武蔵野五輪弾圧 東京地裁有罪の不当判決

象徴的抗議行動に
政治的表現の自由後景化許すな

 9月5日、東京地裁立川支部刑事三部(竹下雄裁判長)は、武蔵野競技場で行われた無観客の五輪「聖火」セレモニー(2021年7月16日)に抗議して爆竹を鳴らした黒岩大助さんを、セレモニーの整理誘導にあたっていたイベント業者への業務妨害だとして不当逮捕した弾圧(威力業務妨害罪)事件に対して懲役1年、執行猶予3年の判決を言い渡した。
 なお不当判決に抗議する黒岩さんをはじめ11人に対して退廷命令執行し、暴力的に排除した。
 黒岩さん、弁護団は、不当判決を許さず、即時控訴し、決意新たに控訴審闘争の取り組み、支援・連帯を呼びかけている。
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検察の起訴は
威力業務妨害
 武蔵野五輪弾圧裁判闘争支援に向けて一審の不当判決について武蔵野五輪弾圧救援会ブログ(https://kyuenmusasino.hatenablog.com/)に掲載された諸資料をもとに整理してみた。
 検察は、公訴事実として「被告人は、武蔵野陸上競技場で開催されていた東京2020オリンピック・パラリンピック聖火リレーセレブレーションDAY8の開催を妨害しようと考え、令和3年7月16日午後5時13分頃、同イベント参加者等の入退場、受付け等が行われていた前記競技場に隣接する武蔵野総合体育館の西側歩道上において、ライターで点火した爆竹を同体育館敷地内に投げ入れ爆発させた上、同所に設置されたバリケードを乗り越えて同敷地内に侵入しようとし、その頃、同イベント参加者等ーの誘導、案内等の業務に従事していた社員らに同業務の中断を余儀なくさせ、もって威力を用いて同人らの業務を妨害したものである」などと主張した。

弁護側反論は
起訴事実なし
 弁護側は、主な争点として「①コロナ禍、東京五輪中止の世論があるにもかかわらず開催強行に対する抗議の意志表明である。憲法21条で認められている表現の自由だ。象徴的表現(特定の意図伝達を目的とした行為)であり、正当な行為だ。②爆竹は、ディスカウントショップの玩具売り場で売られているものであり、玩具の一つである。被告は、公共空間の路上において爆竹を破裂させただけであり、人的物的傷害を与えていない。体育館敷地内に爆竹を投げ入れていない。参加者の誘導、案内等の業務を妨害していない」と反論した。

予断と偏見基に
表現行為を断罪
 だが判決の「認定事実」では「被告人は2021年7月16日、武蔵野競技場において行われた聖火セレモニーに対し抗議するために、歩道上において敷地内に爆竹を投げ入れ、敷地内に侵入しようとし、セレモニーの運営を委託された「被害会社」スパイダー社員Uさん等の業務を妨害した」と断定。
 また、「業務を妨害した」ことを強引に結びつけようと「退場予定客のなかには『いつまで待たせるの』と言っていた者もいたとの証言もあり、これが文字通りの『一瞬』でないことは明らかだ」と具体的な根拠、弁護側の防犯カメラの分析に反論することもなく、「『20分くらい退場を待たせた』というU証言には一応の根拠がある」と手前勝手な解釈によって「弁護側の主張には理由がない」などとして退けた。
 そのうえで「争点1―威力性について」は、「被告人の行為は『人の意志を制するに足る威力行為』と認められる」と決めつけた。
 しかも判決は、「爆竹を『破裂』『鳴らす』等ではなく、起訴状にあわせて『爆発』と表現し、『被害』を誇張」するだけでなく、「仮にもっていた爆竹を中で鳴らしていたら大騒ぎだった…。やけどの危険がある可能性…。転倒の危険がある可能性…」など「仮定の話による『被害』の誇張」までふくらませているのだ。救援会は、この演出を「検察の主張を越えた悪ノリ判決」だと批判している。
 弁護側は、「黒岩さんの爆竹抗議を詳細に検討」し、次のように反論してきた。
 ①当日設置されていた防犯カメラ映像の分析からU証言の「20分くらい退場を待たせた」ことが事実でないと反論していた。
 ②単独行動であり、誰でも簡易に買える玩具を使用した抗議であり、人に向かって爆竹を投げたわけでもなく、『被害者』であるイベント会社員の反応も『一瞬びっくりした』(証言)程度であり、警官に制圧されるまでわずか10秒程度の出来事である。
 ③爆竹抗議は『想定外』とまでは言えず、『被害者の自由意思を制圧する』にはほどとおく、『威力』を用いたとはいえない。
 ④爆竹抗議から一連の逮捕劇に対するイベント会社員の対応は、その『業務』の一環を構成するものであった。よって業務妨害があったとはいえない。
 つまり、「(スパイダー社員Uさんらの)『通常業務』が中断することはほとんどなかったといえる。」、「実質的妨害の結果は生じていない」から「威力業務妨害罪の構成要件に該当するということはできない」と結論づけていた。
 判決の「争点2―違法性の阻却について」では、「被告人の行動が抗議の意思の表明する表現行為であることは理解できる。したがって、その行為が憲法で保障された表現の自由の行使であるという弁護側の主張には一応の理由がある」などとポーズを現した。
 だが「Uらの業務が円滑になされることも保護に値する」と述べ、威力業務妨害罪が成立していると強引に結びつけ「憲法21条が定める表現の自由は十分保護されねばならないが、他人の権利を不当に害してはならず、被告人の行為による損害は小さいとはいえない。被告人の行為は表現行為としての相当性を欠き、当日他の人が「適法」に抗議しているように、他の方法で抗議することは十分可能だった。したがって、違法性が阻却されるという弁護側主張には理由がない。
 また、損害が軽微とはいえないので、可罰的違法性がないという主張には理由がない」と述べ、象徴的表現行為を真っ向から否定した。

「平穏一般」の
保護の危険性
 弁護団の最終弁論(ポイント要約)では、「起訴状はイベント会社員らの業務妨害として黒岩さんを訴えているが、そもそも黒岩さんは五輪に抗議したのであって、イベント会社員らを対象にしていないのは明らかである。業務妨害は本来、『被害者の経済活動を中心とした社会活動』を保護するための法律である。もし黒岩さんの抗議の対象や目的をかえりみず、イベント会社員への業務妨害にすりかえて罰するならば、本来の法の趣旨を著しく越えて、『平穏一般』を保護する結果となる。これは容易に、表現の自由の制約につながる結果をもたらす」。
 「黒岩さんの行為は、東京五輪の大きな問題性にかんがみて、とりわけ大きな憲法的価値を持つ政治的表現の自由の価値を考慮すれば、罰するほどの違法性は存在しない。よって、被告人は無罪である」と主張してきた。
 そもそも事実の問題として「イベントに何ら影響を及ぼしておらず、U証人の業務に限定しても妨害の結果は生じていない。また、誰かがけがをする、何かが破壊されるといった、派生的な結果も生じていない」のだ。
 しかも「U証人は検察官が被告人に何か言いたいことがあれば言うようにと促されて、『正直、特にはないです。けが人とか、うちのスタッフがけがをしたとか、お客様がけがをしたとかっていうことはないので、その男性の方に、特にもありません』と述べているように、全く被害者としての意識を持っていないのである」。
 つまり「明らかに、結果・手段の軽微性が認められる」ことが証明されているにもかかわらず、判決はこの事実を意識的に無視し、「憲法上優越的地位が認められた政治的表現の自由」を後景化させたのである。
 支援戦線、反弾圧戦線を拡大していくためにも判決に対する反論、黒岩さん、弁護団の主張などの共有化は重要だ。詳細の検討は、救援会ブログ等で深めていこう。武蔵野五輪弾圧控訴審闘争に勝利しよう!
(遠山裕樹)

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