ロシア軍のウクライナ軍事侵攻に関するチェチェン連絡会議第2声明
戦争犯罪を許さず、これ以上の虐殺をとめよう
ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵攻からおよそ100日目の前日となる6月8日、「チェチェン連絡会議」が第2声明を発し、拡散をよびかけた。チェチェン連絡会議は、市民平和基金などのNGOと個人が集まり1999年に結成、「戦争がもたらした人権の侵害や、この地域の伝統文化の破壊を少しでもくいとめるため、日本の国内でのカフカス全域への関心を高め、各国の支援組織との連携を深め、国際世論としての戦争反対、非暴力の徹底、人権と民主主義の確立、侵略者の撤退」などを目的として活動してきた。第2710号の「第1声明」に続き、拡散のよびかけに応えて掲載することとする。(編集部)
チェチェンにおける平和の回復と支援を行ってきたチェチェン連絡会議は、戦闘の即時停止とロシア軍のウクライナからの完全撤退を求めて、3月23日に最初の声明を発表しました。私たちの基本的な主張はそこに示しましたが、ロシア軍の軍事侵攻開始からすでに100日以上が過ぎ、この間ウクライナで起こった事態、及び日本の中で言及されている一部の主張に対して大きな危惧を感じ、新たに以下のことを表明いたします。
ロシア軍が撤退したウクライナの首都キーウ近郊のブチャなどでは、住民の集団虐殺の実態が明らかになりました。ロシア側はそれをフェイクだとして完全に否定していますが、数多くの住民の証言や衛星からの画像などで、隠しようのない事実であることは明白です。
かつて第1次チェチェン戦争において、ロシア軍の侵攻からしばらく経った1995年4月に、ロシア軍により制圧されていたチェチェンの首都グロズヌイの近郊のサマーシキ村において、無抵抗の住民約300人がロシア軍により虐殺される事件が起きました。拷問などの残虐の限りを尽くした後に男女の別なく銃殺や、中には火炎放射器で生きたまま焼き殺された住民もいました。グロズヌイにおいてもむごたらしい虐待を受け殺された住民の集団埋葬が発見されました。第2次チェチェン戦争においても同様の虐殺が起きています。このようにチェチェン戦争の例を見ても、ロシア軍の非道な住民虐殺は、今回ウクライナでたまたま行われたのではないことは明らかです。
アフガン戦争以来、自分たちの息子を救いだすために活動を行ってきた「ロシア兵士の母委員会」は、戦争のない時もずっと活動を続けていました。それはロシア軍の中において、軍内部の新兵いじめによって、平時ですら毎年数百人もの若い兵士が自殺などにより死んでいたからにほかなりません。そういう暴力的体質がとりわけ年齢が高いロシア兵士の中に染みついていると言わざるをえません。
プーチン大統領は虐殺の事実を否定するばかりか、それをウクライナ側の仕業だと平然と主張していますが、ウクライナで起きたロシア軍による住民虐殺という残虐な行為は、起こるべくして起きた非人道的な事件です。その責任は当然侵攻を命じたプーチン大統領にあります。
ウクライナの中のロシア軍占領地では、虐殺だけではなく、略奪や女性への性暴力、選別収容所での拷問や脅迫が行われている実態も明らかとなりました。しかもその選別収容所からは、多くのウクライナ住民がロシア国内への強制連行や強制移住を強いられています。とりわけ許しがたいのは、ゼレンスキー大統領が6月1日に明らかにしたように、子どもたちの強制連行がすでに20万人以上にのぼるということです。またロシア側が一方的に任命した新たな市長の擁立と住民投票の強制による、ウクライナからの離脱とロシアへの併合を迫る動きも見られています。プーチン大統領の狙いは、ウクライナを自らの完全な支配下、属国化に置くことであることがますます明白となってきています。これらのプーチン大統領の犯した数々の戦争犯罪を国際社会は断じて見逃してはなりません。
今回の軍事侵攻により、多くのロシア兵士が死傷したと言われていますが、その多くは徴兵されたばかりの若い兵士たちでした。しかも彼らは都市部出身ではなく、極東などの地方や少数民族出身だと言われています。まるで消耗品のように若いロシア兵が使い捨てにされています。そしてロシアの国内では一層世論の引き締めが強まり、あらゆる自由が制限されています。多くの独立系報道機関が閉鎖を余儀なくされました。その結果30万人とも300万人以上とも言われる多くのロシア市民が国外に逃れ、ロシアの外から軍事侵攻への抗議の声を上げています。
今回の軍事侵攻がもたらしたものは、多くのロシアの人々にとってもとてつもなく大きな不幸です。
そういう状況であるにもかかわらず、日本の中の一部の識者などは、侵攻を命令したプーチン大統領が悪いのではなく、NATO拡大などの挑発を続けてきた米国やNATO諸国こそが、今回の戦争の原因を作ったという主張をいまだに繰り広げています。仮にそのような挑発行為が一部にあったとしても、今回の軍事侵攻は決して認められるものではありません。ましてや今ウクライナで行われている戦争犯罪の数々は断じて容認できるものではありません。2014年に起きたいわゆるマイダン革命以降、ウクライナの人々が民主化の動きを進め、さらなる自由を求めて西側に近づいたとしても、その是非はウクライナの人々が決めることです。プーチン大統領が口を挟む権利はありません。
このところヨーロッパの一部の国や日本の中でも、早期の停戦を求める声が出始めています。言うまでもなく、私たちも一刻も早い戦争の終結を願います。しかしながら、単に戦闘が一時中断するだけではなんら問題の解決とはならず、真の平和とも言えません。私たちはロシア軍が戦闘を停止し、ウクライナから完全に撤退することを改めて強く求めます。それなしに仮に一時的な停戦が実現したとしても、プーチン大統領は再び牙を剥いてウクライナに襲い掛かることになります。第1次チェチェン戦争では、停戦となったもののロシア軍の戦争犯罪が問われることはなく、またチェチェン内部の団結の欠如と慢心が第2次侵攻を招き、第1次チェチェン戦争以上の多くの市民への虐殺、略奪、老人・婦女子への暴力など、さらなるロシア軍の戦争犯罪が引き起こされました。
今ウクライナで起きていることは、まさにかつてチェチェン戦争において行われてきたことに他なりません。プーチン大統領とロシア軍の残虐性はその時から何ら変わっていないのです。そのチェチェン戦争でのロシア軍による数々の戦争犯罪を国際社会が見逃してきたことが、今回のウクライナでの蛮行につながっていると言わざるをえません。しかも現在のチェチェンは、プーチン大統領に忠誠を誓うカディロフ首長の独裁的な恐怖政治の下で、チェチェンの人々の人権や自由が奪われたままとなっています。そのような状態を今度はウクライナで再び繰り返してはなりません。
一方ロシア社会では、チェチェン戦争以来プーチン大統領による強権政治が進められ、ロシアにおける民主主義が圧殺され続けてきました。ジャーナリストや人権活動家に対する暗殺なども頻発し、ロシアの自由が奪われ続けてきたその先に、今回のウクライナ侵攻があります。今やロシアではあらゆる自由が消滅しています。しかし一方で、戦争への疑問や批判の声が出始め、ロシア軍から逃避する兵士が増加するなど、次第にプーチン大統領の強権支配にも陰りが出てきています。
この戦争に反対することは、ロシアにおける民主主義の今後にとっても重要な意味を持つと私たちは考えます。
私たちはウクライナでのこれ以上の殺戮を食い止めるため、国際社会がロシア軍の戦争犯罪を断じて許さず、ロシア軍の撤退を求めてさらに戦争反対の声を大きくすることを強く呼びかけます。
ウクライナに平和を!
2022年6月8日
チェチェン連絡会議
代表:青山 正(市民平和基金代表)
(メールアドレス peacenet@jca.apc.org)
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