6.12杉原浩司さん(武器取引反対ネットワーク)講演

ウクライナ侵攻とわたしたち

プーチンの戦争犯罪をやめさせよう

 6月12日午後1時半から、東京江東区・東大島文化センターで、杉原浩司さん(武器取引反対ネットワーク)講演会「 ウクライナ侵攻とわたしたち」が、市民の声・江東の主催で行われた。

ウクライナ連帯行動
からみた運動の問題点
 杉原さんはロシアのウクライナ侵略が始まるやいなや独自にロシア大使への抗議行動を呼びかけたり、ロシア大使館への抗議デモ、ダイイン行動など多彩な行動を行ってきた。また、昨年のミャンマー軍事クーデターに対して、日本政府・財界の軍政への経済援助を止めろと日本のNGOと連携して行動を行ってきた。そんな杉原さんだからこそ、運動内部のウクライナ支援のあり方について、「分断と混迷」があると指摘した。そして、「抑止論の破たんから能力制限の戦争予防論へ」と「 戦争犯罪の徹底追及と軍需産業へのBDS(ボイコット、投資引き揚げ、制裁)から非合法化へ」と訴えた。

民衆の連帯行
動こそが重要
 講演の後、質疑応答が行われた。その中のひとつを紹介する。
 質問「プーチンはウクライナの東部から南部にかけて支配地域を広げ、いずれロシアに組み入れようとしている。これに対して、ウクライナが反撃しようとすれば、『自国を攻撃したとみなし、戦術核兵器も使用する』と公言している。こうしたプーチンを倒せるのは、ロシア民衆の闘いが大きな要素だ。どうロシア内の人々と結びついていくのか。これはアジアにおいて、中国が香港の民主化運動をつぶした。北朝鮮の核兵器・ミサイルの開発もある。どちらも専制体制だ。どう、向き合っていくのか」。
 答え「ロシア国内での反戦運動について、5月9日ロシアのフェミニスト反戦グループが情報を流していた。『プーチンのウクライナ戦争にNOを突きつける。赤色で血に塗られたZを書く。追悼する慰霊の日をつくろう。黒い服を着よう。ZとNO WORを掲げたい』。ネット(SNS)を使って、連帯していくことが重要だ。香港の事態も憂慮している。周庭さんが日本に来た時の講演会に参加した。香港の民主化の行方はどうなるか。雑誌『世界』が香港からの通信を始める。香港、台湾、琉球(沖縄)そして『やまと』と民衆の輪を作っていきたい」。(M)

杉原さんの講演から


1 チェチェンとシリアでの大虐殺の延長としてのウクライナ侵略

 「チェチェン戦争がなければ、今のような形でのウクライナ侵攻にはなっていないのではないか」「1999年8月16日のエリツィンによるプーチンの首相任命から、プーチンの思想と行動が一直線に2022年2月24日のウクライナに向かっている」(林克明、長年チェチェン戦争を取材)。
 「アサド(シリアの独裁者)を許せばプーチンも許すことになる。アサドを止めればロシアの独裁者も傷つく。私たちは過去から学び、こうしたことを再び起こしてはならない」「何十万人もの人が既に殺害され、姿を消し、何百万人もの人が避難した。それでも最悪の事態はこれからだ。それは阻止できる。お願いだから、これ以上1秒たりとも待たないでほしい。どうか行動を起こしてほしい」(「墓堀り人」と呼ばれる匿名の告発者、6月9日、CNN)。
 チェチェンの独立を認めない、とロシア軍が侵攻したが、激しい抵抗にあい撤退せざるをえなかった。第二次チェチェン戦争の時、プーチンが徹底的に弾圧、大虐殺を行い抑え込んだ。シリアのアレッポに対してアサド政権はロシア軍の支援の下で、都市を破壊しつくし、大虐殺を行った。プーチンの人道への罪を絶対に許してはならない。西側の最大の責任は巨大な戦争犯罪を追認したこと。核を保有する常任理事国の指導者を国際刑事裁判所(ICC)で裁くことに歴史的な意義がある。

2 左派・リベラル知識人・市民運動内部の分断と混迷

 広がりを欠く反戦運動。「ウクライナの自衛戦争を認めると日本の軍拡を批判できない」は本当か。
 次のような主張があるがどうなのか。
(1)ウクライナの人々はゼレンスキー政権によって戦わされている。
 
 そんなことはなく、民衆自身の意思で戦っているし、武器以外の方法でも戦っている。
(2)米国・NATO(東方拡大)こそが今回の戦争に責任がある(「米・ NATOとロシアの代理戦争」)。

 プーチンは NATOを口実にしているが、大ロシア主義だ。ロシア軍は占領地では虐殺・レイプ・強制連行を行っている。
(3)ウクライナは応戦するより降伏、避難した方が死者を減らすことができる。

 チェチェン戦争を見れば、どんなひどいロシアが行っているか分かり、ウクライナもそのようなことが起こるだろう。
(4)西側の武器支援は戦争を長引かせるだけ。
(5)経済制裁は効果がなかなか出ず、ロシアの庶民を苦しめるだけ。

 半導体やオリガルヒに的を絞った経済制裁は必要だ。パレスチナ、ミャンマーでは軍政へのボイコットを呼び掛けられている。
(6)虐殺はロシア軍によるものとは限らない。誰がやったか分からない(ウクライナの自作自演)。

 自分の主義・主張を守ることを優先し、ウクライナの人々の尊厳や現実が見えなくなる。

3 岸田政権による便乗軍拡と翼賛体制化
 (略)
4 問われる立憲野党

 溶解する立憲、混迷するれいわ、風前の灯となった「市民と野党の共闘」。ぶれ始めた泉立憲代表。「(防衛費は)争点にならないと思う。どういった場合の反撃能力が考え得るのかよく詰めていきたい」。れいわ、ウクライナ戦争について「NATO拡大が要因。経済制裁に反対」。

5 抑止論の破たんから能力制限の戦争予防論へ

 ウクライナ侵略の最大の教訓は抑止論の破たん。核兵器を持った巨大な軍事力でも、プーチンの侵略を抑止できず、侵略を止められない。抑止論の致命的弱点=相手の指導者の理性への信頼を前提とする。理由なきリーダーを止められない脆弱性、軍拡競争の高次化により破れた時のリスクが増大。
 戦争を絶対に起こさない能力制限アプローチへ。専守防衛の厳格化と在日米軍への波及を。
・東アジアに敵をつくらない「共通の安全保障」の枠組み。
・二重基準を許さない。ミャンマー国軍留学生の受け入れ中止を。
・戦争犯罪の徹底追及と軍需産業へのBDS(ボイコット、投資引き揚げ、制裁)から非合法化へ。※武器支援とは異なる介入の可能性。

6 第二のプーチンを作らない。権力をコントロールできる社会を

 「民主主義VS専制主義」の罠にはまらず、小国が侵略されない世界を。
 強力な市民社会と独立したメディア。厳格な三権分立。強力な野党。主権在民。立憲主義の厳守。権力の分散化、地方主義。文民統制の強化。
 気候危機、災害対策、感染症、貧困などに共同で対処する枠組みを。持続可能な平和・軍縮運動を。
(発言要旨、文責編集部)

ウクライナ問題をめぐる平和運動の現状と課題を縦横に語る杉原さん
プーチンの侵略と虐殺をやめろとロシア大使館へ抗議デモ。ダイインでウクライナ人民との連帯を示した(4.23六本木桧町公園にて)

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