沖縄報告:普天間基地から重大な健康被害を与えるPFASが流出/県内市町村の中国での戦争体験記を読む(68)

汚染当事者の責任で浄化を

沖縄 K・S 4月24日

 4月10日(日)午後2時から、宜野湾市民会館で、「清ら(ちゅら)水を取り戻そう!」をスローガンに掲げて、「PFAS汚染からいのちを守る県民集会」が開かれ県内外から440人余りが参加した。主催はPFAS市民連絡会。司会進行は、同会の共同代表のひとり、玉那覇淑子さんが務めた。
 オープニングは古謝美佐子さんの「わったー水でーじなとん(私たちの水が大変になっている)」と題した「ウムイ(思い)とウタ」。古謝さんは歌の合間に静かな口調で、きれいな水があってこそ保たれる社会の大切さを語りかけた。同会共同代表のひとり、伊波義安さんが経過報告を行ない、「今日4月10日はPFAS(有機フッ素化合物の総称)が基地内から流出した日だ。知らなかった恐さ、知らされなかった恐さを痛感しながら、汚染水を飲んでいる7市町村の人々が集まり、連絡会を結成した。米軍・日本政府を相手に裁判に訴えることができないか、5人の弁護士と話し合いを重ねている。決め手は汚染物質の血中濃度を示す血液検査だ。力を合わせて頑張り抜こう」と述べた。
 続いて、米軍基地の環境汚染問題の専門家、ジョン・ミッチェルさんが通訳の大城奈里子さんと共に壇上のテーブルに座り、パワーポイントを使って「沖縄のPFAS汚染」をテーマに講演した。「12年前から枯葉剤をはじめ沖縄の環境汚染の調査を続けている」と話し始めたミッチェルさんは要旨次のように述べた。

2022.4.10 宜野湾市民会館。壇上に上がった各地の代表。

ジョン・ミッチェルさんの講演から

汚染の責任を問い解決に当たれ

 PFAS汚染が米国ではどうか、沖縄・日本ではどうか、どう解決するかという三つのことを提起したい。米国と沖縄・日本ではこの問題の扱われ方が違う。昨年バイデン政権は100億ドル(約1兆2千億円以上)を投入して、PFASを有害物質に指定し関わりのある国防総省など8つの省庁を網羅して約700の国内の米軍基地に対する調査と浄化に乗り出した。しかし、沖縄・日本では全然異なる。問題の根源に日米地位協定がある。
 普天間基地では、3年前の12月に泡消火剤のPFASが流出した。2年前にも同じような流出があった。米海兵隊は、滑走路北端の火災訓練場を過去45年間継続して使用し汚染源になっている。もし米国であれば国中から激しい抗議が起こるところだが、日本では調査さえしない。PFASは壊しても壊れない、移動(МОVE)するだけで、汚染の循環になる。米国に比べて日本の規制値は高くて甘い。復帰50年にあたり、基地内調査を行い、汚染の責任を問い、透明性を持って解決に当らなければならない。綺麗な水の権利が侵害されている。解決のカギはJUSTICE、正義であり公平さだ。本日の集会がその第一歩になることを願う。

2022.4.10 宜野湾市民会館。講演を行うジョン・ミッチェルさんと通訳の大城さん。

海外からのビデオメッセージ

 そのあと、海外からのビデオメッセージが紹介された。
 米国から映画『ダーク・ウォーターズ』のロブ・ビロット弁護士、ハワイからホノルル在沖縄4世のエリック・和多さん、韓国からグリーン・コリアのシン・スヨンさんがそれぞれ連帯の言葉を寄せた。とくに、ビロットさんのメッセージはアメリカで24年間にわたりPFAS汚染に対し調査し取り組んできた迫力と説得力に満ちたものであった。(文末にメッセージまとめ)
 続いて、事務局の高橋さんが血液検査を行う基金カンパを呼びかけ、「血液検査はひとり3000円要する。ぜひご協力を」と訴えた。続いて、現場からの声として、嘉手納町(豊里)、金武町(吉田)、北谷町(仲宗根)、宜野湾市(宮城)、うるま市(宮城)、那覇市(祖慶)からそれぞれアピールが行われた。2人の子供を連れて壇上に上がった北谷町の仲宗根さんは「誰かがやってくれると思ったら間違い。自分ができることをやる。県民の結束が必要だ」と訴えた。さらに、共同代表のひとり、桜井国俊さんがまとめのコメントを行い、「沖縄は過大な基地負担の代わりにぼう大な財政援助を受けているという誤解をうち破り、頑張ろう」と呼びかけた。
 最後に、集会決議の提案が行われ、会場の拍手で採択した。

治外法権の米軍を野放しにしてはおけない

 久しぶりの大きな集会に、しばらくぶりに顔を合わせる県内外からの友人に出会った。「米軍犯罪被害者救援センター」の都裕史(ト・ユサ)さんは、「PFAS汚染は米軍犯罪。じっとしていられず駆け付けた」と語った。「基地いらないチーム石垣」のメンバーも朝の便で那覇に着き、翌日は辺野古の座り込みに参加した。会場には、辺野古・安和・塩川・海上の現地行動を担っている多くの面々が顔を見せた。
 PFAS汚染源は米軍基地である。しかし、日米地位協定・安保条約・サンフランシスコ講和条約の下で米国支配下に組み込まれた日本政府は当事者能力を喪失してしまい、米軍に治外法権を与えたままで野放しにしており、何の手立てもできない。
 戦後77年。もう十分だ。沖縄駐留米軍は撤退せよ。沖縄には米軍も自衛隊もいらない。軍事基地のない非武装こそが沖縄の平和と安全、県民の暮らしの安心を保障するのである。

ロブ・ビロット弁護士のメッセージ

2022.4.10 PFAS汚染からいのちを守る県民集会。ロブ・ビロット弁護士のメッセージ。

PFASは危険な物質で重大な健康被害を引き起こす

 こんにちは、ロブ・ビロットです。オハイオ州シンシナチ市の法律事務所の弁護士です。過去24年間、化学物質PFASがもたらす環境・健康への脅威を知らせることに専念してきました。PFASは全くの人工物で、1940年代以前には存在しませんでしたが、いま世界中を汚染しています。私がこの物質の存在を見つけたのは1990年代末から2000年代初めでした。
 映画『ダーク・ウォーターズ』を見ると、PFASがどのように製造され、拡散していったか、そして、PFASが発癌性の猛毒であること、世界に拡散し永遠に環境に存在し、それが私達の身体に入り込み、健康被害を起こすことが分ります。70年以上にわたりPFAS製造会社は知っていましたが、隠されてきたのです。
 PFASは非常に危険な物質であり、多くの重大な健康被害を引き起こします。特に、テフロンに使われるPFОAは、撥水加工を通じて多くの商品に使われています。カーペット、食品包装、消火剤、化粧品など数えきれません。PFОAは、2種類のガンを含む6つの深刻な病気の原因になります。
 PFASが水の中、土の中、日用品の中、あらゆるところに存在し、私達の血液の中にも入り込み、それが胎児をも汚染する、ということが分っています。研究から、人類全体の90~99 %の血液に PFASが含まれると推察されます。こうしたデータは、私達がどれほど汚染に晒されてきたかを示します。血液サンプルから、PFASの存在だけでなく、その濃度により、過去にどれだけ晒されてきたかも分ります。世界中で、現在、PFASが深刻な健康被害をもたらす脅威であると理解されています。環境への脅威であり除去されねばならないということ、私達の身体からも除去されねばならないということが理解されるようになりました。
 この映画から見出して頂きたい最も大事なことは、一人の人間、ひとつのコミュニティが団結することの信じがたい力です。これはおかしいという声を上げること、この物質に汚染されたくない、水道水にこの物質を入れるな、胎児に影響を与えるのは許さない、その訴えがものすごい影響力を持つようになった、その過程です。
 一人の農民が、世界有数の化学会社を相手に闘い、米国の環境規制システムと闘い、立ちはだかる科学や司法のシステムと闘い、現実に成果を出しました。多くの人々が、それに加わり、 「これはおかしい。汚染を止めろ」という声を上げていきます。それが、大きな変化を生み出しました。
 新たな規制法案が提出され、米国だけでなく世界で、PFASの製造中止、汚染の縮減が目指されています。特に水道水中の厳しい基準が定められようとしています。水道水は私達の毎日の生活に欠かせないものです。飲料水の汚染は深刻です。PFAS汚染の深刻さが知られるに従い、水道水中の許容基準は下げられ続けています。
 PFASの「永遠」とされる特性から、ひとたび体内に入れば、どれほど微量であっても体内に存在し続け蓄積されていきます。より多くの科学者が、より多くの研究を進めることで、水道水中の許容基準は、科学者の間で一桁まで下がったというのが、ほぼ合意になっています。
 この問題への関心が高まり始めた日本で、PFASの存在、とりわけ泡消火剤の米軍基地での存在が知られ始めています。許容基準がどうなのかに関心が高まっています。より多くの情報が知られるようになり、より多くの人々が話し合うようになり、より多くの市民やコミュニティが「PFASの脅威から私達を守りたい」という声を上げていくことで、日本でも許容基準を引き下げていくことを望みます。科学界のコンセンサスは、PFASの水道水について安全な水準は無い、ということです。
 どうか、皆さん。この問題に注目し続け、立ち上がり、声を上げ、PFAS汚染をなくしていく努力をしていって下さい。ありがとうございました。(翻訳=沖国大佐藤学教授)

有機フッ素化合物(PFAS)汚染 からいのちを守る県民集会決議

 沖縄県におけるPFASによる環境汚染は、県企業局が 2016年1月に、 北谷浄水場の水源である嘉手納基地井戸群、 大工廻川、 比謝川などで、高濃度の有機フッ素化合物が検出されたことを公表したことから、 明らかになった。沖縄県は普天間基地周辺の湧水等についても調査を行い、原因は米軍基地で使用される泡消火剤である蓋然性が高いとの報告を発表し、沖縄防衛局を通じて米軍基地への立ち入り調査を求めたが認められず、汚染源の特定に至っていない。金武町の水源汚染についても同様である。
 PFASは、 発がん性や 胎児・乳児の発育阻害などが指摘されており、 そのうちPFAS及びPFОAは残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約において製造や使用が制限されている。2019年、宜野湾市や沖縄市民の血中から高濃度の値が検出されたこと、2020年、普天間基地から大量の泡消火剤漏出事故、 2021年には那覇航空自衛隊基地やキャンプ・ハンセンなどからの汚染も明らかになり、 県民の不安は増大するばかりである。
 沖縄県は、 現在汚染水源からの取水を制限し、高機能粒状活性炭に取りかえ る等の対処を行っているが、根本的な解決とはなっておらず、汚染源の特定と その浄化は急務である。
 県民の生命の源である 安全な水を確保するため、 国 ・県 ・市町村などによる 基地への立入り調査を実施 し 、 汚染当事者の責任において浄化を実施させることを強く求める。米軍による 汚染の除去を日本政府が 負担することは汚染者負担の原則にも反するものである 。
 また、基地周辺の 土壌・ 河川 ・海などにどのように汚染が広がっているのか、 海産物・農産物等と共に環境の実態調査を行うこと、県民の健康調査血中濃度の測定などを早急に実施すること、そのための施策・財政措置を講じることを求めるものである。
 沖縄県にあっては、環境汚染に対する予防原則を徹底し、 透明性のある情報公開と住民対話により、水の安全確保に取り組むこと。胎児や子供たちは、特に影響を受けやすいことから、 PFASを体内に取り込むことは避けなければならな らず、 保育園や学校給食・飲料水には、優先して安全を確保すること。以上、決議する。
 2022年4月10日
 沖縄県民集会

あて先
在日アメリカ大使、在沖アメリカ総領事 、 在沖米四 軍調整官内閣総理大臣、外務大臣、防衛大臣、 厚生労働大臣、環境大臣

県内市町村の中国での戦争体験記を読む(68)
日本軍による戦争の赤裸々な描写


 中国侵略の日本軍には、県内各地からも多くの青年たちが動員されて命を落とし、また、戦争の実態を目撃した。県内各地の市町村史の戦争体験記録にはそうした証言が数多く掲載されている。1937年の盧溝橋事件の時小学生だった多良間村の下地さんは、小学生の眼から見た戦争のありさまと、中国に出兵した兄が戦死したことにより家族にもたらされた悲しみを詳しく書いている。引用は原文通り、省略は……で示した。

『島びとの硝煙記録』多良間村民の戦時・戦後体験記(1995年)
下地恵精「戦時、戦後体験記」

昭和十二年七月七日、日中間に新たな戦いの火種が燃え上がった。……
 当時私は小学校六年生であった。その衝撃的なニュースの電波は、小学校に張られたラジオのアンテナに達し、私達の知るところとなった。それまで戦争と言えば遠い国での出来ごとでしかなかった。然しその日以来対岸の火事ではなく、時が経つにつれて我が子、我が兄弟を大陸戦線に送り、「名誉の戦死」という悲嘆の苦しみとの戦いにはいって行ったのである
 そして昭和十二年八月には、国民精神総動員運動なるものが提唱され「挙国一致」「尽忠報国」「堅忍持久」の三大目標達成のため、諸々の行事、施策が目白押しに実施されて、国民は消費節約、物資活用、資源愛護、貯蓄増強等の非常時国民生活が否応なしに始まった
 小学生の私達は、戦争の起きた根源、目的を知る由もなく、連戦連勝のニュースに歓喜し、〇〇市陥落との戦勝ニュースが入ると、全校生徒日の丸の小旗を振って「天に代わりて不義を撃つ、忠勇無双の我が兵は…」と軍歌を高らかに歌って戦勝祝賀の行進に加わって村内を練り歩き、戦意高揚運動の一翼を担うようになって行った。
 そのような時、友達間でも「大きくなったら兵隊さんになってチャンコロ(支那兵)をやっつけるんだ」という盲目的で自慢気な話が、交わされたりした。
 時が経つにつれて、村出身兵士の戦死公報が入ってきた。家族の嘆き悲しみを慰めるかのように名誉の戦死者としてそれまで見た事もない墓碑が建立され、英霊の奉迎として桟橋まで遺骨の出迎えに行き、納骨式に参列し、最敬礼してその名誉の戦死を讃え、子供心にも後に続かんことを誓った。
……
 兄は昭和十八年、甲種合格で入隊した。兄は長男でもあるので、ゆくゆくは多良間で父母と農業をやるのだから、入隊前に都会の空気も吸っておきたいと言って大阪に出た。そこで一年余軍需工場で働いていた。徴兵検査を受け入隊前に父母とも面会しておこうと平良まで足を延ばすことが出来ず、入隊期日に間に合わすため引き返さざるを得なくなった。入隊して中支方面に配属されたとの知らせは一、二回ほど私の所にもあったが、戦況が悪化して途絶えてしまった。そして終戦である。父母のもとに届いた知らせは無事でいるとの知らせではなく、一片の戦死公報であった。それを境にして父母の心労が目に見えて増していった。朝な夕な神棚に向かう時間も長くなり、一時放心状態になり、涙となり、愚痴となり、ため息となって私の胸を刺した。そして誰からも「名誉の戦死」という慰めの言葉もかけられず、ただただ戦死の公報が誤りであったこと、そして無事「アンナ、ウヤ」(多良間の言葉でお母さん、お父さん)という言葉で生還することのみを信じて、陰膳を供えて神棚に祈る姿が痛々しかった。
 日増しに細り行くその影にもやがて精気と明るさを取り戻す時がきた。子の私達が結婚し新しい生命が誕生し増えるにつれて愚痴も涙もしなくなり、陰膳も取り払われた。その父も母も黄泉の国へ旅立っている。入隊前に兄と会えなかったことが父母の唯一の心残りであった。今ごろは天国でその兄ともめぐり会い、手を取り合って楽しく語り合っていることと思う。

2022.4.17  真っ赤に咲き誇るでいごの花。八重瀬町。

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