6.17南西諸島への自衛隊配備に反対する大阪の会が講演集会
ミサイル基地配備を許すな
土岐直彦さんが厳しく批判
【大阪】6月17日夕、大阪市北区民センターで「南西諸島のミサイル基地化を問う」講演集会が催された。主催は「南西諸島への自衛隊配備に反対する大阪の会」、講師は土岐直彦さんだった。
土岐さんは朝日新聞の元記者であり、退職後はフリーのジャーナリストとして、「週刊金曜日」や沖縄の隔月刊のブックレット「琉球」に寄稿し、2018年には「闘う 沖縄 本土の責任」、今春には「南西諸島を自衛隊ミサイル基地化」を出版している。
南西諸島を戦場にするな
主催者あいさつで「大阪の会」の平出代表は、「宮古島や南西諸島に強い思いを持ち、今日参加して下さった皆さん一人一人が代表だと思っています。みんなで繋がって、南西諸島を戦場にするな、ミサイル基地反対の声を大きくしていきましょう」と、参加者に訴えた。
「大阪の会」は2019年の7月に結成された。以降、毎月第3土曜日に大阪府及び阪神間の各ターミナルで、「南西諸島への自衛隊のミサイル基地配備反対」の旗を掲げてスタンディングを行い、また、宮古島、石垣島、奄美大島、種子島(馬毛島)を訪問し、ミサイル基地に反対する地元の人たちと交流してきた。
次に、事務局の根本さんから今年4月の奄美大島訪問の報告がなされた。奄美大島には従来から小規模な海上自衛隊の奄美基地分遣隊と航空自衛隊のレーダー部隊が配備されていたのだが、2019年3月に新たに奄美駐屯地(警備、対空ミサイル部隊)と瀬戸内分屯地(警備、対艦ミサイル部隊)が配備された。(訪問の詳しい内容については、「かけはし」5月23日号参照)
琉球弧に沿って並ぶミサイルの
放列は対中軍事戦略の最前線
土岐さんはまず、南西諸島の要塞化は日本の自衛隊を手下にして、日米一体で仮想敵国の中国を封じ込めようとする米国の戦略構想の下にあり、南西諸島は5つの最前線になると指摘した。つまり、第1に対中国の自衛隊の「南西シフト」の、第2に台湾有事の、第3に「専守防衛」を逸脱した日本軍事化の、第4に日米の軍事一体化の、第5に米日中で競うミサイル高度化の最前線である。
そして、この南西シフトの軸になるのが佐世保の「水陸機動団」であり、この部隊は水陸両用強襲輸送車AAV7やオスプレイを配備し、専守防衛を逸脱した離島奪還、敵前上陸を目的にしており、ゆくゆくは、米の最新鋭ステルス戦闘機F35Bが運用できる強襲揚陸艦を保持することになっている。
また、馬毛島の基地は佐世保の水陸起動団と空自の築城(福岡)、新田原(宮崎)の両航空団と結ぶ陸海空攻撃力の集結展開拠点となり、また敵基地攻撃に向けた訓練場と後方支援基地にもなる。
沖縄本島でも自衛隊の増強が著しく、23年度には地対艦ミサイル部隊を配備し、奄美大島―沖縄本島―宮古島―石垣島と孤状のミサイル網が築かれる。そして、与那国島には与那国水道を通過する中国艦船を警戒監視する沿岸監視部隊が開設され、移動警戒隊の車載式レーダー、及び島中央にはドーム型の対空レーダー群が既に配備されている。
こうした基地の設置やオスプレイの配備でもそうなのだが、本土での場合はそれほど大きな反対運動でなくても中止される場合もあるが、沖縄の場合は辺野古に見られるように、どんなに反対運動が大きくなっても、日本政府は一顧だにしない。沖縄差別の象徴だと思う、とこの項を締めくくった。
新な日米共同作戦計画は、
南西諸島を戦場にする
次に、2021年12月、共同通信は有事の初動段階で、米海兵隊が自衛隊の支援を受けながら、南西諸島の約40カ所にのぼる臨時の攻撃拠点を設けるという計画を報じたと語り、想定されている攻撃拠点は有人島が多く、当然、ミサイル基地がある奄美大島、宮古島、石垣島も入っていると指摘した。
地対艦ミサイルは陸上から艦船を攻撃する。この地対艦ミサイルを攻撃する航空機を撃墜するのが地対空ミサイルであり、この両者はセットで運用される。南西諸島のミサイル部隊にもこの両者が配備されている。車載式のミサイルなのは敵の攻撃を避けるために島中を移動しながらミサイルを発射するからである。当然、敵の砲弾・ミサイルも島中に降り注ぐことになる。
南西諸島への自衛隊の配備は日本の防衛ではなく、自衛隊が米戦略の一翼を担うことになったということであり、現に、日米の防衛協力文書でも、琉球弧の部隊が対中国の「初動対処部隊」と位置付けられている。専守防衛の自衛隊から、敵基地攻撃能力を持つ「戦う自衛隊」に変貌したのであると、土岐さんは結論づけた。
バイデン政権の対中包囲網と中国の反発
次に、米国の東アジア政策について触れ、バイデン政権は対中国の様々な包囲網を構築しようと躍起になっている。米英豪による「AUKUS」(オーカス)、日米豪印による「QUAD」(クアッド)、東南アジア諸国連合(ASEAN)の特別首脳会議のワシントン開催、アジア太平洋地域の新な経済枠組み「IPEF」の立ち上げであると述べた。
一方、中国は「アジア太平洋版のNATO東方拡大」であると反発、台湾周辺で海軍と空軍の合同演習を実施、また王毅外相が南太平洋の島嶼国を歴訪し、米国が主導するインド太平洋戦略にくさびを打ち込んだ。
現在、中台関係は最悪な状態にあるが、中国政府は従来の「一国二制度による平和的統一路線」を変更してはいない。バイデン政権も台湾有事に際しての「あいまい戦略」を変更してはいない。もちろん、台湾が独立宣言すれば、中国にとって見過ごせないが、台湾の人たちの大半は現状維持という意識である。
中国に軍事的に圧倒的に劣る台湾にとって、米国の軍事支援頼みという構図は変わっていない。しかし、全面的な軍事衝突は米中とも望んではいないだろう。全面戦争になれば破滅的な核戦争を招きかねないし、米中間の経済的結びつきも強い。
中国にとってもリスクが大きい全面的な台湾への軍事進攻は考えられないが、偶発的衝突は有り得るかもしれないし、東シナ海、南シナ海で警戒監視中の米中の艦船同士が接近しすぎて起きる衝突などのトラブルである。サイバー戦もあり得るかもしれない。
それを発端に米中が一定の武力を行使すれば、日本はまさに最前線に立たされる。安保関連法により、自衛隊は米軍の後方支援活動に入り、米軍が攻撃されれば「存立危機事態」に至り、集団的自衛権を行使することになり、米軍と共に戦うことになる。台湾有事は即日本有事になるのであり、これが安保法案の本質であると結論づけた。
軍事予算を増やさず、
戦う自衛隊に変貌させず
世界の覇権を握ってきた米国だが、中国は経済発展に伴い米国との軍事力の差を急速に縮めてきた。そこで取られたのが対中国の新しい米戦略構想、「海洋プレッシャー戦略」である。その戦略に自衛隊を直接引き込むのが米国の構想なのである。
仮想敵国を中国とした米軍の打撃力の一部を自衛隊は担うことになる。米軍が「矛」で自衛隊は「盾」というこれまでの日米安保体制を転換し、自衛隊は米軍と共に「矛」を担うことになる。南西諸島の自衛隊の基地はその米軍の戦略の最前線になる。
現在でも自衛隊は世界有数の軍事力を持っている。2022年の軍事力ランキングでは第5位、軍事費では541億ドルで第9位である。自民党は2021年秋の衆院選の公約で、防衛費をGDP比の2パーセントとするという公約を掲げた。日本の防衛費は10年連続で増加し5兆円を超えている。GDP比で約1%であり、2%にすると5兆円の増加になる(当時の為替レートで)。
5兆円あればどれだけのことができるのか。大学授業料の無償化(1・8兆円)、公的保健医療費をゼロ(約5兆2000億円)、消費税2%(4兆3000億円)等の政策を実施できる。
5年後の2027年前後には、東アジアの緊張が一層高まるだろう。日本の軍事力の増強と日米の軍事的一体化の進展がその大きな要因となっている。私たちはその事実を深刻に受け止めなければならないと述べ、講演を締めくくった。 (山本)
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