寄稿 静岡県リニア工事に関する最近の状況

「空港新駅」めぐるかけひき政治的思惑に注意を払おう
芳賀直哉(静岡県リニア工事差止訴訟の会)

川勝静岡県
知事の思惑
 今年6月、静岡県の川勝知事は沿線9都府県知事らで構成する「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」(以下、同盟会と言う)に加入申請し、「ルート変更を主張しない」「品川・名古屋2027年開業」の2点に同意することを条件として加入が認められた。これで「撃ち方止め」とならないのが同知事の真骨頂だ。全国ニュースでも報道されたように、神奈川県内で工事中の車両基地や駅の進捗状況を視察して、「工事が遅れているのは静岡県のせいばかりではなく、他県でも大幅な遅れが生じている」「完成している実験線43キロを活用して、山梨県駅と神奈川県駅間を先行開業すべき」などと述べている。知事の真意については県民だけでなく県庁職員にもわからないようだ。
 そんな中、9月13日にJR東海社長と2度目の会談がもたれた。全面公開された前回会談の様子はWebで視聴できたが、JR東海の意向で非公開となった今回の会談の中身は明らかではない。会談後の囲み取材での両者のコメントは従来の主張をなぞっただけで新味はなかった。しかし、「東海道新幹線静岡空港新駅」(以下、空港新駅と言う)への言及がとくにJR東海側から出なかったかどうかが今後の静岡県リニア工事にも大きく影響すると思うので、その背景を以下に紹介する。
 会談に先立つ8月9日に同盟会臨時総会がリモート形式で行われた。その中で、長崎山梨県知事から「同盟会として空港新駅建設を国交省に提案したらどうか」との発言があったと東京新聞や産経Web版が伝えた。当日提出された山梨県提案文書にはこうある。

山梨県提案の
文書の中身は
 「東海道新幹線については、リニア中央新幹線が開通した暁には『のぞみ』が担っている輸送ニーズがリニア中央新幹線に転移し、『ひかり』『こだま』を重視した輸送形態に転換することで、沿線地域の再発展が期待されています。さらに、こうした高速鉄道に加えて高速道路や空港による高速交通ネットワークが形成されることで、都市間のアクセス性が向上し、経済効果の全国への波及が加速度的に進むことが期待できます」。

政治的調整の
可能性に注意
 石川前静岡県知事時代に静岡県が言っていたことと同じことを、東海道新幹線とは関係のない山梨県知事が言ったことの思惑は透けて見える。
 静岡空港が2009年6月に開港する前から、自民系前知事から旧民主系の現川勝知事まで、空港新駅は静岡県政の願望であり続けている。この間、県は調査費をつけて実現を望んだが、JR東海は「ダイヤ編成上困難」「掛川駅と近すぎる」等の理由で拒んできた経緯がある。うがった見方をすれば、JR東海にとって空港新駅は最大の取引材料なのだ。しかも、請願駅のため建設費は原則地元負担となり、現行東海道新幹線こだまの所要時間が若干延びる以外JR東海のデメリットはない。
 もちろん、リニアと空港新駅は別問題であるが、何らかの政治的調整が介入する危険性は増大しているとみるべきである。
 (2022年10月1日記)

「リニアが壊す南アルプス エコパークはどうなる」(原告団著/緑風出版/900円)を紹介する芳賀直哉さん

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