3.26ウクライナ問題講演会
ロシアはなぜ侵略戦争を始めたのか
戦争に抵抗するすべての民衆と連帯を
【大阪】しないさせない戦争協力関西ネットワーク主催のウクライナ問題講演会が3月26日、エルおおさかで開かれ、100人ほどの市民が参加した。
中北龍太郎さん(ネットワーク共同代表)はあいさつの中で、ロシアのウクライナ侵攻に断固反対・この機に便乗した自民党や日本維新の会による「核共有」や改憲策動、岸田政権の軍拡政策を批判した。続いて的場昭弘さん(神奈川大学副学長・日本を代表するマルクス研究者)が「歴史から読み解くウクライナとロシアの関係─ウクライナ問題がはらむもの」と題して講演した。(以下要旨)
西欧VS非西欧文明
ウクライナ問題は2014年9月のミンスク合意以降もくすぶり続けた問題だ。親米政権を生み出したマイダンクーデタそのものが、それ以前の体制の対抗関係から生まれた。ウクライナ問題は、まずソビエト連邦内に起こった問題を発端にしている。それはすべてロシアの問題だ。
次にこの問題は、NATOとEUの問題という側面がある。1970年のデタントと80年代の新自由主義政権の誕生による西欧社会の復活がEUを誕生させ、それが冷戦構造を崩壊させ、西欧社会は東へ東へと侵攻し始めた。これは西欧とロシアの問題だ。
ロシアのクリミア・ドンバスの独立要求は、あくまでロシアの問題。ウクライナのNATOやEUへの加盟問題は、西欧とロシアの問題。この2つは分けた方がいい。西欧とロシアとの間の線引きをすることが重要な問題となっている。緩衝地帯としては、フィンランド・バルト三国・ベラルーシ・ジョージア・アゼルバイジャン・中央アジアがはいる。ロシアは東アジアでは中国・モンゴル・北朝鮮が国境を接しているが、これらの国とは友好国として付き合っていく。
この戦争で明確になったのは、中ロVS西欧の構図だ。換言すれば、西欧文明VS非西欧文明。ロシアは西欧には入れないことを自覚した。西欧支配を受けた国々では、長い抵抗運動の中で、自国文明を守ろうとする動きが始まった。アジア・アフリカ地域では、今回の問題においても西欧の動きに同調しない国が出ている。
なぜロシアは侵攻したか
キエフ公国という名前はロシアの根源の国であるということ。モンゴルの侵攻以降崩壊したこの地域に出現したリトアニア=ポーランドからロシアを守る砦であり、ソ連における西側との国境線であった。問題は、ナポレオン戦争以降起きたロシアの分裂の危機の中で、クリミア戦争で弱ったロシアに対してウクライナがポーランドと並んで起こした民族独立運動があげられる。
レーニンがツアーとの闘いで民族独立運動をボルシェビキ革命の中に吸収したことで独立運動に拍車がかかった。ウクライナはロシアソビエト連邦共和国の一員となり、「独立した国」として認められた。チェチェンなどはそうは見なされなかったが。いずれも、あくまでもソ連に属していた。その後、共和国の独立派は粛正されていく。
ソ連邦の崩壊
ソ連崩壊後、各共和国はロシア圏から出ることはないという前提で独立の道をたどる。解体と同時にソ連共産党から独立し、ソ連の国有財産は各共和国に割り当てられた。
私有を国有にするのは簡単だが、その逆は難しい。まず誰が買うか?共産党員が海外の資本家と結託してこれを奪い合い、マフィア化した集団が国有財産を獲得した。ウクライナでは、ピオニール、共産党員として党の中で頭角を現したのがティモシェンコ夫妻だった。
彼らはドンバス地域の石炭や石油の利権をつかんだ。そして政界に進出した。ユリア・ティモシェンコは首相になり、米国に接近し、ナショナリストに接近した。ウクライナ・ナショナリストたちは、ルビフを中心としてポーランドからロシアが奪った地域で、反共活動に手を染めた。ポーランド映画「灰とダイヤモンド」はまさにこのときの話だ。
セルビアでユーゴ内戦後に生まれた米国による組織ОTPОRと同様にPОRAという組織ができ、西側に接近し西側資本の導入を図った。
ヤヌコビッチはロシアと組みこれらの組織に対抗した。だが、ヤヌコビッチも正義の味方ではなかった。ロシアでも共産党員崩れの国有財産の奪い合いがあり、プーチン派が勝利した。プーチン派がウクライナで据えたのがヤヌコビッチだ。2014年ヤヌコビッチの再選が決まると、反対派が猛烈に反撃したのが、マイダン事件(クーデタ)である。
ドンバス地域とは
ドンバスはウクライナの工業地帯で石油・石炭の基地だ。ウクライナ軍とナショナリストがこの地域をロシアに渡さないと主張、分離主義者は独立を主張しロシアに応援を頼んだ。マレーシア航空機事件などを含め、この地域の戦争はわからないことだらけだ。
ミンスク合意で緩衝地帯がもうけられたが、ナショナリストの攻撃は続いていた。NATOやEUに入るという主張は、ゼレンスキーが初めて言い出したのではなく、20年近く前から始まっていて、オバマ政権とバイデン政権がNATO加盟を促進しようとした。一方、EUはあまり積極的ではなかった。バイデンはゼレンスキーをそそのかし、プーチンを挑発した。そして、ウクライナ侵攻が始まってしまった。
ルガンスクとドネツクの独立をロシアが承認し、集団的自衛権を行使する。それは形式的には国連で認められている。だがドンバスの独立はウクライナでは承認されていない。だから侵略はおかしい。しかし一方、マイダンクーデタによりヤヌコビッチの勝利は無効になったのもおかしい。どちらも、正規の手続きを取っていない。また、ドンバスの人々の大半はロシアとの関係をのぞみ、ゼレンスキー政権に反対している。分離を認めるとウクライナは西欧側(西)とロシア側(東)に分かれる。
「緩衝地帯」という役割
西欧とロシアにとって、ポーランドから南の東欧は緩衝地帯とみられ、歴史的には民族の独立は認められていなかった。ポーランドの独立運動こそ、若き時代のマルクスの最大の問題であり、社会主義者も民主主義者も共同戦線を張っていた。
ロシア帝国・オーストリア帝国・ドイツ帝国の崩壊と共に、これらの地域にポーランド・ユーゴスラビア・ルーマニアという民族国家が成立、西欧とソ連の緩衝地帯という役割をもった。第二次大戦後、これらの地域はソ連圏に入ったことで、それに対抗してNATOがつくられ、西ドイツの再軍備で西ドイツが西側の緩衝地帯となった。
ところが、ベルリンの壁崩壊からソ連の解体に至る過程は、こうした冷戦構造の地殻変動の時期だった。ドイツは統一され、緩衝国家は次第に東へ移動し、バルト三国・ウクライナ・ベラルーシが緩衝国家になった。EUの拡大は2004年から始まり、東欧がEUにはいったことで緩衝国家の焦点はウクライナとモルドバになりはじめた。ここまで拡大したEUだが、軍事外交については組織をもっていない。結果として、NATOがEUの軍事同盟ということになる。一方、かつて存在したワルシャワ条約機構は存在しない。バルト三国・ポーランド・ルーマニアはNATOの枠内でロシアに対する最前線となった。
ドイツはロシアとの関係が深い。そのことが米国の脅威を引き起こし、米国はポーランドやルーマニアにミサイルを配備することで、ドイツとロシアをにらむこととなった。しかし、ウクライナ・ナショナリストとの関係ではドイツは反ロシアだ。フランスは米国との関係を離れ、独自の行動を取りたいが、その力がない。
ウクライナをめぐる戦略
ロシアは中国・インド・トルコとの関係を拡大するために、ウクライナの自由を奪いたいと思っている。中国とロシアとインドは、西側とは違った経済形態をとっている。それが昨年12月に問題となった非民主主義的資本主義、換言すれば互恵的資本主義。西欧型収奪的資本主義に対抗するものとして出てきている。
その意味で、ロシア・中国・インドはアフリカやアジアとの関係を深めたい。インドと中国は仲が悪いが、イスラム圏との関係は悪くない。
EUとしては、ウクライナを組み込むことそれ自体としては重要だが、中国関係を悪化させたくはない。東欧地域はロシア・中国に近いので、一帯一路に参加したい、仏・独もこれには関心を持っている。でもそれを米国が反対している。
将来間違いなく中央アジアが世界の中心になる時代が近づいている。その意味で、EUは英国とは違いロシアや中国とつながっておきたい。米国はそれを自らの保護下に置きたい。その意味で、ウクライナは米国にとって重要なのだ。米国には、中国・ロシアの発展を阻止したいという野望がある。
二つの資本主義
こうみると、現在資本主義に大きな二つの経済圏があることに気付く。かつての冷戦時代には社会主義と資本主義という対抗軸が、今では先進資本主義と後進資本主義の対立になっている。
先進資本主義国は、自国における民主主義形成の基礎である中産階級の豊かさを、後進諸国であるアジア・アフリカの搾取で作り出した。先進国が民主主義的であった分、後進国は非民主主義的であった。これが国際法のダブルスタンダードの基礎だ。
非欧米圏がこうした差別から身を守るために、社会主義や保護主義的独裁をとったことは確かだ。グローバリゼーションは、西欧圏の意図に反して非欧米圏の経済を発展させ、ものいうアジア・アフリカを作ってしまった。
グローバル化によって起きた現象は、フラット化する社会といった生やさしいものではなく、第二の植民地化でもあった。工場を賃金の低い地域に移動させることで、彼らを資本主義的に発展させると同時に搾取していく。インターネットや銀行システムでも搾取していった。
中国やロシアやインドは、米国だけに頼るやり方を避け、独自のシステム開発と独自の国際組織づくりを行っている。欧米的価値基準はダブルスタンダードであることは、長い植民地と抵抗の時代に理解した。グローバリズムは社会をフラット化していない。資本主義は利潤創出のシステムだから、常に弱いものを搾取する。西側資本は共存共栄ではなく安い賃金を利用するだけのものになっていることは間違いない。
「落ち着きどころ」
ウクライナ問題の落ち着きどころは、ウクライナが二つに分かれ、西はEUに入り東はロシア圏に入る、NATOには無理だろう。中立的緩衝地帯になることだ。そうすれば東欧も安定する。ただ、南はロシアやトルコに近く、問題が残る。セルビアを含め、今後動きがあるだろう。
EUはそろそろNATOから離れる時かもしれない。フランスを除く各地に米国は基地を持っている。そのことが米国に対する抵抗の原因になっている。現在の世界経済の力からみると、中国・ロシア・インドとブラジルがかなり経済成長してきたので、かつてのように欧米だけで世界秩序を支配することは難しい。戦争がない米軍は縮小するしかない。経済と軍事のアンバランスが米国のアフガニスタン、イラク侵攻を引き起こし、次第に米国の力を衰退させた。
こう考えると、21世紀の経済力はインド・中国・米国・ロシアなど大国が中心となり、英・仏・独・日といった国は小さくなるだろう。今回国連でインドと中国がウクライナ問題で棄権したということは、質の問題として重要だ。いまやパワーバランスがアジアにシフトしつつある。やがて新しい社会が生まれてくるのではないか。
以上要旨(質疑応答は省略) (T・T)
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