5.31札幌地裁・泊原発に運転差し止め命じる

今こそ廃炉実現の時がきた
原発止めろの訴えをさらに全国で
廃炉請求などは棄却 双方控訴へ

 【札幌】5月31日、札幌地裁は、泊原発は津波に対する安全性の基準を満たさず、放射能漏れ事故で住民の人格権が侵害される具体的な危険性があると認め、北電側に1〜3号機の運転差し止めを命じた。

提訴から10年6カ月


 東京電力福島第一原発事故後の「脱原発」の機運を受け、原告団は2011年11月11日に泊原発の廃炉・運転差し止めを求め提訴。原告団には沖縄や広島、米国などから1200人以上が加わった。
 泊原発で地震や津波による放射能漏れ事故が起き、原告の生命や身体などの人格権が侵害される具体的危険があるとし①運転差し止め、②原発で保管中の使用済み核燃料の撤去、③廃炉、以上の3点をめぐって争われた。 
 一方、北電は13年7月に泊原発1〜3号機の再稼働をめざし、原子力規制委員会に審査を申請した。しかし審査は異例の9年近くも続いている。こうした状況を招いているのは、北電の安全意識の低さだと規制委に指摘される有様だ。
 審理では、北電が規制委の審査が続いているのを言い訳に、多くの論点で主張を先送りし、昨年3月には裁判長が北電側に速やかな主張立証を求めた。その後北電に具体的な主張予定が立たないと判断し、今年1月に「審理は熟した」として北電側の反対を押し切り、審理を打ち切っていた。

人格権を認めた裁判所

 人格権とは憲法13条の幸福追求権などに基づき、生命や身体、自由など他人に害されてはならない権利を指している。
 それが脅かされている以上、住民には原発の運転を差し止める権利があると、判決は明示した。
 積丹半島西岸沖の海底や原発敷地内の断層、防潮堤などの状況をめぐる安全性の立証責任は、本来なら原告側にあるが、それを住民が担うのは負担が大きく公平さに欠けるとして、施設を保有し知見やデータも持つ被告の北電側が立証すべきだとの考え方を示した。
 四国電力伊方原発の設置許可取り消し訴訟で最高裁が示した、被告の国や事業者側が立証に努めなければ、危険性はあると推認するという判断の仕方である。
 同様の判決は、人格権に基づき原発の運転の差し止めを命じた、関西電力大飯原発を巡る2014年の福井地裁判決に続くものだ。

道民に付けを回す北電

 12年に泊原発全3基が停止後、北電は13、14年と2度の電気料金大幅値上げに踏み切った。
 その結果、電気料金は、標準世帯(30アンペア、月230キロワット時使用)の6月検針分が1キロワット時換算で36円80銭。最も安い北陸電力の1・3倍である。
 泊原発が原発であるが故の巨費投入の現実は以下のようだ。
 北電は津波対策として14年に防潮堤を設置したが、地震による液状化で沈下や破損する恐れが明らかになり、撤去を余儀なくされた。そのため防潮堤を取り壊し、新たに海抜16・5メートル、全長1200メートルの防潮堤を造る工事を今年3月に始めた。北電は新旧防潮堤の建設費を公表していないが、それぞれ数百億円台になるだろう。
 また、非常用電源の屋外配備などにかかる安全対策費は総額2千億円台半ばとしてきたが、新旧防潮堤の建設費や旧防潮堤の撤去費は含まれていないという。
 このほか、再稼働にはテロ対策用の緊急時制御室など「特定重大事故等対処施設」の設置が義務付けられており、工事費はさらに膨れ上がる。
 維持管理費として発電を止めている施設に平均で年間700億円近くを投じている。さらに、全基停止中も核燃料を調達しており、その額は年間100億~200億円程度とされる
 福島第一原発事故の賠償負担金や使用済み核燃料の再処理拠出金も払っている。 
 一般の企業なら、動かぬ原発にこのような巨費を投入できないのだが、電気料金の形で消費者に付けを回すことによって可能にしている。
 企業や家庭で進む省エネルギーと再生可能エネルギーの普及で、電力需要が減少するなか、存在意義も経済合理性から言っても破綻している泊原発だが、核燃料サイクル政策同様、国策と電気事業連合会が再稼働を目指している中、北電だけが原発をやめるとは言い出せないのだろう。
 莫大な投資をすればするほど、金融機関など大株主も電力会社に破綻されると困るから、互いに牽制し合い、破綻すれば国民にツケが回されることになる。

廃炉に向けて


 2日、北電が運転差し止めを命じた一審判決を不服とし、札幌高裁に控訴したため、判決の効力は判決が確定してから生じることになる。
 14年5月に福井地裁が出した関西電力大飯原発差し止め命令に対し、関西電力側が控訴。大飯原発は控訴審で判断が出る前の18年春に再稼働した。
 同年7月の控訴審判決では住民側が逆転敗訴しており、これまで差し止めが確定した例はないため、楽観はできない。
 原子力規制委員会の審査において、北電のデータの不備による原発敷地内の活断層否定に8年間を費やしたうえ、昨年10月に5年8カ月ぶりで再開した火山対策審査でも資料を古いまま提出した。規制委は「安全性追求の姿勢に欠ける」と批判。規制庁幹部に「いたずらに審査を長引かせたいのか」とまで言われている。
 適格性を欠く北電の説明完了は予定より1年近く遅れ、早くても来夏まで続くと言う。
 火山・津波解析などを外部や出向者に「丸投げ」するなど、常に受け身で専門的な議論が深まらず、意思決定も迅速にできないため、規制委によって手取り足取りの「泊スペシャル」(委員長談話)という論点の整理までして貰っている。
 また、メーカー任せの運用が露呈し、泊の非常用電源が9年間接続不良だった。
 運転停止が10年も続くと運転経験のある運転員や保守要員も少なくなり、メーカーも撤退し、部品が調達できない、技術者が退職していないなど、深刻な状況が予想される。
 北電は、判決を重く受け止め、再稼働申請を取り下げ、早期の廃炉の決断をすべきだ。
 一方、原告側「泊原発の廃炉をめざす会」なども、原発で保管中の使用済み核燃料の撤去、廃炉の2点の請求が退けられたことを受け、近く控訴する。
 控訴審では北電が、津波対策の不備を指摘された防潮堤に関する主張を補完してくることが予想される。
 原告の主張では、北電が存在を仮定している海底活断層の規模を大幅に過小評価しているうえ、地層の状況から、原発敷地内にも複数の活断層があると指摘する。
 また、北電による基準地震動の想定はこれらの断層を反映しておらず、活断層の有無や火山(噴火時)の影響など他の争点についても具体的な主張、立証ができていないという。
 一審判決では、請求を認める原告の居住範囲を、原発から半径30キロ(緊急防護措置区域)圏内44人に限定した。
 このことは、福島第一原発事故の被害を見ても明らかなように不十分なものだ。詳細に放射性物質がどの程度拡散する可能性があるのかを検討し、原発立地4町村以外の30キロ圏内外の18市町村の住民への被害も想定されるべきだった。        (白石実)

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