LGBT差別解消法の法制化を

天皇主義右翼を糾弾する

松岡宗嗣さんの告発記事を紹介

 松岡宗嗣さん(一般社団法人fair代表理事)は、ヤフーニュース(6/29)に「『同性愛は依存症』『LGBTの自殺は本人のせい』自民党議連で配布」というタイトルで天皇主義右翼の神道政治連盟(神政連)国会議員懇談会総会(6月13日)で配布された性的マイノリティに関する差別的な内容の冊子「夫婦別姓 同性婚 パートナーシップ LGBT─家族と社会に関わる諸問題」(楊尚眞教授(弘前学院大学キリスト教教育学)を批判する告発記事を投稿した。以下、紹介する。

楊講演の「ヘイトスピーチや憎悪言説」

 松岡さんによると冊子の冒頭に「今日の講演の目的は(中略)性的少数者を卑下したり、軽んじることではありません。性的少数者の人格、尊厳は尊重しなければなりません」と但し書きを提示しているが、「同性愛と同性婚の真相を知る」項で楊は、「同性愛は心の中の問題であり、先天的なものではなく後天的な精神の障害、または依存症です」、「(同性愛などは)回復治療や宗教的信仰によって変化する」「世界には同性愛や性同一性障害から脱した多くの元LGBTの人たちがいる」、「LGBTの自殺率が高いのは、社会の差別が原因ではなく、LGBTの人自身の悩みが自殺につながる」、「性的少数者のライフスタイルが正当化されるべきでないのは、家庭と社会を崩壊させる社会問題だから」などと述べ、最後に、「国連や欧米諸国からも同調圧力がありますが、決して屈することなく、むしろ世界の過ちを正しい方向に導く道徳的な国家になるべきだと思います」と断言する。
 松岡さんは、このような楊講演が性的マイノリティに対する「ヘイトスピーチや憎悪言説」として書かれているとして、次のように批判する。
 「世界には、宗教的な背景から、同性愛を『病気』とし、電気ショックやカウンセリングなどで異性愛へと無理やり“矯正”しようとする『転向療法(コンバージョンセラピー)』が、今なお行われている国がある。こうした処置は著しい人権侵害であり、カナダのように法律で明確に『犯罪』と規定されているところもある。日本では、このような暴力的な人権侵害行為は確認されていないが、会で配られた冊子では、転向療法を推奨するような危険な考え方が記載されていた」。
 「WHОは1990年に『同性愛』を精神疾患から除外している。『性同一性障害』についても、2019年に精神障害というカテゴリから外す判断を行った。アメリカ精神医学会は、2007年に『同性愛者への転向治療は効果がない』ことや、むしろ転向療法によって『うつ病、自殺などが増加する』といった指摘をしている」と反論している。
 さらに楊は、(LGBTの)「自殺率が高いのは社会的な差別があることが原因かというとそうではありません。LGBTは自分自身が様々な面で葛藤を持っていることが多く、それが悩みとなって自殺につながる。だから学校で教えるべきは回復治療や宗教的信仰、又は自然に変化していくことがあり、世界には同性愛や性同一性障害から脱した多くの元LGBTの人たちがいる」などと手前勝手な暴論を展開している。
 松岡さんは、「性的マイノリティの自死未遂の割合は、非当事者に比べてLGBT(同性愛者や両性愛者等)で約6倍、トランスジェンダーは約10倍高いという調査もある。厚労省が委託実施した職場実態調査でも、性的マイノリティ当事者が、非当事者よりもメンタル不調の割合が高かった。これは明らかに、社会の側に性的マイノリティに対する根強い差別や偏見があるからだ。性的マイノリティの自殺率が高い原因は、『本人のせい』であるかのような言説に非常に憤りを覚えた」と抗議する。
 また、「同性愛の『原因』が、『家庭環境』にあるとし、同性愛を擁護すると同性愛者は『増え』、『社会を崩壊させる』という論理自体が、明らかに悪質な同性愛者蔑視だ。『社会を崩壊させる』などと、全く非論理的な主張で性的マイノリティを『スケープゴート』、つまり仮想敵や生贄のように利用し、『家族・伝統を守る』と保守派の支持を集めようとする手法は世界的にもよく見られる」と指摘し、人権否定に満ちた主張に対して厳しく批判している。

神政連国会議員懇談会の差別加担

 松岡さんは、楊講演の性的マイノリティに対するハラスメントに満ちた主張を資料として採用した神政連国会議員懇談会の問題性に対しても掘り下げる。
 「問題は、明らかに差別的で問題を多く含む言説が、自民党の国会議員が多く所属する議員連盟で、実際に広められてしまっていることだ……政党の背後には宗教団体があり、その『票』も含めた影響力が強くあるかぎり、または党として性的マイノリティの権利保障を進めなければ票が集まらないという状況にならないかぎり、この現状を打破するのは難しいとも言える。これは性的マイノリティの話だけではない。特に選択的夫婦別姓をはじめ、ジェンダー平等や、家族、子育て、福祉をめぐる政策、または歴史教育や安全保障、憲法改正などの論点にも繋がっている構造的な問題でもある。政権政党の中で、ここまで非論理的で事実に基づかない、明らかに悪質な差別的言説を、党内の大多数の議員に配ってしまえるような状況には、驚きを隠すことができない」と強調する。

楊、神政連の居直りを許すな

 ネットニュース「女性自身」(7月3日)は、ネット上で《この講演を行った楊尚眞氏はキリスト教学者のようだ。なぜ「神道」の政治団体でこうした言説が採用されているかという点に疑問を感じる》《神道系がキリスト教系の教授の講演録を配るとか何が何やら…》《なんで神道の団体がキリスト教の思想を推すのかなと思った》などの疑問があり、神道政治連盟の担当者に質問したことが掲載されている。
 神道政治連盟担当者─「楊氏はキリスト教の方です。いっぽう、大学教授でもあります。性的少数者の問題をずっと研究されている方ですので、キリスト教徒というよりも講師としてお話をしていただきました」。
 「いま性的少数者の話題がたくさん上がっていますよね。海外ではトランス女性(男性として生を受けた、性自認が女性であるトランスジェンダーのこと)と呼ばれる方々がスポーツをして、いい記録をとって、『普通の女性が不公平じゃないか』という声も上がっています。問題が起こっているならば、理解を深める必要があります。そこで会合を開きました」。
 「一部の報道では、楊氏のことを差別的だといいます。ただ楊氏は講演に際して『私には差別の意図はございません』とハッキリおっしゃっています。講演録の方にも、そういう風にきちんと書いております。私たちも差別的な目的で会合を開いたわけではありません。あくまで理解を深めるためです」と述べ、終始居直りの姿勢だった。
  「キリスト新聞」(7月6日)によると「弘前学院大学の藁科勝之学長は7月1日付で声明を発表。『本学は当該論文等には一切、関知及び関与もしておりません』と責任を回避し……『LGBT』に関しては、『多様性への理解とともにその認識を深めている』と弁明した」と報じている。
 さらに楊への取材も行い、「(楊は)『事実を歪曲して報じられた。選挙期間中、自民党を攻撃するために講演の一部を切り取って〈差別的〉と糾弾された』と反論。講演の内容は一個人の主張ではなくアメリカなどの研究で証明された『事実』に基づいており『差別の意図はない』、『あくまで個人的な研究であり、学内で同様の考えを披露したことはない』と主張した」と報じている。
 さらに同紙は、楊が「以前にも性的マイノリティをめぐる差別的な言動で糾弾された経緯もある」と触れ、性的マイノリティに対してハラスメントを繰り返してきた常習犯であることを明らかにしている。すでに楊は、「―同性愛と同性婚に関する正しい認識と選択のために―」(22世紀アート/21年7月12日)を出版し、「医学・社会科学的な根拠」と称して人権否定に貫かれた観点から同性愛や同性婚、性的マイノリティを批判している。

LGBT差別解消法の制定を

 そもそも神政連は、「神政連が目指す国づくり」において以下のような指針を掲げている。
 「①万世一系の皇統と悠久なる歴史を持つ皇室と日本の伝統文化を尊重し、自国の文化に誇りを持てる社会づくりをめざします。
 ②日本の伝統と国柄に基づき、国土と国民を守ることのできる憲法の制定をめざします。
 ③日本を守るために尊い命を捧げられた、靖國神社に祀られる英霊に対する国家儀礼の確立をめざします。
 ④国民の生活や社会の重要な基盤となる家族の絆を大切にできる社会の実現をめざします。
 ⑤道徳心や豊かな感受性を育み、子供たちが未来に希望を持つことのできる教育の実現をめざします。
 ⑥日本の史実に対する誤った認識を払拭し、世界から尊敬される道義国家、世界に貢献できる国家の確立をめざします。
 ⑦諸外国と友好親善を深めつつ、北方領土や竹島、尖閣諸島など、日本の領土を自身で守れる社会をめざし、国民意識を啓発します」。

 つまり、神政連は、日本国家の建設に向けて天皇主義を柱とし、家父長制と家族を基盤とすることを掲げている。国家を優先し、個人主義、自己決定権、多様性は絶対に認めない。冊子のタイトルが「夫婦別姓 同性婚 パートナーシップ LGBT─家族と社会に関わる諸問題」と掲げたように、これらのテーマを否定するための取り組みの一環として楊講演の冊子をばら撒いたのである。
 異性愛強制社会、家父長主義、性別役割分担の社会的構造を反映して性的マイノリティに対する性的指向・性自認に対する深刻なハラスメント(「精神的な攻撃」脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)、「個の侵害」(私的なことに過度に立ち入ること)、「了解を得ずに他の他者に暴露する」)が横行し、不当な労働待遇、解雇、雇止めが繰り返されている。
 だからこそ人権侵害の歯止めとして、最低限、「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」(LGBT差別解消法案)の制定は実現しなければならない。
 すでに改正労働施策総合推進法(20年6月施行)は、パワーハラスメント防止義務の指針(20年1月)の中にSOGIハラとアウティング(性的指向・性自認等の個人情報を本人の同意なく暴露する)もパワーハラスメントであることを明記し、防止を義務づけている。
この流れの中で岸田政権は
「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太方針)の中の「共生社会づくり」で「性的マイノリティに関する正しい理解を促進するとともに、社会全体が多様性を受け入れる環境づくりをすすめる」と明記している。具体的な取り組みとして法的制定を求めているわけではない。だがかけ声だけのアリバイ的なレベルでもあっても性的マイノリティの人権を守ろうという姿勢を明らかにせざるをえなかった。
 しかし、ほとんどの自民党国会議員が会員の神道政治連盟の行った楊講演冊子の配布は、性的マイノリティに対する差別拡大運動の加担だ。骨太方針とは真逆の対応ではないか。
 性的マイノリティの人権侵害を許さず、LGBT差別解消法制定を!
(遠山裕樹)

7.4

自民党本部前で抗議行動

神道政治連盟は性的マイノリティへの人権侵害をやめろ

 7月4日、『Stand for LGBTQ+ Life』がLGBTQ当事者らの呼びかけで自民党本部前で行われた。
 神道政治連盟(神政連)国会議員懇談会総会(6・13)で性的マイノリティを差別する楊講演冊子の配布に抗議する取り組みだ。参加者は、「差別をやめて」「いますぐ冊子を撤回して」「平等な権利を」などのプラカードを掲げ、次々と抗議のアピールが続いた。
 デモに参加した松岡宗嗣さん(一般社団法人fair代表理事)は、(2021年5月、自民党国会議員の性的マイノリティに対する差別発言に対する抗議デモから) 「あれから1年。社会は大きく変わってきました。政治の領域はどうでしょうか。何も変わっていません。むしろ悪くなっているのではないでしょうか。いつまでこんなに非論理的な考えによって、私たちは差別され続けなければならないのでしょうか」とアピールした。
 さらにネット署名も展開されており、「LGBT差別冊子の対応を求める 有志」(拡散用URL:http://change.org/tekkai_ldp)は、〈国際的にも同性愛を”精神障害”とする考え方は否定されています。「転向療法(コンバージョンセラピー)」によって矯正しようとする点も、非科学的で暴力的な人権侵害であり、危険な考え方です。
 性的マイノリティが自死に追い込まれているのは、社会に根強い差別や偏見が残っているからです。「LGBTの自殺率が高いのは社会の差別ではなく、本人が抱えている悩みのせい」という考えも事実に基づかず、到底許されるものではありません。
 これまでも国会議員による性的マイノリティに対する差別的な発言は幾度となく繰り返されてきました。
 しかし今回は、「LGBTから『抜け出す』、『治療する』」といった内容の酷さと、自民党の政策に影響を与える宗教団体と、その趣旨に賛同する、岸田首相をはじめとする多くの自民党議員が参加する議員連盟のなかで広げられた言説という2つの点で、これまでの言説と性質が異なります。より問題の根が深く、重い、影響力の大きいものだと考えています。
 明らかに非科学的・非論理的で差別的な憎悪言説を広げることは、たとえどんな政党、どんな立場であっても許されるものではありません。
 特に、政権与党である自民党の中でこうした言説が広げられていることはゆゆしき問題で、差別を助長し、当事者をさらに追い詰めることになります。
私たちは自民党に対して、以下の対応を求めます。
(1)自民党として、この冊子に書かれている内容を明確に否定し、差別をなくす姿勢を示してください。
(2)これ以上誤った認識に基づく差別的な考えを広めないために、冊子を回収してください〉。
 7月8日時点で、37691人が賛同している。        (Y)

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