」を、新年度から会年職員として雇用する計画を進めている。学校の中でPTAに雇用される民間労働者として事務員補はこれまで、学校内のあらゆる仕事をこなしてきた。PTA会費をはじめ、給食費や教材費、部活費用の管理、電話応対、納品立会い、プリント印刷、コロナ対策などだ。
 重要な学校事務業務を担いながら「民間職員」であることに疑問の声があがったことが発端という。しかし会年になることで減給となり、さらに勤務時間も減った分、正規の教職員や保護者へのしわ寄せも懸念される。
 「公務員に変わることを最初は喜んだが、待遇は悪くなる。年間170万円では暮らしていけない」。「応募者が少なく、受ければ全員合格にはなるだろう。転職を考えている余裕がなく、応募せざるを得ない状況に追い込まれているからだ」。「業務が滞っていれば、つい手を出して助ける。負担も平準化されていない。会年制度は良くない。まだまだ改善を求めていく」。Gさんはカメラに向かいきっぱりと語った。

いろんな運動を始めたい


 休憩の後の第3部のテーマは、「この先の展望を考えよう」。
 「博物館と学芸員の諸問題」とのテーマで持田誠さん(浦幌町立博物館学芸員)が提起した。
 「私は最長3年の期限で国立大学の博物館の職員として採用された。大学の労組の中に非正規労働者の部門があり、ワーキングプア研究会で活動した」。「学芸員は大学卒が多く、論文提出などで評価される。月給13万円だが高度に専門的なために転職が難しい。芸は身を滅ぼすのだ」。
 「一番問題なのは、館の利用者にとって職員が正規か非正規かが分からないことだ。私は現在正規職員として働いているが、博物館は特殊な職場で、そこでは働く労働者の問題として全国の学芸員と話している。これからいろんな運動を立ち上げたいと思う」。
 「日図協の取組みから」と題して西村彩枝子さんが報告した。

格差待遇の解消こそ課題

 日図協は今年1月、会年職員について、より安定した地位で安心して働くための提言をまとめ、公表した。(※1)
 「正規職のフルタイム任用と同等の職務をこなす者はフルタイム任用とする」。
「昇給の上限を決めない」、「2年度目以降の任用については、公募ではなく勤務実績による能力実証で行う」など、会年職員と正規職員の待遇格差を解消し、会年制度の趣旨に則った任用を求めた。この提言は、図書館における会年職員の待遇改善をめざす内容だが、あらゆる職場の会年職員に適用されるべき最低限の基本的な提言である。
 会場からの発言を受け、最後に瀬山紀子さんがまとめの発言をした。
 「今日のオンライン参加は145人だった。今年は参院選がある。政治を動かしていきたい。全国の非正規の公務員の待遇改善に取り組んでいく」。
 この他に、「国立ハンセン病資料館」で学芸員として働く男性からの報告もあった。3時間半に及んだ集会は、オンラインと会場を結んだ充実したものだった。
        (佐藤隆)

「会計年度任用制度」の冷酷な現状が次々と明らかに(3.20)

山本志都弁護士の発言

公共サービスを支える女性・
非正規職員への差別是正を!

 私は「官制ワーキングプア研究会」の理事もしている。はむねっとの活動は以下の点で、とても意義があると思う。
 当事者が中心になっていること。さらに女性に焦点を当てたこと。これまで相談者に対するケアや対人業務が軽視されてきた。市民にとって窓口こそ重要だ。非正規職員の処遇が低すぎることも問題だ。男性の補完労働としてしか見られてこなかった。
 過去の集会で相談を受けた「武蔵野市嘱託職員再任用拒否事件」(※2)に驚いた。武蔵野市でレセプト点検に携わっていた女性が、1年契約の任用を21回更新して働き続けていた。この期間の勤務評価はほぼ最高ランクだったが、2009年1月に上司から突然「20回も更新したからもういいだろう」と、3月末までの委嘱拒否を告げられ、裁判に訴えた。控訴審まで争い、原告に150万円の慰謝料の支払いを認めた2012年7月の東京高裁判決が確定した。「期待権」を認めた判決だ。

民間より露骨
な差別待遇
 これまで担当した裁判で明らかになったことは以下の点だ。一つは雇用継続が極めてあいまいなこと。契約更新への不安が常にあり、労働者同士で足を引っ張り合っている。さらに労働条件が劣悪で、文句を言えば辞めさせられる。ハラスメントが横行している。また契約条件の引き下げがし易く、毎年違う条件を提示して更新を迫っている。これらが労働者の団結を破壊していく。民間企業よりも公務員のほうが露骨だ。モノを言う人は更新されない。
 会年制度は本当に前進なのか。口ではいいことを言いながら事実は違っている。非正規職員が公共サービスを支えている。こうした実態の可視化が必要で「はむねっと」に期待している。声を出せる社会を作っていきたい。(発言要旨・文責編集部)

(※1) 全文は<http://www.jla.or.jp/demand/tabid/78/Default.aspx?itemid=6172>参照
(※2) 裁判概要は、武蔵野市HPはじめ、ネット検索で参照できる。

週刊かけはし

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