これでは物価上昇にも追いつかない
全国一律1500円の引き上げを
最賃引上げ目安「31円」/中央審議会
宮城全労協ニュース372号(2022年8月6日)
今年の最賃に対する中央審議会による「目安」答申を受けて各地の審議会で議論が進んできた。東京をはじめ目安通りの答申も多いが、20の道府県では目安を上回る答申が行われ(昨年の7県から大幅増)、全国をランク分けする現行制度への疑問の強まりも浮き彫りになった。特に最下位県の高知、沖縄は3円を上積みした。生活必需品の値上げが続く中で、今回の目安では到底追いつかないことは明白だ。先の20道府県の上積みにもかかわらず、この間大きく開いた地域間格差も依然大きいままだ。各地で異議申出などの取り組みが行われてきた。この最賃をめぐる闘いを伝えるものとして、またその強化の議論に向け、以下に「宮城全労協ニュース」を転載する。
中央最低賃金審議会は8月1日、時間給「31円」、率にして3.3%引き上げるとする「目安」を厚労大臣に答申した。全国加重平均で「961円」となる。
昨年の「目安」は28円だった。31円は過去最高の引き上げ額だというが、物価上昇には追いつかない。この額では生活水準の「底上げ」にはまったく不十分であり、「健康で文化的な最低限の生活」に資することはできない。
今年の目安もA、Bランク17都府県の「31円」に対してC、Dランク30道県が「30円」と差がつけられた。目安通りであれば最高額1072円(東京)に対して、最低額850円(高知、沖縄)だ。
(東北では岩手が851円、青森・秋田・山形が852円、福島858円、宮城883円)
「最賃1500円」の要求を広げよう!
岸田首相は「人への投資」を繰り返し、最賃については「千円以上」に言及してきた。宮城全労協は宮城労働局長への要請(6月18日)のなかで政府の後退姿勢を批判した。
〈首相は「25年間で働き盛りの世帯の所得が100万円以上減少している」と認め、対策の必要性に言及した(3月3日、経済財政諮問会議)。首相の掲げる「新しい資本主義」は「貧困と格差」の現実に真剣に向きあうものであろうと、その成り行きが注目された。
しかし、実際は「資産所得倍増」など格差拡大を誘導するような政策が強調されることとなっている。閣議決定された政府方針、「できる限り早期に最低賃金の全国加重平均が1000円以上となることを目指し、引き上げに取り組む」という表現自体が、当初案からの後退を示唆している(6月7日「経済財政運営と改革の基本方針2022」)〉
オーストラリアでは9年ぶりに政権が交代したが、新政権は公約実現の一環として最賃引き上げ(前政権時代の平均2%台後半から5・2%)に踏み出している。前政権では実質賃金の低下が続き、経済政策への批判が政権交代の要因になった。
最賃審議会の小委員会は6月28日の第一回会議から始まった。7月25日、第四回小委員会では結論に至らず、議論を持ち越していた。本格化する地方審議の場で経営側からの反発も予想される。東京審議会では8月5日、目安通りの引き上げ答申となったが、使用者側委員の3人が採決で反対したと報じられている。
物価上昇の長期化と所得格差の拡大が予測されている。地方最賃審議で大幅引き上げの流れをいっそう大きく、加速させていくことが重要だ。「最賃1500円」の要求を広げよう。
実質賃金の低下が続いている
6月の消費者物価指数は2・2%上昇した(総務省7月22日発表、生鮮食品除く)。物価上昇は10カ月連続、2%超は3カ月連続だ。生鮮食品を含めた今年度の上昇率について、内閣府は2・6%に達すると予測している。食料など生活必需品や光熱費などでは4・4%上昇した。一方で「選択的支出」での上昇は0・2%だという。低所得労働者への打撃は深刻だ。
さらに厚労省は8月5日、6月の実質賃金は前年同月比で0・4%減少したと公表した(毎月勤労統計、速報値)。3カ月連続のマイナスだ。先行き懸念も強まっており、企業の物価高対策が報道されていた。「月1万円」「インフレ手当」を支給する企業も出始めているという(NHKビジネス特集)。しかし、このような企業の支援金を低所得労働者の圧倒的多数は期待することができないだろう。最賃の大幅な引き上げが必要だ。
今年度の最賃審議では物価上昇の影響が議論の焦点となった。「目安」発表にあたって公益委員見解は、「労働者の生計費」について「・・必需的な支出項目を中心とした消費者物価の上昇に伴い、最低賃金に近い賃金水準の労働者の中には生活が苦しくなっている者も少なくないと考えられる」と述べ、今年の目安額の答申にあたって「特に労働者の生計費を重視した」としている。その点で「コロナ禍や原材料費等の高騰といった企業経営を取り巻く環境を踏まえれば、特に中小企業・小規模事業者の賃金支払い能力の点で厳しいものであると言わざるを得ない」。そこで生産性向上支援や業務改善助成金、下請け取引の適正化などを政府に要望している。
日本商工会議所会頭は「企業にとっては非常に厳しい」とコメントした(NHKニュース8月2日)。今回の目安は「家計に対する足元の物価上昇の影響が強く考慮される一方、企業の支払い能力が厳しい現状については、十分反映されたとは言い難い」、「新型コロナの感染再拡大で影響が懸念される飲食業や宿泊業、原材料などの高騰を十分に価格転嫁できていない企業にとっては、非常に厳しい結果だ」。三村会頭は政府に対して、価格転嫁対策や生産性向上の支援など、中小企業の「自発的な賃上げに向けた環境整備」を強く求めた。
全労協は8月2日「談話」を発表し、次のように指摘した。
経営側は中小企業の経営悪化を理由に最賃の大幅引き上げを拒否するが、大企業と中小零細企業のいびつな商取引にその一因がある。大企業の膨大な内部留保は増大し続けている。「経営側の民主化」こそが必要であり、「都市と地方間の格差拡大、地方経済の疲弊も同根」である。
全労協、地方審議会での闘いを訴える
全労協は地域最賃闘争へ引き継いで闘おうと訴えた。「私たちが求めてきた『どこでも誰でも1500円』という「地方格差をなくし、同一労働には同一の賃金を保障するという原則」にはまだまだ程遠い。また『直ちに、全国どこでも1千円』にも到達することができていない」
「私たち全労協は全労連やコミュニティユニオンの仲間などと連携し、中央最低賃金審議会に対して大幅引き上げを求めて要請行動を繰り返し、また全国各地で街頭宣伝などに取り組んできた。今後、都道府県の地方審議会に於いて各地の実情を反映させた審議が始まる。私たちは引き続き最低賃金の大幅引き上げのための闘いを強化していく。審議会への意見書提出や、地方議員とも連携して地方から更なる上積みを求め、地域間格差の解消と地域経済を活性化させる闘いを続けよう。」(8月2日「談話」より)
宮城全労協は22春闘で宮城合同労組などとともに労働局への要請行動を取り組み、最賃大幅引き上げ、全国一律最賃制を求めてきた。6月の要請行動では非正規・高年齢労働者の「同一労働同一賃金」の実現を訴えた。宮城全労協は6月18日、労働局長に対して2022最賃審議の要請を行った。ニュース本号では、「目安」答申を目前にした宮城最賃審議会で宮城合同労組が行った意見陳述を掲載する。
なお全国各地の取り組みは「最低賃金大幅引き上げキャンペーン」のホームページを参考にしていただきたい。
宮城合同労組が意見陳述
(宮城地方最低賃金審議会)
〈今、急激な物価高が生活を襲っています〉
物価高と円安が止まりません。今年5月の消費者物価指数は、1年前より2.1%に上昇し、2ヵ月連続で、2%を超えました。調査対象の70%近い品目が上がっていて、値上げのすそ野が広がっています。6月の企業物価指数は前年同月比9・2%でした。まだ小売りには十分に反映していませんが、いずれ小売りにも及んでくるはずです。
円安も止まりません。この陳述書を書いている7月19日の為替レートは1ドル=138円であり、3月の初めには115円前後だったので、急激な円安です。円は、ユーロに対しても円安になっています。
今、物価を押し上げている大きな要因は、エネルギーや穀物、原材料などの国際的な価格の大幅上昇ですが、そこに、輸入品物価をさらに高騰させる円安が加わり、私たちはダブルパンチの状況に見舞われています。
〈アベノミクス=異次元緩和政策の破綻が明らかです〉
しかも世界が金融緩和政策をやめて利上げに向かっている中、日本だけがアベノミクスの異次元緩和政策を継続し、「金利をゼロに据え置く」と宣言しているのですから、一層円安が進んでしまいます。物価高を食い止める責任がある岸田政府は無為無策です。
今の資源や穀物の国際価格、そして、円安が今後も続いた場合、今年1年間の家計の負担が、1年前より平均で6万5000円増えるという試算もあります。
〈2022年、生活危機下での最賃改定に際して〉
深刻な物価高によってもっとも打撃を受けるのは、最賃レベルで生活している労働者です。本年の最賃改定に際しては急激な物価高を十分反映させるべきです。
フランスの法定最低賃金は、消費者物価上昇に伴って引き上げられます。前回の引き上げ時から物価上昇率が2%を超えると、翌月から物価上昇分を引き上げる方式になっています。フランスの国立統計経済研究所は4月15日に、前月の物価上昇率を発表したが、政府は5月1日に従来の時給10・57ユーロを2・65%引き上げて、10・85ユーロとしました。フルタイム換算で月額1603・12ユーロから1645・58ユーロへの引き上げとなります。また、フランスでは以前は地域格差がありましたが、今はパリも地方も同じ全国一律最賃です。
食料をはじめとする生活必需品の値上がりは地域を問いません。一律に上がります。
〈全国一律・大幅引き上げを〉
近年、とくに地方から引き上げを求める強い要請が繰り返され、政治の場においても歴代政府が引き上げを明言してきました。その背景には「低すぎる日本の最低賃金」「貧困と格差の拡大」という現実、さらに厳しい地域社会・経済の状況、特に若年世代の地方から大都市圏への流出に対する危機感があります。
最賃額の地域格差を解消するためには全国一律制を導入すべきだという議論も強まってきました。地域間格差につながる「目安」制度そのものが問われていますが、そのあり方を検討する全員協議会は審議が予定より遅れ、報告は来春に繰り延べされています。
岸田政府の姿勢にも疑念が向けられています。当初は強調されていた「分配」や「れいわの所得倍増」は後退し、前政権と変わらぬ「成長戦略」優先に置き換わってしまったと批判されています。安倍元首相の横槍があるとも指摘されています。しかも日銀総裁が「家計の値上げ許容度も高まっている」などと発言、労働者市民の生活とかけ離れた認識だと批判され、撤回するというありさまです。
すべての低所得労働者の「健康で文化的な最低限度の生活」の実現のため、実りある最賃審議を求め、以下を要請します。
(1)最賃を全国一律1500円(時間給)に引上げること
(2)中小企業への最賃引き上げ支援策を拡充すること
(3)最賃審議をすべて公開すること
(4)「目安」に関する全員協議会の経緯、今後の予定について明らかにすること
2022年7月28日
全国一般全国協議会宮城合同労働組合
週刊かけはし
《開封》1部:3ヶ月5,064円、6ヶ月 10,128円 ※3部以上は送料当社負担
《密封》1部:3ヶ月6,088円
《手渡》1部:1ヶ月 1,520円、3ヶ月 4,560円
《購読料・新時代社直送》
振替口座 00860-4-156009 新時代社